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俺のLVは上がらないのに、  作者: 松戸真 寿司
13/81

~辺境の王者~ -13. 南西の森へ その4





「オエエエエエ・・・・」


「大丈夫デ、アリマスカ。主君ヨ」


「誰のせいだよ!」


やっとゴーレムの中から降りる事ができた俺は、胃の中の物を全部吐き出していた。何とか間に合った様だが、まだ気持ちが悪い。

ドノロファルを屠れたので、本当は文句を言うべきではないのだろうが、極端な事をするこのゴーレムに、何となく腹が立った。


「我が君」


「主様」


「お、おお。イユキ、ユーカ、無事だ・・オオウェ」


心配して駆け寄ってくれた二人が、俺の背中を擦ってくれる。


「お前、主様に何をした!」


「返答次第では、唯では済まさないですわよ」


何かを勘違いした二人が、ゴーレムに怒りを向ける。


「我ハ、主君ノ許可ヲ得テ、力ノ開放ヲ、シタマデ」


しかし、そんな返答では納得しなかったのか、二人してゴーレムをガンガンと叩き始める。

もっとも、ドノロファルの攻撃をまともに喰らっても平然としていた奴だ、この程度ではビクともしない。


「よせ、二人共。俺達は、そいつに助けられたんだ。こうなったのは、俺が慣れてなかったせいだ。許してやれ」


その一言により、漸く騒動は収まった。



その後、アニーズを頼りにして、ターナを探しに向かった。


直ぐに見付ける事はできたのだが、今だにターナは『回復中』の表示と共に『停止』となっていて、一向に目覚めない。

ドノロファルの一撃は確かに凄まじかったが、ここまで回復が遅いのは初めて見る。

思えば、ターナは似た様なダメージを、これで三回くらい受けている。もしかしたら、このままって事はないよな。

何だか物凄く不安になってきたが、とにかく王都跡に入る事にした。

因みに、ターナはゴーレムが運んでくれた。

運ぶ際、忠臣がどうとか、尊い犠牲がどうとか、相変わらず面倒くさい言い回しを制止するのに苦労したが。


 

王都内部は、殆どの建物が石らしい物で作られていたが、そのどれもが崩れていたり、ヒビが入って倒壊寸前だった。

・・・・この、石みたいなの、見ようによってはコンクリートにも見える。

更によーく見ると、外部から何かしらの影響を受けて崩れた跡も見えた。


また厄介だったのは、アチコチにドノロファルと似た様な魔法陣のトラップが仕掛けられており、少なからず戦闘を強いられた事だ。

もっとも、王都内のトラップから出て来るモンスターは、ドノロファル程の強さはなく、ユーカとイユキでもどうにかできた。


トラップから出てくるモンスターは、『ジガーイン』と言う名前で、説明によると、どうも町中を警備する為の物らしい。だとしたら、本来はトラップでも何でもないのかも知れない。

