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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
24/81

~辺境の王者~ -24. 崖の底へ その2





「来ますわ。ユーカ、私の後ろへ」


イユキが叫ぶと同時に、強烈に圧縮され爆発的な威力を持つ何かが、辺りを抉り回す。

それにより、イーブル・ラーナンが十数体単位で吹き飛び、そして、破壊された。

イユキの防御を持ってしても、その力の前には受け流すのがやっとだ。

その証拠に、体にまで影響が出たのか、盾を構える方の腕をイユキは押さえた。


「ああ・・・」


大切な仲間の喪失に、ユーカが思わず声を上げる。ローナによって幾らでも生み出せる消耗品と言う扱いとは言え、彼女にとってはやはり大切な仲間だった。

主の命令である、犠牲はイーブル・ラーナンに払わせると言う事がなければ、退かせていたかも知れない。

だが、それによる損失を一番恐れたからこそ、主はイーブル・ラーナン達を盾にする様に命じたのだろう。


ある意味、それは正しい。

イーブル・ラーナン以外は、破壊されたら二度と戻ってこれない可能性もあるのだから。


頭ではそう理解してはいるが、やはり、無意味に失う様を見せられては、感傷的になってしまう。

ユーカは、キッと敵を睨みつけた。

だが、出現時と今の攻撃によって更に巻き上げられた土煙が辺りを多い、敵の姿をハッキリと確認する事ができない。

大体の形は分かるが、やはり明かりが心許ないせいで、全体像は掴みにくかった。



「リーダー、二手に分けさせて、奴の側面に回り込みなさい。ユーカ、アナタは岩陰に」


「イユキ、どうするつもり?」


「このままだと、私とアナタ以外は全滅しますわ。それなら、少しでも可能性のある方法を取るべきですわ」


「ま、待って。主様にもこの状況は伝わっているはず。無茶は・・・」


「あの力は異常ですわ。我が君と他の子が援軍に来ても、状況を簡単に引っくり返せるとは思えませんわ。なら、今の内に、できる限りのダメージを与えておくべきよ」


イーブル・ラーナン達が敵の側面に回り込み、意識が逸れた僅かな瞬間を狙って、イユキは走り出した。

それを見送る事しかできなかったユーカは、言われた通りに岩陰に隠れる。

自分のレベルは、メンバー内では二番目に高いとは言え、戦闘力では実質的に下から数えた方が早い。

支援で貢献すれば良いと考えていたが、今この時ほど、自分の戦闘力の低さを恨んだことはない。

だが、やれる事はまだある。


「リーダー、私の元へ集まりなさい」


その指示に従い、ユーカの預かるリーダー格のイーブル・ラーナン達が集結する。





「ターナ、族長より緊急連絡だ。イユキ達が危ないらしい。直ぐに全兵力を持って支援に向かえ」


イーブル・ラーナンの一体が、ローナの言葉らしき物をそのままと言った感じでターナ達に伝える。


「イユキ達が?分かった、直ぐに行く。アニー」


「了解したよ。1番隊、2番隊、行っくよー」


拳を突き上げるアニーに同調する様に、ターナを含む、そこに居る全てのイーブル・ラーナン達も同じポーズを取る。

直後、彼女達は崖の下目指して突起物を足場にしながら、器用に素早く降下していった。



 

