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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
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~辺境の王者~ -4. 目指せ、レベルアップ その3





 ターナの時と同様、強い光が収まった後には、恐らく棍棒が人化したと思われる少女の様な物が立っていた。


ターナと違うのは、木目こそ無い物の、四肢が木の色と材質まんまといった感じで、更には関節が剥き出しになっていることだ。

それはそのまま、木でできた少女の人形と言った感じだった。


一方で、顔だけは生気を持った人間の少女と言った風貌を持ち、更には緑色の綺麗な髪をなびかせていたが、逆にそれが違和感をより際立たせる。


すると、その木でできた少女が、カタカタと音を立てながら俺に顔を向けた。


ちょー怖え。

思わず、握っていた髪の毛を離してしまう。


「大丈夫、デスカ、主サマ・・・」


表情を一切変えず、更には口も動かさずにその人化した棍棒が話しかけてきた。

顔部分だけは人間に近いだけに、能面みたいにしゃべるのは不気味だ。

とは言え、どうやらコッチを心配してはくれているみたいだ。

だが、見た目の怖さから、何故か俺はガファアンドの方に視線を反らす。


見ると、アッチも後ずさっている。

お前がドン引くなよ。


「主サマ、ノ、危機。許サ、ナイ」


そう言って、人化した棍棒が、再びカタカタ音を鳴らしながら振り向く。

だが、先に動いたのはガファアンドの方だった。


思いっきり横に振られた奴の棍棒が、木でできた少女を勢いよくぶっ飛ばす。

斜め下からすくい上げる様にして攻撃してきたので、木の少女は上空へとアッという間に消えていった。


だが、それで僅かな隙きが生まれる。

俺はそれを確認するのと同時に、ガファアンドの脇を全速力で駆け抜けた。

とにかく、木々が密集した場所は不利だ。少しでも平坦な場所に出ないと。


背後から、雄叫びを上げながら奴が直ぐ様追いかけてくる。

今度は追いつかれない。

体力を消耗していたはずなのに、自分でも驚く程に軽やかに木々の間を縫って走り抜ける。

ここに来て火事場の馬鹿力でも出たのか、グングンと奴を引き離した。

お蔭で奴よりも早く、元の平坦な場所へと出る事に成功する。


傍らには、騒動で更に酷い事になっているトラクルが転がる。

しかし、平坦な場所に来たは良いのだが、どうするかまでは考えていなかった。

その間にも、ガファアンドが雄叫びと木々を薙ぎ倒す音を響かせながら、迫ってくる。


「そうだ、ターナ!」


俺はアニーズを使って、今一度彼女を探す。


『銘のある短剣・ターナ』 状態『停止』『回復中』


居た。状態停止ってのが気になるが、取り敢えず彼女の所に行けば何とかなるはずだ。

俺は走り出そうとした。


が、突然、足の爪先から崩れて転んでしまう。そして、そのまま力が思う様に入らない。

どうなってんだ。咄嗟にアニーズで確認すると、状態『肉体の限界』『疲労度最大』と出た。

どうやら、木々の中を走った分で俺の体力は底を付いたらしい。

その確認が終わった所で、ガファアンドが木々を派手に撒き散らしながら出てきた。


手の力だけで後ずさったが、直ぐに背後の木に当たって行き場を失う。

それを見たガファアンドが、今度こそ確実に仕留めようとでも思ったのか、俺の正面に回り込むと、両腕を広げ更には触手も上に構える。


回りを見てみるが、役に立ちそうな物はなにもない。身体ももはや動かない。

今度こそ、駄目か!?



「うううあああああああ!!」


そう思った瞬間、ターナがぎこちない動きで、全速力でガファアンドに突進するのが見えた。

それに反応し、棍棒を振るガファアンドだったが、ターナはそれをスライディングでかわすと同時に、足を切りつけて更に反対側に抜ける。


「グオオオオン!」


堪らず、片膝をつくガファアンド。だが、ターナの追撃はそれで終わらなかった。


「よくもおおおお!私のご主人様おおおお!!」


叫びながら何度もガファアンドを背後から突き刺す。その度に、呻き声を上げながら、ガファアンドは四つん這いになりながら、ヨロヨロと逃げる。

コイツ、案外脆いのか?そう言えば、説明にもそう書かれていた様な・・・・。


だが、気がかりな事がある。

ターナの斑模様が更に拡大しており、殆ど全身を覆いつつあったのだ。

しかも、そのせいなのか、動きがどこかぎこちない。

アニーズで確認してみると、状態が『暴走』『凶暴化』『限界突破』などとある。

これらの影響なのか?


