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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
26/81

~辺境の王者~ -26. 取り零した物と手に入れた物





「おい、マガツノミホロ。俺だ、お前の主だ、起きろ。そして、人化して俺に従え!」


俺は、あらん限りの大声で呼びかけた。狭い空間と言う事もあってか、思った以上に反響し、一瞬だけ辺りが俺に注目する様な空気になる。


これまでの経緯、そして鞘を落とした時に甦った記憶を頼りに自分なりに推測した結果、武器の人化は俺の呼びかけで発動したかも知れない事に気が付いた。

特にその決定的な要素となったのがローナの例だ。


ローナは、レベルも十分だったが、それだけでは人化しなかった。

しかしその一方で、俺の呼びかけにより、危機的状況に無いにも関わらず人化した。

もちろんあって困る事はないのだろうが、血を与えるとかレベルは補助的な要素に過ぎず、それは恐らくキッカケでは無い。

これまでの事を総合すると、人化させた時に唯一の共通点があるとすれば、俺が望むか、望まないかにあったと思う。


ただ一つ気がかりな事があるとすれば、それは人化する条件の一つに、俺が触れている事も含まれているかどうかだ。

それが血肉でも良いと言うのなら、マガツノミホロには、一度、俺の血が付いているので可能性はある。

そして、ついさっき、俺の血を吸い込んでいる。

強引な解釈だが、これなら条件はクリアしているはずだ。

どの道、これ以外に手立てはない。



だが、何も起きない。


僅かな静けさの後、ダオウルルズはアニーを地面に叩きつけると、俺へと向かってきた。

逃げようと思ったら逃げられただろう。だが、ユーカを、仲間を置いてその場を離れる気にはなれなかった。


やがて間合いを詰めると、奴は静かに剣を振り上げる。

俺はそれが振り下ろされるのを、黙って見ているしか無かった。

目に見えない程の速さで剣は振られ、その風圧が俺に届く。



が、寸前の所で剣は止まった。


カタカタと震え、一定の位置から全く動く気配がない。

ダオウルルズが体重を乗せる様な仕草をするが、それでも、奴の腕自身がそれを拒否するかの様に、そこから動かない。


パンッ!


すると、何かが弾ける音と同時に、ダオウルルズの掌が弾け飛んで刀が分離した。

更に、今までに無い強烈な光が、刀を中心にして辺りを包み込んで行く。



眩しさが収まり、恐る恐る目を開けてみると、そこには、見覚えのある鎧を身に付けた少女が立っていた。


「マガツノミホロ!」


思わず叫んだ俺の方を少女が振り向く。その顔は、何故か怒っている様に見えた。

そして、ずかずかと近付いてきた少女は、思いっきり平手打ちを俺に食らわす。


「い、痛い」


何が何だか分からず、頬を押さえて呆然とする俺。


「貴様、よくも私に恥をかかせてくれたな!」


思いっきりそう叫んだ少女は、どこか涙目になっている感じがした。


「え?あ、わ、悪かった。よく分からないけど、取り敢えずは謝るよ。ゴメン。それでね、あの、後ろのモンスターを・・・・」


「貴様が私を離したりするから。私は一人ぼっちになって、変なモンスターに陵辱されて、使いたくもない力を使って、暗くてジメジメした所に居て、土の中を這いずり回されて・・・・。全部、貴様のせいだー!」