 イーブル・ラーナン達の牽制を受け、正体不明の敵は完全に隙きを付かれたと思われた。

だが、次の瞬間、素早く反応してイユキたちに斬撃を喰らわせる。


盾を構えるイユキ。

そして、その影に言われるまでもなく、近くに居たイーブル・ラーナン達が隠れる。


が、直後に隠れたはずのイーブル・ラーナン達に斬撃に似た攻撃が通り、数体が破壊される。

盾越しでも響いてくるその攻撃は、気の所為でも何でも無く、確実にイユキの体にダメージを与える。


「何ですの、コイツ?」


理解できない攻撃に、イユキは戸惑っていた。

相手の攻撃は確実に盾で防いでいる。なのに、すり抜ける感じで自分に届くのだ。

さっきまでの力任せの攻撃とは明らかに質が違う。

それに対する対処方法も見つからないが、既に自分が預かるイーブル・ラーナン達も半数以下になっており、状況はどんどん不利になって行く。



そのモンスターは、蛇の様な頭部に人間の男の様な逞しい体を持っていたが、足は板状でスカートの様になっていた。

そのせいなのか、移動する時にはまるで暴風の様に辺りを抉り、更にはやたらと小回りがきく。


だが、それはこのモンスターの基本的な形状の表現に過ぎず、一番目を引いたのは武器を持つ腕から半身にかけての異常な変化だ。


このモンスターは、恐らく基本的には赤い色をしているのだろう。だが、武器を持った腕の方から黒く細かい、幾重にも重なるタイル状の物によって半分程度が侵食されている。


また、それは鎧の様な形も形成しつつあり、全体の姿も何れは変わってしまうのかも知れない。

頭の侵食に対して抵抗でもしようとしているのか、時々その侵食部分を掻きむしっては激しく頭部を振る動作をする。

それによって、多少の隙が生まれるので今は何とかなっていた。

とは言え、攻撃の一つ一つが重く、鋭く、そして広範囲に及ぶので、たった数回の攻撃がこちらに甚大な被害をもたらす。


加えて、防御を無視した何かしらの特殊な攻撃も厄介だった。


それ自体の威力は、イユキ達のレベルからしたら左程でもない・・・・いや、段々とそれも増してきてはいるのだが、それがもし、あの侵食具合と関係しているのだとしたら、状況はどんどんと悪くなる事が考えられる。


「どうしたら・・・」


突破口が見えない状況に、声を上げたのはユーカだった。



「イユキ、台になって」


背後から聞こえた声に、イユキは理由も分からずに一瞬で反応した。

両足を踏ん張ると同時に盾を頭上で水平に構え、それを両腕で固定する。すると、間を置かずに盾に衝撃音が響き、上を仰げば、ユーカが二体のイーブル・ラーナンを抱えて跳躍していた。


