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3.ラスボスっぽい奴には何となく溶岩がついてくるのは何故?

1985年の秋頃、日本全国のゲーマーが一人の大魔王を倒すためにコントローラーを握っていた。


決戦の舞台は大魔王の本拠地。橋の上で待ち構える巨悪の根源。眼下に広がるは煮えたぎる灼熱の溶岩。幾多もの障害を乗り越えた主人公は遂に大魔王と対峙した。


その大魔王は、自分が倒されないために複数の影武者を用意するという巨体に似合わない狡猾さを持ち、国ひとつを滅ぼしかねないような数多のの兵器と兵士を持ち、いざ自分が戦う番になれば決して逃げ出す事なく堂々と立ち向かい、多数の武器と口から吐く灼熱の炎で最後まで我々を苦しめた。


その大魔王に立ち向かう主人公は伝説の剣と鎧と盾を身に纏った勇者………ではなく、赤い帽子と赤と青のオーバーオールを身に纏った、立派な髭が特徴的なジェントルメン。武器はオリンピック選手でも真似できない身体能力(特にジャンプ力)で、要するにほとんど非武装で緑の弟と二人で大魔王とその軍団に戦いを挑む、というゲームだ。そう、日本どころか世界でも知らない人の方が少数を占めるであろう『あのゲーム』のことだ。赤い帽子の髭のジェントルメンと大亀の大魔王との永きに渡る宿命の対決の一番最初の物語である大冒険活劇を描いた本作が発売されたのが1985年の秋頃だ。それからしばらくの間は日本中でコントローラーを握ったプレイヤーが喜びと落胆の渦に飲まれていたであろう。


かくいう私もそうだ。見事にはまった。妙に愛らしく妙にユーモラスで誰にでも取っつきやすいキャラクター達。最初はそれなりに簡単でも最後の方になると急激に跳ね上がる絶妙な難易度。難しいギミックやワールドをクリアしたときの達成感。GAME OVERになっても不思議と再挑戦したくなるゲーム性。とにかく全てが私を虜にした(ちなみに私がこのゲームを初めて遊んだのは発売されて数年後のことである)。現在でも最新ハードでダウンロード出来ることを考えると、このゲームはどんなに時が経っても永遠に愛される、ゲームとしての究極体と言えるだろう。



『いつも思うけど、マスターって重度のゲーマーだよね』


私の意識にイティバルが語りかけてくる。


『今更何言ってるのよ。私のゲーム好きは今に始まった訳じゃないでしょ?それにね、ゲームっていうのは人間達の空想が詰まった体験できる夢物語なのよ。ゲームが素晴らしければ素晴らしいほど、そのゲームを作った制作者達は素晴らしい空想力の持ち主なの。その空想を味わえるなんてこれ以上の贅沢があると思うの?』

『マスター、熱くなりすぎ』



ああ、いけない。私の悪い癖が出てしまった。使い魔に諭されるとは、守護魔女としてまだまだだな。


さて、今回の話だが、実を言うとこれは作者である私の思い込みが強いとも言えるのだが、もしかしたら前述のゲームの強い影響力のせいかも知れないがのだが……


ラスボスって、いや、ラスボスの周りって、常に溶岩とかなくない?


いや、アクションでもRPGでもシミュレーションでも、ジャンルは何でもいい。ゲームとかの枠を飛び越えて漫画の中の世界でもいい。とにかく何かしらの作品のラスボスには必ずと言っていいほど溶岩が付きものの様な気がするのだ。何で海とかじゃ無いんだろう。何で酷寒の世界ではなく豪熱の世界をラスボスは選ぶんだろうと時々思うのだ。そういえば守護魔女としての最初の討伐も地底から噴出してこようとした溶岩の怪物だった。で、守護魔女としての自分の過去の討伐歴を振り返って見ると、なんか溶岩にまつわるヤツが多い気がする。せっかくなので今回はラスボスと溶岩の関連性について空想に想いを馳せてみよう。



まず、そもそも溶岩とは何なのかについてだが、読者の皆は溶岩とマグマは呼び方が違うだけで同じだと思っていないだろうか?


同じと言えば同じだが、存在する場所・状態によって呼称は変わるのだ。海に棲むイカを地上で干したものをスルメと呼ぶように。

マグマというのは地球をはじめとした惑星を構成する物質、つまりは大地が溶けている状態のことを言う。それが地底内にあれば『マグマ』と呼ぶが、火山の噴火とかで地表に流出すると『溶岩』と呼ばれるようになるのだ。この時、地表に冷えて固まったものも『溶岩』と呼称する。温度は生成する物質によって違ったりはするが約1000度とみていいだろう。


数年前、とある動画サイトで人工的に溶岩を造る動画を視聴した事がある。その出来た溶岩に出演者の一人が割り箸を近付けてみると、触れていないのに割り箸は燃え出したのだ。


触れずとも木材が自然発火してしまう、それが溶岩だ。もし普通の人間がそれに直に触れたら……そんなのは想像しなくても分かる。どうしても知りたい人は自称真の勇者を名乗る男にお願いしに行こう。


