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第六話 九四は土塁の外堀

「掛れぇーーっ!」


ワーッと兵士が吶喊して行く。

舞台は四国、阿波の国。


正直乗せられた感は大いにある。

しかし、そこに魅力を感じてしまったのもまた事実。


私の父は土佐の片田舎より四国の覇者にまで登り詰めた。

しかし折悪く、太閤殿下の天下統一戦のなかで土佐一国に押し込められてしまった。


それでも土佐は守れたのだ。

関東北条のように、滅ぼされるよりマシだと思わねば。


優秀な長兄が早くに戦死し、先日父も亡くなった。

他家を継いだ次兄は病没しており、三兄の親忠は半ば隠居のように押し込められている。


最早、家を盛りたてて行くのは自分しか居ない。


そう思い定めた時に太閤殿下が亡くなり、大坂では石田殿と徳川殿の対立が激化。

難しい局面に立たざるを得なくなった我が身を呪ったりもしたものだが……。



そのような時に、毛利殿より件の誘いがあったのだ。


阿波と讃岐を預って貰えぬか、と。




毛利殿は石田殿に与し、徳川殿と対決姿勢を明確にした。

しかし、実のところ毛利殿は独自の考えて動いているのは間違いない。


大坂でお目に掛った時は随分と穏やかで、言っては悪いが凡庸そうな方だと思ったのだが。

まさか、かような腹芸を為さる方だったとは。


流石は激動の戦国時代を生き抜いてきた、毛利の当主と言う訳か。


長宗我部の当主となってまだ日が浅い私とは違う。

そう思い至れただけでも良かった。


ともあれ、誘いが来たのは私の実力ではない。

長宗我部が誇る一領具足。

彼らの強さを買われたのだろう。


ならば、それに見合った働きをするのが我らの矜持と言うもの。


毛利殿と組まない手など端から無い。


家中では未だ、四国に冠たる長宗我部を夢見る者が数多く居るのだ。

彼らを夢見る愚者と切り捨てることは出来ない。


それに私も……。


私が立った戦陣は、全て父と一緒だった。

当主となってから立つ戦は今回が初めてのこと。


長兄が亡くなった際、兄二人を差し置いて私が継嗣に指名された。


二人の兄は既に他家を継いだ身の為とされたが、実際は父が溺愛した長兄の面影を私に見たからだと言われている。

そのことに思うことが無いではなかったが、私にはどうにも出来ない。


私に出来ることは、父の判断が間違っていなかったと証明することのみだ。

さもなくば、兄たちに顔向けが出来ないのだから。


もし上手く行った暁には、親忠兄者には復帰して分家を立てて貰おう。


反対意見は出るだろうが、私はそう望んでいる。


だが、それも全ては事が上手く運んだ際に限る。

よって私は毛利殿の提案に乗り、まずは阿波へ侵攻する準備を整えた。


侵攻する時期は毛利殿と打ち合わせた通り、中央で戦端が開かれた時。

そう言えば、毛利殿も別働隊を伊予へ討ち入らせるらしい。


欲を言えば、四国全土を我がものとしたい。


しかし要らぬ欲は身を滅ぼす。

関東北条が、正に身を以て示したのだ。

故にまずは目先のことをコツコツと、な。


それに毛利殿は支援もしてくれると仰ったが、可能な限り手は借りずにいたい。


誘いは、与すれば阿波と讃岐をとのことだ。

しかし自力で切り取らねば戦後どうなるか判らない。


あのような恐ろしさを見せる毛利殿のことだ。

天下を抑えた暁には、ひょっとするとひょっとするやもしれぬのだから。







【悲報】息子と御曹司が勝手に西軍に付いた。



己は名も無き肥前の大名。


正確には大名ではないが、御家を差配する立場にある。


元々は御家の家老の、しかも二男でしかなかった。

しかし図らずも、先々代様の義兄弟となったが為に今がある。


先々代様が戦死なさってからは、御家の建て直しに働いてきた。

先代様が病に倒れてからは、御曹司を陰日向にお支え申し上げてきた。



己も当主一族に連なる者と言うことで、息子を先代様の養子にしてみたり、御曹司をその養子に擬してみたり。

あの手この手で上手く嵌るように工夫を凝らしてきた。


しかし、御家を支えるべく差配すればするほど己の名声は高まる。

戦の減った世であればなおのこと。


結果、太閤殿下に領地差配の認可を貰ってしまった。

これは正に痛恨事。


己の想いとは裏腹に、御家乗っ取りとの噂が絶えない。


