~辺境の王者~ -14. 南西の森へ その5
王都跡に行く時、あれだけ苦労したと言うのに、そこから戻る時は実に簡単だった。
何故なら、複雑な地形もリディの大鎧に捕まって移動すれば良いので、全く問題にならなかったからだ。
移動速度はあまり速くないのだが、それでも俺に比べれば遥かにマシで、これによって一日程度で平坦な場所に到着した。
イユキにおぶられるのは罪悪感があったのだが、これなら格好もつくし気軽に乗れる。
それにより、一日の移動距離も上がり、南西の森にも大分近付く事ができた。
もっとも、それによって遭遇するモンスターの数も半端なく、今度はそれが障害となり、前進速度は落ちたのだが。
現在のパーティ構成は、前衛にイユキ、中衛にユーカ、後衛にリディとなっている。
ただ、この組み合わせは悪いとは言わないが、以前と比べると待ちのスタイルとなってしまうので、敵に先手を取られ易くて思ったよりも苦戦する事が多い。
攻撃力や防御と言った面では申し分ない物の、撹乱や速攻に関しては決め手に欠き、敵に連携する余裕を与えてしまうのだ。
ターナが抜けた穴は、意外と大きかった事を思い知らされる。
そのターナは、今も目覚めない。
だが、少しばかり、良い兆候も見られる様になった。
飲むことは無かったが、唇に含ませて染み込ませる様にして、毎日血を与える事だけは続けていたら、ターナの赤い模様部分が拡大し、更にはその真ん中から人間の肌の様な物が現れた。
だからどうだという分けでも無いが、変化が見られる以上、何らかの希望はある様に思える。
実際、血を与える際には、彼女が握っている短剣を利用している。それで切る事ができるのだから、少なくとも武器としては死んではいないはずだ。
また、血による変化は、ユーカにも見られる様になった。
以前は関節が剥き出しで、人形そのままっと言った感じだったのだが、気が付いたら、その関節部分が覆われて見えなくなってしまっていた。
更には、表面も人間に近くなった。
まだ木の様な質感と色ではあるのだが、比べる物が無いとそれも分からない程に、大分人に近づきつつある。
同時に、運動能力の面でも向上が見られ、レベル以上の強さを発揮しつつあった。
イユキも相変わらず血を欲するが、こっちは特に変化は見られない。因みに、レベルは8にまで上がっている。
一応、リディにも血を与えたのだが、何故か、一回飲んだだけで以降は遠慮する様になった。
理由を聞くと、影響が強すぎてバランスが崩れるとの事。
何のバランスなのかは分からないが、元々、彼女は禁呪等を施されて誕生した上に、更には無茶な実験台にもされていたので、余計な物を取り込むとおかしくなるのかも知れない。
それがキッカケでもあるが、俺は最近、自分の血が実は特別では無いのかとも考える様になった。
武器が人化する秘密は、実は俺の血にある・・・と言い切りたいのだが、それだけでは説明できない矛盾も多いので、やはり結論付ける事はできない。
例えば、ユーカ。
彼女は人化する時に、俺の血など関係なく変化した。まあ、それ故に、人形よりの姿で変化し、血を与えた今になって人に近くなったとも考えられる。
しかし、少なくとも、もう一つ、血とは関係なく人化したリディの例もあるので、人化に影響は与えるが、キッカケでは無いのかもしれない。
もっとも、リディの例は特殊過ぎる上に、この一例によって更に謎は深まってもいる。
俺は、てっきり武器だけが人化するものと考えていた。
と言うのも、当初、イユキは防具として分類され、人化の要素であるレベルの項目が無かった。
それが攻撃に用いる事で、特殊とは言え武器に種別が変化し、それによって人化してしまった。
種別で判断するならば、ゴーレムはどの例にも当たらないし、どの例にも当てはまってしまう。