ええー。

いや、離せって言って手を払ったのそっちだし。

モンスターに陵辱って、逆に侵食して大変な事態を招いているのも自分のせいじゃ・・・・。

と言うか、一人ぼっちが嫌って、子供か。


等と取り留めのない考えをしていたら、背後でダオウルルズの変異した部分が更に変化する。

弾けてぐちゃぐちゃになったはずの掌が形を変え、刀の様に形状を変えた。

そして、それを振ってくる。


「おい、後ろ!」


「うるさい!」


振り向き様、剣を振るったマガツノミホロが、ダオウルルズの放った斬撃ごと奴を弾き飛ばす。

やっぱり、コイツは格が違う。


しかし、それでもダオウルルズは怯む気配を見せず、再び剣を構える。


「ヒッチュウ・・・ノ・・・」


「ほう?そんな紛い物で、この私に挑もうとでも?面白い」


「イッセン!」


剣が振られた瞬間、それに合わせる様にして少女も剣を振るう。

すると、ダオウルルズの攻撃が掻き消された。

奴の変異した顔が驚愕の表情を浮かべる。


「ふん。本当にこの程度か?『功相打つ』の技を使うまでもないとはな。では、今度はこちらの番だ」


そう言って、マガツノミホロが構える。

それを見てたじろぎながら、ダオウルルズも同じ構えを取った。


「猿真似が、本物の『必殺の斬撃』を見せてやろう」


次の瞬間、両者がほぼ同時に動き、同じ型で剣を振るった。


力の差は歴然だった。


ダオウルルズの放った斬撃が鞭であったとしたならば、マガツノミホロが放ったそれは、死神の鎌その物だった。

相手の一撃を飲み込みながらダオウルルズごと両断し、更には彼女が無造作に振り下ろした追撃が、防ごうと掲げたダオウルルズの剣までをもへし折る。


その圧倒的な力に驚いていた俺だったが、更に驚愕の事実を彼女が口にする。


「やれやれ。くだらない猿真似に合わせて、一割も力を使わなかったと言うのに、弱いにも程がある」


あれで全力じゃないとか、どんな戦闘能力を持っているんだコイツは。

いや、アニーズで確認した時、強さに既に『神々の軍勢以上』とかあったのだから、この結果は当然なのか。ともかく、助かった。


と、安心したのも束の間、それでも尚、ダオウルルズは活動を止めなかった。


むしろ、切断された事によって変異部分が活発化し、数本の足が生えて遂に立ち上がる。

それで機動力を得た奴は、折れた剣を一瞬だけ横に振って再生させると、雄叫びを上げてマガツノミホロに突進をかけてきた。


が、やはり、両者には圧倒的な力の差が横たわる。

再び、素振りの様に振り下ろしたマガツノミホロから、強力な斬撃が飛んでダオウルルズを弾き飛ばして切断する。


普通なら致命傷と言える一撃なのだが、向こうもしぶとい。

切断された部分から、タイル状の物が湧き出たと思ったら、強引に繋ぎ合わせて立ち上がる。



「し、しぶといな。大丈夫か、マガツノミホロ」


「あれは、お前のせいだろ」


「は?」


「お前の血が、厄介な事にしているんだろうが」


「??」


キョトンとする俺を見て、マガツノミホロが変化したであろう少女は、溜息を漏らす。


「仕方ない。あんな気味の悪い奴には使いたくなかったんだが・・・・」


そう言って、彼女は刀を構え直した。

と、一瞬だけ刀が光ったような気がした瞬間、大きな動きと共に、斬撃をダオウルルズに向けて飛ばした。


その斬撃は、今までの物とは違って小さく、実際にダオウルルズには僅かな切れ目を入れただけだった。

しかし、直後に奴のその傷口からは血らしき物と一緒に、光る帯の様な物が流れ出て、マガツノミホロの刀へと吸収されて行く。


それに抗うかの様にダオウルルズは悶え、傷口も再生を試みようとするのだが、その再生しようとする部分さえも塵の様になって吸収されていく。


どうやら、魔力吸収やら吸血やらとか言う力を使ったらしい。

徐々にだが、ダオウルルズの変異した部分までもが崩れていく。

行けると思ってマガツノミホロを見ると、心なしか表情が浮かない。


何と言うか、所々で技を止めようとしている感じがする。

相手の体力とか魔力を吸うって、そんなに嫌なのだろうか。


とは言え、これが効果的である以上、今止めてもらっては困る。




「マガツノミホロ・・・さん、嫌でもここは我慢して・・・・な?」


「簡単に言うな、馬鹿者」


「ごめんなさい」


「お前のせいで、こっちは色々と中途半端なのだ。このまま容量が持つか・・・」


「容量?」


「奴から吸収した分を、こっちで処理しきれんかもしれん。そうなったら・・・・」


と話したところで、ダオウルルズのタイル状の変異部分がどんどん崩れ落ちていき、最終的にはそれらが全部剥がれ落ちて、毛をむしられた鳥みたいになった。


