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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
31/81

~辺境の王者~ -31. 始動 その4





 雨は予想以上に長く続いた。そのせいで、俺達は一週間以上も王都跡で足止めされる羽目になった。


雨の勢いは衰える事を知らず、強い風と共に外での活動を困難な物とした。

台風でも来ているかの様な荒れようだが幾ら何でも長過ぎる。

そのせいもあるのだが、元々窪地の様になっていた王都跡は辺りが川の様になってしまい、ユーカの作った家を一メートル以上も持ち上げなければならかった程だ。

木の根を操って作った家ってのは、こんな時には色々と便利で助かる。

また、十分な広さがあるので、中に居ても適度に動き回れるのも良い。

まさかとは思うのだが、ユーカはこうした事態も予想していたのだろうか。


すると、鋭いが、短い金属音が辺りに鳴り響いた。


素早い一撃をマツリカによって防がれたターナは、その反動を利用して距離を取りつつも、その背後に回る。

そのままジグザグに動き回りながら懐に飛び込んだが、攻撃が届く寸前にマツリカに振り向かれ、その攻撃も止められた。


「やるな、ターナ」


「マツリカも、ね」


そう言いながら、ターナが目にも止まらない斬撃を連続で繰り出すと、マツリカはそれを受け止めるだけで精一杯となり、防御の姿勢を取らされたまま後退させられる。

一瞬遅れてマツリカが刀を振るうが、既にそこにターナの姿は無い。

柱を足場に、空中を自在に移動するターナを見たマツリカは、構えを取ると目を瞑る。



「あれ、マツリカ、目を瞑っちゃったよ。降参したのかな」


「違うぞアニー。あれは余計な情報を遮断して、相手の気配に集中しておるのだ」


戦いを見守りながら、アニーとリディ、それぞれが二人の様子に付いて語る。

アニーは、そのリディの肩に腰掛けており、リディも胸部の装甲を開いて乗り出す様にして外を見ていた。



高速で上下、左右にと移動を繰り返したターナは、マツリカの背後に回った瞬間に突進する。

それを察知したマツリカが振り返るが、寸前の所でターナは身体を回転させ、突進の勢いを殺す。

そのフェイントに引っかかったマツリカは、刀を完全に振り切ってしまい、直後、喉元にターナの短剣を突き付けられた。

説明すると単純だが、これらは一瞬の間に行われているので正に目にも留まらぬって奴だ。

特に、刀の振りを止められない絶妙のタイミングで制動をかけたターナのセンスは、見事としか言いようがない。


「ぬうう、ターナ、もう一回だ」


「えー、もう十回目だよ。さっき勝ったから良いでしょ」


「さっきの一回しか私は勝っておらん。もう一回」


口では何事かの不満を漏らしながらも、ターナは構えるマツリカに付き合うのだった。



「ターナとマツリカじゃ、ターナの方が強いんだね」


「さて、どうだろうな。二人共、基本的な能力でしか戦っておらんからな。

特技を互いに使った場合は分からん。

特に、マツリカの相手に必ず攻撃を当てるという技、あれを使われては結果は変わってくるだろう」


「そう言えば、ターナも速度を抑えてたね。速度と技、どっちが上なのかな」


「興味はあるが、その答えが出るとしたら、どちらかが袂を別れようとする時であろうな。主君の臣下たる我らが戦う事態など、この身を頂いた物としては論外だ」


「リディって時々難しい事言うから、アニーには分かんないよ」


外が荒れていて出る事はできなかったが、幸いにも中は広いので、みんな、それぞれで独自の暇潰しを行っていた。

ターナとマツリカの対戦は、ここ最近になって始まった物だ。

当初は互角以上に渡り合っていた二人だったのだが、次第にターナが有利となっていった。やはり、レベルの差なのかも知れない。

流石に本気でやり合う分けには行かないので、互いに暗黙のルール的に手を抜いており、これだけを見て単純に両者の強さを図る事はできないだろう。

実は、マツリカは手当たり次第に手合わせを願い出ていたのだが、最終的に良い相手として選んだのがターナだった。


他のメンバーだと防御重視や、トリッキーな戦い方を主流とする為、傍から見ていても勝敗が分かり難いと言うか、互いにある程度手を抜くと言う制限の中では単調な戦いに終止してしまう為、攻防を織り交ぜて更には駆け引きまでできるターナとの戦いは楽しいらしい。

ターナもターナで、思いっきり動けると言うのは嬉しいらしく、何だかんだで相手をしていた。




「よし、動かしてみてくれ」


そんな二人を横目に、俺は俺で、新しい試みを行っていた。


「はい、主様」


「了解、族長。立て、ヴィーダル二世」


集中する為に、ローナとイユキがその場に片膝を突いて身体を固定させる。

そして、合図により、巨大な物体が頭をもたげた。その姿は非常に複雑怪奇で、全体的には長いのだが、折り重なった木の根が複雑に絡んで構造的な模様を形成し、それに比例する形で突起物が並ぶ。