と、ターナが攻撃の手を休めた一瞬の隙きを突いて、ガファアンドが反撃する。

鋭く重い一撃が、再びターナを捉え、近くの木に叩きつけた。

再びターナの状態が『停止』になる。


痛みを堪える為なのか、あるいは怒りなのか、ガファアンドは雄叫びを上げると、ヨロめきながらもターナに近づいて行く。

止めを刺すつもりか!?


そうはさせまいと、俺は近くにあった石や散乱した木の破片を、奴に向かって投げつけた。

ダメージを与えられるとは思わない。とにかく、少しでも奴の注意を引いて、ターナが回復する時間を稼ぎたい。

幸い、奴はあんまり知能は高くないのか、俺の安っぽい挑発に乗ってきた。

一段と高い怒号を上げる。


いや、これは、不味いかも知れない。


ターナに受けたダメージが思いの外酷いのか、突進こそしてこないのだが、その目は明らかに怒りの色が見え、力を溜めているのが見て取れる。

下手に動いたら、残った力を振り絞ってでも、俺を捉えると言う感じがビンビンと伝わる。

こっちも体力が残っていないのだ。

奴の攻撃をかわすにしても、せいぜい、一回程度が限界だろう。

ターナ、頼む。早く、回復してくれ。


その時、俺とガファアンドの頭上に、何かが影を落とす。


瞬間、何かの塊が勢いを付けてガファアンドの頭部を打ち付けた。


それは、あの少女型に人化した棍棒だった。


頭を抑えて蹲るガファアンド。

人化した棍棒も追撃の手を休める事は無く、木の様な外観とは裏腹に、異常な速度と素早さで連続してガファアンドを滅多打ちにする。


時々反撃もされたのだが、それを尽く人化した棍棒はかわした。


しかし、棍棒程度ではやはり決定打に欠けるのか、ヒットする攻撃の多さとは裏腹に、ガファアンドの動きを止める事はできない。

それ故に、段々と反撃は厳しくなって行き、最後には予期しない所からの触手の一撃を喰らい、またもや人化した棍棒は吹き飛ばされた。


最初と違ったのは、今度は身体を空中で捻って体制を整えると、木に両足を使って着地し衝撃を殺した事だった。

そのまま地面に落下すると、再びガファアンドと対峙する。


攻撃力はともかく、人化した棍棒さんは意外と身体能力が高い様だ。


これなら、十分に時間稼ぎが出来る。

そう思った時だ、再び叫びながらターナが突進して来た。


正面に棍棒さんを捉えていた為か、完全に不意を突かれる形となったガファアンドは、背中から思いっきりザックリといかれ、前のめりに崩れ落ちる。

それを棍棒の方も見逃さず、地面に突っ伏したと同時に、触手の根本を集中的に殴打し始めた。


すると、今まで聞いた事の無い悲鳴を上げるガファアンド。

そこが弱点だったのか?


その後は戦闘と言うよりは、一方的なリンチとなった。

怒り狂ってめった刺しにするターナと、表情を変えずに無言で顔面付近をひたすら殴打する人化した棍棒。

と、傍から見たらホラーな展開になった。


その様をただただ見ている事しかできなかった俺だが、唐突に、彼女たちの攻撃は終わりを告げた。


最初に手を止めたのはターナだった。


フーフーと興奮したままだったのだが、疲れてしまったのか、短剣を構えたまま攻撃を止めてしまった。

それに続き、頭部をゲシゲシと蹴っていた人化した棍棒も、その動きを止めた。

後には、飛び散った血と肉片だけとなり、辛うじて形が分かる死体だけが残る。



「ご、ご主人様、大丈夫ですか」


ハッとした様に、ターナがこちらを振り返って俺の元へ走り寄ってきた。

ほぼ全身に返り血を浴びており、それが今も滴り落ちる。


「俺は大丈夫だ。ターナ、君こそ大丈夫なのか?」


ターナは、顔以外の全身が今では赤錆っぽい色に置き変わっている。アニーズで確認してみるが、特にこれと言った異常は見られない。

ただ、最初の頃にあった状態『中程度の極上』は消えており、『普通』となっていた。


よく分からないが、人間体に近い状態と言うのは、何かの作用で特別な物だったらしい。

むしろ、全身が赤錆っぽいこの状態が通常って事なのか?

