~辺境の王者~ -18. ボスモンスターの池 その4
「待って・・・」
そう言って木の上から姿を現したのは、薄い緑色した皮膚を持つ少女だった。
髪も緑色っぽい。
そして、見間違いで無ければ、木の中から体を出している。
名称『イフィール・テネンタ』種別『プラウネ系ヒューマス』レベル6
強さ『キマイラクラス第8位』影響度『村娘』
『ケインケネス村の生き残り。魔素を取り込んで、森林での生活に特化したヒューマス系の亜種。草花の声を聞き、木々と一定時間、体を融合できる力を持つ』
プラウネ系ヒューマス?一応、人間って事なのか。変わった能力を持っているが、ここに来て初めて人と接触できたかも知れない。
しかし、こんな所で一人で何をしているんだ。そして、どうして俺達を尾けていたんだ。
初の人間との接触だと言うのに、その怪しすぎる行動に俺は手放しでは喜べなかった。
クラス分け的にも初めての奴だが、一応人間なのにキマイラって、何かの危険性をはらんでいるだろうか。
ただ、危険度ではなく影響度として扱われ、更に村娘とされているので、やはり普通の人間て見ても問題ないんだろうか。
「降りてこい。下手な真似をしたら、容赦はしない」
ユーカが警戒の色を隠そうともせずに、木の上の少女、イフィールに強い口調で命じた。
「今、行きます。少しだけ、待って下さい」
これまた、聞き取れるか取れないか位の小さな声で、イフィールが返答する。
一瞬だけ、彼女が木の中に消えたと思ったら、幹の部分から再び現れる。
それを、ユーカ、ターナ、アニーが囲む。
その様を見て、縮こまる様にして震えるイフィール。
身長は、ターナ達よりも高いのだが、その怯え様によって、小さく見える。
因みに、鎧無しの状態でもリディが一番背が高くて160くらいで、順に、ユーカ、イユキ、ターナ、アニーと続く。
ユーカはリディよりやや低いくらいなので、158程度だろう。そこから順に小さくなるが、アニーに至っては百センチくらいしかない。
演技じゃないだろうな?
俺は、念の為にアニーズで確認してみた。すると、状態『恐怖』『極度の緊張』と出た。本当に、怖がっている様だ。
「待て、みんな。一旦、武器を収めて下がれ」
その言葉に、ユーカが何かを言いかけたが、手で制する。それを合図に、三人はゾロゾロとイフィールから離れ、俺の側へと戻った。
「イフィール・・でいいかな?」
名前を呼ばれて驚いたのか、顔をガバっと上げるイフィール。しかし、目が合った途端に、直ぐに俯いた。
「えっと、俺には特殊な能力があってね、それで分かったんだ。驚かせて悪かった、すまない。
俺の名前は、ハルタ。
タナベ・ハルタ。どうして、俺達の後を尾けて来たんだい」
「四つ腕達を追い払った人達が、どんな人か見ようと思って・・・・」
相変わらず、声が小さい。
四つ腕と言うと、バンドラナの事を言っているのだろうか。
「それで?」
「あの・・・本当は、新しいモンスターかと思っていたんです。でも・・・人とは思わなくて・・・・その・・・・」
小さな声で、もじもじとする彼女は、何かを言い難そうにしていた。
「ハッキリ言って良いんだよ。別に、俺達は君をどうこうするつもりは無いから」
「・・・・あなた達・・・は、人?」
いや、お前がそれを言うんかい。
まあ、この世界で言うヒューマスと言う人に当たる種族が、俺の知る人間と同じとは限らないからな。
それを考えたら、確かに俺達は怪しすぎるから、怖がられるのは無理もないのだろう。
その後、俺はこれまでの経緯を掻い摘んで話、更には幾つかの確認をする為に、彼女に質問してみる事にした。
一番の興味は、やはり武器の人化についてだ。この世界の住人ならば、武器が人化する条件に付いて知っていてもおかしくはない。
「・・・と言う訳なんだ。信じられないかも知れないけど。ところで、君も武器を人化できるのかい?そうなら、どういった条件で人化するのか、教えて欲しい」
しかし、俺の質問に、彼女は首を横に振って知らないと小さな声で答えただけだった。
「じゃあ、他にも、武器を人化できる様な人を見たことは?」