その様を敢えて例えるならば、ムカデに四つ足を付けた様な姿をしており、見よう様によっては竜にも見えた。

もっとも、頭部と尻に当たる部分にはクワガタの様な顎が付いているので、どちらかと言えばムカデに近いだろう。


ダナウン・ダナンザ戦に備えて、その対抗策として新たに試作された即席ゴーレムだった。


マツリカの力は恐らくダナウン・ダナンザを圧倒するだろうが、万が一といった事も考えなければならない。

そうした事態に備えての準備であったが、半分くらいは暇を潰す意味でも作っていた。

因みに、この試作型は本番で使う奴の三分の一程度の大きさに過ぎない。それでも、十メートル近くはある。


始めは西洋のドラゴン的な姿で作っていたのだが、水陸両用を追求して言った結果、今の様な形になった。

ドラゴン型はパワーの点では申し分なかったのだが、その分重量がかさみ、更には前回と同じ結果になり易いと言う結論から、結局は途中で作るのを止めた。

因みにドラゴン型の時は、翼に当たる部分が相手を拘束する巨大なハサミの役割をしていて、これを見たローナが勝手にヴィーダル二世と名付けたのだ。

以降、形状を大きく変えても試作型全てがヴィーダル二世と呼ばれている。

これ、本番用は三世になるのだろうか。


ヴィーダル二世の基本部分はユーカの強欲の根で構成されているのだが、表面は変形させたイーブル・ラーナン達が覆っている。

木の根だけだと複雑な構造が影響しているのか反応にタイムラグがあるので、それを補う為にイーブル・ラーナン達が先導的な役割を果たしているのだ。

上手く動かす為にはユーカとローナの連携が必要だが、今の所その辺は上手く行っており、蛇の様に素早く動き回る。


これには俺の秘策も入っていて、関節部分を敢えて限定させる事で動きを制限し、それによって動作をパターン化させた事で、双方の意思疎通をし易くしてあるのだ。

関節部分の制限は、もう一つのメリットを持っており、それは動かない部分ではイーブル・ラーナンを硬質化させる事で、ある程度の防御力も持たせている。

更に、胴体側面にはイーブル・ラーナンの剣がずらりと並び、それが武器の役目も持っているが、同時に相手を拘束する爪の役割も果たす。


そう、このヴィーダル二世試作型は、相手に巻き付いて動きを拘束するのだ。

これならば、相手がどんな形状をしていようが、締め上げて動きを封じる事ができる。

オマケに水の中での行動も視野に入れてあるので、例えダナウン・ダナンザが水中に逃げたとしても追跡し、他のメンバーによる攻撃を容易にしてくれるはずだ。

今度こそ、万全の体制で挑む事ができる。


それを実証する為に、ヴィーダル二世の試作型を外へと移動させる。

お誂え向きに、周囲は川の様になっているので、実験にはもってこいなのだ。

流れも結構速いので、泳ぐ動作に対する負荷試験も簡単にできる。


ドラゴン型だと、この水流に負けて流されてしまい、バランスも取れなかった。

それの解決策として、細くすると言う考えから今の形状に至ったのだが、果たしてどうか。


スルスルと本物の蛇かムカデの様に、難なく水中に入っていったヴィーダル二世の試作型は、僅かに水流の勢いに飲まれた物の、その後は浮上して器用に泳ぎ始める。

試しに潜らせたり、方向転換等の様々な運動を取らせてもみたのだが、むしろ陸上よりも素早く動くので成功と見ていいだろう。パワーも結構ある様だ。


この結果を見て、俺とユーカ達はハイタッチをした。成功したと言って良い。後は、本番用の作成に移るだけだ。

まあ、作ると行っても現地での話しになるので、予定としてはまだ先になるだろう。

もっとも、ユーカの力は突き抜けた感じになっているので、本番用の制作もあまり時間はかからない。

実際、この試作型も大凡十二体目ではあるのだが、一体当たりの制作には三十分程度しか掛かっていない。

単純に計算しても、本番用も二時間程度では作れるだろう。


しかし気になるのは、この試作型は俺達こそヴィーダル二世とか即席ゴーレムとか認識してはいるのだが、アニーズでは単にイーブル・ラーナンの集合体としか判定されないので、何と言うか、完成度が低いと暗に言われている気がしてちょっと悔しい。