「どうにか、間に合ったようだな」


そう呟くと同時に大きな斬撃が放たれ、ダオウルルズは木っ端微塵になった。







「よ、よくやってくれた。俺の呼びかけに応じてくれて、本当にありがとう」


そう言って近寄ると、キッと睨まれる。まだ、怒ってんのかな。

そう思って目を話した瞬間、俺は肩に痛みを感じた。


「い、いだだだだだ。ちょっと、待て。痛い、痛いよ」


「うるさい。体を乗っ取れないなら、せめて貴様の身体を私の好きな様にさせろ」


そう言いながら、マガツノミホロが俺の傷口から血をチュウチュウと吸う。

その行為自体にはあまり痛みなどは感じないのだが、イユキのドレスによる治療を無理やり剥がされたので、それがヒリヒリして痛い。


マガツノミホロは、悪態を付きながら血を舐めたり吸ったりするのだが、何と言うか、半泣きだし、強く抱きしめてくるし、俺もどう対応して良いのか分からずに大いに困った。

まるで、迷子になった子供にでも泣き付かれている気分だ。



その後、どうにかマガツノミホロを説得し、リディを始めとした動けなくなった連中を崖の上まで運ばせた。技だけではなく、パワーも半端ない。イユキ以上かも知れない。


現在、『損傷・大』あるいは『中』で動けるのはターナとローナ、そしてイユキのみ。後の三人、ユーカとリディ、そしてアニーは『停止』となっており、意識が戻らない。

一応、回復中の情報も出ていたので多分大丈夫だとは思うのだが、ターナの例もあり、やはり心配だ。


寺院跡にまでどうにか全員を移動させると、俺は、念の為に自分の血を少しづつ分けてやった。

正直、俺の血が彼女達の回復にどの程度影響するのかは分からない。だが、何かをせずには居られなかたのだ。

その様を見て、マガツノミホロには意味が無いと言われた。

理由を聞いてみたのだが、そんな事も分からないのかと一笑に付されただけだった。

何かをやっぱり知っているのかと思い、幾つか質問してみたのだが、つっけんどんに対応された上に、俺が知っている以上の事を武器の自分が知る分けがないと、結局、お前もよく分かってないだろ的な回答をされる。

ただ、既に血を取り込んだ事がある為か、俺の血には単に肉体を強制的に与えるだけと言う様な事を口にしていた。


また、戦闘中にあった幾つかの疑問に関しても答えてくれた。

特にダオウルルズを倒す際に言った容量の不足とはそのままの意味で、あれは、彼女自身に受け入れるキャパが決まっているらしく、それ以上を吸収すると暴発するのだとか。


それに関しては、これからレベルアップして行けば拡大するのかも知れない。

ただ、それに関しては何故か返答をマガツノミホロは濁した。

何か、あるんだろうか。


因みに、本来ならば傷口を塞いだくらいでは防げない技らしいのだが、俺が助かったのはイユキのドレスの力もさることながら、向こうの技も中途半端だからだったらしい。

それをして、マガツノミホロには命拾いしたなと皮肉を言われた。


更に質問の中には、俺のレベルアップに関する事も含まれていたのだが、恐る恐るマガツノミホロの特殊能力に、そうした阻害する要素がないか聞いたのだが、そんな下らない真似をする位なら身体を乗っ取ると、良いのか悪いのかよく分からない返事が返ってくる。


それが本当なら、どうやら、俺の成長できない事に関しては、また振り出しに戻ったと言える。





 寺院跡に戻り、みんなの回復を待っていたが、一週間もするとユーカ以外は元に戻った。


ユーカも一応は回復はしたのだが、一定の間隔で『停止』になってしまうという妙な症状が出ている。

この為、動き回っている最中に突然倒れるなど、心配な状態が続く。

そこで極力安静にする様に命じたのだが、彼女の配下であるイーブル・ラーナン・リーダーの二体が居るから大丈夫だという事で、今も普通に出歩いていた。

まあ、その大半の行動は俺の為の物なので、強く制止できない。

情けない事だが。


せめて、俺のレベルが上がってくれれば、彼女達の負担も減らす事ができるのに。


そう思って俺はただの木の枝(と、アニーズには認定された太い枝)を剣に見立て、空いた時間を見つけては素振りをしている。

最近はそれを目ざとく見つけて、マガツノミホロが嫌味を交えながらアドバイスをしてくる。


マガツノミホロは、どうもコソコソと俺の後を付いて回っている様だ。

最初は、何かモンスター的な物が茂みに潜んでいるのかと思い毎回アニーズを使って確認していたのだが、それらは大抵の場合マガツノミホロだった。


まあ、今はイーブル・ラーナンが周囲を警戒している上に、このマガツノミホロにも短距離ながら敵探知能力があるので、モンスター自体が俺に近付く事なんてできないのだから、そんな心配すらしなくていいのだが。

