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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
20/81

~辺境の王者~ -20. ボスモンスターの池 その6





 レベル上げを目的とした場合、ボスモンスターを倒す事は、必ずしも必須ではない。


しかし、あの池には何かがある。

それに、反応がとても奇妙だ。


アニーズでも、薄っすらとしか情報が出てこないので詳しくは不明なのだが、時折、向こうの方から情報を発信している様なケースさえある。

何か意思をもった存在なのか、それともそうした施設があるのか。

それが何かは知らないのだが、確かめる為にはボスを倒すしか無い。


だが、ボスに迂闊に挑んでしまうと、バンドラナと言う思わぬ伏兵により、弱ったところを襲われたりしたら、全滅させられ兼ねない。

その為、俺達は先ず、その潜在的脅威であるバンドラナを排除する事にした。


アニーズによる調査で、俺達を襲ったのは、ある一つのグループである事が判明する。

数にして、約七、八十匹の規模を持つ群れだ。


その他にもバンドラナのグループは居るのだが、どれも十数匹かそこらの小さな群れなので、それと比べると大規模だと言えよう。

そいつらが、何故俺達を付け狙うのかは分からないが、積極的に襲うつもりならば容赦はしない。

まあ、思い当たる一つとしては、池を含む一体が奴らの縄張りっぽいので、それが理由の可能性もある。

とは言え、このまま引き下がる分けにはいかない。


最も厄介なのは連中の賢さであり、今後もぶつかる可能性がある事を考えると、今の内に規模の大きい勢力を潰すに越したことはない。


ただ、それが一筋縄では行かない。


アニーズがあれば楽勝等と思っていたのに、様々な欺瞞や罠と言った物の可能性を排除して、漸く奴らの巣を発見したのは、イフィールと別れてから更に一ヶ月以上が経とうとしていた頃だ。