人化した棍棒の方と見比べて見ても、そうとしか思えない。

しかし、人間体に近付くキッカケと言うのは何なのだろうか。


「主サマ、怪我ハ、シテイマセンカ?」


人化した棍棒の方も、俺を気遣って声をかけてきた。

見た目に反して、コッチも優しい様だが、姿がまんま人形なので怖い。


「ご主人様、この子は?」


「棍棒が変化した物だ。君と同じみたいなんだけど・・・」


「?」


駄目だ。ターナに、何かしらの情報を期待する方が間違いだ。


「じゃあ、この子にも名前を付けて上げるんですね」


「え?ああ・・・・」


確かに、見た目が怖いとは言え、今後は行動を共にする事になるはずだ。棍棒って呼び方だけでは、同じ武器を見つけた時にややこしくなる可能性がある。

それに、ターナに名前を付けたら、ある程度の変化が見られたのだ。

この棍棒も、もしかしたら多少は不気味さが緩和されるかも知れない。


「名前・・・・うーん・・・・。」


棍棒・・・木製・・・・木・・・・ユーカリの木・・・・



「ユーカ!君の名前は、ユーカだ」


そう言って、人化した棍棒を指さした瞬間、ターナの時と同じ様にして光り輝く。


そして、それが収まった時、ユーカと名付けた少女型の人形の顔が、能面の様だった状態から、人間に近い自然な物となり優しく俺に微笑みかけた。


最初の頃と比べると偉い違いどころか、顔だけをみると清楚そうな絶世の美女に変わった。

心なしか、緑色のロングヘアーも一段と美しくなった気がする。

ただ、やはりどっちかと言うと幼い。せいぜい、高校生にやっとなったくらいの印象だ。


アニーズで確認してみると、名称は『銘のある棍棒・ユーカ』と変化し、種別も『魔法武器』となっていた。

強さは『朱雀クラス第10位』、影響度は『冷静で有能な補佐官』とある。

その他は棍棒の頃とは変わっていないのだが、特筆すべきは説明の追加部分で、『棍棒・ユーカ。主に名前をもらった事により、自分に価値を見出した朽ちる運命に抗う者。主を助ける事を信条とし、己の非力さをその他で補おうと努力する存在。近い距離の水のありか感じ取り、その浄化、貯蓄の能力を持つ』

とある。


どうやら、彼女は水を探し出す事ができるらしい。

更には、浄水とかも可能となっている様だ。

これは、期待できる能力だ。


血まみれのターナも洗ってやりたいし、俺の喉の乾きも潤したい。

この三日間、頼りない知識で植物や果実の様な物から水分を何とか得てはいたのだが、満足の行く物では無く、更には今回の騒動で完全に喉がカラカラになっていて限界に近い。



「ユーカ、君にお願いがある。直ぐにでも、水を探して欲しい」


「はい、分かりました。主様」


そう言って笑いかけるユーカの顔は、やっぱり、とんでもなく美人だ。また、顔に自然さが加わった為か、会話もスムーズになる。

ただ、全身は関節剥き出しの木の人形っぽいままなので、後ろを向くと不自然さは相変わらずだった。

因みに、ユーカは葉っぱで出来たビキニっぽい物で腰と胸を隠しているのだが、あれって、俺が巻いた葉っぱと蔓が元になっているんだろうか。

だとしたら、あの時グリップ処理をしていなかったら、どうなってたんだろう。



暫く、ユーカはその辺をウロウロしていたのだが、やがて「コチラの方向に水の気配を感じます」と、教えてくれた。


疲れた身体に鞭打つと、俺はその方向に歩き出す。

一瞬だけ、ガファアンドが持っていた棍棒を見たが、流石にアレは大き過ぎる。俺には使えないどころか、持ち歩けるかも怪しい。


と、肩をユーカが貸してくれて、歩く補佐をしてくれた。

それを見て、慌ててターナも同じ様にするが、残念ながら身長差があり過ぎて、単に腕を引っ張るだけの格好となった。

それでも、彼女にしては俺に尽くしている気分になれるのか、コロコロと笑う。


「それでは、単に主様の歩く邪魔になるだけです」


「ユーカさん!?」


慌ててターナを見ると、頬を膨らませていた。




それから暫くして、俺達は苔むした崖の下に到着した。


こんな所に水が?

