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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~謎の勢力~ -2. 小国の危機 その2






 教えられた宿、サリエルメルは直ぐに見つかった。俺に、この世界の文字は読むことはできないが、アニーズによって解析はできたので、書かれた通りに進むだけで簡単に到着した。

あのニオルトと言う人物、相当優秀らしい。それとも、こう言った案内が出来る様に、予め用意されていたかだ。

因みに、言語に関しては何かの補正が働いているのか、文字の読み書きは基本として備わっていないのに、普通に会話できた。

どうも『百鬼夜行』がそれに関係しているらしいのだが、詳しいことはやっぱり分からない。


本当の事を言えば、この街で一泊する気などなかったのだが、せっかくのご厚意でもあるし、久々の人間用のベッドの感触が恋しくて、俺は敢えて利用する事にした。



「いえ、お泊めする分けには行きません」


「どうしてだ。 ちゃんと宿代は払うぞ」


カウンターを預かる受付の女性に俺は金がある事を示す為、お金が入った袋をドサリと置く。

宿は広くもなく狭くも無かったが、一階の玄関部分の半分程度が食事や酒が飲める様になっており、それによって疎らだが人がそこかしこに居る。

その人目を気にしながらも、俺は交渉を続ける。


「現在、当宿は一般の方の宿泊を中止しています。 誰かの紹介状が無い限り、お泊めできません。申し訳ありません」


どうやら、戦に備えて厳戒態勢みたいなのが宿にも敷かれているらしい。まあ、俺達が怪しいって事もあるのかも知れないが。

その証拠に、受付の女性は表情こそ変えなかったが、ずっと俺達とは目を合わせない。

できれば、あの姫様のご厚意に全面的に甘えるのは避けたかったのだが、こう言った理由なら仕方がない。


「実は・・・ある方の紹介で来たんです。ただ、その人の厚意に全て甘えるのも嫌だったので・・・これでは、どうですか」


そう言って、俺は受け取った書状を差し出した。

それを見た途端、受付嬢の態度が一変する。


「し、失礼致しました。早く提示して下されば良かったのに・・・・部屋にご案内致します。希望等はありますか」


「えと、二人で一つの部屋に泊まりたいのですが」


「かしこまりました」


そう言って、受付の女性は部屋の鍵を壁の方から外すと、呼び鈴を鳴らして従業員を呼んだ。




 一瞬、誰かに見られている気がして、アニーは振り返った。

すると、数人の人間が居る中で、一人の男が不自然に身体を竦めたのを彼女は見逃さなかった。

ただ、ハルタ以外に人間を初めて見るアニーには、それが意味する事を見抜く事ができず、単に見られていた様だと言う感想を持っただけで、それに何かしらの意図を感じ取る事はできない。

