第五話 関ヶ原に中の人
関ヶ原合戦、序盤は概ね史実通り。
隠蔽された俺の場所からは全く見えないけどな!
しかし山の向こう側から、戦いの気配が漂って来る気がするぜ。
南宮山には秀元と広家が在陣してる。
広家は東軍に通じ、毛利勢が参戦しないことを誓っていた。
誓った相手は家康じゃないけどな。
起請文を取り交わした相手は黒田長政。
九州で暴れてるであろう如水の嫡男だ。
誓約により、毛利勢は長政を襲うことはないだろう。
でも不慮の事故は仕方ないよね?
斥候と忍衆の話を鑑みるに、宇喜多が福島相手に大いに奮闘してるらしい。
重臣の抜けた穴が若干小さかった影響だろうか。
松平忠吉、井伊直政ら徳川家中も頑張っているようだが、史実通り徳川秀忠や本多正信の徳川本隊は間に合ってない。
流石に徳川本隊の乱入はないと思う。
でも念のため、中山道沿いには斥候を派遣して伏兵も置いてみた。
どっちに転んでも使えるように。
それはさておき。
家康は桃配山と言う、南宮山の麓にある小山に陣を張っている。
南宮山と言えば我らが毛利勢の主力(偽)が陣取っている。
何でそんな場所に布陣したのか。
壬申の乱の時の故事に倣ったとか何とか。
あと、広家が長政に起請文を出してるってこともあるんだろうね。
実際毛利勢が日和見するなら問題もないし。
ま、日和見なんてしないんだけどね。
とは言えすぐに雪崩れ込むことはない。
囲い込みたいからな。
今はかなり西軍が優勢。
もうちょいすれば、家康が督戦の為に陣を前に進めるはず。
焦って東軍諸君と裏切り予定族へ促す行動を取るだろう。
そこが狙い目だ。
やがて、家康が動いたと言う報せが届いた。
松尾山に目掛けて鉄砲を撃ち掛けたとも。
平岡は上手くやってくれるかな?
法螺貝の音。
次いで歓声が響き渡る。
よし、狼煙を上げろ。
各部隊に伝令。
広家、秀包は立花らと浅野、池田を蹴散らせ。
秀元は家康の背後を取るように。
途中の山内や中村は追い散らせ。
但し、蜂須賀は捕えよ。
安国寺と長束も同道させるように。
俺はその間に、主力(真)を率いて東軍の後方に蓋をするとしよう。
戦況は一進一退だったのが、一気に崩れた。
切欠は家康が陣を進め、松尾山に鉄砲を撃ち掛けたこと。
これに伴い、秀秋が山を下った。
向かった先は東軍、藤堂の軍勢。
家康の策が、破綻した瞬間だった。
って、元康からの使者が言ってた。
平岡は上手くやってくれたようだね。
花丸を上げよう。
石田や小西はかなり押されてたけど、宇喜多と大谷が頑張ったのがでかかったな。
コッソリ裏から手を回した島津も福島に向かわせた。
猪には鬼をぶつけて、な。
西軍(石田勢)の石田と宇喜多、小西に大谷は本気の本気で戦った。
東軍(反・石田勢)の福島と黒田、細川に藤堂や加藤らも、本気の本気で戦っていた。
戦場で奮戦する者たちも実に様々。
西軍(毛利軍)は秀秋と元康が石田、宇喜多らを絶妙なタイミングで支援。
島津も小勢ながら宇喜多と相対する福島に横合いから突き立てる。
奮戦する中、討死する者も当然出て来る。
西軍の戸田勝成、脇坂安治が討死。
大名じゃないけど、織田長次が乱戦の中で斬り死にしたらしい。
東軍でも松平忠吉を逃がす為に井伊直政が飲み込まれ、織田有楽が石田勢に討取られた。
家康の背後では、南宮山に備えていた蜂須賀、山内らが蹴散らされ降伏。
浅野と池田は討ち取った。
俺は蜂須賀の陣跡に一旦布陣。
少し兵を割いて広家に預け、中山道への守りとする。
広家は誓約があるのでね。
不慮の事故を考慮して残すことにしたのだよ。
そして俺は、秀包と共に秀元が抑える家康の陣へと向かう。
