運命の人#とは 5
ねえ、聞いてくれない?
なんのことかって?友里のことに決まってるじゃない。
こないだ、あんな話をした後の帰りに、友里が白虎が女と歩いてる姿を見ちゃったんだって。
ほら、ちょっと脅かした後だったじゃない?
友里ったらその2人の後をこそこそついていったらしいの。そしたらね。
白虎とその女が鶯谷のラブホテル街にある地下のバーに入っていったんだって。
友里、ちょっとショック受けちゃったらしくてさ。2人が入っていったとこを見て、泣きながら家に帰ったらしいのよ。
そして、家に着いた時に白虎から、今日は帰らないってメールがきたんだって。
女の子ならもうこれで、本気で、死ぬほど考えるわ。だって好きな人が目の前で違う女とラブホテル街のバーに入って朝帰りよ。信じられないわ。
それで友里はその日の夜、寝れなくて白虎が帰ってきた朝の7時までずっと起きていたらしいわ。
そして、白虎が帰ってきて、すぐに、自分の見たことを全部ぶつけてやったらしいの。
そしたらね、白虎のやつ、何をしたと思う?
友里が「白虎クンのこと何も信じられなくなっちゃった」って言ったら、「そう」って言って自分の部屋に戻って、ある用紙を持ってきたらしいの。
離婚届。
白虎だけじゃない、友里の住所から名前まで、残すは印鑑ってとこまで書いてあったらしいの。
そこまで準備してたってことを知って、友里さらにショック受けちゃって、その場で崩れ落ちたらしいわ。
そしてね、あの最低男、なんて言ったと思う?
「君が僕を信じられなくなろうと書類の上ではまだ僕たちは夫婦だ。もちろんここに君の印鑑を押せば離婚は成立する。でもこんなことですぐに決めてしまうのも自分たちの人生の大きな転換点においては少し焦燥だと思う。そこである提案があるんだ。」
「この2ヶ月で、お互いにもう1人結婚してもいいと思える恋人を作る。その人と幸せになれると思ったらどうぞここに印鑑を押せばいい。でも、そうじゃない、やっぱり僕だと思ってくれたのなら、この紙を粉々に破り捨てればいい。どう?」
ってね。
最初私も聞いたとき、おったまげたわ。そう、おったまげた、って表現を使わないと気持ちを表せないような、そんなやつよ。
だって、疑惑を作ったのは白虎のほうよ。なのにあの男、上から目線でそんな訳のわからない提案をしてきたの。すごいでしょ、むしろ。
でね、友里のやつも、変に強がりだから言い返したらしいわ。
涙を拭いて、立ち上がって、
「いいわ!もっと優しい誠実な男を見つけるわ!あんたがいい女だったって後悔しても知らないから!」
ってね。
それで今日の昼に泣きついてきたの。どうしよう〜〜って。
私は、この大学にはあの男と引けを取らない良さげな男もたくさんいるじゃない。あんたが行かなくたって寄ってくるんだし、選別できるんだから簡単じゃない?って言ったわ。
そしたら、友里ね、
「でも、私、男性は白虎クンしか知らないのよ。どうやってやればいいのかわからないもん」
って。
はあーめんどくさいのに巻き込まれちゃったなー。
でもしょうがない。いちばんの友達として、男選び手伝ってやるか。
いやいやちょっと待て、まずはあのクソ男をどうにかしなきゃよ。
一体なんであんなこと言いだしたのか。
皆目見当もつかないわ。
準備してた離婚届といい、考えてたゲームみたいな提案といい、こうなることを予測してたみたいな。
でもま、深く考えてもしょうがないわ。
まずは考えなきゃいけないことがある。
そう、友里とうちでしばらく一緒に暮らすことよ。