それ故、そうした報告もハルタに行う事は無かった。

そもそも、見た瞬間に力関係的な意味で取るに足らない存在でもあった為、彼女はそれだけで興味を失ったのだ。




 こうして、俺達は宿に泊まる事ができた。

ふかふかベッドの感触をアニーと共に暫し楽しみ、これからの予定をそのまま寝転びながら打ち合わせる。


「ユーカとターナ、それにマツリカを東の・・・・んーと」


「ロータルとセウネインの村」


「あ、そうそう、その村を探して、守らせるんだよね」


「それと、無理をしない、村人との接触は俺が来るまで避ける事。 ・・・大丈夫かな」


「大丈夫だよ。 ちゃんと覚えた。ロートルとセイウチの村」


「いや、微妙に違う」


「ねえ、ハルたん。 どうして、その村にユーカ達を行かせるの?」


「え、うーん・・・・ほら、ここの人達に親切にしてもらっただろ。そのお礼と言うか・・・少しでも恩返しをしようと思ってさ」


その説明に、アニーは「ふーん」と言った返事をしたが、どうもピンとは来ていない様子だ。


別に、レパンドルと言う国に肩入れするつもりは無かったのだが、一宿一飯の恩義くらいは返した方が良いと考え、俺は森に待機させている連中に指示を出す事にした。

まあ、実際に戦うのは俺では無いのが情けない限りだが、情報を集めると言う目的もある。

特に、あれ以降、ミズツノシシオギの行方は全くしれないので、探すには多くの目撃情報が必要だと感じている。

その為に何かと恩を売っておけば、多少不審がられようと協力が得られるかも知れない。

それに、村を襲撃するくらいの戦力なら、たかが知れているだろう。

そうした算段もあってのことだ。



 寝っ転がりながら、俺はあの日の事を思い出す。ミズツノシシオギのクーリューを喰らった時の事だ。

その時以来、どうも俺は心の片隅に落ち着かない部分があり、目を瞑ると、その時の情景がありありと浮かんでしまう。

そして、何度目かの回想を俺は無意識の内に繰り返していた。




「ガハ、ゲへ」


「大丈夫か、ハルタ」


マツリカに抱えられ、俺は僅かに残った陸地に引き上げられた。

クーリューによるショックなのか、俺達は無理矢理に分離させられた様だ。

それの影響か、あるいは別に原因があるのか分からないが、身体に全く力が入らない。

マツリカが居なかったら、俺は溺死していただろう。


「だ、だいじょ・・・ゴホッ」


「無理をするな」


「そんな事・・・みんなは? ユーカは、ターナは? リディにイユキ、アニーはどうした。大勢のイーブル・ラーナン達だって・・・・・」


「分からない・・・・」



「みな、無事です」


遠くから聞こえたが、それはユーカの声だった。無理矢理に身体を起こして見ると、ヴィーダル二世にみんなを乗せ、濁流の中をコチラへと泳いでくる最中だった。


「ご主人様ー」


我慢しきれなかったターナが跳躍し、一足先に俺の元へと駆け寄る。


「ご主人様。 ターナ、心配で・・・心配したんですよ」


「す、すまん、ターナ。 お前も、無事で良かった」


「うん、うん」


鼻水を垂らしながら泣くターナの頭を、俺は優しく撫でる。


「全くです。一時はどうなるかと思いました」


プイッと横を向きながら、ユーカも合流する。どうやら、怒っているようだ。


「族長、身体は大丈夫なのか。動けないのか」


「ああ、大丈夫だローナ。 ちょっと疲れただけだ。それより、リディ達は?」


「多分、大丈夫だ。 死んじゃいないだろうさ」


そう言ってローナがヴィーダル二世の背中に転がるリディ達を、振り向かずに親指だけで指す。

アニーズで確認すると、各自に状態が酷い事が表示がされるも、何れも回復中となっていたので、恐らく大丈夫だろう。



「そうか・・・・みんな、聞け。 俺達は、回復次第、奴を追う」


「奴?」


訝しげに俺の顔を覗き込んだのはマツリカだった。


「ミズツノシシオギ、アイツは野放しにはできない。 奴は危険だ。完全に息の根を止めないと」


最後、マツリカの攻撃を喰らった様に見えたが、あれでくたばったとは思えない。

それに、朧げでハッキリとはしないのだが、僅かに思い出した事がある。

アイツの力は、あんな物じゃないはずなのだ。

必ず見つけ出し、確実に葬らなければ、世界は大変な事になる。


俺は、まだ力の入らない身体をマツリカに手伝ってもらって起こすと、どこに居るかも分からない奴を見る様に、辺りに目をやった。



 その後、俺達は只管に辺りを探し回ったのだが、遂にはミズツノシシオギを探し出すことはできなかった。

くたばって無かったとは言え、マツリカの攻撃は奴を確実に捉えて大ダメージを与えていたのは確かだ。

だからこそ、奴は切り札の様な大技を使ったはず。

瀕死の重傷を負っていると思われる今こそがチャンスだったのだ。


クーリューによる水害は数日は続いたのだが、元から森自体が広大であった為か、ある時点を堺にして急激に水は引いていき、一週間もすると地面が泥濘んでいる以外は、ほぼ元に戻っていた。