実際、今も俺の四方にはイーブル・ラーナンが警戒に当たっている。


それ故に何してんだと思った物の、聞いても怒ってくるので、最近では気にしない様にした。


いや、気が付いていない振りをしつつ、彼女が出やすいタイミングを作ってやらなければならない。

そもそも、茂みをガサガサさせているのは、俺に気が付いて欲しい節がある。

無視し続けると、その音が大きくなるからだ。


そして、何回か木の枝を振った後、何時もの茶番を開始する。


「あーあ。どうも振りが遅い気がするなー。もっと速く振り抜ける方法はないかなー」


「聞こえたぞ、このど素人め。剣技の何たるかを、この私が教えてやろう」


ここぞとばかりに、マガツノミホロが茂みから飛び出してくる。やれやれだ。


とは言え、彼女の教えは確かに為になる。基本的な握り方や、構えと言った物から更に応用まで。

流石に、特殊な技は俺には使えないので教えられても無理なのだが、それでも、何かしら身に付いて行く感じはする。もっとも、どんなに修練を積んでもレベルは一向に上がらないのだが。


その様を何時の間に来ていたのか、ターナがニコニコしながら眺めていた。


「ターナ、何か用か?」


「マガツちゃんって、本当にご主人様の事が好きだよねー」


「ば、馬鹿な事を言うな、この短剣娘が。私はただ単に、この下手くその剣技が見ていられなくて・・・」


ターナの言葉に反応し、俺をひたすら罵倒するマガツノミホロ。

それに結構、傷ついて沈む俺。


「あばばばば、馬鹿者。貴様も本気・・・?や、その、とにかく練習しろ」


「ところでご主人様、マガツちゃんには名前、付けてあげないの?」


それを聞いた途端、目を輝かせながら俺の方を振り返るマガツノミホロ。


「え?う、うーん・・・良い名前が思いつかなくてさ。まだ考え中なんだ。そ、そうだ。ユーカの様子を見に行かないと」


そう言って逃げる俺を、マガツノミホロが頬を膨らませてジト目で睨む。


マガツノミホロに名前を付けても良いのだが、ある心配から先延ばしにしていた。


名前を付けると大抵の武器が更にワンランク上の存在になるのだが、この妖刀は色々と物騒過ぎて、どうなるか分からない側面があった。

俺に忠誠を誓って制御できるなら良いのだが、今の状態でさえも、どこか反発する様な素振りを見せるので、力を増した上で言うことまで聞かなくなったらと思うと、なかなか決心がつかない。


それ故に、様子を見てと言う感じであったのだが、彼女の事は今だに良く分からない事が多いのも躊躇う理由となっている。

コソコソ付いて来ているのだって、もしかしたら、名前を付けて欲しいだけなのかも知れない。

それで、自由なり力なりを手に入れ様としているのか。

今の段階では、判断が付きかねるのだ。




「ユーカ。おーい、ユーカ」


森の中付近に呼びかけてみるが、反応がない。この場所で呼びかけているのは適当ではなく、俺の四方を常に囲むイーブル・ラーナンに、彼女達の同族の反応を教えてもらったからだ。


