運命の人#とは 4
今日は朝からドタバタしちゃった。
なんでかって言うと、単なる寝坊よ。
白虎クンも起こしてくれればいいのに、簡単な朝ごはんだけ作っておいてくれて、そのまま私に何も言わないで出かけちゃった。
そのせいで、いつもより30分も遅く家を出たから遅刻すれすれよ。
時間もなかったから、髪を整える時間もなくって、コンタクトも入れる時間もなかったから普段とはだいぶ違う装い。
慌てて講義室に入ってきた私を見て、美優が大笑いしてたから相当なもんだったのね…
それで、その日の昼休みに学食に美優と2人で食べに行ったの。
普段から美優といっしょに学食に行く。1人で行くといろんな男子に声をかけられて静かに食事なんてできないから。美優と行くと近づいてくる男子を美優が追い払ってくれるの。頼もしいでしょ?
私はうどん、美優はカレーを頼んで少し混み始めた食堂でなんとか2人席を見つけて食べ始めると、美優が聞いてきたの。
「あんたさ、あのアラサー男とちゃんと生活できてるわけ?」
「なんでそんなこと聞くのよ」
と、私。すると、美優はスプーン置いて腕組みしながら続けた。
「いや、今日の朝のことを見てると、ちゃんと会社勤めをしている夫が遅刻しないように妻を起こしたりとか、なんとかしないもんなのかなーって。あの男、ちゃんと昨日帰ってきたの?」
「帰ってきたわよ!それに、昨日は…」
と、私は口ごもる。そんな私を見て美優は言う。
「もしかしてあんたさ、自分だけ幸せモードに入ってるんじゃないの?」
「は?どういうことよ。」
「つまりね、あんたはあの男のいいなりペットになってないかってことよ。あのアラサー男の正体はとんでもないドSってことあんたもよくわかってるでしょ?可愛い盛りの女子大生。そんな女の子を毎晩好きなように抱けるんだから、最初は好きだったかもしれないけど、今では都合のいい女、とさか見られてないんじゃないのってこと。」
「そんなことは…ないよ、ちゃんと好きって言ってくれるし。」
美優は呆れたように首を振って言う。
「そんなの、あるくらいの年齢の男なら、女の子が好きって言われたら舞い上がって簡単に騙せることくらい知ってるって。これはもしかすると…」
「も、もしかすると?」
美優は私に顔を近づけ、小声で言う。
「実は他に女がいたりして。」
「も、もう!やめてよ。怒るよ?」
と私が強く言うと、その批判をヒラリとかわして、私から顔を遠ざけて美優は言う。
「だって、あんたら出会って何年よ。相手はアラサー男で案外モテるロールキャベツ系男子。女には困らないのよ。今日だって夜、女と会って大人の夜を過ごしてくるかもしれないわ…そういえば今日はちゃんと帰ってくるの?あんたの旦那。」
「今日'は'ってなによ…今日'も'よ。あ…」
「何?」
私は今日の朝のことを思い出す。何も聞かないでお仕事に行っちゃったんだった。
「…聞いてない」
それを聞くと美優は名探偵になりきったような顔をして言う。
「怪しいわね…何も言わないで出かけて、その後にもなんの連絡もよこさないなんて。」
美優は私が携帯をチェックしてる間に、連絡がないと言うことをズバリ推理した。なかなか鋭い。
そんな変な話をしていたらすぐに時間がなくなっちゃって慌ててうどんをすすり、急いで食べたから少しの気持ち悪さを感じながら次の講義に行ったの。
でも昨日は、私を好きって言いながら抱きしめてくれたし、白虎クンに限ってそんなことはないわ。そんなことは…
この美優との会話で絶対にありえないと思っていた一つの可能性が私の頭にこびりついてしまった。
その日はその不安でなかなか授業もバイトも集中できなかったわ。
確かに白虎クンの周りの女の人はみんな綺麗よ。勝てないって思ったこともある。
でも絶対そんなことはない。
だって、私たち夫婦なんだもの。