判り切ったことだけど、秀元が家康の背後をとると言っても気付かれない方が断然良い。
仮にも主力(仮)なんだし、斜め後方の山が動くと余裕で気付かれるよね。
気付かれたら逃げられる可能性が高い。
逃げ足が速い事も、後に天下人となった家康の特徴の一つだ。
そろそろ良い歳だが侮れない。
大坂の陣での逃げっぷりは、後世に語り継がれる程だからな。
そういえば、信長も秀吉も素早い行動を得意としてた。
天下人は俊敏さが必須なのだろうか。
輝元に俊敏さはないな……。
それはさて置き。
家康に逃げられない為には気付かれなければ良い。
気付かれないよう細心の注意を払いつつ、背後に迫る。
あとは、気付かれても逃げられないよう囲ってしまえば詰みだ。
そんな訳で。
正面に元康、背面に秀元。
そして秀包と俺が両翼から包み込むように囲む。
何とも素敵な布陣である。
問題は要である元康が、戦場真っ只中にいると言うことだが。
噂の元康さんは、秀秋を上手く盾に寺沢を追い散らして家康の正面を維持している。
流石は叔父さん。
地味ながら素晴らしい仕事です。
全てを終えたら、どこかで一国差し上げますよ!
さて、秀元は主力(仮)を率いて家康の背中を捉えた。
そんなところに俺、参上。
秀元、秀包と軽く打合せをして軍を動かす。
ここで毛利軍は戦場の主力(真)となる。
家康はここで必ず討取らねばならない。
時間を置くと秀忠率いる本体がやって来るやも知れん。
各個撃破が最上。
また、毛利勢で討取る必要もある。
今後の事を考えると、その勲功は何物にも代えがたいのだから。
じゃ、サクサク行こうか。
家康の周りに居るのは旗本衆約一万。
勇将と名高い本多忠勝も居る。
どうやら秀秋が東軍に向かった時点で、家康は撤退を考えたようだ。
何か右往左往してたんだもん。
戦場に在ってドッシリと構えるでもなく。
ただ只管に吶喊するでもない。
判断しかねたってとこかな。
伊勢街道に抜けるか、中山道を目指すか。
はたまた小勢となって山に向かうか。
でも悩んだ時間が命取り。
俺たちに取り囲まれてしまった。
家康はまだ俺がここにいることは知らないだろう。
だが俊敏さの足りない俺は、逡巡することなく打ち掛かろう。
手に持った采配を掲げると、承知した家臣が狼煙を上げる。
上がる狼煙を後ろ目に、俺は掲げた采配を前方へ勢いよく指し示す。
秀元が、元康が、秀包が。
それぞれ采配を振るったことだろう。
家康の陣目掛け、毛利勢が四方から殺到する。
鉄砲を撃ち掛け弓を射り、槍を突き出し刀を振るう。
バタバタ倒れるのは人と旗。
徐々に徐々に圧縮しよう。
圧殺でもいい。
遠目に黒田長政が駆け寄ろうとするのが見えた。
それを阻むのは秀秋と立花勢。
上手く機能してくれて何よりだ。
実質、関ヶ原に集結した毛利勢の大半が家康を狩る為だけに動いている訳で。
流石の家康に本多忠勝も、多勢に無勢は覆せない。
一万が無勢と言うのも何だかなって思うけど。
兎にも角にも、来るべき報はすぐに来た。
徳川家康、討死。
家康は最後まで降伏するのを良しとしなかった。
臣従はしても降伏はしてこなかった、今までの人生から来る自負が故だろうか。
実は、俺としても降伏されたら困ってたんだけどね。
だって仮にも大老の一人。
嘆願とか色々あって、結局助命する羽目になるのは目に見えてる。
だから四方を取り囲んでも、攻め込んであと一歩にまで迫っても降伏勧告はしていない。
ちゃんと討ち取れて良かった。
残ったのが家康の四男・忠吉なのも良いカードになる。
さて、残作業をしましょうか。
人名出し過ぎて分り辛いかもしれません。
尚、本作は既に下りに入っています。
2016/9/18 誤字修正(誓詞→起請文、終結→集結)