それでもレベルは10以上あり、加えて遠距離攻撃の魔法まで使ってくるので、侮れなかった。

コッチも、できれば遠距離攻撃の手段が欲しいところだ。


ゴーレムも遠距離攻撃の手段を持っているらしいが、コイツの場合は大袈裟過ぎるので、使い所が限られてしまう。

武器が人化したら、魔法とか使えたりしないのだろうか。



アニーズでトラップの探知を試みる様な事もしたが、発動していない物は拾わないらしく、無駄だった。

ただし、一度でも発動したトラップは記録されるので、同じ物に引っかかると言う事は避ける事ができる。

因みに、トラップモンスターは、一度倒すと復活に時間がかかるらしく、忘れてその範囲に入っても戦闘にはならないので安心した。

そのヘマは、主にゴーレムがやっていたのだが。


そうした感じで探索を続けたが、王都跡は思いの他広く、結局、この日に見て回れた場所は、十分の一くらいだろう。



その日、適当な場所で野宿した俺達は、それぞれの疲れを癒やしていた。


しかし、一番心配なのはターナだ。今も『停止』となっており、目覚める気配がない。ただ、『回復中』の表示は消えていたので、ダメージは回復したと見ていいだろう。

なのに、今だに目覚めないのはどう言う事なのか。


武器が人化した彼女達は、人間らしい動作や仕草をするが、一方で停止と言った特殊な状態になると、判別の難しい反応を見せる。


今のターナの状態で言うのなら、呼吸の反応は見られないが、それで正常でもあると言うのが当たる。

つまり、普通の人間に用いられる生体活動の確認方法では、生きているのか、死んでいるのかを見分けるのが難しいのだ。


念の為、俺の血を口に含ませてもみたが、特に変化は見られなかった。


この深刻な状況に、流石のイユキも血をねだる様な真似はせず、黙って手当してくれた。

何だか、全体の空気が重い。



周囲を警戒すると共に、俺は、ゴーレムにアニーズを使ってみた。


しかし、レベルが4に上がっている以外、特にこれと言った情報の変化は見られなかった。

説明には、色々と気になる事が並ぶが、当人に聞いても断片的な事しか分からない上に、変な言い回しをするので内容を掴み難い。

それに、どこからどうやって現れたのかが謎だ。


一応、総合的に判断すると、起動状態で放置されていた所に、俺の助けを聞いてやって来たらしいのだが、それなら、誰でも呼べば来たのだろうか。

本人によると、魔法要素がどうとか、高貴なる契約がどうとか言っていたが、全く話が見えない。

後、瞬間的に現れた様な気がしたので、そうした能力を持っているのかとも聞いたのだが、主君の偉大なる力で奇跡がとか言い出したので、それ以上聞くのを止めた。


そもそも、この王都とは何なのだろうか。

かなり昔に滅びてしまった様なのだが、強力なモンスターを門番にしていたり、ゴーレムと言った物を危険そうな魔法で製造していたらしい事を見ると、相当高度な文明を持っていた事が伺える。

逆に言えば、そうした強力な物で守らなければ行けないほど、何かに警戒していたとも考えられる。


また、ゴーレムは俺を中に入れた事で能力が上がった様なのだが、奴の会話を照らし合わせると、やはり謎が多い。

最初、コイツは俺をして存分に力を発揮しろと言った。てっきり、俺が主体となって力を振るうと思っていたのだが、実際には違う。

まあ、会話的に噛み合っていない部分も多いので、言葉尻から推測すること事態が間違っているのかも知れない。



そんな事を考えながら、じーっとゴーレムを見ていたら、向こうからにじり寄って来た。


「主君ヨ。我ニ、何カシテ貰イタイ事ガ、アルノデハ?」


「別にない。・・・いや、お前、ここの出身だろ。何か知っている事はないか?無ければ、武器のありそうな場所とかを教えろ」


その問いかけに、ゴーレムは考え込む様な仕草を取って固まる。

埒が明かないので、俺はユーカ達と明日向かう方向の相談をし、それが終わりかけた頃、突然ヤツが声を上げた。


「思イダシマシタゾ、主君ヨ。我ガ居タ場所ニハ、多数ノ武器ガ、置イテアリマシタ」


「それを、早く言え」


それによって、俺達が明日向かう場所が決定した。





 翌日、良く考えれば当たり前の事実に、俺はガッカリしていた。


ゴーレムに案内され、奴が居たという建物の中に入ると、確かに多数の武器が置いてあった。

ただし、それは、ゴーレム用の巨大で重たい物ばかりだった。

ただでさえ、俺が持つには大き過ぎるその武器達は、殆どが槌とか棍棒とかの重量のある物ばかりで、試すまでもなく無理だと分かる。

一応、何かないかと探したが、役に立ちそうな物は何も無かった。


そこには、多数のゴーレムが座しており、騒然と並ぶ様を見ると、まるでゴーレムの家の様だ。

だが、どれも停止状態とやらにあるらしく、動かす事はできない。

俺達が連れているゴーレムによると、これらのゴーレムは専用の魔法使いによって初めて起動できるそうなので、魔力だけは高くとも、その手段を知らない俺には、どの道どうしようもない。

