~辺境の王者~ -15. ボスモンスターの池
今年、最後の更新となります。
来年、1月中旬より再開を予定しております。
それでは、良いお年を。
けたたましく警報が鳴っている。それに合わせる様に、人が慌ただしく動いていた。
見ると、一体のゴーレムに、複数のゴーレムから管の様な物が繋がれていた。ただし、管とは言っても実体のある物では無い様だ。
その証拠に、模様の様な物がグルグルと回り、淡い光を放ちながら漂っている。
そして、ゴーレムの本体には無造作に繋がっており、接続部分と言った物は見えない。
「数値はどうだ」
「駄目だ。予定値に達しない」
「これだけ使ってもか?もう少し、寄越す様に要請しろ」
「警報が聞こえないのか?奴らが来ているんだ。そっちに優先れている。当然だろ」
「だからこそだ。この警報は、内部に侵入された時に鳴るやつだ。こいつ無しでは、対処しきれんぞ」
「テストもしてないのに、実戦で役に立つかどうかなんて、分かるかよ」
数人が何かを言い争っている。そして、時折、地響きの様な物が響いていた。
「大変だ。大門が突破された。多数の侵入を受けている。ここにも、避難命令が出たぞ」
「ドノロファルはどうした。倒されたのか!」
「健在だが、多勢に無勢だ。対応仕切れなかった奴が、門をぶち破って雪崩込んできているらしい。早く逃げるぞ」
「今更放置しろって言うのか。コイツはどうするんだ?」
「仕方がない。諦めんるだ、ハ・・タ・・・」
その時、より一段と激しい地響きが起き、粉塵の様な物が勢い良く当たりを覆った。
「主君よ、朝ですぞ。そろそろ、起きなされ」
リディに体を揺り起こされ、俺は目が覚めた。何だか、夢を見ていた様な気がする。
詳細は覚えていないのだが、妙にリアルな物語を見ていたような・・・・。後、何となくリディに関係する夢だった様な?
だが、幾ら思い出そうとしても、思い出せない。
その内、朝の準備をしていたら、内容その物を完全に忘れてしまった。
ただし、何かが引っかる感じがして、リディに幾つかの質問をする。
質問としては、前にも聞いた事だ。即ち、どうして俺の呼びかけに答えたのか。そして、瞬間移動的な能力を持っているのかだ。
ポンコツだった頃とは違い、今なら前の質問にも答えられるかもしれないと思ってなのだが、難しい様な困った様な顔をされただけで、結局は答えてもらえなかった。
反応を見る限りでは、答えられないと言うよりは、質問の意味自体に心当たりが無いと言った感じだった。
朝の日課を済ませた後、俺達はある一点に向かって進んでいた。
レベルアップをする目的でこの南西の森に来たのだが、思った様に経験値を稼げない状態が続いていた。
一体や二体程度なら狩る事もできたのだが、当然だが経験値の入りは悪い。
逆に複数体、もしくは群れているモンスターは、殆どがバンドラナ、もしくは似た様な形で連携を取ってくるので、逃げられてしまうか、逆にこっちが後退を余儀なくされる事が多かった。
モンスターにも個性があるので、毎回違う対応を迫られたり、予想を超えた行動を取ってくるのだが、高レベルのモンスターになる程それが顕著になってきている。
ゲームと違い、計算通りに事が進まないので難しい。
いっそのこと寺院跡に戻って出直そうかとも考えたのだが、イユキやリディは、高レベルのモンスターを狩ってもなかなか経験値が入らないので、今さら低レベルのモンスターを相手にしても、余計に効率が悪くなるだけだろう。
そんな時、アニーズにある情報がヒットした。
距離があるので詳細は不明だが、25又は26くらいのレベルのモンスターが、単独で居るのを発見したのだ。
情報によると、そこには何かしらの大きな水源もあるらしい。
当初は、ドノロファル級のモンスターが居ると知って回避しようと思っていたのだが、良く観察してみると、そのモンスターの回りには、他のモンスターの反応が極端に少ないことに気づいた。
もしかしたら、ボスモンスター的な存在で、その強さを恐れて近付いて来ないのかも知れない。
だとしたら、他に邪魔されずに戦える可能性もある。
ドノロファルには苦戦を強いられたが、それはリディが本調子で無かったからでもあるし、何より、相手が一体であれば、数の点で有利なコッチにも十分に勝機はある。