これに対しても、やはり首を振って知らないと言う返事を返された。
参ったな。
期待していたのに、全く有益な情報が入って来ない。この少女が単に世間知らずなら別だが、この受け応えからすると、俺が異常過ぎる可能性も出てきた。
もっとも、そう結論付けるには、やはりサンプルが少なすぎるが。
「それで、貴方はどこから来たのですか。他に仲間は?」
自分の興味だけで質問していた俺と違い、ユーカが凄く当たり前の事を聞く。
「ケインケネスの村から・・・来ました・・・あ、でも、今は村はありません・・・・多分・・・。
仲間も・・・居たんですが・・・・みんな、どこに行ったのか・・・分かりません」
相も変わらず小さな声で喋っていたイフィールだったが、ここでポロポロと涙を零し始めた。
アニーズに詳細は書いて無かったが、断片な事から察するに、かなり辛い思いをしてきた様だ。
今まで一人で頑張って来たんだろうな。
この世界で気が付いて、グラッド・ラーナンに襲われた時の事を思い出し、俺は物凄く彼女を気の毒に思う様になった。
「それで、私達を確認して、どうするつもりだったのですか」
一応の警戒を解き始めてはいるが、それでもややキツイ口調でユーカが問いただす。
「・・・四つ腕達はある時期になると大規模な狩り・・・自分達の縄張りを広げるのと、他のモンスターへの牽制を兼ねて多くのモンスターや生物を殺します。
それに対抗できる程の力を持っていたら・・・・私にも望みがあると思って・・・その・・・・・」
そこまで言って、再び彼女は黙り込んでしまった。極度の人見知りなのか、それとも他に心配事があるのか。
「イフィール、助けが必要なら、君の力になるぞ。何か、できる事はないか。俺達で良ければ話を聞く」
その言葉に、流した涙を拭くこともせず、彼女は顔を上げる。その表情には、複雑そうな感情が見え、更に泣き出した。
「主様? また、余計な。
ここら辺は、ただでさえ危険な地なのですよ。これ以上の厄介事は・・・・」
「流石は我が主君。良くぞ申した。弱き者の力に成りたいという、その心意気。このリディ、感銘を受けました。是非、我にもお手伝いさせてくだされ」
「ターナも、イフィールちゃんを助けて上げたい。助けてあげようよ。ね?ユーカ」
「僕は、ハルたんが行く所なら、どこでも着いて行くよ」
「やれやれ、我が君はお人が良すぎますわ。けれども、行くというのなら、私も全力で力になりますわ」
「ちょ、あなた達が決める事じゃない」
正論を言うユーカを他所に、他の連中がそれぞれ勝手な事を言い出し始めて、収拾が付かなくなってくる。
ユーカの言う事は、至極まっとうなのだが、実質的に手詰まりでもあるし、彼女を助ける事で新しい情報を得られるかも知れない。
だからここは、イフィールに力を貸すのが最良の選択だろう。
そう判断した俺は、ユーカを説得しつつ、イフィールから話を聞くことにした。
イフィールから聞いた話によれば、彼女とその仲間達は、元々は森のずっと北の方で暮らしていたらしい。
ケインケネス村はそこにあったらしいのだが、ある日、山賊とも軍隊ともつかない連中の襲撃を受け、村を捨てて逃げざる得ない状態に追い込まれんだとか。
その後、この森に逃げ込んで新しい生活を送っていたらしいのだが、数年前から、急に凶暴なモンスター達が増え、生活の拠点を奪われたばかりか、その時に仲間も散り散りになったと言う事だった。
「この森は・・・・最初、そこまでモンスターは多くは無かったんです。でも、ある時から急に、見た事も無い凶暴なモンスターが増えてしまって・・・・それで、抵抗する暇も無く、家も仲間も・・・失って・・・・」
涙をどうにかこらえようとするイフィールだが、今まで我慢していた事を堪え切れなくなったのか、自分でも抑えきれないと言う感じだった。
相当、心細かったんだろうな。
イフィールにどうして欲しいか聞いた結果、取り敢えず、彼女達が暮らしていた拠点を取り戻して欲しいとの事だった。
そこには、彼女が黒のモンスターと呼ぶ連中が住処にしていて、近づく事ができないらしい。
取り戻す事ができたら、彼女の家族や仲間の安否を少なからず確認できるそうなので、助かると言われた。