先代様は分かって労って下さる。

しかし、家中の皆はそうでもない。


警戒して釘を指してくる者もおり、それは仕方のないことと丁寧に対応しているつもりだ。


むしろ、寿ぎ擦り寄って来る輩にこそ辟易する。

己の意を汲まず、噂に踊らされる阿呆ども。


昔はこのような小物、ほとんどいなかったと言うのに。

嘆かわしいことだ。


それはともかく、己と先代様は国元で政を見ている。

息子と御曹司は大坂にあり、人質兼次代への勉学に励ませている。



太閤殿下が亡くなられ、後を継ぐ秀頼様はまだ幼い。

当たり前のように権力闘争が始まった。


遠く肥前にも聞こえてくるほど、それは醜いものだった。


まあ、うちも余所のことは言えないが。



ともあれ、石田と徳川か。

様々な要素を鑑みて、石田に勝ち目はあるまい。


毛利を担ぎ出すとの予測があるが、毛利が本気で動くことはないと思う。

彼の御人は何とも底知れぬものがある、気がする。

あの茫洋とした顔の奥に、一体何を潜ませているのか。


石田は豊臣の為を思って行動するのだろうが、徳川はそうではなかろう。

であるならば、毛利もそのように動かねば勝ちの目はない。

毛利に豊臣のみを思って動く理由はない。


それに、毛利は天下を狙わないと言う国是があると聞く。

本気にはなれまい。


息子たちには大坂に在って中立するよう申し伝えよう。

まあ大した兵力も居ないし、どちらにせよ動けまいが。


己としては徳川方に加担したいが、無理することもない。

念のため陣触れだけしておくか。



後日、息子と御曹司が西軍に身を投じたと報せが来た。

数千規模の兵力まで持って。


何が何だか判らなかった。


何故、勝手に西軍に加担するのか。

何故、数千規模の兵力があるのか。

何故、何故、何故………まさか!


「御先代様ァァーーーッッ!!」



聞けば、先代様が大坂より依頼されご自分で動かせる範囲で動かしたらしい。

依頼したのはよりにもよって己の息子。


しかし、先代様の動かせる範囲はそう多くない。

依頼したのが息子と知った重臣たちが、勝手に上坂させたようだ。



先々代様の討死以来、常に冷静であろうと心掛けてきた。

故に久しく記憶にない、頭に血が上る感覚。


思わず辺り構わず怒鳴り散らしかけたところで、続々と報せが届き始めた。


曰く、毛利が石田に加担。

黒田如水の動き。

大友の蠢動。

長宗我部と毛利が結託云々。

九州における西軍の分布。


急速に頭が冷える。


そうだ、九州には如水が居た。

黒田は徳川に与しているが、如水は別枠だろう。

加藤清正も反・石田ではあるが、どう動くか。


冷静に考え、様々な予測を立てて行動せねば御家の為にならない。


とりあえず、今すぐ西軍から離反することは出来ぬ。

そんなことしたら息子と御曹司の命に関わる。

家も大事だが、それを継ぐ者も当然大事なのだから。


せめて、せめて事前に相談してくれていればッ



フゥー。

落ち着け己。


まずは、毛利がどの程度であるかだ。

早速報せを飛ばそう。



後日。


如水と大友吉統は、豊前と豊後を支配下に置いた。

はて、豊後は西軍の諸城だったはずだが。

今は肥後に入り、何かを狙っている様子。


己にも一味要請があった。


筑前・筑後の毛利勢力圏には手を出してない。

となると、西軍ではなく毛利に与したか。


息子たちの事を考えれば、今から東軍に付くのは危険。

毛利と如水が繋がっているなら尚更、一味するのもアリか。


己は如水に一味する旨、通知した。


それからすぐに中央での情報が入って来た。


何と、毛利が徳川を打ち破ったと。


……。


流石息子と御曹司!

長らく大坂に居た甲斐あり、時流を見る目が養われておるな!


先代様も、さぞ喜ばれよう。


こうしてはおれん。

早速毛利と繋がる如水に一味すべく、兵を上げよ!


九州の東軍勢は、全て抹消スルノダッ



ん?……ふん。

走り書きとは言え、余計なものは焼却するに限る。


このような書付は灰にしてくれる。

よし、急ぎ出陣するぞーッ



【悲報】息子と御曹司が勝手に西軍に付いた。



更にあらすじは詰めてません。

7/22人名修正しました。親興→親忠

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