だとしたら、人化するキッカケや条件、更にはどの様な物が当てはまるかの境界が、さっぱり分からない。
まあ、もしかしたら、この世界の武器や防具が単に特別だって可能性もある。
何にせよ、他に比べられる存在が居ない上に、人化させた例も少ない以上、全ては憶測の域を出ない。
そして、もう一つの謎が俺を悩ませる。それは、持ってきたクロスボウだ。
アニーズによれば、ハッキリと武器と分類されているのに、コイツはレベルの項目が除外になっている。
実際、攻撃を仕掛けても経験値が入ってこない。
遠距離攻撃要員が手に入るかもしれないと期待していたのに、ガッカリだ。
いや、イユキの例もあるのだ、何かが足りないだけなのかも知れない。
ただ、その足りない部分が矢ではなく、クロスボウ本体で直接攻撃する必要がある場合は、諦めるしかない。
そんな事したら、確実に壊れる。それでは本末転倒だ。
一応、このクロスボウによって、俺も援護として戦闘に参加はできる様になっているので、今は失うわけには行かない。
現に今、このクロスボウによって目の前の敵に対し、ある程度の抑止が行えているのだ。
俺達は今、モンスターの軍団と戦っていた。軍団と言っても、俺が勝手にそう呼んでいるだけだが。
モンスターの名前は『バンドラナ』
強さは『ワイバーンクラス第8位』危険度は『歴戦の戦士』となっていて、レベルは12から14。
腕を四本生やしたリザードマンと言った風貌で、武器だけではなく盾や防具を身に着け、更には役割分担を持って戦ってくる。
説明にも『独自の文化を発達させたモンスター。戦闘においても、それを遺憾なく発揮して戦う。恐ろしいのはその社会性で、組織化され、良く訓練された仲間と共に行動する為、単純な力押しで勝つのは難しい』とある。
説明には無いのだが、恐らく、知能レベルも高く、更には技術的な面でも優れたモンスターと考えられる。
何故なら、身につけている防具や武器は、歪な形状はしているが、彼らに合わせてどれもしっかりとした作りをしていたからだ。
ただ、武器の一つ一つは大きくて如何にも重そうなので、手に入ったとしても俺には使えそうにない。逆を言えば、攻撃力もそれだけ高いという証拠だ。
そいつが二十匹居るのだが、十匹が前に並んで隊列を組み、五匹が弓矢を構えて背後で支援を行い、更にその奥に一段と良い装備をした五匹が控えている。
動きを観察するに、一匹は指示の様な物さえ出していた。
まさに、軍団と呼ぶに相応しい。
実際、俺達はその巧みな連携の前に攻め倦ね、逆に追い込まれている。
イユキ、リディのどちらかが突っ込めば、前衛が囲む様にして足止めし、更には後方の俺達を狙おうとする。
かと言って離れたら、弓矢による遠距離攻撃を繰り出し、こっちに体勢を整える暇を与えない。
一度、ユーカがその速度を活かして前衛を突破して弓兵を狙ったのだが、後ろに控える五匹がカバーしてくるので、全くつけ入るスキが無い。
また、後方の五匹はレベルが14と最も高く、技術も含めて戦闘力が高い。
オマケに戦闘経験も豊富なのか、決して無理をしない上に、チャンスとあっても陣形を維持する事を優先する為、崩すことすら難しかった。
恐らくだが、こっちが決定的なミスをするのを狙っているのだろう。
実際、幾度かの戦いの後、弱点は俺だと分かったのか、優先的に狙われ始めた。
これにより、イユキとリディはカバーに入るのに必死で、突撃すらできない。
数的不利を補おうと、背後に木が密集する場所を背に選んだのが、逆にそれが逃げ道を絶ってしまって不味い状況だ。
数的な不利もあるのだが、ターナの様に速度と攻撃力を持つメンバーが居ないので、柔軟な対応ができないのも痛い。
俺も、クロスボウで反撃を試みるも、隙間無く並べられた盾の前に防がれる。