しかしそれは、ある意味では残酷な現実を知る事になりはしないだろうか。
そうした心配はあったが、拠点に行けば何か役に立つ事もあるかも知れないと言われたので、そっちに期待して協力する事にした。
もっとも、戦うのは俺以外なのだが。
イフィール達が居たと言う拠点付近には、確かに黒いモンスターが多数、彷徨いていた。
炭化した様な表面を持つそれは、個体別に様々な形状をしていて、色以外で見ると同種のモンスターとは思えない外観をしていた。
だが、こいつらは、どれも『パジャーブ』と言う同一種のモンスターであり、強さは『デュラハンクラス第6位』危険度は『大型猛獣』とある。
相変わらず、アニーズによる判定は微妙だが、これまでの経験からすると、十分にヤバイ相手だ。オマケに、レベルは最低でも13はあり、最高では17の奴が居る。かなりの強敵と見て良いだろう。
説明によると『太古の昔に、一時代を築いた古代人の慣れの果て。生命の神秘を我が物にしようとし、神の怒りに触れてモンスター化した。それによって知能は低下したが、お望み通りの高い生命力と、己の望む方向でおぞましい姿に形状を変化させて生きる宿命を負う。知能は低下したが、かつての社会性を本能的に保っており、それによって常に集団で行動しようとする。神への恨みからか、人の形状をした物を積極的に襲う。強固な外皮を持ち、火に強い』とあった。
このパジャーブ、かつては人だったって事なのか。それが本当だとしたら、物凄く複雑だな。倒して良いものか。
ただ、人の形状をしたものを積極的に襲うって、俺達、完全にアウトだよね。
取り敢えず、多数を相手にするのは不味いので、アニーズを使って、はぐれているか、少数で居るのを狙ってみる事にした。
その結果、俺達は三体のパジャーブに狙いを定める。イフィール達の拠点から離れて行動している上に、少し窪んだところをウロウロしていたので、他の奴に見つかる事もないだろ。実におあつらえ向きだ。
茂みや木々に隠れながら、慎重に布陣を敷くと、一気に襲いかかった。
前方からターナ、アニーが突撃して気を引く。速度では彼女達が勝る様で、それぞれが必殺の一撃を与えたが、大して効いていない様だった。
そこへ、背後からリディとイユキが仕掛ける。
連携は上手く行ったのだが、流石に高レベルの強敵だった。
大型化したリディの攻撃を数回受けて漸く倒れ、イユキに至っては十何回と打撃を与えて、やっと倒していた。
ターナとアニーに至っては、決定打に欠けてしまい、イユキとリディの援護を待つ有様だ。
これは、相当に厄介だぞ。
因みに、ユーカは俺とイフィールの護衛に徹している。
幸いなのは、パジャーブはあまり動きが速く無いので、そこが付け入るスキともなっている。
とは言え、そのタフさは想像以上だ。攻撃力も高いと見え、攻撃を喰らったリディもイユキも、弾き飛ばされそうになった。
リディの方は、その重さで何とか耐えたが、いちいち動きを止められていた。イユキは盾の角度をズラして、直撃を避ける形で何とか対応している感じだ。
たった三体でこれなのだから、拠点に居る数十匹を一度に相手にするのは不可能だ。
さて、どうしたものか。
悩む俺の側で、イフィールが驚きを隠せないと言う表情をしている。
心なしか、表情が明るくなった様だ。
少なからず、希望を持ってくれたのだとしたら嬉しい。だからこそ、この先どうするかは重要だ。
パジャーブの知能は低いとあったから、はぐれた奴を地道に狩るか?恐らく、アッチは仲間が減っても気が付かないかも知れないし・・・・・駄目だ。幾ら何でも、時間がかかりすぎる。
それとも、誰かを囮にして、有利な場所に誘き寄せてから倒した方が良いだろうか。
動きは遅いみたいだし、場合によっては勝手にバラけてくれるかも知れない。
そこを、全員で一斉に飛びかかれば何とかなるか。
・・・無理だな。
相手が動き回る以上、幾ら有利な地形に呼び込んだとしても、上手く足止めができなければ乱戦になる。そうなったら、数が少ないこっちが不利だ。