と思ったのだが、よく見ると、僅かだが崖の上から水が流れ落ちているのを発見した。そして、下の窪みには濁ってはいたのだが、水溜りが出来ている。

思っていたのとちょっと違うが、今までの水分補給と比べるとまだマシだ。


後は、ユーカに水を浄化して貰えば良い。

早速その事を伝えると、彼女は水溜りに直に口を付け、水を飲み始めた。


な、何をしているんだ?


てっきり、魔法的な何かを使うと思っていたので、俺はその行動をあっけにとられて見ているだけとなった。

理解が追いつかない為、彼女も相当喉が渇いていたんだろうと、漠然とそんな事を考えていたが、暫くして彼女は俺の元に戻ってくると、「どうぞ」と言って口を突き出してきた。


「ちょ、ちょっと、待て。どうぞって、何?」


「私の体内に水を取り入れ、浄化しました。どうぞ、私の口から出しますので、それを飲んで下さい」


「ナンデストー!?」



これって、口移しで飲めって事なのか?

全体的には確かに木の人形なのだが、今のユーカは、顔だけは普通の美少女って感じなのだ。

口をつけるのは、ちょっと変な感じになるので避けたい。

更に口を寄せてくるユーカに、俺は慌てて肩を掴んで阻止する。当たり前と言うべきなのか、触った感触は木まんまだった。


「あ、あの、俺が下で口を開けるから、そこに垂らす事はできないかな?」


「・・・・やってみます」


そうして、俺は座って上を向き、口だけを開ける。何だか、ひな鳥になった気分だ。

そこにユーカが上体を曲げる姿勢を取り、口から水をチョロチョロと適度に落としてくる。

端から見ると、凄いシュールな事になっているんだろうな。


チラッと横を見ると、ターナがモジモジした感じで、俺とユーカを交互に目線だけを動かして見ている。


しかし、だ。

この水が凄く美味しい。別に変な意味ではなく、本当に美味いのだ。

暫く水を飲んでいなかった事を差し引いても、格別に美味い。これも、ユーカの浄化能力のお陰なのだろうか。

いや、それどころか、身体に力が漲ってきて、スッキリする感じすらする。

疲れや怪我の痛みすらも取れて行く様だ。

と、ここで、何か頭の中で呼び鈴の様な物が鳴った様な気がした。


タップリと水を飲んだ俺は、今だに水を落としてくるユーカに、口が塞がっているのでジェスチャーで「もう良い」と合図を送る。

すると、彼女は口を拭うようにして上体を起こす。何ていうか、一々色っぽい。

顔だけは。


頭で鳴った呼び鈴みたいなの、あれは何だったんだ?

俺は、無意識にアニーズで全体の情報を取得してみた。

すると、追加情報のアラートと共に、ユーカと水の両方で新情報を取得していた事に気が付く。


ユーカの説明の方には、『神聖な水を含む事によって、生物への癒やしの能力を取得した。これによって、体内に取り入れて浄化した水に限り、多少の回復効果を与える事が出来る』とある。

その水だが、『かつての寺院跡から流れ出た神聖な水。含む者によっては、加護を得て特別な力を得る事もある』となっている。


俺が感じた事は、感覚的な物では無かった様だ。

拾った木の棒が、ここに来て大化けしたと言って良いだろう。



それから暫くの休憩を取った後、俺達は崖の上に行く事にした。


上には寺院があったらしいので、そこに行けば何か役立つ物や情報が手に入ると踏んだからだ。

ユーカの水のお陰か、すこぶる体調が良い上に、元気が出てきたので登る気になったのだが、それとは別に、高い所に登れば、少しはこの森の全貌が見えるかも知れないと考えたからでもある。