その時には、俺達はすっかり諦めモードに入っていた。

一匹のモンスターを探す出すには、この森は広すぎるのだ。

そうした中で、俺は別の事にも思いを巡らせる。

それは、マツリカが行った同化だ。


あれは、俺がマツリカを取り込んだ上でのパワーアップである事には間違いがないだろう。

ただし、それ自体に付いては不明な部分が多い。

アニーズではそうした部分の情報は拾わないし、マツリカのステータスの中にもそれらしきものはなかったので余計に分からない。

使用者取込と言う能力の応用かもしれないが、それをマツリカに聞くとハッキリと違うと言われた。


と言うかだ、彼女は俺がそうした質問をする事に眉を潜めて何かを言いたげだったのだが、口をへの字に曲げて黙ってしまった。

気になって再度聞いてみたのだが「知らないのか、忘れているのか分からないが、それならその方が良い」と、余計に気になる事を言って以後は無視された。



 めちゃくちゃ気になるじゃないか。


気になると言えば「百鬼夜行システム」ってのも不穏だ。

あれって警告表示の一種ではなかったのか。

何かの装置の名称だとしたら、また話が違ってくるぞ。




 そこまで思い返していた所で、俺は頬に圧迫感を覚えて目を開ける。

横目でその方向を見れば、アニーが指で俺の頬を突いていた。


「ハルたん、そろそろ出発しよう?」





 何とかアニーに言付けを覚えさせた俺は、誰も居ない様な路地を探して入り、他のメンバーが待つ場所へと送り出す事にした。


「ユーカとターナ、それにマツリカは東のロータルとセウネイン村を探し、その様子を外から探れ。必要なら、村を守れ。ただし、無理はするな。また、ハルたんが来るまでは、村人との接触は避けるように。 で、良いんだよね」


「うん、うん。完璧」


それを聞いてニッコリと笑うアニー。


「じゃあ、行ってくるけど、ハルたん、絶対に無茶な事はしないでね。 いい?」


手を腰にあて、もう一方で人差し指を立てて俺に向け、まるで母親が子供にでも注意するかの様な仕草をするアニー。


「ああ、分かっている」


俺の返事を聞くと、アニーは膝を曲げて屈み、一気に跳躍して二十メートルはある壁を飛び越え、屋根伝いにあっと言う間に行ってしまった。





「あれ、兄貴、一人消えましたぜ。多分、ガキの方」


壁に隠れ、一旦引いてから再び路地の様子を伺った男が、屈強そうな身体を持つ、もう一人にヒソヒソ声で話しかけた。


「はぁ? 何を寝ぼけてんだ、お前は。 小さいからって、見失うなよ」


「いえ、本当に居ないんですよ。 まあ、反対の方に行っちまったのかも」


「なら、大丈夫だろ。 最初から、挟み撃ちにする予定だったしな。 おら、行くぞ」


「へい」




 アニーが行ったのを見送った後、俺は宿に向かう為に来た道を引き返そうとした。すると、前から三人の男が進路を塞ぐ様にして現れる。

一人は大男で真ん中に陣取り、その側にはひょろ長い奴と、妙に腰が曲がった奴がそれぞれ、左右に別れてやや前に出る。

ヤバイ。如何にもなチンピラ連中だ。この路地に人があんまり居ない理由が、たった今分かった気がする。


「よお、あんた、随分と羽振りが良さそうじゃねえか。 俺達にも、それを分けてくれよ」


真ん中に陣取る大男が見下すような目をしながら、ドスを込めた声で話しかけてくる。


「えっと・・・・俺、森からコッチに逃げ込んで来たんで、殆ど一文無し何だけど」


「ウソつけ、お前が宿で大金を見せびらかせていたのを、ちゃんと見たんだぞ」


ひょろ長い方の男が、俺の懐付近を指してそう言った。何だ、何時から見られていたんだ。と言うかだ、こんな非常時に、こんな事をしている場合なのか。


「その・・・今の状況、分かってます? 戦争が起きるかも知れないんですよ。 こんな事、止めて下さい」


そう言いながらも、俺は何とかこの場を切り抜ける方法を考える。いっその事、お金を袋からバラ撒いてやれば、コイツらはそっちに気を取られそうだ。その隙きを突くか。


「ハッ、俺達に関係あるかよ。 それどころか、テメェから奪った金で、有り難く安全な所に逃げてやるよ。 だから、素直に全部よこせ。あと、お前の服もな」


それを聞いて、俺は無性に腹が立ってきた。このお金は、この国を守ろうとしている姫様の御厚意で手に入れた物だ。明らかに怪しい俺達に対して、そこまでしてくれた人のお金を、こんな奴らにくれてたまるか。

