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異世界転移取材旅行紀  作者: 夜光電卓
3/4

第参話

        ☽―☀―☽



「――それで俺はその騎士さんが持っていた剣を持って逃げた……という訳なんですけど」


 俺は淹れてもらったばかりのお茶を一口含む、温かい液体が喉を通して胃の腑に落ちていくのが感じられる。

 温かい――。


「此処は“異世界”なんですよね――」


 カップから口を離しそう尋ねると、俺の目の前に座っている男が口を開く。


「そうだな、小僧から見れば此処は“異世界”ということになるだろうな」


 金の短髪、顎鬚を生やした大柄で武骨な出で立ち。耳は長く尖っている。身長は二メートル近くあるだろう。

 狼達から俺を助けてくれた、はぐれエルフ――トーマスは渋い声を薄暗い部屋のの中で響かせてそう答えた。


「信じるんですか? いきなり異世界から来たとか言って」

「珍しいことではあるが異世界から、この『サーァラ』へ迷い込んだり、召喚された者の話は伝説や伝承として残されている。異世界から転生した者の話もあるし、オレ自体も一度自らを『異邦人(ストレンジア)』と名乗った者との面識がある。もう千年も前の話だが……」


双月世界『サーァラ』それがこの世界の名前らしい。俺たちの世界が『地球』であるように。

 それにしても聞きなれない単語がたくさん出始めた。


「『異邦人』ですか?」

「ああ、異世界から来た……そういう者を此処ではそう呼んでいる」


 異邦人か……ホントに此処は別の世界なんだと実感する。

 幼い頃にみなみとちょっと口げんかした時の事を思い出した。

 あれは確か宇宙人の特集番組を見た次の日だったか、宇宙人がいるか否かという話しになって、宇宙人から見れば俺達が宇宙人だ。なんて話をした……なんでみなみの事を思い出したのだろう?


「大変だったのね……」


 助けてくれたもう一人のエルフで、トーマスの娘だというローラだった。

ピンクがかったブロンドの長い髪に、線のほぞい体躯。エルフならではなのかやはり耳が尖っているが、トーマスに比べれば少し短い気がする。

 年齢はそう俺より少し上……日本なら高校生ぐらいか、翔兄と並べばお似合いのカップルだよな……そんな風に思ってしまう、俺が女神と見間違えた美少女だった。


「俺は……元の世界に帰れるんでしょうか……」


 此処は異世界だ。

 ラノベなどではテッパンネタともいえる異世界モノ。召喚、転生、転移……その世界になんらかの理由で迷い込んだ現代人が、剣と魔法のファンタジー世界で、時に勇者となって魔王を倒したり、人生をやり直して成り上がっていくだとか。

 活字や漫画ではよく見た状況へと俺は今現実のものとしている。


 俺に限って言えば異世界へ“転移”したということになるだろう。

 もしこれが転生だったとしたなら、戻る方法は難しくなるだろう。その場合、俺は日本で一度“死んでいる”事になる。その場合、俺はあくまで前世の記憶が残っている別人だ。

 だがこの世界で目を覚ました時、俺は事故に遭う直前までとほとんど容姿も所持品も変わらなかった。

 なら俺がこの世界に迷い込んだのは“召喚”か“転移”と言うことになる。

 だが召喚だったらなぜあんな森の中で一人きりだったのかが理解できない。召喚された場所がなんらかの理由でズレてしまった可能性は考慮するべきだが、此処は“転移”とだけ考えていた方がいいだろう。

 人為的かそうでないか……それだけの違いなのだから。

 さて普通に考えれば此方側に“来れた”と言うことは“戻れる”方法はあると思うが……。


「可能性は……ある」


 そう呟いたのはトーマスだ。俺は歓喜のあまり大声を上げた。


「ホントですか!」

「待て、可能性があるだけだ。正直何とも言えん」

「それはどういう……」

「先ほど言ったな、俺には千年前に自らを『異邦人』……つまり異世界からこのサーァラに来た知り合いがいたと……、確かそいつの故郷が、お前と同じ『地球』『日本』だった筈だ」