そう考えれば、起動状態で長年放置されていたというのは、奇跡だったとも言える。


俺達は、ゴーレムの家を後にして、更に王都全体の探索に向かった。



結局、王都跡全体の探索を終えるのに、十日以上は要した。


その間、何か得る物があったとしたら、トラップモンスターによる経験値と、僅かばかりの財宝だけだった。

財宝と言っても、そのまんま金や銀、宝石と言ったものばかりで、周囲に店等がないこの状況では、そこらの石とあまり価値が変わらない。


「ふう・・・」


全くの無駄だとは言わないが、労力の割には大した成果が無かった事に、俺はため息を付いた。


恐らく、王都跡で過ごす最後になるであろう夜に、俺は一人で星を眺めている。

ここ最近、疲れと色々な面での忙しさもあって、こうしてゆっくりするのは久しぶりだ。まあ、決断的な面で踏ん切りを付けたかったので、少し一人に成りたかったってのもある。


チラッと振り返ると、ユーカとイユキが眠っているのが見えた。武器と言う特性からなのか、彼女達はオンオフを切り替える様に、簡単に眠りに入る。ちょっと羨ましい。


ターナは、相変わらず『停止』の状態から目覚めない。一見すると、どこも悪い様には見えないし、アニーズを使っても異常は発見できない。

だとしたら、彼女達が眠る時にオンとオフを切り替える様に、何かしらの原因でオフ状態に入ったまま、切り替えられなくなったとも考えられる。

もし、そうだとしても、オンにする方法が分からないので、どうする事もできない。

そもそも、武器が人化すると言う条件や、その他の面でも謎を抱えているのだ。

特殊な案件に関しては、もはやお手上げ状態だ。



王都跡を一通り探索した後、俺は幾つかの懸念材料を元に決断を迫られていた。


一番の懸念は、ターナの事だ。このまま連れ回して、何かあったら遅い。

それならばいっそ、この王都跡に置いて行くのも一つの方法だと考えた。

幸いにも、ターナのレベルは15にまで上がっているし、ユーカもここ最近の戦闘のお蔭で、レベルが14にまで上がっていた。

元々、南西の森に向かっていたのはレベルアップの為であったので、そう言った意味ではターナとユーカは、ほぼその目的を達成したと言っていい。


そこで、ユーカにターナの面倒を見てもらう形でここに残ってもらい、まだレベルの低いイユキとゴーレムを連れて、俺と共に二人と一体だけで南西に向かう。


そういった考えを提案したのだが、ユーカには猛反発を食らった。


彼女曰く、主様は戦闘面でも、体力面でも未熟であり、ただでさえ危うい存在である。それなのに、更に高レベルのモンスターが居る場所に、人数を減らして向かうのは危険極まりなく、全く了承できない。

ターナが邪魔であると言うのなら、自分がおぶって行くか、ここで止めを刺す。

とまで言われた。


最後の強い言葉に流石に折れたが、前半部分をよく思い出すと、軽く俺が貶されている気がする・・・・まあ、事実でもあるので、反論の余地はないけど。


すると、金属の音を擦り合わせながら、ゴーレムが近付いて来た。


「主君ヨ、何ヲ、オ考エデアリマスカ。宜シケレバ、我ガ、相談相手ニナリマスゾ」


ポンコツのくせに、言う事は一人前だな。まあ、俺もある意味ではポンコツなので、非難できる立場でもないが。

ゴーレムは、眠る必要が無いらしく、こうして一晩中、何かしら動き回っている。

特に何かをしている訳では無いのだが、奴曰く、鍛錬なのだそうだ。

歩き回るのが、何の鍛錬になるのかは分からない。聞き返しても、今の答えが返ってくるだけだ。


「ん、別に。ただ、星を眺めていただけだ」


それを聞いて、奴がキョロキョロと空を見回す。

そして、俺の側で暫くジッとしていたら、急にトンデモナイ事をポツリと言い出した。


「ソウ言エバ、王都ノ東側ニアル塔ノ地下ニハ、星集メノ部屋ト呼バレル場所ガアリ、ソコニハ魔法ノ武器ガ大量ニ保管サレテイル、トカ聞イタ事ガアリマス」


「な、何ぃ!?それ、何で早く言わないんだ!」


「申シ訳アリマセヌ。今、思イ出シタユエ」


思わぬ情報に、明日の予定を変更しなければと、ちょっと頭の中が混乱しかけた俺だが、ハタとある事を思い出す。

東に、塔なんてあったか?