「ユ、何て無茶をしますの・・・!」


そう思った瞬間、ユーカはイーブル・ラーナン二体を時間差で投げ飛ばし、一体を足蹴にして空中で方向を変えて、モンスターの脇に逃れる。


「ゴメンなさい」


誰に聞こえるでなく、ユーカは短く謝罪の言葉を口にする。

投げ飛ばされたイーブル・ラーナンはそのまま一直線にモンスターに向かうが、当然の様に切り捨てられた。

ただ、二体目は至近距離で切り捨てられた為か、その残骸を相手の体に付着させる。



「グギィ!!」


イーブル・ラーナンの残骸が付着した途端、何故か嫌な顔をしだすモンスター。

良く見ると、イーブル・ラーナンが付着した部分から煙の様な物が立ち上る。


「今よ、第一リーダー!」


ユーカが叫ぶと、何時の間に登ったのか、崖の上に居たイーブル・ラーナン達が次々とモンスターに飛びかかる。

付着物に不快感を示しながらも、それに反応し全て迎撃したモンスターだったが、その残骸を浴びて更に藻掻き苦しみ出した。


「これは・・・・?」


イユキが疑問を口にした時、更にユーカの合図により、地面を這うようにして残りのイーブル・ラーナン達がモンスターに突撃する。

いや、それらは更に散開し、三手に別れて速度を維持したまま突っ込ん行く。

何体かは辿り着く前に破壊されたが、藻掻き苦しんでいる事などもあってか、迎撃は間に合わず、遂にはイーブル・ラーナン達に取り付かれた。


「第四リーダー、お願い」


そのユーカの言葉によりイーブル・ラーナン達の形状が変化し、殆ど液体状になると、モンスターの腕を丸ごと覆い、その自由を奪った。


「イユキ!」


その言葉だけでイユキは弾かれる様に飛び出し、そして渾身の一撃をガラ空きの腹に叩き込む。

しかし、一撃程度では全く動じない。そこで、二回、三回と連続で叩き込むが、そこが限界だった。

空間に渦の様な流れを感じ、咄嗟に危険を感じて盾に隠れると、ただの風圧とも違う、何か重みのある斬撃の様な物を受けて弾き飛ばされる。

辛うじて盾で受け止めたが、その場にとどまる事は叶わず大分距離を開けられる。

見ると、腕に取り付いたイーブル・ラーナン達も粉々に粉砕されたところだった。

同時に、第一と第四のリーダー格のイーブル・ラーナンも失われる。


「イユキ、ここまでよ。下がりましょう」


「ユーカ、一体何をしましたの。あれをもう一度使えば・・・」


ダメージがあるのか、イユキが肩で息をする様な仕草をする。


「私の水を使ったのよ。モンスター避けになる水なら、多少は隙きを作れると思ったの。

だけど、さっきのイーブル・ラーナン達で使い切った。そのイーブル・ラーナンも全滅に近い、ここが潮時よ」


「馬鹿な事を言わないで。ここまでしておいて下がると言うの?我が君達が来るまで、持ちこたえてみせますわ」


「主様の命令を忘れた?犠牲はイーブル・ラーナンに支払わせる。あれは、私達に無茶をするなって事なのよ。逃げる機会は今しかない」


ユーカの言っている事は正しい。頭では理解しているが、このモンスターの危険性は尋常ではない。

迂闊に引いて勢いを付けさせては、後から来る主の身にも危険が及ぶ。

勘的な物であったが、それがイユキに撤退を留まらせた。


「ユーカ、アナタは行って。ここはやっぱり、私が足止めしますわ」


「ヤメテ。そんな事、出来るわけない」


二人のやり取りは、そんなに時間が掛かったものではない。だが、そのたった僅かな時間にモンスターは回復し、その怒りに燃えた眼光で二人を捉えた。


「・・・ごめんなさい、ユーカ。私がモタモタしていたから、どうやら機会を潰したようですわ。アナタだけでも逃げて」


「イユキ・・・」


モンスターがこちらに突進する気配を見せたその時、イユキとユーカの視界に、赤い残像の様な物が割り込んでくる。

それは、そのまま、モンスターに数えきれない程の斬撃を与えてから、直ぐ様離れた。

そして更に、二人の背後から突風の様な物が吹き、小柄な何かがモンスターに突進、そのまま大きく弾き飛ばしてみせる。


「ユーカ、イユキ、大丈夫?助けに来たよ」


それは、ターナとアニーだった。


「あ、あなた達、どうして?」


「ハルたんから、二人を助けに行けって言われたんだよ。無事で良かったー」


「たった二人で?何を考えているの!」


「二人じゃないよー。みんなも連れてきた」


「みんな?」


振り返ると、最後尾が見えない程のイーブル・ラーナンがこちらへ向かってくる途中だった。


「よーっし。みんな、突っ込んじゃえ!」


「ちょ、待ちなさい、ターナ」


ユーカが慌てて制止し、更には彼女が預かるリーダー格イーブル・ラーナンも使って、一定のラインで行軍を止めさせる。


「え、どうして?」


「あのモンスターは、只者じゃない。無闇に突っ込ませても、無駄にイーブル・ラーナン達を失うだけよ」


「それはちょっと可哀想。でも、どうしたらいいの?」


聞かれて、ユーカが返答に困る。確かに、下手な小細工はあのモンスターには通用しない。数押しをしても恐らく動きを止めていられるのは僅かな時間だ。

これだけの数を要しても、チャンスを生み出せる瞬間は僅かに過ぎない。


「止まっている暇はなくてよ。みんな、動きなさい」


敵の斬撃を盾で受け止めつつ、イユキが叫ぶ。それに直ぐ様反応して、他のメンバーも散るが、イーブル・ラーナンの軍団は避けきれずにまともに喰らってしまい、十数体が跳ね跳ぶ。