まあ、所詮は試作型の上に即席のゴーレムなので、ある意味では正当な評価なのかも知れないが。

因みに、前回のヴィーダル・・・ローナの命名に従うなら一世だが、忙しかったのと疲れていたので、アニーズでは確認していない。

と言うか、急造の上に試行錯誤の難物だったので、確認すると言う考えさえ頭になかった。




「やはり、これが限界の様ですわね」


七体のイーブル・ラーナンを前に、イユキはため息を付いた。


ユーカによって作られたこの巨大な建造物は、全部の場所が常時使われている分けではなく、時間帯によっては誰も居ない空間が幾つもあった。

加えて、広大な天井を支える為に幾本も柱があるので、それによって死角も存在している。

その一つを利用して、イユキはある試みを行っていたのだ。

それは、自分の防御補助の特性を他者に与えて、同等の能力を得られるかどうかであった。


結論から言えば、自分が接触する事でほぼ同じ位の防御力を与える事はできたが、イーブル・ラーナンを基準として考えると、六体くらいが限界であった。


ただ、当然の事ではあるが、こんな風に密集していては機動力が下がる為、回避力が低下してしまう。

これでは、防御が上がっても回避の分で利点が差し引かれてしまう恐れがある。

実は、防御補助はイユキから離れてもある程度は継続されるのだが、それも十秒ともたないので、これでは使い所が限られてしまう。

数を増やす事ができれば、密集陣形で強引に押せると考えてはいる物の、六体程度では全く話にならない。


イユキはダオウルルズ戦以降、実は自分が戦闘において一番役に立たないのではないかと勝手に思い始めていた。

一番の要因はやはり機動力であり、速度が無いために有効的な攻撃を与えるのが難しい。

特に、ダオウルルズ戦ではそれが顕著に出たと言って良かった。


ダオウルルズ及びマツリカの様な特殊攻撃を持つ相手には、自分の防御力は対して役に立たなかった。

防御が取り柄の自分が攻撃を防げないのなら、それは同時に主たるハルタを守る事ができない可能性も示しており、それを考えるだけでイユキは焦りを覚える様になっていた。

幸いと言っていいのか分からないが、ユーカやローナの存在によって、必ずしも自分の能力は必要とはなくなってはいるが、それでも、彼の側に居続ける為には何かしらの強みが欲しいと思っていた。

このままでは、自分の存在に意味を見出だせない。



等と本人は勝手に思いこんでいたのだが、周りの評価は実は違っていた。


あれだけの攻撃を喰らって唯一損害を中程度で止め、なお活動が可能であった事を考えれば、イユキのタフさはそれだけで他のメンバーでは代替えができない物であり、誰もが認めるところだった。

もし、攻撃担当のメンバーと最初から連携していた場合、ダオウルルズ戦はもっと違った結果になっていた可能性もあっただろう。


それがハルタの評価でもあったが、イユキ本人がそんな事に悩んでいる等とは知らないので、当然知らされてもいない。


そうとは知らないイユキは、自分の能力の活かし方や戦闘方法に付いて悩むのだった。





 結局、雨が上がったのは、俺達が王都跡に来てから三週間も経とうと言う頃だった。


周りは完全に水没してしまい、ジガーイン狩りは断念しなければならなかった。

更には水深も結構深くなってしまった為に普通に移動が困難となったので、結局、本番用のヴィーダルをこの場で作り、オマケで移動用の台を複数作って、それにみんなが乗って移動する羽目になった。


因みに、新型即席ゴーレムの名前は、結局はヴィーダル二世で統一されてしまった様だ。

まあ、使えれば良いような物なので、名前なんてどうでも良い。

後、最近になって分かったと言うか、ローナ達から報告があったのだが、ユーカの強欲の根とイーブル・ラーナンの密集体が長く接触していると、独自の感覚器官を形成するらしく、それによってローナの得られる情報の精度がアップするのだとか。

水中での視界確保に対しては、他のメンバーによる連携と誘導を予定していたのが、これによって解決されたと言っていい。

雨による足止めは損失ではあったが、得られる物も多かったので良しとしよう。



王都跡から戻る複雑な地形を抜け、比較的平らな地形に戻ってきたのだが、驚くべきことにその辺りも水で満たされていた。

王都跡に比べたら水の深さはそれ程でもない物の、やはり普通に移動するのは難しい。

結局、俺達はユーカらの力を使ってダナウン・ダナンザの居る池まで目指したのだが、不安が募る。

足場の悪さは俺達にとっては不利だが、奴にとっては有利となる可能性があるからだ。

一応、現場を見てから戦うかどうかは決めると言う通達を出したのだが、例の如く、マツリカはその決定に渋った。


ところが、池に近付くに連れて水かさは下がっていった。


これは水捌けとかの問題ではなく、地形的に高い所にあった為で、それによって水が溜まり難かった様なのだ。

池に到着してみると、多少は泥濘んでいる所はあった物の、心配した程には水に浸されては居なかった。


早速突撃しようとするマツリカを押さえ、俺達は周囲の警戒と調査に当たる。

一番の懸念材料は、どんなモンスターがこの一帯に勢力を伸ばしているかである。


辺りを何となく見回すが、これと言って気配も変化もない。

むしろ不自然な程に静かだ。

それはまるで、これからここで起こる事を察知しているかの様に、何者かが様子を伺っているかの様な妄想を俺に抱かせた。

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