いや、それを言ったら、この王都跡で高い建物と言えば、王城と外の塀以外には残っていない。

見落としていても仕方が無いが、だとしたら、ちょっと厄介だ。

地下にあるとしても、建物が倒壊して瓦礫で埋め尽くされているのなら、入り口を見付けるのも一苦労だろう。

更に、時間がかかる可能性がある。


この情報は魅力的だが、ゴーレムの家の一件もあるし、かと言って、何かしらの成果も欲しい。

俺は、再び葛藤するのだった。



 結局、俺は東の方にあると言う、星集めの部屋とやらを探す事にした。


行く気になったのは、アニーズで大体の位置が分かるのではないかという期待があったからだ。

場所さえ分かれば、入り口も推測する事ができる。

そう思って向かったのだが、予想以上の瓦礫具合に途方にくれる。

これ、入り口を見つけたとしても、絶対に瓦礫に埋もれてる。しかも、かなり折り重なっているので、取り除くにしても大変な事になりそうだ。


それでも、一応はアニーズで調べてみると、地下に空間がある反応が出た。

更には、不鮮明ながらも武器の情報も出てくる。今度こそは、当たりと信じたい。


幸いだったのは、入り口を直ぐに見つけられた事だ。


塔は相当な規模だったらしく、建物の中に更に建物があり、そこに入り口があったのだ。

多少は崩れかけて塞がってはいたが、ゴーレムとイユキによって容易く取り除かれた。


しかし、結論から言うと、ここも外れだった。


武器は確かにあった。それも、魔法の武器ばかり。

だが、そのどれもが○○専用と言う風になっており、アニーズによると、使用者以外が使っても魔法の効果が得られないばかりか、武器としても機能しないとあった。

試しに持ってもみたが、手応えが無かったり異常に重かったりで、一瞬で使い物にならない事が分かる。

また、アニーズの説明によれば、これらの使用者を変更するには、今の持ち主が直接変更の手続きを行うか、専門の魔法使いによる解除と手続きが必要とあったので、少なくとも現時点では絶望的だ。


