ヒロインに転生しました、でも何かがおかしいです!?
実際に貴族の中に平民が入るってそんな簡単じゃないと思って書いたお話。
日間短編ランキング5位になってました。
ありがとうございます。
最初は3歳くらいの時、母さんの顔を見ていると「ずーっと前から知ってた」ような気がしていた。
“それ”が何なのかに気付いたのは年に一度の国民魔力調査での事でした。
地元の田舎町で平民の学校に通っていた私は2年生の春の調査で微力だが稀な光属性の魔力持ちと判明。
わたし達母娘が暮らす町には今現在光属性の魔法使いがいない事もあり領主様は進んでバックアップを約束してくれました。
母はどちらかと言うと家から近い庶民寄りの魔法学校の方に通ったら?と最後まで言っていましたが、折角の光属性持ちはより良い環境で学び、この街に加護をもたらして欲しいと言う領主様の意見に母が折れ、結局私は王都にある私立パールス魔法学園に転入する事が決まりました。
ここで私が「鈴木 麻友」だった時の話を聞いてください。
突然なんなんだと思うかもしれないけれど、私には前世の記憶があります。
名前の通り特別な事は何もない普通の日本の女子高生でした。
多分、女子高生だった時後の記憶が無いので若くして死んでしまったのでと思います。
友達は多かった方だし、それも色んなタイプの友達がいたのはわたしの前世の財産でした。
そんな彼らにもう二度と会えないと理解した時はとても悲しかったけれど…前向きに生きて行こうと思いました。
この世界に既視感を初めに感じたのは上の記述の通り3歳の時だけど、ここ1か月はむしろ毎日がそうで。
王都へ行く私の為に領主様はお別れパーティーを開いてくれた日、わたしはこの世界を知っていると確信を持ちました。
お別れパーティーも終盤になり親友のアリッサとシュザンナ、そしてエマが話し出した事
「私立パールス魔法学園には王子様がいるんでしょう?お話しできるのかしら?仲良くなれたらいいわね~もしマリアが王子様に見初められたら将来の王妃様ねー!」
「現騎士団長の息子さまもいるって聞いたわ!彼もね、とってもカッコいいんですって!見てみたいわー。」
「王都には素敵な人がいっぱいなんでしょうね、あぁでもマリアもカワイイしなんてったって光属性の持ち主だもの!貴族様に見初められることもありえなくないわよ!」
ゲームの画面上で見た会話を親友たちが繰り広げるのを見ながらどうにか声を出しました。
「3人とも、落ち着いてそんな事あるはずないじゃない」
あぁ、そうだ。
わたしはこの世界のヒロインだった。
そう思いだしたら何故か私は彼女たちの言うとおり学園で同級生となる王子と恋におちなければと思っていました。
その考えが間違っていたと気付かされたのは、退学した後でした。
領主様が用意してくれた馬車に揺られること5日間、学校からほど近い下宿に着いたのは学園に転入する前日で、私は下宿先である食堂の2階の部屋に入るや否や疲れ果てていてすぐに寝てしまいました。
次の日、おかみさんに起こされて手書きの地図を頼りに学園へと歩いていると何台かの馬車に抜かされてゆきました。
(そういえば、王子様との初対面のイベントは馬車の前をヒロインが通り過ぎてひかれそうになる所を助けられて出会うんだった!えぇと、王子様の馬車は真っ白の馬が4頭で赤い制服の御者の人で…)
周りを見回し知っている限りの情報を元に王子の馬車を探すけど見つかりません。
時間があわなかったのかな?
それとも見逃した?