で、何故ラスボスっぽい奴は溶岩を選ぶのかについてだが、この疑問は違う言い方をすると、「ものすごく強い奴は、とんでもなく熱いのととてつもなく冷たいのをどっちか選べって言われたら熱い方を選ぶのはどうして?」とも言い換えられる。こう言い換えると答えは自ずと見えてきた。


これは、私が修行中の頃、とある夏の日の師匠との会話である。



「あっちいなー、こうも暑いんじゃ何もやりたくなくなるよ」

「…………」

「あー、かったりぃ。レモン水は飲み飽きたしなぁ」

「…………」

「ちょっとヴァイサ?」

「…………」

「おーい」

「…………」

「…………」

「…………」

「こら、師匠を無視するとは何事だ」


パン


「わっ、なに?花火?」

「魔法の閃光弾だ。まったく、一つの事に集中すると周りが見えなくなるのはアンタの悪い癖だねぇ」

「すみません先生。でも、この本面白くて。」

「1000年前の魔導書がそんなに面白いかい?それと今は3時の休憩の時間だよ。少しは勉強から離れて休んどけ。この暑さじゃ水分採ってしっかり休まないと倒れちまうぞ。」

「……先生、冬の時も似たような事言ってましたよね?」

「うん?」

「確か、『こんだけ寒いんじゃ体をしっかり暖めておかないと凍えちまうぞ』って」

「…そんなこと言ったか?」

「はい。大雪に見舞われた日に確か」

「半年前の事か?よく覚えとらんなぁ。しかしなヴァイサ、ほとんどの生き物は暑さに免疫は無いんだよ。」

「そうなんですか?」

「そうさ。あたしは十年位前に酷寒の大地に一度だけ任務で行ったことがある。」

「酷寒の大地?」

「北か南の果てにある氷の大陸だよ。想像以上の寒さで驚いたよ。けど、それ以上に驚いた事があってねぇ。」

「何があったんですか?」

「その酷寒の大地で立派に生きてる動物達が沢山いたことさ。」

「凄く寒い所にですか?」

「そうさ。原住民に聞いてみると分厚い脂肪や毛皮のお陰で耐えられるんだそうで、心臓が止まりそうな冷たい水なんかもへっちゃらだそうだ。ついでにそこの原住民達もそこに住む動物達を狩って生きているんだ。」

「あ、もしかして冬の間に先生が来てたコートって」

「そ。そこの動物の毛皮を加工して作られたものさ。帰る時に原住民達からもらったものでね、寒さなんか全然感じなくなるよ。」


飲み飽きた、と言っていたレモン水を一口飲んでから更に師匠は続ける。


「つまりだ、恒温動物だろうが変温動物だろうが生き物ってのは寒さへの対策は自然と備わってるのさ。春夏秋冬なんて呼んでるのはあたしら人間だけ。他の動物達は『太陽が出てて暖かい時期』と『太陽が出てても冷たい時期』位にしか感じていないだろう。で、その暖かい時期の間に来るべき冷たい時期の為の準備をしっかりやっといて、時期が来たら大人しくして過ごす。トカゲとかの爬虫類や熊なんかは寒い間は冬眠するだろ?彼らの生活サイクルの中には寒さへの対策がしっかり組み込まれているんだよ。」

「それじゃあ、暑さに対してはどうなんですか?」

「暑さへの対処法は生息地域問わず全ての生き物が『涼しい所へ避難する』、『水分を多目に摂取する』しかないだろうな。それが涼しい所なんかない砂漠だったらどうするよ?数少ない水を目指して東奔西走だ。水が無けりゃ自分の涙とかを舐めとるとか、小さい動物を狩って肉と血液を頂くとか、日中は穴を掘って体を休めて太陽が沈んだ後に活動するとか、『熱さ』っていう見えない敵に対して皆が皆死物狂いなのさ。」


師匠は冷やした果物をガブリとかじる。


「あたしら人間だってそうだろ?寒けりゃ多目に着込めばなんとかなる。けど暑いときは裸になったって暑いんだ。生き物が生きるのに必要なのは『暖かさ』だ。『熱さ』じゃない。そして強すぎる『熱さ』は命を奪うしかしない。勿論『寒さ』にもそれは言えるけどさ、」


師匠は一呼吸置いて続けた。


「厳しい寒さを耐えきった野菜は、甘味があって美味いだろ?普通の果物より、冷たく冷やした果物の方が甘くておいしいだろ?さっき言った酷寒の大地の原住民達も肉とか魚は凍らせて保存してた。何より氷は溶かせば水になる。強い寒さは時に恵みをもたらすんだよ。」





強い寒さは時に恵みをもたらす。けど、強い熱さは命を奪うしかしない。強い熱さが視覚的にも感覚的にも真っ先に分かるのは溶岩だ。全てを奪う象徴とも言える。ラスボスっぽい奴もそうだ。全てを奪う象徴が時に恵みをもたらす寒さを選ぶ事はない。ラスボスっぽい奴は全てを奪う熱さを、つまりは溶岩を選ぶのだ。



そういえば、どこかのマンガのラスボスっぽい奴も溶岩使いだった気がする。そのマンガの作者も「強い熱さは命を奪うしかしない」事を知っていたから溶岩を操る力を与えたんだろうか?




結論:強い寒さは時に恵みをもたらすが強い熱さは命を奪うしかしない。師匠も凄い言葉を残したなぁ。








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