「まさか、また意識が無くなったのか?なあ、もう一度、ユーカ付きの仲間の場所を教えてくれないか?」


直ぐ側に居たイーブル・ラーナンに聞くと、コクンと頷き辺りを伺い始める。

イーブル・ラーナンは多少の自我と知恵を持つとは言え、基本的には単純な事しかできない。ほぼローナ依存の面もある為、それ以外で動かそうとすると喋る事すらない。

それ故に場所を見つけても無言で指差すだけだった。


指さした方向に向かうと、居たのは何故かイユキだった。


「我が君、どうされたのですか。こんな所で」


「いや、ユーカを探していたんだが・・・・お前こそ、ここで何を?」


イユキがアニーとイーブル・ラーナンを五体程引き連れて何やらやっている。


「少し、隊列の練習をしてましたの」


「隊列?」


「そーだよ。ユーカに教えてもらって練習してたんだ」


「ユーカに?」


イユキによると、自分の背後にアニーとイーブル・ラーナンをピッタリと隠し、それで守りながら近付いて敵に奇襲を仕掛けると言う戦闘方法を練習していたのだとか。

ダオウルルズ戦で、彼女達も何か思うところがあったらしい。


ただ、そのアドバイスをくれたのがユーカだったと言うのを聞くと、自分の中に落ち着かない感情が渦巻く。

ユーカの存在は俺だけではなく、全体としても重要となりつつあると言って良い。

それだけに、異常な状態を見せているのが心配だ。


とは言え、力不足を嘆いているのは自分だけでは無いのを知った感じがして、ちょっと親近感と安心感も何故か湧く。

それにしても、イーブル・ラーナンの仲間探知がここまで外れるのは珍しい。


「ユーカなら、向こうの方に行きましたわよ。食料を探しているみたいでしたわ」


イユキに教えられ、その方向に向かうと、やっとユーカを発見できた。


「ユーカ」


「主様?どうしたのですか」


「いや、お前が心配で様子を見に来たんだよ」


ホッとした表情を見せる俺に、ユーカが呆れた顔をする。


「主様、私の心配など無用です。むしろ、ご自身の事を考えて下さい。怪我の方、本当に大丈夫なんでしょうね」


「だ、大丈夫だよ。お前にかばってもらったお蔭で、全然浅かったし」


見た目的には俺が受けた傷は、イユキのドレスとユーカの水により完全に塞がっている。

ただし痛みは完全に引かないので、中の方ではまだ回復に至っていない可能性もあった。

ダオウルルズに喰らった攻撃は表面的な浅さとは裏腹に、実際には奥にも届いていたのかも知れない。

恐ろしいのは、紛い物だったとは言え、それを可能とするマガツノミホロの技か。


どうやらユーカにはそれが何となく分かる様で、怪しげな目を向けてくる。


「えっと・・・だな、実は別の問題もちょっとあってね」


「問題?」


「ああ。最近、何だかお前が引き連れているイーブル・ラーナンの場所を、他の奴が特定し難くなっている気がするんだよ。だから、万が一の事があったら心配で・・・」


それに対して思い当たる節があったのか、ユーカが「ああ」と言った感じの表情を返す。


「主様、そう言えば見てもらいたいものが」


そう言って、自分に付いていた二人のイーブル・ラーナンを横向きにさせる。

二人共、頭には可愛らしい花を飾りの様に付けていた。ユーカがやったのだろうか。


「これって、ユーカが?あ、でも、リーダーを区別する目印としては良いアイディアだな」


「いえ、この花の様な物。これは、この子達の身体の一部の様なのです」


言われても意味が分からなかったが、ユーカに促されて触ってみると、確かに感触が花ではなく、イーブル・ラーナン独特の硬質と軟質を併せ持った様な物だった。

引っ張っても取れない。


「これは一体?」


驚きながらアニーズで確認すると、この二体は別の物に変化したらしい説明が並んでいた。


『ユーカレブト・ラーナン』強さ『デュラハンクラス第9位』影響度『基本を覚えた軍師』レベル3。

『コラスル・イーブル・ラーナンが幾多の戦闘を魔法武器と共に経た事により、更なる変化を起こした突然変異体。完全に独立した自我を持ち、魔法武器の思想や思考をトレースしつつ、それを自分の基本行動原理として取り入れた。限定的ながら敵探知能力を持ち、浄化のみであるが体内に取り込んだ水質を変える能力も持つ』