当初発見した時は、これも罠か目眩ましの類だと思ったのだが、何度か確認して、漸く確証が持てた。

その間、向こうの牽制による妨害や、威力偵察みたいな小競り合いを何度も繰り返して、本当に気の抜けない一ヶ月間だった。


特に、こっちの意図を見抜かれない様にするのに疲れた。


奴らは、相手に何かしらの探索能力があると踏んだのか、少数でチョロチョロと動いてみたり、逆に大勢を一箇所に配置したりして、如何にもな行動を取っていた。

その意図に全く気付かなかった俺は、最初はそれに振り回され続けた。


少数で動いている奴らは探索がされているかを確認する連中で、ワザとらしく置かれていた多数の連中は、拠点の欺瞞の為に配置されていた。


それにまんまと引っかかった俺は、大勢が集まる場所を安易に敵の拠点と誤認し、襲撃計画を一週間もかけてそれ用に作ってしまい、無駄な時間を過ごした。

おかしい事に気が付いたのは、少数でチョロチョロする連中の動きを何となく見ていた時だ。

時折、数匹が上手く交替する形で、探知範囲から居なくなっていたのだ。


アニーズのナンバリングと閲覧回数の機能が無かったら、恐らくは見落としていただろう。


その後、居なくなる連中に注意して追跡していたら、ある地点に向かっている事が分かった。

ただし、そのある地点を割り出すのも相当時間がかかったが、慎重、かつコチラも欺瞞工作を仕掛けるなどした結果、漸く場所の特定に至った。


特に、今までに無い反応、奴らの子供らしき存在を確認できた事で、そこが住処だと断定できた。


そこに至るまでは、かなりの労力を要した。

相手の事を探ろうとすれば、必ず何かしらの手を打たれるので、そこに気が付かない振りをして調査するのに随分と骨が折れたからだ。



俺達は先ず、池手前の森付近に陣取り、そこで柵を作る行為を始めた。

これは、一見すると背後からの防御に備えた物の様に見える。

実際、そうした本物感を出す為に、リディやイユキを使い、かなり長大に、そして本格的に設置した。


更には、何をしているかを一見しては分からない様にする為、斥候で近付いて来るバンドラナを追い払うべく、ターナを毎回向かわせた。

もっとも、規模が規模だけに、全体像を完全に隠すことはできず、何度かターナの迎撃を掻い潜られ、見られてしまっている。

まあ、それも狙いの内だったのだが。


それによって奴らもこっちの意図がボス攻めにあると考えてくれたのか、欺瞞行為が、ある程度は散漫になっていった。

その隙きを突いてアニーズを使い、気付かれないギリギリの距離でその動向を探ったのだ。

正直に言って、アニーズの情報取得のみで整理し、そのパターンを解析するのは至難の技だった。

直接見れば拠点の割り出しや、その様子なども簡単に分かるのだろうが、それをしてはバレてしまう。

その上を行くやり方として、得られる情報のみで推測したり、予測したりして当たりを付けていった。

それに大きく貢献してくれたのがユーカだった。

俺の拾い漏らしや、盲点的な思考の落とし穴をカバーしてくれるなど、本当に助かった。

ただ、それでも、幾つかの点では分析に苦労させられたのも確かだ。


特に、奴らの反応が同じ地点で、不鮮明になったりする意味を理解するのには時間がかかった。

みんなに協力してもらって色々と試した結果、そこには大きな洞窟があると判断するに至る。

これもユーカのアイディアにより、リディやイユキに穴を掘ってもらい、わざわざ出入りさせて、反応の差を比べて推測した物だ。

一応、建物の可能性も考えて試したのだが、その場合は意識を集中すると、それらしき反応が出るので、やはり、考えられるのは洞窟だと結論づけられる。

この辺は、イフィールが隠れた時に見た反応も役に立ったと言える。


そして、もう一つ。

俺達が何時動き出すのか、分からない様に工夫するのも苦心した。


長大な柵作りは、アチコチに切り出した杭等を積み、作りかけの柵を放置して、ワザと遅延している様に見せかけ、ボス攻めのタイミングが何時なのかを分かり難くしてやった。

もちろん、今は最初からボスを攻める気などないのだが、実は、この積んである杭こそが、今回の作戦の要でもある。


杭は、更に本命である作戦用の材料を囲む様に置かれ、何かしらの工作を施すのも、施されているのも見えない様にしてある。

運ぶ際にも、これらに紛れ込ませて移動させる為、外からはただの柵作りにしか見えていなかったはずだ。

そうして作戦用の杭は徐々に移動され、更には奴らの目を盗み、少しずつ奴らの拠点から、やや近い所へと運び出した。


それと並行して、イフィールからもらった剣のレベルアップをする為に、積極的にダファンド狩りも行った。


ただし、これも作戦に必要なある物を集めるのが狙いで、剣云々は二の次だ。


とは言え、ダファンドをユーカとターナが抑え、俺が止めを刺す様は、時折バンドラナの斥候にも見られていたので、それ以外の目的があるとは気が付かなかったと思う。


因みに、このダファンド狩りで剣のレベルは5にまで上がったのだが、一向に人化する気配は見られない。

本当に、何が条件となっているんだか。


念の為、ユーカやターナ達に血を上げる際に、期待を込めて血を垂らしてもいるが、特に変化は見られない。

やっぱり、危険に自ら飛び込まないと駄目なのか。

後、俺のレベルも全然上がる気配が無い。こっちに関しては、何が原因なのかは、その欠片すらも問題点が見えてこない。


そうした事を一ヶ月以上も続けて入念に準備し、いよいよ、作戦決行の日を迎えた。



できる限りの事をやったつもりではあるが、拭い切れない不安要素は幾つもある。

第一は、結局目視での確認をしていないことだ。


もし、洞窟ではない場合、今までの苦労は水の泡となる。他にも、二手に別れての重要地点を潰すと言う方法も、ある意味ではぶっつけ本番なので、予想外の出来事が起きた場合、そこから崩れる可能性も大きい。