とっくに校門の前にまでたどり着いていたのに、いつまでも王子の馬車に探すのに必死になっている私を先生が迎えに来て注意を受けてしまいました。
何でも転入生は色々とわからない事が多いので初日は1時間ほど早く学園に来るようにと手紙を出しておいたのにどうして来なかったのか?と責められてしまったけどゲームではそんなこと言ってなかったのに、結局王子様とも出会えなかったし…なんかいきなり失敗しちゃった。
転校して2週間、初日に同学年の光属性の2人を先生が紹介してくれたけど、どうやらこの2人はカップルみたいで一緒に居ると自分が邪魔者みたいで居心地が悪かったので自然と距離を置くことにしました。
アンジェロ様(この国の第1王子)は火属性なのでゲームみたいにバッタリ人目のない所で出会わない限り関わることは出来ません。
この2週間ゲーム上で覚えている限りの密会場所を訪れてみたけれど、どこもかしこも人が居ました。
裏庭だったはずの場所は魔法薬に使われる薬草花壇でいつ行っても薬草の世話をしたり摘みに来たりしている人が居ますし。
屋上はガーデンテラスになっていて予約制の人気サロン会場になっていますし。
大きなホールは数年前に建て直されて各属性の練習場になっていました。
その他にも色々な場所にあるテラスはティーパーティをする格好の場所になっていますし。
教会の裏はここは動物園!?ってくらい多くの動物がいる保護施設が出来ていました。
食堂は貴族階級ごとに使用できる日が決められていて、婚約者がいる人はどちらかが当てはまる日なら同じ日に入れるけど平民の私は王族と公爵の日には近づく事もさせて貰えませんでした。
それどころか防御魔法のクラスで座学を受ける時にたまたま空いていたので子爵令息の隣に座ったら婚約者持ちに意図的に近づいたと注意され先生に減点1です。と言われたけどそんなのゲーム上で聞いたことなかったです。
このゲームは逆ハーは無かったけどその代わりにモブからモテモテになっているって描写があったのにそれも無いし…やっぱりアンジェロ様と出会えてないからなのかな…?
ある日のことでした、同じクラスの伯爵令嬢のディアベーラ様を同じく伯爵令嬢のモデナ様がティーパーティに誘っているのを見ました。
モデナ様に寄り添っているのは攻略対象の一人、ヒース様です。
ヒース様と言えばアンジェロ様と親しくされていたはずの一人でした。
モデナ様が「明日、放課後に4階の広い方のテラスでやるので是非いらして」とおっしゃっているのをしっかりと覚えてその場から離れ場所を確認しました。
次の日、ディアベーラ様が教室を出たのを確認してわたしは偶然を装ってテラスへ向かう渡り廊下を歩きます。
どうやらもうティーパーティは始まっているようなので少し早足でテラスへのドアを開けようとしたらアンジェロ様の従者ジュリウス様に止められました。
「失礼ですが、お嬢様こちらのテラスは本日は決められた方しか通さないようにと言いつかっております。申し訳ありませんがご遠慮ください。」
ゲーム上と同じトーンで淡々と語られた拒絶を理解したくなくて「そんなの良いから」と押し通そうとするとむやみに女性に触れる事が出来ない彼は開いたドアの前に立ち手を広げて通過の邪魔をしてきました。
ドアが開いたことでアンジェロ様がこちらを向いたのが解り必死だった私はどうにかジュリウス様にどいて貰いたくて思わず「ねえ、お願いだから邪魔しないで、後でジュリウスのことも構ってあげるから」と言っていました。
少しビックリした眼をしたジュリウス様はさっきより大きな声で「お嬢様、あちらにはアンジェロ王子や レイラ・ルーチェ・パールス嬢が居られるのです、ご遠慮なさってください」と言ってきました。
「 レイラ・ルーチェ・パールスって…」
悪役令嬢の名前じゃない!?
なんで王子と一緒に居るの?
わたしがちゃんと王子と出会えなかったから?
レイラ嬢の名前を聞いた瞬間思わず固まってしまい色々な考えが頭の中に浮かびました。
ゲーム上でのレイラ嬢は1つ年下なのにとても偉そうで王子に愛されてもいないのに将来の王妃としてと言いわたしをとことんいじめ抜く悪役でした。
なのに、なぜ…
あそこで王子と微笑みあっているのは確かにレイラ嬢
あんなに可愛かったかしら?