ただ、俺にも攻撃力があると分かったのか、向こうも突撃を仕掛け様としたのに止めているので、全く役に立っていない訳では無い様だ。
だが、一体どうすれば、この状況を打破できるのか。
「主君よ、ブレンダン・バーズの使用許可を願う」
「ブレンダン・バーズ?」
確か、ドノロファルを倒した遠距離攻撃か。俺は直接見ていないが、その跡を見ただけでも、その威力は十分過ぎる程に理解できた。
当てれば一気にカタをつけられるかもしれないが、あの武器は威力が高すぎる。
それに、発射には多少の時間を要する上に、その間は無防備になるのではないか。
それを、連中が見逃すとは思えない。しかし、これ以外に打開策は・・・・。
それ以前に、疑問に思う事がある。
それは、リディの能力だ。ドノロファルを倒した時、話を聞くに、速度面でも圧倒していたらしい。
なのに、今のリディにはそれがない。
安定した結果、逆に幾つかの能力が損なわれてしまったのか。
「ブラットン。あれなら、使用を許可する」
以前のポンコツゴーレムの時は、闇雲に繰り出していたので無駄に終わったが、今のリディなら、効果的に使えるのではないだろうか。
「分かり申した。では、主君よ、そして他の方々よ。危険なので、我が背後へ」
それを聞いて、イユキが俺達を守る様にして後退する。
それを確認した後、徐にリディが大槌を振り上げた。
「ブラットン!」
地面に叩きつけられた一撃が、衝撃波を伴って周囲に拡散される。
その威力に、イユキさえも盾を支えにして耐えるのがやっとだ。
俺達も、彼女に捕まって何とかやり過ごす。
しかし、収まったと思った瞬間、二撃目、更に三撃目が繰り出される。
振り回される体勢で見ると、バンドラナの連中も地面を転がったり跳ね上がったりして、陣形を維持できない。
そして、ブラットンを繰り出しながら、リディが前進する。
行けるか?
と、背後に控えていた五匹の内の一匹が、何かラッパの様な物を鳴らした。
それにより、一目散に撤退して行くバンドラナ達。
それはあっと言う間の出来事で、後には静けさと共に俺達だけが残された。
撤退した・・・・?
アニーズで確認するが、とっくの昔に遠くに離れていってしまっている。
戻ってくる様子も無い。どうやら、この付近のモンスターを、今までの相手と同様に考えては行けないのかも知れない。
強力なメンバーが増えた事でまた慢心していたが、高レベルなモンスターは知能的にも高いと見た方が良いだろう。
もしくは、戦闘経験が豊富である為に、戦い慣れしていると見るべきか。
何れにしろ、単純なレベルアップの為の相手と考えていたら、痛い目に遭う事は間違いないだろう。
今後は、俺もアニーズを積極的に使い、更には戦術や戦略面も考えて、みんなに指示を出す事を考えた方が良いかも知れない。
「う~ん・・・」
俺は、石ころを並べて、今後の陣形に関しての最良の案を考えていた。だが、元から人数が少ない上に、現在は偏った編成とも言えるので、なかなか難しい。
イユキとリディは、攻撃力と防御力はあるのだが、速度面で劣り、ユーカは速度こそあるが、攻撃力と防御力に不安がある。
また、レベルアップを目的にしている以上、前衛にはなるべくイユキとリディを並べて置きたい。しかし、この二人だけだと、側面に回られて抜けられてしまうので、今度は後方に控える俺が危なくなる。
ターナがもし居たら、前衛にリディとイユキを並べ、中衛にユーカと一緒に入ってもらう事で、ある程度は問題を克服できたかもしれない。
まあ、ここで一番の問題は、結局は俺の弱さなのだが。
「駄目だ。分からん」
そう言って、俺は仰向けに寝っ転がった。木々から溢れる日差しが心地良い。
俺達は今、小休憩を取っている。本来ならば、高レベルモンスターがウロウロしている地で、こんなにノンビリとはしていられないはずなのだが、ユーカがモンスター避けを行ったので、ある程度は安全に休めていた。