それに、俺だって少なからず修羅場を潜ってきたんだ。こんな奴ら、怖くも何ともない。

俺はジリジリと後ずさると、振り向いて走り出した。


「待ちやがれ」


そんな事言われて待つ奴は居ない。俺は、全速力で逃げようとした。

ところが、前から人が飛び出てきて、俺を捕まえようとする。他にも仲間が居たのか。

不味い。

何とか振り切ろうとしたが、方向転換しようとした所を組み付かれた。


「は、離せ」


「ハッハア、掴まえた。掴まえたぜ、兄貴」


「おう、でかした。お手柄だ。 ・・・ガキはどうした?」


「い、いや、コイツ以外、こっちは見てませんぜ」


「チッ、まあ、良い。 そこら辺に隠れてるんだろ。後で探せ」


俺は現れたもう一人に羽交い締めにされてしまう。何とか逃げようと藻掻くが振り解け無い。それと、アニーの事も知っている事からして、どうやら最初から後を付けられていたようだ。

そうこうしている内に何時の間にか駆け寄って来たのか、大男に思いっきり腹を殴られた。



が、ちっとも痛くない。


いや、痛い事は痛いのだが、どっちかと言うと表面に衝撃を受けただけで、何と言うか、子供にでも叩かれた様な感じだ。

何なんだ。

ポカンとする俺に、大男が更に横っ面に拳を見舞う。しかし、それも全然痛く無い。衝撃はやはりあるが、単に拳が触れて押されただけって感じだ。

暫し、俺と大男は疑問符を互いに浮かべて固まる。


「て、テメェ、舐めてんじゃねえぞ」


「や、止めろ」


我に返った俺は、更に何かされる前に逃げようと藻掻くが、やっぱり背後の男にガッチリと掴まれてしまい振り解け無い。

そこで咄嗟の思い付きで、羽交い締めにしていた男の足の甲を思いっきり踏んづけてやった。


すると、男は思いっきり飛び上がって手を放すと、尋常じゃない程にのた打ち回る。

大袈裟すぎやしないか?


「テ、テメェ、何しやがった!?」


大男が後退る。しかし、コッチが聞きたいくらいだ。大男といい、コイツら見掛け倒し過ぎるだろ。

アニーズを使って確認すると、連中は『ローダ系ヒューマス』と言う種別で、大男のレベルは8、後の連中は5から6って所で、レベルだけ見れば俺よりも高い。

強さにも『マンティコアクラス第10位』とか、『ペガサスクラス第10位』とか、初めてのクラス分けがされている。影響度はそのまま『チンピラ』だ。


と言うかだ、人間なのにモンスター名でクラス分けされるって、どう言う事なんだ。


説明によれば、ローダ系ヒューマスは狩猟民族が農耕型に生活を変化させたヒューマスとあり、文化や技術に秀でているとあって、特に変わった表記はない。

なのに、この違和感は一体何だ。ローダ系とやらは極端に力、あるいは打たれ弱いのか?