幾つかは持って行こうかとも考えたが、俺と言う荷物もあるので、これ以上は無理だと判断し、取らないでおいた。


ただ、変わりにクロスボウと兜を一つずつ見つけた。

どれも普通の飛び道具と防具であったのだが、俺でも使えると言う点では役に立つ。

特に、クロスボウがあれば、俺も遠距離からの援護ができるし、これが人化したとしたら、パーティ初の遠距離専門の要員が増える可能性もある。


兜はホーンドヘルメットとあり、頂点に一つと側面に一対の牛の様な角が付けられており、見た目は立派だ。ただ、それ以外に特に機能はない。

一応、中に変な紙の様な物が貼り付けられていたが、長い年月の間に擦り切れて風化していた。持ち主の名前か何かだろうか。

まあ何れにしろ、何も無いよりはマシだろう。人間、頭の守りは確かに重要だろうからな。


因みに、その地下の部屋には、天井に星の様に光る何かが埋め込まれていた。

アニーズで調べると、魔光石とか言う物らしく、空気中から吸収した魔力で光を放つとある。それによって、特に明かりが準備できなかったにも関わらず、俺達は探索ができた。

星集めの部屋とは、よく言った物だ。

もっとも、幾つかの部屋では天井が抜け、そこから光が入ってはいたのだが。

せっかくなので、その魔光石は幾つか回収した。夜の明り取りに使えると考えたのだ。


全ての部屋を調べてから、俺達は立ち去る事にしたのだが、途中、俺は気になる物を発見した。

そこは、部屋の真ん中にポツンと一つだけ石の台が置かれていた。

台の上には、黒焦げなのか錆だらけなのか判別できない武器が、一つだけ置かれている。

それ以外には、特に何も無い。

俺は、ボロボロになった武器の形状が気になったが、内部は崩れかけている上に、瓦礫も散乱していたので、それ以上近付く事ができなくて直接確認するのは断念した。

念の為、アニーズで確認したが、傷みが酷すぎて判別対象とはならなかった。





 その後、俺達は王都を後にする為に、例の大門の前に来ていた。


アニーズによって、大体の魔法陣の位置が示される。それによると、ドノロファル用の奴は、かなり広範囲に設置されている事が分かる。これでは、避けて通るのは無理だ。

他にも出口を探したのだが、瓦礫で塞がっているか、門その物が倒壊しているかのどっちかで、容易には出られなかった。

登るって事もできるのだが、その先の塀は垂直に切り立っているので、降りる事が難しい。

その変わり、塀が頑丈って事だけは良く分かった。


相談の結果、俺がゴーレムの中に入り、ターナをイユキがおぶって、ユーカと共にゴーレムの影に入りながら突っ切る事にした。




「良いですか。イザとなったら、私達を置いてでも、主様を連れて抜け出すのですよ」


「分カリ申シタ、ユーカ殿。コノ不肖、魔導戦士ガレスタ・ダイニジュウヨ・・・」


「主様を中に入れたからといって、興奮して勝手な行動をしたら許しませんからね」


「・・・承知シタ。コノ不肖・・・」


「確認は、そこまでだ。それと、ユーカ。お前たちを置いていく気は、絶対に無いからな。安心しろ、ドノロファルが相手なら、このゴーレムなら凌げる。だから、コッチの事は心配せずに、むしろ、お前たちは全力で脱出する事に集中しろ」


突破を前にして最終確認をしているつもりなのだが、それぞれが勝手な提言をするので、イマイチまとまりにかける。


「この動く大鎧、本当に信用して・・・・大鎧って、呼び難いですわね。我が君、この者にも名前を付けては如何ですの」


そう、唐突に言ったのはイユキだった。


「名前?ああ、それだったら、ガレスタって呼べば良いんじゃないかな」


「それが、名前ですか?」


「ソレハ、我々ノ総称デアル。主君カラ、名ヲ頂ケルノデアレバ、我モ是非欲シイ」


そう言うと、フルフェイスの奥が赤く光る。と言うか、両腕を曲げて、ワクワクみたいなポーズを取る。

何だか、面倒臭いな。ガレスタで良いじゃねーか。

しかし、凄く期待した感じでコッチを見ているので、仕方なく名前を付けてやる事にした。


(ゴーレムの名前か・・・ゴロウマル・・・いやいや、どうせならカッコいい名前・・・・いや、このポンコツにはもったいないか。全身が緑色っぽいし、緑茶・・・グリーンティー・・・)



「リディ。お前の名前はリディで、どうだ?」


「オオ!我ガ名ハ、リディ。シカト、コノ胸ニ刻ミマシタゾ」


全身で喜びを現す、ポンコツゴーレム改めリディ。こんなに喜んでくれるとは思わなかったから、何となく嬉しくなった。

だが、次の瞬間、俺はギョッとした。


リディの全身から赤く光る煙が漏れ出し始めたのだ。これって、力の開放とか言ってた現象に似ている。何だか、ヤバイ。


そう思っていたら、リディの全身がどんどん縮んで行き、細身の体型になってしまった。身長も、元の大きさの三分の一程度になっている。

あっけに取られてみていたら、突然兜を脱ぎだし、そして、そこから金髪の美女の顔が現れる。

更には俺の前に近寄ると、跪いた。


「主君よ。このリディ、名を与えられしご恩、一生忘れませぬ。今この時より、貴方を守る盾として剣として、必ず貴方と共にある事を、ここに誓います」


は?え?何これ。これって、人化したって事だよね。ゴーレムって、武器じゃ無いよな。そもそも、俺は危機的状況にないし。どうなってんだ。


暫し混乱して狼狽えていた俺だが、ハッとしてアニーズを使ってみる。


『魔導戦士ガレスタ・リディ』種別『アドバンスド・ハイブリッド・ゴーレム』強さ『白虎クラス第7位』影響度『統制の取れた小隊規模』


案の定、色々と表記や評価が変わっている。特に、影響度の欄を見ると、賢さが加わった様な事が追加されている。

また、説明にも今までの事に加えて、更に期待が持てる言葉が並ぶ。

『対変異モンスター用に作られた、アイアン・ゴーレムの一種。禁呪や邪法を用いた事により、通常のゴーレムと違って独立した思考を持って動く。また、歴戦の戦士の技術、戦術、戦略的な知識も取り込んで、あらゆる戦闘に対応可能。起動状態で待機されたまま放置されていたが、主君の呼びかけに応じ、活動を開始した。