このモンスターの恐ろしいところは、遠近関係なく攻撃ができる所にあり、更には、防御をある程度無視する特殊な攻撃手段を持っているところである。

それにより、距離に関係なくダメージを覚悟しなければならない。

完全に不意を突くか、他に犠牲を払わない限りは、無傷でダメージを与えるのは無理だろう。

オマケに、防御力や耐久力もかなり高いらしく、イユキの攻撃を数回受けているにも関わらず、まるで衰えを見せない。


「あの武器さえ取り上げれば・・・!」


退避しつつ、ユーカが次の策を巡らし始める。それに応えるかの様に、ニ体のイーブル・ラーナンが自分で集まってきた。リーダー格の連中だ。

ユーカの受け持つリーダー達は、明らかに他の部隊と比べても特異な存在となりつつあった。だが、ユーカもそこまでは気が付かない。


(武器を取り上げるには、力任せ以外に方法はない。腕ごと切断する?いや、あの防御力だ。生半可な攻撃では、傷一つ付けられないはず。じゃあ、どうしたら・・・・)



「ユーカ」


呼ばれて振り返ると、リディとローナが居た。そして、そのリディの大鎧の装甲を開き、中から主が顔を出す。


「主様、みんな」


正直、手詰まりでもあったユーカは、ここに来て最大の援軍を得た気がして、ホッとした表情をする。




「状況は?」


「芳しくありません。コッチの攻撃はあまり通じず、逆に向こうには隙が見当たらないんです。しかも、特殊な攻撃方法を持っています。それと、報告が遅れましたが、鞘の様な物を拾いました」


言われて前方を見ると、異形のモンスターが暴れまわっていた。

ユーカから更に説明を受けると、その特殊攻撃に、何故か俺は聞き覚えがある様な気がした。


幸いにも、ターナが牽制しており、それによって一応の膠着状態を保っていた。

ターナの速度には付いて行けない様だったが、確かに、その攻撃はあまり効いている気がしない。


「大丈夫だろうな・・・・」


俺は、二つの意味で不安を口にした。

一つはターナの事だが、もう一つは、崖上に居るモンスターだ。

アニーズで調べると、複数かつ数種類の反応がある。

こいつらは、前方で暴れるモンスターを恐れて上に逃げている様だが、こっちに突撃されたら一溜まりもない。


しかしここで、俺は更にある事に気が付く。


「まさか・・・あれは、マガツノミホロ!?」


そのモンスターが握る刀には見覚えがある。


「ユーカ、拾ったと言う鞘を見せてくれ」


その求めに応じ、直ぐ様、俺の手元に鞘が届けられた。

間違いない。

あれは、マガツノミホロだ。だが、どう言う事だ。


アニーズで調べると、あのモンスターの名前は『ダオウルルズ』と言うらしく、レベルは12程度。説明によると『地の底を好むモンスター。自らも地面に潜る事ができるが、光が届き難い場所を生息地とする。力が強いが、特筆すべきはその脚部で、地面を削りながら進み、その前進方法も武器になる』となっているが、異常性に関しては何も情報がない。

なのに、強さは『ケルベロスクラス第2位』危険度は『死に至る暴風』とあり、レベル12の評価にしては高すぎる。

何より、マガツノミホロの使用制限レベルは30以上だったはずだ。それなのに、ユーカの説明を聞く限りだと、あいつは『全防御喰い破り』に当たる攻撃を繰り出しているらしい。

加えて、『使用者取込』や『精神汚染』の影響まで受けている感じがする。

モンスターが使った場合と、人が使う場合では条件が異なってくるのか?


色々と謎が多いが、今はそんな事を考えている暇はない。

コイツは、確かにヤバイ。頑丈のはずのイユキがかなり消耗しており、そこに居るだけでイーブル・ラーナン達の数も減らされていく。

まさに、死に至る暴風その物だ。


イーブル・ラーナン達を盾にして、主要メンバーと一緒に逃げた方が良いだろうか。

いや、コイツがマガツノミホロを手にしている以上、倒さない限り目的は達成できない。

アニーズで確認した時、マガツノミホロに乗っ取られると、使用者は意のままに操られるとあった。

だとしたら、コイツは更に強くなる可能性がある。

今ここで倒しておかないと、更に厄介な事になるだろう。


確認する限りでは、まだ完全に取り込まれていないのか、動きに緩慢さが見える上に、技の射程にも限りがある。

そこを見極めて何か策を取れば、倒せるかも知れない。

俺は、頭をフル回転させた。

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