~辺境の王者~ -11. 南西の森へ その2
最初に飛び込んだのは、ターナだった。
基本的に速いのはユーカなのだが、スピードに乗った場合、直線に限ってはターナの方が勝る。
そして、鋭い斬撃がグラッド・ラーナンを襲った。
しかし、溝の様な物が表面に付いただけで、直ぐに元通りになった。
やはり、通常の攻撃では歯が立たない。
と、遅れて到着したユーカの打撃により、グラッド・ラーナンの表面が大きく抉れる。
抉れた部分はそのまま飛び散り、煙の様な物を吹き出しながら、みるみる内に消滅して行った。
なおも打撃を加えるユーカにより、どんどんグラッド・ラーナンの体面積が減っていく。
グラッド・ラーナンも、ファーレイやドレップで反撃を試みるのだが、相変わらず近距離での攻撃精度が悪く、オマケに素早さで勝るターナとユーカには尽くかわされた。
更には、ターナも短剣を持ち直すと、刃ではなく、腹部分で打撃を加え、確実にダメージを与えていく。
「あれー!?」
少し離れた位置で見ていた俺は、てっきり苦戦するとでも思っていただけに、その一方的な展開に、別の意味で驚愕する。
アニーズで確認すると、グラッド・ラーナンの状態が『重症』と出ていて、既に勝負がつこうとしていた。
確かコイツ、分裂とか自然治癒の能力を持ってったはずだ。
なのに、そのどれもが意味をなさず、ただの打撃であっという間に屠られ様としている。
こいつの特殊能力は、使用方法とか条件とか、俺が考えていたのと違うのか。
等と俺が考えていると、奴は残った身体を僅かに後退させ、それで反動を付けて急に走り出した。
逃げられる・・・!!
そう思った瞬間、進路に先回りしたイユキが盾を叩きつけて止めを刺した。
グッチャリと、グラッド・ラーナンだったはずの残りの体組織が、やはり煙を吹きながら消滅して行く。
どうなっているんだ。
斬撃には強いが、打撃には弱かったて事か?
そう言えば、マガツノミホロも、本体を抉る様な攻撃をしていた。
対処方法って、強力な打撃だったって事か。
と言うか、コイツ、凄い雑魚じゃねーか。
そこまで考えて、俺はある事実に行き当たり、思いっきり落ち込む。
「我が君、大丈夫ですか。まさか、やられたのですか?」
「主様、怪我をしたのですか?私の水を飲んでください」
「ご主人様、ご主人様!」
「すまん・・・少し、一人にしてくれ」
木の陰で両膝を抱え、俺は落ち込んでいた。雑魚にやられそうになった雑魚中の雑魚。
それが、俺だ。
クソお。絶対にレベルを上げてやる。俺自身の手で、ラーナン族を根絶やしにしてやるうぅぅ、う、う・・・・・グスッ。
その後、俺達は快進撃を続ける。
南西方向に近付くに連れ、殆どのモンスターが、レベル10超えが当たり前になる中、それらを圧倒的力で叩き潰し、場合によっては、反撃すら許さずに瞬殺した。
主に武器の三人が、だが。
俺はと言うと、完全に戦闘に参加すらできなくなり、更には、移動力、体力共に劣る為、むしろ、彼女達の足を大きく引っ張る単なるお荷物となっていた。
彼女達は、それぞれ1レベルずつ上がっており、現在はイユキがレベル6、ユーカがレベル13。そして、ターナが遂に15に上がった。
ただ、アニーズによる評価は変わっておらず、情報的な面では強さの変化は分からない。
もっとも、グラッド・ラーナンの例を見ると、アニーズの評価自体がアテにならないだろうが。
「主様、お水、飲みます?それとも、足をマッサージしましょうか」
俺の微妙な変化を目ざとく感じ取ったのか、ユーカは必要以上に気を使う様になった。怒っていたと思っていたので、これはこれでちょっと嬉しいのだが、何だか申し訳ない気分にもなる。
実は言うと、あれから気が付いた事がある。
彼女達の扱いが魔法武器かそれに近いだろうと言うことだ。
つまり、グラッド・ラーナンに与えた打撃は、ただの物理攻撃では無かったと言う事だ。
それなら俺で無くても、魔法的な補助効果が無ければ、奴にはどうにもできなかった事になる。
それを考えると、少しだけ気が楽になるのだが、所詮はレベル1。
雑魚と言う現実は覆せない。
「ありがとう、ユーカ。大丈夫だ」
そう言って、俺は進行方向をアニーズで確認する。