何よりも数が重要と言うのを、ここ最近、嫌という程に思い知らされてもいるので、そこに賭ける事にしたのだ。
そして、もう二つほど、その決定を後押しする要因となったのが、新しい武器を入手した事と、謎の反応である。
武器の方は『フォッドの槍』と言うもので、まんま槍ではあるのだが、これはモンスターが使っていた物を拝借した物だ。
フォッドと言うモンスターは、昆虫タイプのモンスターであり、全体的にカナブンを巨大化した様な姿をしていたが、手足は一対ずつしかなく、更には尻に当たる部分から垂直に足が伸び、側面からこれまた腕を生やしていて、「中の人など居ない」と言いそうなくらい、被り物感が強いモンスターだ。
因みに、手足はちゃんと昆虫っぽい感じだ。最も手の方は、先端部分がカニみたいなハサミになっているが。
この槍は、そいつを倒した時に頂いた。
先の方はフォッドの足の先端部分となっており、やや鉤爪状に曲がると同時に、幾つかの棘が湾曲した内側に付いている。
柄の部分は、彼らから出る分泌物を固めて棒状にしたとあり、グリップ力がある上に金属の様に硬い。それでいて、軽いと言う特性を持つ。
俺が持つには柄の部分がやや太い物の、適度な重さであるので使えない事はない。
説明によると、フォッドが脱皮した後の殻を利用して作るらしく、他の武器を使うモンスターにも好まれているとされていた。
モンスターが使う武器の為、当初はどんな扱いになるのかと思ったが、アニーズでは普通に武器として認識されており、経験値の項目もちゃんとある。
上手く行けば、新しいメンバーが増えるかも知れない。
これで、俺の装備は頭部にホーンドヘルメット。武器はクロスボウとフォッドの槍と言う形となった。
まあ、俺自身は相変わらず、レベルも評価もそのままなのだが。
因みに、フォッドの外殻も利用しようと考えたのだが、コッチは一つあたりの重量が重く、オマケに加工も容易では無かったので諦めた。
実際、フォッドは俺より少し背が高い程度なのに、動きはリディよりも遅かったので納得だ。
その変わり防御力が高く、リディやイユキの渾身の一撃を数発喰らっても耐えてしまう。
また、コイツも群れて動くので、決して雑魚の部類ではない。
しかし、他のモンスターと違って動きが鈍い為に強襲し易く、俺でも一撃を加えて直ぐに逃げれば、比較的安全に戦闘を熟せた。
その甲斐あってか、槍のレベルは4まで上昇している。後は、人化するのを待つだけ・・・なのだが、そのキッカケとタイミングが良く分からないので、何時までも槍のままだ。
一応、俺的に使用者が危機的状況に陥った時に人化すると推測したが、簡単にできるわけがない。
暫く、そのままで様子を見る事にしている。
で、謎の反応の事なのだが、謎である。
いや、冗談や何かではなく、本当にそうなのだ。
例のボスモンスターの近くから、アニーズによって情報は拾われる物の、表示のされ方からして、恐らくモンスターでは・・・・ない。
言い切る事ができないのは、反応が日によって微妙に変化しているからだ。
最初に見た時は、何かしらのモンスターかと思ったのだが、ある時に見てみると、どうも場所に関する情報風になっていたりと、一定ではない。
まあ、近くに行けば何か分かるかもしれないが、とにかく、確かめに行く価値はあるだろう。
そうした理由もあって、俺達はボスモンスターを一路目指している。
近付くにつれ、目的地には大きな池がある事が判明する。ここに来て、水を確保できるのはありがたい。
最近では、もっぱら植物からユーカは水分を集めているので、そこに時間が取られていたりもするのだ。
まあ、それも、俺の為なんだけどな。
幾つかの障害を乗り越え、俺達は遂にボスモンスターが居る地点に辿り着いた。
そこは、大きな池となっており、目測で幅60メートルと言ったところか。
水は澄んでおり岸辺付近は浅いものの、2メートルも行かない所から、急に深くなっていた。
アニーズによると、ボスモンスターは、この池の中に居るらしい。恐らく、深くなっている部分が、住処なのだろう。
謎の反応に付いてだが、何故か情報を拾わない。見間違いだったのか?