優しい表情で王子と見つめあう彼女はとても悪役令嬢には見えなくてわたしは訳が分からなくなりました。
そんな私に触れるのを躊躇しているジュリウス様を気遣いやって来たヒース様とモデナ様に「なぜ、アンジェロ様はレイラ様と笑い合っているの?」と聞いた私にヒース様は「お二人はとても良い関係を育んでおります。申し訳ないが今日はここのテラスはわたし達が予約しているのだ。遠慮願う。」と言われ、少し申し訳なさそうな顔をしたモデナ様に促され、結局アンジェロ様とは1度も会話はおろか目が合う事も無くテラスを後にしました。
1年に1度の共同魔術実習の前日レベル分けの発表がありました。
ゲーム上でわたしは1番上のレベルだったはずなのに渡された紙には初級と書いてありました。
ショックで固まっていると担当教師に呼ばれ光属性のトレーニングをしていなかったのか?と聞かれました。
どうやら学園のほかの光属性の方達は自身のトレーニングも兼ねて教会裏の動物保護施設や保健室に時間がある時は出向き治療や癒しをしているそうです。
同学年の光属性の2人はわたしにきちんとその事を伝えてくれなかったので知りませんでした。と言うと先生は初日にこの学園の生徒手帳を渡したでしょう?それに書いてある事ですよ、読んでいないの?と呆れているようでした。
結局、ただ1人の初級のわたしは次の日先生とマンツーマンで授業の復習をひたすらやらされた後は先生が呼びに来るまで用意されている魔石に魔力を注いでおいてくださいと言われ1日は終わりました。
評価はAを貰えましたが、先生の表情から大した事では無いと感じました。
そう言えば実習の日の帰り道で、あのレイラ嬢が3年生の公爵令嬢のビクトリア・ルス様と話しているのを見かけました。
ゲーム上では実習の日を切っ掛けに3年生の公爵令嬢のビクトリア・ルス様とわたしは親しくなり、アンジェロ王子との結婚の際の後見人には彼女の実家の公爵家がなってくれるはずでした。
何かが、壊れた音が聞こえた気がしました。
この日以来、わたしは学校に行かなくなる日が増えたのです。
卒業式までいよいよ1週間となったある日、わたしは学園長さまから呼び出しを受けました。
重い足取りで学園長室に入った私が見たのはソファに座る領主様とわたしの母さんでした。
母さんと目が合い、お互いにお互いを確認するようにゆっくり近付き貴族の奥様達とは違う固い手で頬を撫でられた瞬間。
わたしは泣いていました。
「マリア、あぁマリアこんなになるまで気付けなくってごめんなさい。もう、大丈夫よ帰って来なさい。マリア、もう泣かなくって良いのよアリッサたちもあなたの事をとても心配しているわ」
抱きしめてくれる母の胸に顔をうずめ泣きながら、この1年わたしは辛かったんだと今更ですが気が付きました。
多くの校則違反を犯した私の予想通り、学園がわたしに下した決断は【退学処分】でした。
先生方は優秀な者が多い光属性だからと過信して平民のわたしのケアを怠ったことを謝罪して下さりました。
学園長さまはわたしの町から通える魔法学校への転入手続きをしてくださいました。
ようやく泣き止んだ帰り道、多くのお金を無駄にしてしまった事を領主様に謝ると
「いや、こちらこそすまなかったマリア。君は町にいる時たくさんの友人と楽しそうに過ごしていたのを見ていたのにレベルの高い教育だけに目がくらみ貴族と規則の中にたった一人放り込むような真似をしてしまった、久しぶりに見た君の瞳は悲しいと寂しいと言っていた。わたしのミスだ、ゆっくり休んでおくれ」
と瞳を潤ませて謝って下さいました。
涙をごまかそうとした領主様が「もうそろそろ着きそうだ」と馬車の窓を開けると、風に乗って懐かしい花の匂いがしました。
わたしはわたしの居るべき場所に帰ってこれたのです。
完
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ヒロイン・マリア(転生者)サイドの話を書いてみました。
私の拙い文章で気付かれた方がいらっしゃるかはわかりませんがヒロインには最初の頃の少しだけゲームの強制力が働いていました。
前世も今世もヒロインのありのままの姿は友達が大好きな友達思いの明るく素直な女の子です。
レイラとは学園時代彼女の改革のせい(おかげ?)で一回もかかわる事は無かったのですが、一度でも話す機会があれば実は良い友達になれたと思います。
やる事なす事マイナスに作用してしまう学園で数少ない平民のヒロインと関わろうとする貴族はほぼいませんでした。1年の年月は明るい少女を孤独にしました。
しかし、そんな辛い日々も日々ふさぎ込む少女を見かねた下宿のおかみさんが領主様に連絡を取ってくれた事を切っ掛けに好転して行きます。
レイラたち貴族からすればヒロインは学園からの脱落者ですが、次に行った魔法学校で彼女は優秀な光属性の魔術師になり領主様との約束通り死ぬまで町を癒し続け穏やかに暮らしました。
平民のヒロインは労働で硬くなった母の手が好きでした。
そして地元の友人とその町にだけ生えている花の匂いが好きでした。
そんなヒロインがゲームの通り王子と恋におちても貴族社会に潰されていた事でしょう。
結果としてレイラの改革はヒロインの幸せにつながりました。
誤字脱字など、気になる部分がありましたらすぐに直すので教えて下さるとありがたいです。