ユーカレブト?突然変異体って、何があったんだ。評価の方も危険度から影響度に変わっているし。

だが、ここ最近の異変がこれで分かった気がする。この二体は、少なくともローナの分体とは別物へと変わったしまったらしい。


一応、ユーカに何をしたのか聞いたんだが、彼女自身も心当たりが無いらしい。

アニーズの説明によると、魔法武器と過ごした時間が長くて変化したとあるが、それなら他のリーダー格のイーブル・ラーナンも、今後は何かしらの変貌を遂げるのだろうか。


等と話し合っていたら、急にユーカが倒れた。それを、二体のユーカレブトが受け止める。


「お、おい。ユーカ!?」


「心配ありません。主様」変わりに片方のユーカレブトが答える。


「心配ないって・・・何でそう言い切れる」


すると、ニコリと笑って「そう、ユーカ隊長が言えと仰ってました」と、意味ありげに含めると、二人でユーカを担ぎ上げて寺院跡の方へと去って行ってしまった。

一人取り残された俺は、何となくだが寂しい気持ちになってしまう。

恋人、或いは妻を取り上げられた男ってこんな感じなのだろうか。

何か複雑。

って、何言ってんだ俺。



その後、寺院跡に戻った俺はそれぞれのリーダーをそれとなく調べてみたのだが、ユーカレブトの様に変化した痕跡を発見する事はできなかった。

まあ、突然変異とあったのだから、何かしらの厳しい条件があるのだろう。

でなければ、今頃ユーカが面倒見た、或いは接触したイーブル・ラーナンは全て変異していたはずだ。


ユーカは今も『停止』となっており目覚めない。その傍らにはユーカレブトが常に寄り添い、面倒を見る形となっている。

ただ、その内の一体が、俺に水を飲むかと訪ねて来た時にはギクリとした。

最初、無理やりユーカから水を吐き出させるつもりかと思ったが、ユーカレブトも体内に浄化した水を溜めておけるので、その事だと知って安心する。

因みに、最近はコップを作ったので、それに一旦出してもらってから飲む様にしている。

知らない奴が見たら凄い光景かも知れないが、俺的には完全に慣れてしまった。


それにしても、ターナにしろユーカにしろ、何かしらの力を得る形となっているので、何となく羨ましい。イユキとアニーだって、戦術的な何かを完成させれば、それは俺よりも確実に強くなるはずだ。

一ミリも成長しない俺と比べると対照的と言える。アニーズで以前調べた俺自身の情報が頭を過ぎるが、それを首を振って強く否定する。絶対に認めない。

何か、手があるはずだ。



「どうした、自分の頭の悪さは振っても治らんぞ?」


相変わらず、口悪くマガツノミホロが声をかけてくる。やっぱり、コイツには名前を付けてやらん。

しかしここで、俺はある考えが浮かんだ。


「なあ、マガツノミホロ。俺の身体を適度に乗っ取るって事はできるか?」


「はぁ?」


ダオウルルズは、マガツノミホロに身体を乗っ取られかけた事で、レベル以上の力を発揮できる様になっていたと考えられる。

更に言えば、マガツノミホロが離れてもその力を保っていたのを見ると、ある程度乗っ取らせた上で手放せば、その技的な物を少なからず使える様になると俺は考えたのだ。


「ば、馬鹿者。乗っ取られたモンスターがどうなったのか、知らないわけじゃあるまい。大体あれは、予想外の事態が絡んでいたのだ。同じ結果が得られると思うな」


どう言う事かと彼女に聞くと、あれは中途半端に人化した事が影響を及ぼしたらしい。

例えモンスターであっても、本来なら制限レベルに達していない者が、あの様に力を発揮できるはずは無いのだとか。

恐らくだが、マガツノミホロの人化自体が中途半端だった為、エラーの様な現象が起きたとも考えられる。

そもそも、人化する条件や方法がハッキリしていない以上、何が起きても不思議ではないだろう。

大体、このマガツノミホロの変化条件自体これまでの例と比べると、幾つかの点で当てはまらない部分も多い。

その点に付いて本人にも聞いてみたのだが、やはり、俺の知らない事については分からない様だった。



「本当に、そんな事を考えているの」


と、急にマガツノミホロが真顔で心配そうな表情をしたので、その意外な反応に俺は動揺する。

口では乗っ取る乗っ取れないがどうとか言っていたのに、本当に良く分からない奴だ。


「ちょっと言ってみただけだ。流石に、俺も乗っ取られるなんて嫌だしな」


それを聞いて、あからさまに安堵の表情をするマガツノミホロ。もっとも、次の瞬間には怒り顔になって悪態をつかれたが。

だがその最中、俺はずっとマガツノミホロが刀を強く押さえていたのが気になった。

やはり、何かしらの手はあるのかも知れない。

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