「そ、その人は故郷に戻れたんですか?」


 俺が聞くと首を横に振った。

 そんな……。


「待って、違うの……戻れたのかどうかトーマスにも解らないの……」


 俺が絶望の色を落とすとローラが慌てたように答えた。

 解らない……って。


「帰還方法らしきモノは見つけた。だがそしてそれでオレの知り合いは消えた。オレの目の前からな……。だから元の世界に帰れたのかもしれないし……」


 そうでないのかもしれない――、トーマスは言外にそう言っている。


「伝承などに書かれた人物達はやはり詳しくは解らない。死んだと明記されている場合は別だが。伝説などでは異世界人の最後はほとんど書かれていない」


 帰還方法はあるかもしれない。ただしこちら側……つまり『サーァラ』からはそれを確かめる術が無い。

 そういう事らしい。


「それにこの世界は、今の非力なお前にとっては脅威でしかない。黄昏紀に入って五千年……妙に世界が殺気立っている。オレが知っている帰還できる場所にしても、他の帰還方法を探すにしても、今の小僧ではあっという間に魔物の餌になるだろう」


 その脅威は俺も痛いほど感じている。

 いきなり狼に襲われたのだ。それもあの狼は魔物ですらない野生の獣らしい。

 つまり他に魔物という概念が、この世界には存在するという事だ。

 トーマスとローラが助けてくれなければ……正直どうなっていたか想像したくもない。


 行きはよいよい、帰りは怖い――。


 帰れる自信は全く無いと言っていい。

 もしなんとか努力しても、帰れる方法が本当にあるかどうかは解らない。

 トーマスの言う知り合いが消えた方法だって、本当に戻れたのか、それとも別の異世界行ってしまうのか……最悪、文字通り消える可能性もある。


 詰んでいる気がする――。


「諦めるのは簡単だ。だが、オレの知り合いは五十年――帰還方法を探した。その上で改めてオレからも聞こう。小僧、お前はどうしたい――?」


 どうしたい――? とはどういう意味だ。


「小僧……本当はオレ達も小僧が元の世界に戻れるように協力したい。でも、オレ達はこの大森海から離れる事ができない。とある事情で隠れて暮らしているからな……でも、小僧が帰還方法を探したいって言うなら、出来るだけの準備は手伝ってやれる……それ以上は……」


 つまり旅立つなら独りで行け……そういう事だろう。

 確かにワザワザ命を救ってもらったのに、帰還方法を探す旅まで協力しろ……なんておこがましい、我儘だ。


「けどもし、もしだよ。キミがこの世界で生きるというなら……私達と一緒に暮らさない? 隠れて過ごす生活だけど……でもきっと安全よ、少なくとも此処二十年は何事もなかったし……」


 続けたのはローラだった。その顔は作り笑いである事がハッキリとわかった。

 悲痛そうな、憐れんだ眼差しが俺を撫ぜる。

 やめろ、やめてくれ。


 それは、もう二度とあそこに……家族や、みなみや、クラスメイトのいるあの世界に戻れない。


 そういう事なのだから。


 翔兄の安否も解らないのに――。

 一次選考の結果も解らないのに――。

 せめて、スマホが通じれば――。


 そこで、そこでだ。やっと俺はスマホの存在を思い出した。

 あまりに慌ただしく学校を出た所為で、まったくと言っていいほど気が回っていなかった。


 いや違う、見たら一次の発表、そして翔兄の安否。二つの厭な事実を突きつけられるようで怖くて見れなかったのだ。

 この世界に来てからはまったく忘れていた。

 あったとしても、どうせ通じないだろうと高をくくって。


 俺は体操着を突っ込んだ時に、リュックの底へ押し込んだであろうスマホを掘り起こした。

 見れば着信ランプが光っている。


「それって魔法具?」


 モニターをつけると当たり前のようにアンテナは圏外だった。

 そんなことは百も承知だ。それから着信が十件。メールが三件入っている。

 着信は全部、母さんだった。

 それもいい。

 問題なのは――、


「翔兄ぃ……?」


 着信メールの一番上に翔兄の名前があった。


『勇二、ごめんな。オレは大丈夫だ。オレが乗ってたのは後ろの方のバスだったから。でも前のバスに乗っていた同級生には死傷者が出てるっていう。オレ生徒会だったから、生徒の誘導したり、点呼とったりで、連絡遅くなった。ごめん。