いや、そんな分けない。ここに来る道中、情報の読み取りこそ難しかったが、反応だけは確認できていたんだから。
一応、周辺にもアニーズを使って場所が違っていないかを見てみたが、やはり、あの謎の反応は他に出ない。
何だったんだ?
もう一つ気になるのは、一部の木々が荒れた感じになっている事だ。
何かにへし折られ、散乱している様に見える。もっとも、かなり前の物らしく、一部は既に朽ちている。竜巻か何かが起きたのだろうか。
それにしては、極端に狭い範囲でそうなっているので、不思議だ。
とは言え、水の補給ができるのはありがたい。
俺達は、警戒しながらも、そっと池に近付いてみる。
ここにわざわざ来た目的の一つは、水の確保でもある。
その為、ユーカが忍び足で近づきながら、水面にそっと口を付けた。その時だ。
ユーカが突然、バッと起き上がる。
「主様、逃げて」
言うが早いか、水面が盛り上がり、巨大な何かが凄まじいスピードで襲いかかってきた。
その姿は、巨大なカニの様だった。
カニと違うのは、複眼の様な目を多数持ち、更には無数の足、そして巨大なハサミとは別に、小さいハサミが甲羅を囲むようにして幾つもある事だ。
大きさは、大体二十メートル位だろうか。
巨大なハサミを素早く振るうと、一番大きくて目立つリディを挟み込み、軽々と持ち上げた。
リディも大槌を振るって抵抗を試みるが、振り回されている為か、甲羅が硬い為か、なかなか効果的なダメージを与えられない。
もっとも、それは向こうも同じで、リディの強固な鎧は、その強力なハサミの前にも耐えてみせる。
「アニーズ!」
名称『ダナウン・ダナンザ』強さ『デュラハンクラス第2位』危険度『押し寄せるマグマ』レベル26。
魔法『テッパー(射撃)』『デビス(射撃)』『ミュール(拿捕)』『ウオント(広範囲攻撃)』『フラド(防御)』
『ダナンザ種の亜種。何かしらの手段で改良されたモンスターで、それによって水を媒体とした魔法を使う。基本能力も高く、防御力、攻撃力共にレベル以上。更には、その見た目とは裏腹に、高い機動性も持つ。水等の中に潜んで獲物を待ち、近付いたところを襲う。知能はあまり高くないが、戦闘本能は高いので危険』
覚悟はしていたつもりだったが、コイツは相当にヤバイ。予想以上だ。しかも、水の中をテリトリーとしているので、それだけでも不利と言える。加えて、水の魔法を使うとある。どんな魔法を使うのかは知らないが、近接戦闘だけではない。遠距離にも対応しているとなると、側に俺が居るのは不味い。
「みんな、一旦引くぞ。リディ、縮まれ!」
俺の合図と共に、ユーカとイユキが速やかに退却を始める。そして、リディの鎧から光の様な物が漏れたと思った瞬間、彼女は急速に縮まり、そして、ハサミの拘束から逃れるのに成功する。
ガチンッ、ガチンッ
感触が無くなったのを確かめ様としたのか、ダナウン・ダナンザが、何度かハサミを打ち鳴らした。
だが、直ぐに逃げる獲物に気がつき、追ってくる。
サイズを縮めたリディは、多少は速くなるとは言え、相手が悪過ぎた。
図体がデカイと言うだけではない。説明にあった通りに速い。
俺は、振り向きざま、セットしておいたクロスボウを奴の目に向けて発射した。
コーンと言う情けない音を立てて矢が弾かれる。
しかし、一瞬ひるんで奴は動きを止めた。
そのスキに、リディも何とか森の中に逃げ込む事に成功する。
一応、ダメージが通ったか確認する為にアニーズを使った時、例の謎の反応が再び出ていた。ただし、かなり不鮮明だ。と言う事は、池の底にそれはあるのか。
ダナウン・ダナンザは、木々を折りながら森に入ると、巨大なハサミを数回振って、周辺の木々を切断、あるいはへし折って暴れまわった。
リディの鎧程の太さの木でさえも、奴のパワーの前には棒切れ同然で、意図も簡単に弾き飛ばされる。全く、手がつけられない。
更には水の弾丸の様な物を辺りに撒き散らし、それによっても地面が抉れたり、木に穴が空いたりした。アニーズにあった攻撃用の魔法だろう。
この周辺の局地的な荒れ様は、どうやらコイツが原因だったらしい。
一しきり暴れると、敵を殲滅したと思ったのか、あるいは単に諦めたのか、池に戻っていった。
何気に危なかったと言える。
ある意味、もっともレベル差を感じた相手だった。やっぱり、ここら一体のボスって事なんだろう。強さが尋常じゃない。
ドノロファルも確かに強かったが、サイズが桁違いすぎて、俺達程度では話にならない。
せめて、水場から引き離す事ができれば・・・・
「主様!」
そう言って、ユーカが飛びついて俺を押し倒す。
何事!?と思って上体を起こそうとしたが、ユーカに「伏せて」と言われ、体勢を強制的に低くされる。
すると、上体を起こし損ねた空間に、弓矢が刺さった。
これは!?