寺院跡からかなりの距離を移動してきたが、これだけの長距離を歩くこと自体、俺自身が初めてだったので、実は足が悲鳴を上げ始めていた。
それを見たイユキが、おぶると言い出したのだが、断固として拒否した。
適当な理由として、敵が出てきた場合、対処が遅れるとか何とか言った物の、俺にも男としての意地がある。
イユキは怪力の持ち主だが、その小さな身体に運ばれる姿は情けなさ過ぎる。
まあ、その分、休憩と言う助け舟を出されてしまってもいるので、いい加減、自分のちっぽけなプライドを振りかざすのも、どうかと言うところまで来てはいるが・・・・。
高レベル反応を探そうと、アニーズを使っていた時だ。俺は、進行方向からやや外れた所に、変わった情報があるのに気が付いた。アニーズの情報不鮮明さから判断すると、2キロメートルくらい先か。
遠すぎて判別が難しいのだが、どうやらモンスターの情報ではない。この感じは、寺院跡の物に似ている。
と言う事は、あそこには建物の跡か何かがあるのだろうか。
モンスターの反応その物は薄いが、行ってみる価値はあるだろう。
俺は、その旨をみんなに告げて、目的地の変更を決めた。
何だかんだで、目的地に辿り着くのに三日はかかった。
近付くにつれ、アニーズでそこが『王都跡』と言うのを確認できた物の、意外と地形が複雑になり、俺の体力ではなかなか前に進む事ができなかったからだ。
これまでは比較的平らな地形であったのが、急に大きな裂け目や、深い谷の様な物まで現れてアップダウンが激しくなり、歩くと言うよりは、登り降りを強いられた。
また、直線距離では確かに2キロメートルくらいだったのだが、地形の複雑さを含めると十数キロメートルにはなる事が分かる。
あまりにも辛すぎて、何回かは結局はイユキにおぶってもらった。
情けない。
ただ、登ったり降りたりする地形は、力のある彼女を持ってしても移動は難しく、それにより著しく移動速度を制限されたのだ。
恐らくだが、ターナとユーカだけであれば、下手をしたら1日で辿り着いていたかも知れない。
加えて、そうした斜面に対応したモンスターなんて物も現れたので、強さその物は驚異にはならなかった物の、倒すのに時間を要したりする。
俺を守りながら戦う展開も多く、余計に前に進まないと言う有様になったのだ。
そんな苦労の末に辿り着いた王都跡は、窪地の様な場所にあり、更には寺院跡とは違って、建物があった痕跡を留めてもいた。
もっとも、形こそ留めてはいたが、植物が覆い尽くし始めていた上に傷みも酷い。
それを上から確認した俺達は、慎重に斜面を下ると、恐らくは、かつて王都の大門だったらしい、入り口の前に立つ。
王都跡の周囲は、一見すると一枚岩の様にも見える高くて強固な壁が囲み奥が見えない。
一応、アニーズを使ってはみたが、モンスターの反応は無かった。
これなら、安心して探索ができるだろう。
そう思って、俺達は何の警戒もせずに入り口に向かう。だが、その時だ。
大門の手前付近まで近付いた時、突然、魔法陣の様な物が地面に浮かび上がり、強烈な光を放つ。
そして、その光が消えた時、俺達の眼の前には、巨大なモンスターが立ち塞がっていた。
牛のケンタウロスと言った風貌のモンスターは、全身が真っ黒で、更に緑色の何かの記号の様な物が身体のアチコチに浮かび上がらせている。
その背中からはタコの様な触手を四本生やし、それぞれには巨大な剣を二つ、槍、金棒と言った武器を持っていた。
オマケに、人間の身体に当たる腕の方にも、両刃の巨大な斧を構えている。
モンスターの名称は『ドノロファル』強さは『ワイバーンクラス第4位』危険度は『重戦車』となっている。
何か、色々と目新しいと言うか、ツッコミを入れたくなる様な表記が並ぶ。
他にも気になるのはその種別で、『魔法生物』とされていた事だ。
説明にも『魔法使いによって、特定の場所を守る為に設置されたモンスター。招かれざる侵入者を容赦なく屠る。物理的な攻撃が効き難く、更には媒体を介して回復する能力を持つので、倒すのは困難』とある。
抽象的な表現でもその強さは分かるが、更にはレベルも25と高く、説明からもそれ以上の強さを秘めている可能性を感じる。
今の俺達には、荷が重すぎる相手だ。
ここは、一旦引いた方が良いか?