大体、ここらはモンスター達のテリトリーだ。俺達に有利な場所なんて、あるはずが無い。下手をしたら別のモンスターに鉢合わせて、挟み撃ち何て最悪な事態に陥る可能性もある。
特に、不用意にバンドラナに出くわそうものなら、今度こそ俺達の方が全滅しかねない。
一体、どうしたら・・・・・待てよ。
あれが利用できるかも知れない。
「主様、悪い顔をしてますよ」
「そうか?」
ユーカに指摘を受けながらも、俺はイヒヒと笑った。
翌日、俺達はある作戦の為に、一匹のモンスターに狙いを定めていた。
コッチが先に見つければ、アニーズで位置の特定なんて簡単にできる。向こうのレベルは11だが、狩る側のターナとユーカのレベルもそれぞれ16と15だ。速度差は十分にあるだろうし、ターナのマックススピードなら楽勝だろう。
因みに、他の三人のレベルは、イユキがレベル9、リディがレベル5、そして、アニーがレベル3になっている。
更に何とかクラスは、順に『朱雀クラス第8位』『朱雀クラス第10位』『玄武クラス第7位』『白虎クラス第7位』『白虎クラス第9位』となる。
ターナとユーカは俺の指示を受け、慎重に獲物が居る場所にまで近づくと、一気に襲いかかった。
僅かばかりの騒々しさの後、ターナが手を振って上手く行ったという合図を送る。
駆けつけると、そこには、手足や尻尾だけではなく、口と更には折り畳まれた大アゴまでもを無残に切断、あるいは毟り取られてダファンドが転がっていた。
酷い。モンスター愛護団体何て物があったら、確実に訴えられるレベルだ。
そいつを回収した俺達は、予定の場所にて早速準備に取り掛かる。
試しに、リディにそいつの腹を踏んでもらうと、狙い通りにあの糸を出し始めた。どうやら、腹をかっさばいて取り出さなくても良いようだ。
それを、予め決めた範囲にどんどん仕掛けて行く。
その間にも、俺のアニーズでダファンドを見つけては、ターナとユーカが刈り取っては調達するのを繰り返す。
「ひでぇ・・・・」
俺は、リディに腹を押されて糸を無理やり出され、干からびて絶命した数匹のダファンドの死体を見て、口の端を上げながらそう呟いた。
もっとも、干からびたと言う表現は、単に潰れただけの様を見て言っているだけで、こいつらは体内に相当量の脂身を持っているのか、それがブリブリと出ていてギトギトに光っていた。
火を付けたら、さぞかし良く燃えるだろうな。
モンスター愛護団体以下略!
「ハルたん、悪人みたいな顔をしてるよ」
「そうか?」
アニーにそう指摘を受けながら、俺はイヒヒと笑う。
アニーも、それを真似てイヒヒと一緒に笑った。
因みに、その背後ではイフィールがブルブルと震えていたのだが、俺達は気が付かなかった。
もっとも、その俺らの様子を見て、ユーカが呆れる様にため息を付いたのは聞こえていたが。
準備を完了した俺達は、早速、パジャーブをおびき寄せる事にした。
一応、予定地の背後にはユーカの水を巻いてモンスターが近寄って来ない様にし、万全を喫してある。
また、アニーズも常時発動し、周囲にモンスターが居ない事を確認した。
ただ、数匹のバンドラナがウロウロしていたので、見つける度にターナを向かわせて追い払わせていた為、少々、時間がかかった。
連中、どうやらコッチの動向を探る為に、斥候を俺達に付けようとしていたみたいだ。
今は、アニーズの探知では詳細が分からない付近をウロウロしているのだが、この距離も、どうやら連中には学習されたらしい。
と言うのも、ターナに追い払われる度に距離をある程度開けては近付いて来たので、こっちに何かしらの探知能力がある事や、その距離を図られた可能性が高い。
その行動の一つ一つに意味があるあたり、本当に厄介な連中だ。
ともあれ、対パジャーブにおいて、やれる事はやった。
上手く行くかどうかは分からないが、先ずは試すだけ試してみるだけだ。どの道、こっちは少数なので、最初っから不利なのだ。
ヤバければ逃げるし、その為に、俺を含む5人は隠れて待機していた。
失敗した場合、ユーカとターナは左右に分かれる形で、俺達を逃がす時間を作る算段も付けてある。
「モンスター共、コッチです」
「コッチだよー、ベーっだ」