アニーズを使うと、周りを囲む様にしてバンドラナの反応が、次々と浮かび上がる。
三十・・・いや、四十、それ以上居る。
木々に隠れているのか、こちらからは姿が見えない。
だが、向こうもコッチを既に捉えているらしく、ダナウン・ダナンザの住処を俺達に背負わせる様にして、半円形に陣を敷く。
コイツら、まさかこうなる事を狙ってやって来たのか?
これでは、逃げ道が無い。
リディを使って、強引に突破するか?
しかし、コッチの考えがまとまる前に、奴らの方から先に仕掛けてきた。
木々の間を抜ける様にして、多数の弓矢が飛んでくる。
それを、リディとイユキが文字通りの盾となって防ぐ。だが、これが奴らの狙いだった。
その場に釘付けになった所に、十匹以上のバンドラナが突っ込んでくる。
完全な乱戦となり、味方への誤った攻撃を警戒してみんなが力を発揮できない。
特に、リディは大槌を振り払うと言う動作ができなくなり、上から垂直に降り降ろす事しかできなくなった。当然だが、そんな単調な攻撃は奴らに通じない。
「主様」
「我が君」
ユーカとターナが必死になって俺を守ろうとするが、多勢に無勢。数体のバンドラナに取り囲まれ、引き離される。
それを見て、一匹が俺に切りかかってくる。咄嗟に槍を突き出すが、剣の一撃によって槍の根本の部分から切り落とされた。
だが、俺が地面に倒れ込む様な形となった所に、リディが横殴りに繰り出した一撃がそいつを直撃し、肉塊に変える。
それがバンドラナ達の怒りに火を注いだのか、隠れていた数体が更に飛び出してきて、リディを取り囲んだ。
瞬間、リディは巨大化した。
しかし、今度はその巨体が仇となり、取り付かれて為す術が無い。
「リディ、ユーカ、イユキ」
多数のバンドラナに囲まれ、四方八方から攻撃を受ける彼女達を、ただただ見ている事しかできなかった俺を、何者かが襟首を掴んで引っ張る。
振り返ると、二匹のバンドラナが居た。口を薄く開け、笑った様な気がしたと思ったら、俺は連れ去られた。
「主様!」
「我が君!」
叫ぶユーカとイユキの姿を視界の隅に僅かに捉えたと思ったら、俺はもの凄い速度で引っ張られていった。
どのくらい連れ回されたのか。結構な距離を引っ張り回された末に、俺は木に叩きつけられる。
凄まじい衝撃に堪える事ができず、ズルズルと崩れ落ちた。
見ると、大型の手甲を付けた軽装のバンドラナが二匹、拳を打ち合わせながら、俺を見下ろしている。
拳闘士タイプって奴なのだろうか。
すると、手前に居た一匹が素早く駆け寄り、俺の喉輪を掴むと、そのまま持ち上げて木に押し付けて固定する。次の瞬間、俺の腹に重い一撃が入った。
「ぐ・・えええええ・・・」
堪らず、腹を抑えてもがく俺。その様を見て、二匹が笑う様な仕草をする。
すると、俺の腹を殴った一匹が、もう一匹に手を振る様な仕草をした。それを見て、もう一匹がその場から去る。雑魚には一匹で十分だってか。
とは言え、確かに何もできない事も事実だ。俺は、奴を睨みつけること以外、何もできなかった。一応、腰を弄ってクロスボウを探したのだが、引っ張り回された時に落とした様だ。あるのは、頭の兜のみ。
ふと、奴が一瞬、横を向くような仕草をする。次の瞬間、凄まじい勢いで俺はぶっ飛ばされた。恐らく、尻尾の一撃を喰らったんだろう。衝撃で、兜が外れて転がる。恐ろしい力だ。
「く・・・そぉ。ガハッ!」
何がどうなったのかは知らないが、俺は吐血した。全身が痛すぎて、どこをやられたかも分からない。それでも、俺は地面を這う様にして本能的に逃げようとする。