モンスター避けとは、ユーカの体内で浄化された水の事で、聖なる水的な要素を持つらしく、それを一定の範囲で吹き付けておくと、その場所をモンスターが避ける様になららしい。
百パーセント避けてくれる訳ではない上に、効果時間にも限りがあるが、ちょっとした休憩くらいには使えた。
だが、流石に夜はこの付近の森はヤバイので、俺はリディの鎧の中で眠る様にしている。
ここは木々が高く、夜になると真っ暗になるので、視界が殆ど利かなくなる。
一応、リディは暗闇でも見える様なのだが、俺を含む他の者はそうは行かない。
例えアニーズで警戒したとしても、移動速度が速い奴もごまんと居るので、リアルタイムで場所の特定をするのが難しい時もある。
そこに奇襲を喰らってしまうと、対応が遅れてしまう為に、こうした方法を取っているのだ。
中は狭くて眠るには適していないのだが、死ぬよりはマシだ。
因みに、中にはリディも居るので尚更狭い。
基本的に、夜の戦闘は避ける様に言ってある。敵が近づく、あるいは奇襲等を受けたら、全員がリディに掴まり、速やかにその場から移動すると言うのが、この森で過ごす一つの決まりごととなっている。
風に飛ばされたのか、木の葉が俺の顔に落ちてきた。薄っすらと目を開けると、ユーカが顔を覗き込んでいた。
「何?」
「いえ、お疲れではないかと」
「大丈夫だ。ただ、後ちょっとだけ、休ませてくれ」
「了解しました」
そう言うと、彼女はどこかへ歩いていった。
俺は、王都跡での事を思い出す。
星集めの部屋にあった、ボロボロになった武器。あの形状は、間違いなく刀だった。
それ自体は特に珍しい物じゃないが、問題は柄を含む装飾部分だ。
何となくだが、マガツノミホロの物に似ていた。
まあ、外装は幾らでも真似できるだろうから、関連性があるかどうかは分からない。
しかし何故、あの武器だけが一だけ、あの部屋に置かれてあったのか。
そして、あそこで何が行われていたのか。
アニーズに反応は無かったのだが、あの部屋には崩れた瓦礫に隠れてはいた物の、魔法陣の様な物が見られた。
リディに施されたと言う、何かの実験とも関係があるのかも知れない。
そんな風に考えていた俺は、何時の間にか眠ってしまっていた。
「ハッ!?」
慌てて飛び起きると、当たりは暗くなりつつあった。
キョロキョロと見回すと、近くにイユキとユーカが居る。
「どうして、起こしてくれなかった?」
「ぐっすりと眠っていましたので。それに、相当お疲れだったのでしょう。今日はもう、このまま野宿に入りましょう」
そう、ユーカが言った。
確かに、ここ最近は疲れが取れていない感じはしていたが、まさか眠っちまうとは・・・。
「リディは?」
「現在、周囲を警戒中ですわ。ユーカの探知に、少し引っかかりましたので」
今度は、イユキがそう答える。
そして、間もなくしてリディが戻って報告をする。問題は、無かったらしい。
その夜、俺はリディの鎧の中に入って休んでいた。
リディと二人で入っていると言う以前に、狭いので膝を抱える形で身を縮め、壁にできるだけ寄る様にする。因みに、リディの方は立っていた。
「眠れませんか?」
中は真っ暗なので、俺からはリディの様子は見えないのだが、向こうからは見えているらしく、俺の事を気にかけてくる。実は、小休憩の時に眠ったせいか、目が冴えているのだ。
「いや、大丈夫だ。眠るよ」
そう言って、俺は目を閉じる。すると、横側に重みを感じる。リディがくっついて来たらしい。その証拠に、俺の頭を抱える様にして撫でる。子守でもしているつもりなのかな。
だが効果はあった様で、単調な繰り返しの彼女の動きに、俺は眠りへと誘われていった。