一応、連絡の為の合図として笛を用意してはあるのだが、詳しい状況をやり取りできる訳では無いので、やはり不安が残る。


ともあれ、俺は作戦用に準備した杭をリディとイユキに運ばせ、アニーズを使って奴らの歩哨の隙きを突き、夜陰に紛れてバンドラナ達の拠点に近い予定地点に移動した。


因みに、柵を設置した偽拠点では、ユーカがワザとらしく火を焚き、更には木や葉っぱ等で作り上げた人形を動かして、俺達がそこに居る様に振る舞ってもらっている。

この時の為に、火を怖がるユーカを慣れさせるのにも苦労した。




 予定の地点に到着した俺達は、そこで初めて地形の状態を確認する。


思った通りに、そこには洞窟があった。ただ、考えていたよりも入り口の部分が大きい。持ってきた杭は予備も考えた上で準備してきたのだが、それを全部使わないと行けない様だ。

俺達は無言で頷くと、それを作戦開始の合図とした。


先ずは、イユキが自分の分の杭を持って走り去っていく。アニーズで予定地点に達した事を確認した所で、残った俺達が動いた。


ターナによって火を付けられた杭を、リディがその馬鹿力でぶん投げ、洞窟の入り口に次々と投げ込んで行く。

更に、それを確認したターナが、今度はその場を走り去る。

イユキと合流する為と、他の任務の為だ。


突然投げ込まれた、火が着いた杭に慌てふためく歩哨にお構いなく、リディは尚も杭を投げつける。

すると、一時も置かずに、当たりは煙が充満し、それによって歩哨達がむせ始めた。


投げ込んだ杭は、ただの木じゃない。イフィールに教えてもらったキジャラを加工して作った物だ。

更には、ダファンドの油を染み込ませてあるので、良く燃える。


いや、予想以上に火力が強い。

思わぬ効果だ。


バンドラナ達は明らかに混乱していた。アニーズで確認するまでもなく、煙と火の向こう側で、何か騒いでいる姿が見える。

頃合いと見て、リディとアニーを突っ込ませた。



僅かばかりの歩哨達は、多少の抵抗も虚しく直ぐに討ち取られてしまう。


レベルの上がったリディとアニーの戦闘力もさる事ながら、辺りを覆うキジャラの煙は奴らの目鼻を潰し、その自由を奪った。

逆に、リディやアニーは武器が人化した為か、その影響を全く受けないので、殆ど一方的な戦いとなる。


遠くを見ると、火の手が数箇所から上がっているのが見えた。

観測する限りで確認できた洞窟の裏口らしき所に、イユキとターナが、同じ様にして火付の杭を打ち込んだのだ。

これで、奴らの逃げ道は無くなったはずだ。

一応、アニーズで周囲の確認も怠らない様にはする。


と、ユーカが俺の側へとやって来た。どうやら、斥候の方も片付けた様だ。

こんな時、ユーカの敵探知能力は俺の代役ともなるので助かる。

また、この後、彼女は万が一の連絡係としても重要な役目を負う事になる。

状況的に見れば、俺達の勝ちは万全となりつつあった。


しかし、勝利を確信したその瞬間、洞窟の中から杭が弾き飛ばされた。


見ると、バンドラナが十数匹、盾と武器を構えて火の隙間から飛び出して来る。

アニーズで確認すると、レベル14以上の奴ばかりで、装備も立派だった。こいつらの内、何匹かは見覚えがある。

最初にバンドラナと戦った時、軍団の最後尾に位置し、指示などを送っていた幹部クラスの奴らだ。


息を止めているのか、それとも何かの補助効果を使ったのか、奴らはキジャラの煙の中でも平然と動き、リディやアニー相手に逆襲を仕掛け始めた。


途端に混戦に陥る。


それに乗じて、何匹かのバンドラナが杭をどかそうとし始めた。これは、不味いぞ。

そう思った瞬間、一匹が体をくの字に折り曲げながら、弾き飛んだ。

イユキだった。


洞窟背後の火付け作業が一通り済んだ為に、援護に駆け付けたのだ。因みに、ターナはその機動性があるので、背後の見張りを頼んである。何かあったら、彼女なら直ぐにこっちに来る事も可能だろう。