念の為、俺の事もアニーズで確認したが、これと言った変化はない。

相変わらず、全力でディスる文言が並んでいるだけだ。



「ぶっ殺してやる」


のた打ち回る仲間の一人を見て、大男が腰の辺りからナイフを抜いた。

それを、両手に何度も持ち替えると言った仕草をした後、素早く踏み込んで切りつけてくる。


以外に素早く攻撃してくるので、俺はかわすので精一杯だ。


しかも、そこらに転がっていたゴミに足を取られ遂に一撃を喰らってしまい、ガードしていた腕から血が出た。

素手での攻撃は効かなかったが、流石に武器による攻撃では怪我をする様だ。


「どうだ、思い知ったか。 大人しく金を出せ」


武器を持った事で形勢が逆転したと思ったらしく、大男が再び強気に出てくる。

だが、思いっきり切られたはずなのに、予想していたよりも怪我が浅い。

ナイフの方には派手に血が付いているのだが、何となくだが、この程度なら突き刺されても大した事はない感じがする。


と言うかだ、あの勢いでこの程度って、逆にこの大男の見かけ倒し具合を疑いたくなる。

それで冷静になった俺は、尚もナイフを振り回してくる大男の攻撃を見切りつつ、僅かに身体が流れた瞬間を狙って武器を持つ手首付近に手刀を食らわした。


「ぐうわああああ」


確かに強めに打ち付けたのだが、唯の手刀だ。

それなのに大男は大袈裟にも悲鳴に近い叫び声を上げ、腕を押さえて蹲った。

同時にナイフが零れ落ち、乾いた音を立てて地面に転がる。


予想外の反応に、俺は自分でやったのに何故か動揺した。

まるでコントの様な展開に、本気でドッキリを仕掛けられているんじゃないかと思わず辺りを見回す。

当然だが、どこかにテレビクルーが隠れている様子はない。

訳が分からないが、もう、後はハッタリで切り抜けよう。



「ククク、チンピラ風情が。この伝説の勇者(嘘)、ハルタ様に喧嘩を売るとは、良い度胸だな。

せっかく、この国を救ってやろうと馳せ参じたと言うのに(大嘘)。

それとも、戦い前の準備体操をお前らで済ませてやろうか。ええ!?」


節々に心の声を乗せながら、俺は啖呵を切った。内心、無責任な事を言うのに自分でもビビる。


「ひっ、で、伝説の勇者!?」


しかし、向こうには十分に効果があった様で、急に及び腰になるチンピラ共。大男でさえもそのハッタリを信じたのか、真っ青な顔をしていた。


「で、伝説って・・・自分で言ったぞ」


「馬鹿、勇者は伝説の存在なんだよ・・・どこの伝説だ?」


「ど、どうでもいい。この手首を見ろ。あの怪力を見たろ、本物なんだよ。あれが伝説の馬鹿なんだよ」


大男の手首は紫色に変色しており、かなり痛そうだが、同時に何やら軽くパニクっていると言うか、微妙に俺を貶している様な言葉が並ぶのが気になる。

それに、大男の奴、最後らへんのセリフに一つ言葉が足りてねえぞ。

つーか、馬鹿力でも何でもねーよ。てめーらが脆すぎんだよ。

ハッタリ勇者の力、今一度味あわせてやろうか。




「す、すいませんでした。ゆ、許してください」


そう言って、全員が土下座を始めた。


「ま、まあ、今回だけは許してやろう。今後は、真っ当に生きろよ。 それと、俺の正体は内密にな」


予想以上にハッタリが効いた事に動揺しつつも、シルドと言う単位の表面は金っぽい硬貨をそれぞれに一枚づつ渡す。

アニーズで情報は拾ってくれないが、持った感じでは合金ぽかった。ただし、質はあまり良くない。


 一シルドは日本円にして、大凡五千円位って感じだろうか。

その上がゴルンで、1万円相当。これは金の混合率が高い感じがする。そうした混ぜ方で価値を決めているのかも知れない。

シルドの下にブロン、アロナ、ストルと続き、大体、千円、百円、十円と言った価値を持つ様だ。


 チンピラ達は、それを受け取ると何度も頭を下げて礼を言い、その場から去っていった。

一人残された俺は、妙な余韻にまだ何かあるのでは無いかと暫くジッとしていたが、特に何も起こらないし、勿論、プラカードを持って誰かが出てくる様子も無かったので、帰る事にした。