場合によっては、町や村を発見できる可能性だってある。

崖は、パッと見でビル四階以上の高さを持っているが、ある程度の傾斜と突起物が所々にあるので、何とかなるだろう。

何より、身体が回復したと同時に気力も充実してたので、この位の高さは大丈夫だと言う気分もあった。

俺は斜面に取り付くと、早速登り始める。



それから、結構な時間をかけて、漸く俺たちは崖の上へと辿り着いた。


時間が掛かった殆どの原因は、俺にあった。

ここ最近、走ったり重い物を担いだり振ったりして、体力は付いていた様に感じていたのだが、まさか自分の身体を上に引き上げる作業が、こんなに過酷だとは思わなかった。

結局、最後らへんはターナとユーカの手を借りて、やっと登った有様だ。


再び体力を消耗し喉が乾いた俺は、ユーカに水の補給をお願いする。

この姿、他人には絶対に見られたく無い。


頂上で一息付いた俺は、ユーカ水の効果もあって元気を取り戻す。

そして、落ち着いて回りを見てみると、状況は更に絶望的である事を確認した。


この森は思っていた以上に広大であり、見渡す限りに木々が広がっていた。

遠くには山が連なっている。見える範囲では、どれも雲よりも低いので大体1000メートル級ってところだろうか。

見た限りでは人が住んでいる様な気配は一切ない。

ついでに言うと、寺院らしき痕跡も全く見当たらなかった。

その変わり、上にはもっと大きな水溜りがあった。

また、崖の上は更に木々が広がっており、その先は見通せない状態だ。

アニーズを使っても今までと同じ結果が表示され、苦労した割には特に得る物は無かった。


仕方がないので、今日はここで夜を明かす事にする。


できれば焚き火をしたいのだが、火をおこす手段が俺には無い。

一応、見よう見真似で木を擦って火を起こす事を試してはいたのだが、一度も成功した事がない。

ターナにも手伝ってはもらったのだが、どうも彼女は細かな作業は苦手な様で、俺よりも更に上手く行かなかった。

短剣の入っていた革袋に、火打ち石の様な物も入ってはいたが、そもそも使い方が分からない上に、細かくなり過ぎて、テレビかなにかで見たやり方をしようとしても、上手く行った試しがない。


ただ、それを口にしたらユーカが怯えた様な表情をしたので、火起こしを試す行為も止める事にした。


火は諦めたが、流石に食い物は必要だ。その為に、俺達は森の中へと入っていった。

幸いなのは、この森には一応食べられそうな物が存在している事だ。

見つけられるかどうかは別として。


それを、ターナとユーカの力も借りて探す事にする。


彼女達は休息こそ必要ではあるが、食事は何故か必要としていないので、もっぱら食べ物は俺用だ。


すると、意外な事にユーカが次々と木の実などを発見して行く。

更には、ちょっと噛じっては、食べられる物と食べられない物とに分けてくれた。

アニーズの調べでは、そうした説明は無いのだが、これも彼女の能力らしい。

それとも『冷静で有能な補佐官』と言うのは、これも含めての意味なのだろうか。



その夜、俺は久しぶりに満腹感を味わっていた。


今までだと、集めた後に自分でパッチテストをしたり味を確かめて判別していたので、手元に集めた数の割には腹に収まる量は少なかった。

アニーズでの鑑定では抽象過ぎて、食べられるのか不味いのかまではよく分からないので、あんまり信用できない。


だが、今夜はユーカのお蔭で味でも毒の有無でもすべてクリアされたので、採った物を全て食べる事ができた。むしろ、食べきれなくて余ったくらいだ。

また、万が一それで腹を下したり体調が悪くなったとしても、ユーカ水があれば何とかなると言う安心感もある。

ここに来て、普段の生活におけるサポートが充実しているのは実に助かる。

とは言え、何から何まで彼女達に頼り切るのは、俺の気分的に落ち着かない。


「ターナ、ユーカ。先に休んでろ。見張りには俺が立つ」


昼間の戦闘で、彼女達も相当に疲れているはずだ。逆に俺は、満足の行く食事とユーカ水のお蔭で、ある程度余裕のある体調となっていた。

ただし、「見張りなら自分達が交代で」と申し出る彼女達を説得するのには骨が折れたが。

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