「あの時は、よくもやってくれましたわね。お返ししますわ」


そう言って、次々とイユキが、出入り口の杭を退かそうとする奴を打ち倒して行く。


それを見て、加勢に向かおうとした高レベルのバンドラナの数体が振り向いた瞬間を、アニーが見逃さない。

風を巻いて加速し、ドリルの様に回転して突撃した彼女の攻撃は、敵の体を防具ごと抉り取った。

高レベルなのは、バンドラナ側だけでは無いのだ。


それが勝負の分かれ目となり、打って出た幹部クラスのバンドラナ達も次々と崩れる。

どうやら、キジャラの煙には単に我慢していただけの様で、息が続かなくなった者、目の傷みを抑えきれなくなった者が、次々と隙きを見せ始め、そこをリディとアニーが叩きのめしていった。


この混乱において、洞窟の中から更に出てくるバンドラナもいたが、単に苦しくて這い出てきただけの奴が多く、そいつらはイユキの餌食になる。



その賢さに手こずったが、用意周到に準備して挑んでみると、実にあっけない。


むしろ、今回はその頭の良さが仇となり、俺達に動きをコントロールされていたと言っても良いだろう。

洞窟の中からは、悲痛な鳴き声が響いてくる。

奴らの子供か、あるいは仲間の声か。


今更だが、本来は彼らのテリトリーを犯しているのは俺達だ。


それを守ろうとした者を排除するのは可愛そうな気もするが、コッチだって命がけなのだ。前に進むのを邪魔される以上、倒すしか無い。

俺だって、あの拳闘士タイプのバンドラナに殺されかけたのだ。容赦する理由は無い。



等と感傷にふけっていたら、洞窟の中から、何やら雄叫びや地響きにも似た音がしてきた。

そして、大勢のバンドラナが一斉に押し寄せてくる。

中には、火に焼かれる事も構わずに出てこようとしたり、転んだ仲間さえも踏みつけて外に出ようとする者までいた。

どうやら、追い詰められてパニックに陥った様だ。

そこをリディとイユキは見逃したりはしなかった。次々と冷徹な一撃を加え、確実に仕留めて行く。


だが、ここで予想外の事が起こり始めた。


出口に殺到したバンドラナの数が膨れ上がり、だんだんとリディ達が押され始めたのだ。

キジャラの煙はまだ効果がある様なので、連携を取らせるには至らなかったが、それでも、数匹が協力する形で戦闘の形を作り始める。

その背後からアニーが突撃してカバーするので、今は何とかなっていたが、このままでは、勢いに押されて奴らを逃しかねない。


「リディ、イユキ、もう少しだ。押し返せ」


俺は、焦りもあって声をかける。しかし、それも虚しく、奴らはその数に物を言わせ、徐々に事態を打開し始めた。

特に、入口付近を塞ぐ杭にまで手を出し始めているのは、非常に不味い。

熱と煙で作業その物は捗っていないが、これではせっかく狭めた出入り口が広がってしまう。

そうなれば、更に数的優位を向こうに与えてしまう。


「く・・・そ」


俺は、焦りから、思わず隠れていた茂みから身を乗り出す。

剣を握り締め、あそこに駆け出したい気持ちが湧き上がるのを、抑え切れない。

走り出さなかったのは、ユーカが俺を抑えてくれたからだ。


もっとも、俺が行ったところで何の役にも立たない事は分かっている。戦うどころか、俺自体が火と煙で直ぐに参るだろう。

予想外の火力は、キジャラの煙の効果も高めてはいたが、それによってバンドラナたちを死に物狂いにさせてもいた。


何と言う役立たずだ。


「この・・・剣。一体、どうしたら人化するんだ、ええ!?何とか言え!」


俺は、自分の不甲斐なさを剣に八つ当たりしてしまう。


すると、握っていた手が、僅かに熱を帯びた様に感じた。そして、次の瞬間、剣が眩い光を放つ。


これは!?


夜の闇夜に、俺達が居た場所だけが異様な光を放ち、瞬間的にあらゆる物を浮かび上がらせた。

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