因みに、24番機には特殊な術が追加で施された為、不具合が発生している。

24番機は、日々進化する敵に対し、対抗する術を模索する為、更に禁呪等を追加した実験が行われていた。しかし、これによって暴走する危険性を持つに至り、一部の能力を制限。安定と引き換えに独立した行動に障害を持つようになる。その解決策は最後まで見つからなかったが、主君に名を与えられた事で不具合を解消。本来の魔導戦士としての力を取り戻した』


これらの説明を読むに、無理な強化が弊害として影響を与えていたって事か。

俺が名前を与えた程度で、何が解消されたのかは分からないが、少なくとも、これでポンコツゴーレムでは無くなるのかも知れない。

それと、相変わらず顔立ちだけは幼い。どう見ても十四か十五ってところだ。

武器とかの人化は、幼い少女になるのが決まりなのか。


ただ、これによって別の問題が出てきている。


「えっと、リディ・・・さん?」


「主君よ。リディ、と、呼び捨てでお呼び下さい」


「じゃあ、リディ。もう、君の中には入れないのかな」


言った後に、なにげにヤバイ質問をしている気分になる。


「ご安心下さい。主君の立てた計画は完遂できます。我が力、今一度ご覧頂きたい」


そう言うと、リディは兜を被り直し、力を溜める様な姿勢を取る。すると、例の赤く光る煙が覆い、今度は体が膨張していく。

気づいた時には、元の大きさに戻っていた。


「リディ。君は、体の大きさを自由に変えられるのか?」


「鎧だけです」


そう言って、胸部の装甲を開き、赤いボディコンワンピースの様な服を来たリディが出てきた。

これは、どっちが本体なんだ。



その後、鎧内部の乗る位置で、下か上かでリディと揉めたのだが、俺が下と言う事で漸く話が付いた。

因みに下とは、俺が椅子代わりになって、リディがその膝の上に座るって事だ。

何だか、疲れる。

もっとも、結局は俺ができる限り側に寄り、傍らに彼女が立つと言う感じになったのだが。


俺は、乗り込んだ後、またドノロファル戦の時の様に暴走しないかと心配したのだが、そうした事は起こらなかった。

リディと言う人化によって、何かしらの抑制が利く様になったのだろうか。


後は手はず通りと言う事で、イユキがターナを背負い、その後ろからユーカが手を貸して、リディ・・・の鎧の後ろに付く。


慎重に、ギリギリまで魔法陣の縁手前で近付くと、俺はイユキとユーカに合図をし、リディに胸部の装甲を閉めさせた。

と、リディが徐に手をかざし、前面にスクリーンの様な物を開く。すると、外の様子が見えた。

それを機に、俺は全力で走る様にリディに命令する。


「分かりました、主君よ。ユーカ殿、イユキ殿。行きますぞ」


「その、何とか殿って止めて。呼び捨てにしていいから。私達とアナタは、主様に仕える身として、同等なのよ」


それに頷いたリディは、そのまま走り出すが、予想していたより遅い。ポンコツの頃よりはマシだが、俺が乗った時よりは遅い感じがする。

もしかして、俺が乗っている事で加減しているのか。


「リディ、もっと速度を上げられるか」


「申し訳ない、主君よ。これが限界である」


加減していた分けでは無い様だ。

だが、この速度ではドノロファルを振り切るには遅い。

鎧内部で頭を振ると、リディが展開したスクリーンが、俺の目線にそって動くので、それで外部を確認する。どうやら、彼女自信には、これは必要無いらしい。


イユキとユーカは順調に着いてきている。むしろ、速度ではアッチに余裕がある感じだ。

魔法陣の中央付近にまで来た時、彼女達は二手に分かれて、リディ鎧のやや前に出る。

ドノロファルは、まだ出てこない。


と、俺達は、そのまま何事も無く魔法陣を通過してしまった。一応、みんなには、特に合図が無い限りは止まるなと言ってあったので、その通りに真っ直ぐに走って行く。

そんな中で、俺だけが後ろを振り返ったのだが、俺達が離れて暫くして、ドノロファルが一瞬だけ現れたのを見た。

追ってくるかと思ったが、直ぐに消えてしまったので、ホッとする。

どうやら、侵入して来る相手以外は見逃してくれる様だ。

だが、何となく、ドノロファルが見送ってくれた様な気がして、勝手に俺は不思議な感情に揺さぶられていた。

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