手筈通り、一番足の速いターナとユーカが囮となるべく、パジャーブ達の前に現れて挑発する。
すると、それまでてんでバラバラに動いていたパジャーブ達が、一斉に二人に向かって移動し始めた。
それを振り返りながら、適度な距離を開けてターナとユーカが誘導する。
そして、ある地点に到着した時、二人揃って跳躍した。
それを追って殺到するパジャーブ達であったが、先頭を行く連中達が、次々と倒れ込み始める。起き上がろうとするが、ダファンドの糸がガッチリと拘束する。
どうやら、上手く行ったみたいだ。
本当は不安だったのだが、糸一本ではなく、できる限り密着させて、ネズミ取りの様に広範囲に設置したのが功を奏した様だ。
その後も、後続が来ては、ダファンドの罠にハマって行く。
しかし、何体かは仲間を踏み台にし、尚も前進してきた。もっとも、その先にもダファンドの糸はあるので、そこでも掴まる。
そして、一番端にまで到達して身動きが取れなくなったパジャーブに対し、隠れていたリディとイユキが打って出た。
動きが止まっている相手ならば、リディもイユキも大して苦戦しない。次々と、血祭りに上げて行く。
ただし、奴らは次々とやって来ては仲間を踏み台にして向かってくるので、対処しきれない物にだけ対して、アニーが突進して弾き飛ばす。
その指示は、俺とイフィールが行う。お蔭で、アニーは大忙しだ。
残念ながら、打撃力不足のユーカとターナは、パジャーブ相手にはあまり役に立たないので、周囲の警戒、及び対処の為に手元に置いてある。
本音を言えば、パジャーブの様な攻撃力の高い相手に、迂闊に打撃を喰らって欲しく無いからでもある。
まあ、あの鈍さなら簡単に当てられる事も無いだろうが、どの道、相性的な部分で問題があるので、今は待機させる事にした。
そうこうしている内に、大分数が減ってきた。地面とは言え、固定された状態ではリディとイユキの打撃は相当に有効であるらしく、思っていた以上にパジャーブ達を早く駆逐して行く。
戦い・・・と言うか、殆ど一方的な駆逐作業は、約半日ほどで終了した。
流石の三人も疲れたらしく、肩で息をする様な動作をする。彼女達、呼吸とか必要ないはずなんだが、どう言った意味があるのだろうか。
因みに、大鎧状態だと燃費が悪いのか、戦闘終了後、リディは体を縮め、更には兜を脱いで顔を露わにしていた。
ただ、この戦闘によってリディとイユキのレベルが二つも上がり、それぞれ7と11に。アニーに至っては、3から一気に8にまでレベルが上がった。
「ご苦労さんだった」
俺は、労いの声をかける。それに対し、三人共無理矢理に笑顔を作って答えた。
その後、イフィール達の拠点に入った俺達は、辺りの調査を始める。
入ったと言っても、俺とイフィール、ユーカの三人だけだ。後の四人は、周囲の警戒に当たっている。
アニーズを使うと、生き残りなのか別の群れなのか分からないが、少なからずパジャーブの反応が見られたからだ。
拠点は荒れ放題となっており、石積みの塀は崩れてその用を成しておらず、住居も破壊されたのか、後で崩壊したのか、崩れ落ちてしまっていた。
見た限りでは、特に何かがある様には思えない。
それでも、イフィールはアチコチを見て回り、何かを確認して回っていた。
俺も、何か無いかと探しては見てみたが、あるのは粗末な食器類と、生活用具くらいな物だ。
それらも壊れたりしているので、価値以前に使い物にならない。
そんな事をしていたら、イフィールがある箇所で泣き崩れているのに気が付いた。
そっと様子を伺うと、白骨化した死体が転がっている。良く見ると、何かの首飾りがその白骨死体にかかっていた。
恐らく、イフィールにはそれで誰なのかが分かったのだろう。
声をかける事もできず、俺は、ただただ、その側に立ち尽くす事しかできなかった。
ユーカだけはそっと寄り添うと、イフィールの肩を抱いて優しく擦ってやる。
その二人を、木々の隙間をかいくぐったかの様な、茜色の太陽が照らしだした。
もうすぐ、日が暮れるのだろう。
風は吹いている。
木々や葉が擦れる音もしていたはずだが、俺の耳には、イフィールの泣き声だけが静かに聞こえていた。