しかし、体に上手く力が入らない。俺は兜を引き寄せると、それを道具代わりにして、何とか移動しようと試みる。
それを見て、奴がゆっくりと近付いてきた。
俺は奴が近づくのを待っていた。
チラチラと見ながら、奴との距離を確認する。
そして、頃合いに来た時だ。
渾身の力を使って飛びかかり、ホーンドヘルメットの角を突き立ててやろうとした。
だが、渾身の一撃は難なくかわされ、無様に横たわった所に、脇腹を蹴られて跳ね飛ばされる。
「主様の所に行かないと」
駆け出そうとしたユーカだったが、直ぐ様、目の前にモンスターが数匹立ち塞がる。
それに対し、高い身体能力で打撃を素早く加えたのだが、盾を上手く使って身体を丸める様にして、モンスターに耐えられてしまう。
これにより、一歩も前進できない。
表面的に冷静を装うとするユーカだったが、内面では物凄い焦りに駆られていた。
このままでは、主様が殺されてしまう。
実は、無防備だったターナもモンスターに連れさらわれており、その安否も気になったが、主の生死も分からない状態にあっては、そっちの事を考える余裕は無かった。
「ここは、私が」
そう言ってイユキが前に強引に出ようとするが、その一撃を連中が数を持って受け止める。力もイユキに匹敵するのだろうが、連携が上手すぎる。
「イユキ、後ろ」
そう言って、今度はユーカが隙きを突こうとした相手の攻撃を牽制する。それによって、こっちの連携が崩れる事は防げた物の、二人は背中合わせにさせられた。
結果的に、全方向への対処がし易くなったのだが、それに対するユーカの評価は違っていた。
(不味い。取り囲み易い方向に、誘導されている。奴らの狙いが最初から主様だったとしたら、この陣形では助けに行けない)
「主様、主様!」
相手の巧みな戦術の前に、ユーカは絶望的に主の名を呼ぶことしかできなかった。
「ユーカ、落ち着きなさい。我が君は、まだ無事ですわ」
「どうして分かるのよ!」
半ば、金切り声を上げるユーカに対し、イユキは敵を見据えながらも冷静に返す。
「私には、分かりますの。伊達に、我が君の血を、執拗に求めた分けではありませんわ」
そう言ったイユキの目は、どこか潤んでいる様にも見えた。
「う・・・ぐぅ・・・」
どうも、脇腹が折れた様だ。左の腹付近が熱くなってくる。しかし、なおも容赦しない奴は、俺を掴み上げると、無理やり立たせて数発ビンタをしてきた。ただのビンタが、気絶しそうな程に痛い。
それでも俺はこれをチャンスと見て、腕に掴んだホーンドヘルメットで、奴をデタラメ突いたり、叩いたりしてやった。
その様を見て、奴は可笑しそうに鳴き声を上げる。
ムカつく。
俺は、最後の力を振り絞る様に、一発一発に力を込め、ヘルメットを叩きつけてやった。
だが、奴はその部分を掻く真似をし、効いていないアピールをする。すると、空いている腕を俺の前に持ってくると、指を一本だけ立てる。その先端には、鋭い爪が付いていた。
瞬間、俺の右腕から血飛沫が舞う。見ると、皮膚がパックリと割れ、血がドクドクと流れ出ていた。
腕に力が入らない訳では無かったが、動かそうとする度に血が出るので、恐怖から動かせない。
その間にも血は流れ、ヘルメットまで真っ赤に染める。
それを、奴が楽しそうに見ていた。
いちいち、ムカつく野郎だ。
俺は怒りで雄叫びを上げると、血が出るのもお構いなしに殴りかかる。
(コイツ、殺してやる)
そう思った瞬間、眩い光が辺りに広がっていった。