が、そんな事を考える暇も無く、ドノロファルの方から仕掛けてきた。
両刃の斧から鋭い一閃が繰り出される。あまりの速さに、俺は目で追うことすらできなかった。
幸いにも、その一撃をイユキが止め、ユーカが俺を抱えて後退する。
同時に、ターナが突撃し首元に迫ったのだが、背中の触手によって迎撃を受ける。
それを、ギリギリのタイミングで攻撃を受け流し、相手の力を利用して距離を取った。
しかし、こちらに体勢を整える隙きも与えずに、奴は攻撃を繰り出す。
両刃斧で地面を削り飛ばして牽制し、正面にいたイユキに襲いかかる。
速度で言えばターナ並みの連続攻撃が彼女を捉え、防戦一方にした上で、ジリジリと押し返し、両刃斧で体勢を崩してがら空きになった所に、最後は金棒の一撃でイユキを弾き飛ばした。
そのまま、彼女はかなりの距離を飛ばされ、木々の中に消えた。
「イユキ!」
何て奴だ。
速度はターナ並、パワーでもイユキを上回っている。しかも、触手が数の不利さえカバーしていてスキがない。
そして、説明にあった情報を信用するなら、防御力もイユキ並か、下手したら上を行くだろう。
どうする。どうする?
「逃げて!」
そう言って、俺を突き飛ばすと、ユーカが今度は突進する。最も速い彼女の攻撃が、奴の足、胴体と捉え、体を回転させて勢いを付けながら、最後は横っ面に一撃を加える。
だが、全く効いていない。それどころか、動きが止まった一瞬を見逃さず、片手でユーカを掴むと、そのまま地面に叩きつけ、踏みつけた。
「ユーカあ!」
彼女の元に走り寄ろうとした俺を、ターナが抱えて逆方向に走る。
「ターナ、戻れ。ユーカ!イユキ!」
「駄目です。ご主人様、今は逃げましょう」
しかし、ターナの機転も虚しく、素早い動きで回り込んできたドノロファルが、逃げ道を塞ぐ。
それを見て、ターナが俺をゆっくりと降ろして構える。
「ご主人様、私が時間を稼ぎます。だから、逃げて」
「バカ言うな。お前一人じゃ・・・」
「逃げてください」
何時もと違う声色に、俺はそれ以上、何も言えなかった。
ターナが飛びかかるのと同時に、俺は走り出す。しかし、何度かの金属音の後、鈍い音がして振り返ると、ターナが奴の一撃を受けて弧を描きながら飛ばされていた。
何故か、それがスローモーションの様に見える。その一方で、奴の姿が一瞬消えた様に見え、次の瞬間には俺の前に回り込んでいた。
この付近に、モンスターの反応が少ないのが、よーく分かった。
恐らくだが、コイツの守備範囲に迂闊に入って狩られたか、その強さを感じ取って近寄って来なかったのだろう。
今になって言える事だが、考慮すべき点だった。だが、遅すぎる。
俺は、何か打開策は無いかと、咄嗟にアニーズを使う。
すると、ターナとユーカの情報が拾われ、共に『停止』と出た。イユキは『損傷・中』となっていたので、多分、意識はあるのだろう。
だが、いまだに姿を見せないと言う事は、動ける状態には無い様だ。
残りの二人にも、『回復中』の表示が出ている為、時間さえ稼げば何とかなるかも知れない。
しかし、コイツを前にして、そんな考えは甘すぎる。
奴は、ゆっくりと後ずさると、両刃斧をゆっくりと構えた。
そんな中で、何故か俺は、マガツノミホロの事を考えていた。
(来い、来い、来い。マガツノミホロ、俺の所に来い!)
そんな願いも虚しく、奴の両刃斧が、目にも留まらぬ速さで振り抜かれた。