内心、変な展開がある事に期待していた自分に後悔する。

途中、床に落ちたナイフを拾おうとしたが、チンピラが悪い事をしていた武器と言うのに嫌気を感じ、伸ばしかけた手を引っ込めた。

お金はあるし、どうせなら良い武器を買って人化させた方が良いだろう。


俺は、自分の血が付いたナイフをそのままにして、その場を後にした。





 森のある地点に到着したアニーは、上体を逸して思いっきり空気を吸い込んでから、大きく叫んだ。


「合言葉は、こうばい、つきげ!」


アニーの声が周りに響いたが、それは木々に吸い込まれ、辺りは必要以上に静まり返った。

森の奥からは何の反応も無い。

場所を間違えたかとアニーが思った頃、みんなが顔半分だけを出し、半目でアニーを見ている。


「あれ、やっぱり当たってた。みんな、どうしたの。 ユーカ?」


「・・・アニー、合言葉を大声で、しかも全部喋ったら意味がないのよ」


冷たい視線を向けながら、ユーカがアニーの行動にツッコミを入れる。


「あれ、そうだっけ? でもでも、みんな、ハルたんから、命令を預かってきたよ」


クルクルと回りながら、アニーが嬉しそうにする。それを見たメンバーは、呆れた様に溜息を付きながらゾロゾロと出てきた。



「えっと、ね・・・ユーカとターナ、それにマツリカは東のロータルとセウネイン村を探し、その様子を外から探れ。必要なら、村を守れ。ただし、無理はするな。また、ハルたんが来るまでは、村人との接触は避けるように。 以上」


小さく敬礼しながら、アニーが言伝を伝える。


「ロータルとセウネイン村?そこの様子を探れ? 一体、どう言う事だ」


命令の真意についてマツリカが疑問を投げかけるのだが、アニーにはそれ以上の説明ができない。ともかく、ハルタからのお使いを熟した事に満足したので、早々に立ち去ろうとする。


「ちょ、ちょっと待て、アニー」


それを、慌ててマツリカが止める。


「何?ハルたんを一人にしてあるんだよ。 早く行かないと」


「アニー、本当にこれだけ?他に、主様からは何も言ってこなかったの」


ユーカも問いただすが、アニーは顎に指をあて、「んー」と唸ると一言、「恩返し」と短く言っただけで、やはりそれ以上は何も出てこない。





「どうするのだ、ユーカ」


アニーが飛び出して行ったのを見送りながら、リディが話しかけてきた。マツリカは何か納得が行かないのか、腕組みをして黙ったままだ。


「うーん・・・仕方がない。 主様には、何か考えがあるのでしょう。取り敢えず、行ってみる。 イユキ、ここの事は任せるわよ」


「分かりましたわ。後の事は、任せて」


それに無言でユーカは頷くと、頬を膨らませていたマツリカと、アニーの行った方向を見ていたターナを促し、東の方へと移動を開始した。






「ハイトン、王都から何か言ってきたか」


柵を作る若者の一人が、槍や剣を担いで移動する男、ハイトン・レッジーに呼びかけた。

彼は鎧兜を着込み、身なりだけは一端の兵士の様相を呈している。


「ねーよ、各村は独自に対策しろって、ずっと前に通達があったきりだ」


「本当かよ。ロンダル村は全滅って聞いたぜ」


「だから、こうして準備してんだろ。手を抜くなよ」


父親が元兵士であった為か、流れ的にハイトンはロータル村の防衛役に抜擢・・・・と言うか、勝手にその責任者に収まっていた。

いい加減と言えばそれまでだが、出来る者がやると言うのは、ある意味では辺境に暮らす者のシキタリや、知恵みたいな物である。

実際、ハイトンは父親から少なからず戦い方や兵士としてのあり方を学んでいた為、戦闘の準備に関して的確な指示が出せたし、それによって村は怪しげな一団に対する備えを、国から派遣された兵士達とは別に滞り無く行えていた。


その父親は、数年前にモンスターとの戦いで命を落としていたが、そうした功績もあってか、ハイトンは一定の権限が自然と村内で与えられてもいた。

それ故に、王都から来た兵士連中に対しても、ある程度は対等の立場で接する事ができる。


その本職の兵士連中も何やら慌ただしく備えてはいたのだが、どこか上の空と言うか、手よりも口の方を動かしている事が多く、あまり捗っている様に見えない。


恐らくだが、援軍が来るか来ないかで、今更ながらに揉めているのだろう。


武器を所定の場所に運ぶ途中、この村の兵を束ねる隊長、ラッゲイン・ブールムアを見つけてハイトンは近付いていった。



「ラッゲイン、何か問題か」


「ハイトン・・・」


数人と話し込んでいたラッゲインであったが、ハイトンが近付くと、その他の連中はそそくさと去って行く。

聞かれて不味い事なら、隠れて話せば良いのに。ハイトンは、そう思った。


「何、陣形に関する打ち合わせをしていた所だ。 特に、問題はない」


「ふーん・・・・別に、逃げても良いんだぜ。 ここは、俺達だけで守る」


行き成り核心を突くその言葉に、ラッゲインがギョッとした顔をする。


本当に今更だ。馬鹿にするのも程がある。


このロータル村は、レパンドルの東外縁に位置する為、情報の伝達が遅いのは確かだが、それでも村々の連携や商人等の出入りにより、噂程度なら直ぐに入ってくるし、更には見慣れない連中が彷徨いたりすれば簡単に分かる。


特に、森の異変はこの村にも伝わっているので、過去の事例と照らし合わせれば、恐らくシーゼスが本格的に攻めて来ようとしているのは、何となく分かった。

ただ、その規模は流石にハイトンにも想像がつかない。ヤバそうだと言う事は雰囲気で分かってはいたが、絶望的な状況とは思っていなかったのである。

いや、例え知ったとしても、彼らは変わりなく対応しただろう。

それが、この国に住む人間の宿命の様な物だと、村人達は受け入れていた。


そもそも、ジュデの森に異変が起きて以来、常に苦難が付きまとっていたのだ。

モンスターの襲撃から村を守ったのも一度や二度ではない。そうした面もあってか、彼らには少なからず自信があったのと、やって駄目なら仕方がないと言う思いもあった。

第一、レパンドルが全体的に苦境に立たされている事も理解している。

逃げ場所など、どこにも無いのだ。ならば、やれる事をやればいい。

それが、村に住む者達には覚悟としてあった。




「すまん・・・いや、俺達は戦うさ。 ただ、これだけは言わせてくれ。俺達は、この村を救いたいんだ。その為に出来る事をしている」


そう言って、ラッゲインは去っていった。その後姿に、ハイトンはどこか覚悟を決めた様な雰囲気を感じ取る。



「ハイトン」


呼ばれて振り向くと、そこにはレレーニアが居た。

レレーニア・ライナス。彼女は村長の娘で、辺境の村にしては器量良しの娘である。

実際、国から派遣された兵士に言い寄られる事も多く、もしかしたら、彼らが少なからず協力の姿勢を見せているのも、彼女のお陰かも知れなかった。

ただ、それ故に敵の手の落ちた時が心配だったので、さっさと避難する様に言っておいたはずなのだ。


「レレーニア、お前、なんでまだ居るんだよ」


「だって、人手が足りないのよ。それに、何処に行けっていうの」


「ラッゲインが手配してくれたろ。 王都にツテがあるって」


「ああ、あれなら、リネーナ達に譲ったわ」


「ばっ、お前なあ・・・」


ハイトンとレレーニアは幼馴染だった。彼女の方が一つ年上だったのだが、同年代ではリーダー格を自負するハイトンは、自分が年上風に話す。

もっとも、レレーニアはそこら辺を分かって付き合っているに過ぎず、彼女にしてみれば、ハイトンは年下相当、或いは弟的に扱ってはいたが。


「あのな、お前が居てもどうにもならないんだよ。それどころか、足手まといだ」


「私だって、弓くらい扱えるわよ。と言うか、アンタより上手いんだけど。知ってるでしょ」


「それとこれとは、話が別だ」


「レ、レレーニアさん、何故ここに?」


二人で言い合いをしていたら、また厄介なのが話に入ってくる。ラッゲインだった。

彼もまた、レレーニアに好意を寄せる者の一人だった。


「王都に避難されたのではないのですか。まだなら、今直ぐにでも出立して下さい」


「ごめんなさい、ラッゲイン隊長。 あれは、他の者に譲りました。 ホラ、リネーナって居たでしょ。まだ小さい妹や弟達が三人も居るの。ここには置いておけないでしょう?」


それを聞いて、一瞬、クラっとした感じになるラッゲイン。

彼は本当にレレーニアの身を案じてはいたが、同時に彼女と親密になれる機会をこれによって作れると言う目論見もあったので、それが台無しになった事にも目眩を覚える。

まあ、こうした所もまた彼女の魅力ではあったが。


「それで、どうするのです」


「私も戦う」


「「駄目だ」」


レレーニアの提言は、二人の男によって同時に却下された。

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