 ケガもないから安心して。

 それから、一次突破おめでとう。今はバタバタしてるから無理だけど。落ち着いたらお祝いしような。

 こっちは色々大変だけど、オレは大丈夫だから心配するな。また連絡する」


 発信時間は十二時五十三分。逆算すれば、俺がトラックに轢かれそうになる直前か。


「おい、小僧――!」

「大丈夫?」


 ローラがハンカチを渡してくれた。

 俺は、泣いていた。


「兄が、翔兄が生きてました――」


 俺がそう言って泣き出すと、ローラが優しく抱きしめてくれた。

 小さい頃は泣くと、母さんがよくこうしてくれたな。

 おかげで、俺は安心して泣き続けることが出来た。



        ☽―☀―☽



 ひとしきり泣き終えると、残りのメールを確認していった。

 一件はやはり母からで翔兄の事故を報せるもので、これから迎えに行くから学校で待ってるようにと書いてあった。

 もし読んでいれば――いや読んでいたとしても俺は駆けだしていただろう。実際木内先生から母が迎えに来ている事は聞いていた訳だし。

 もう一件はみなみからだった。


『一次通ってるじゃん、おめでとう! 翔一さん達とお祝いするんでしょう? 私も呼んでね、楽しみに……待ってるよ』


 また泣きそうになった。

 一次審査を通過した。たぶん今回はこれが限界だろう。

 二次以降は流石に無理なのは解った。それでも俺は気が晴れやかだった。


 俺の書くものが、少しは認められた――。


 それが嬉しかった。

 みなみも翔兄も喜んでくれている。

 母も父も、今は色々あって今はそれどころじゃないけれど、落ち着いたらきっと祝ってくれるだろう。

 普段は気にしないそぶりだったが、俺以上に心配していたのを知っている。


「私にはよくわからないけど、お兄さん無事でよかったね」


 ローラが自分の事のように喜んでくれた。

 その笑顔に、ちょっと胸が詰まる――気がした。


「よかったな――だが、水を差すようで悪いが、お兄さんが無事でも小僧――お前が今いるのは別世界だぞ」


 浮かれかけていた気分をトーマスによって、一気に現実へと引き戻された。

 そうだ、文字通り今俺は翔兄達と別世界にいる。


 翔兄が生きていた、最初は大変だろうがまたあのいつもの日常が俺に帰ってくる。

 それに一次審査も通った。将来の夢への第一歩が踏み出せた。

 不安が一気に消えた。


 勿論、それは俺が無事に戻れればの話だが――。


「先ほどは話しが途中になったが、もしどこか安全なところで暮らしたいというのなら手助けはする。ローラが言ったように此処で一緒に暮らしてもいいし。別の場所を紹介してもいい。ただ『地球』には二度と帰れないと思った方がいい」


 二度と――やっと不安が解消されて、明るい未来が見えたというのに。

 そして元の世界に戻るにしても、何年かかるかわからない。それも危険なこの世界で――。


 平穏の為の諦めか、死を背にした挑戦か――。


翔兄も無事。せっかく一次も通った。

 できれば早く戻って――。

 でも、今の俺じゃ、帰れない。

 時間が――。

 どうすれば、どうすればいい。

 翔兄なら、こういう時どうする?


 俺はジッポを取り出すと、翔兄みたいに蓋をカチカチと開いては閉じた。

 翔兄が考え事をしている時の癖だ。

 するとローラが不思議そうにそれを見つめた。


「それは――?」


 ジッポが、ライターがこの世界にはないのだろうか?


「あぁ、これはライターです。こうやって」


 そう言って俺は火をつけて見せた。トーマスとローラが驚いた。


「魔法具か? 魔方陣も魔晶石もないのに。詠唱も無かったな?」

「ルーガンの魔法具に似ていますね。機械(マキナ)でしたか――でも、魔術で出したものより炎が綺麗な気がします」


 でも、その火を見て、どこか懐かしい感じがした。

 まだ、そんなに経ってない筈なのにオイルの匂いが、郷愁の思いを漂わす。

 帰りたい。あの世界に。あの日常に。

 家族や友達がいる。

 あの世界に。


 もう不安は無くなったのだ。あとは俺が元の世界に戻るだけ。

 できればすぐに――しかし早く戻ろうとすれば、俺は……。

 早く――、いやなんで俺は早く元の世界に戻りたいと思ったのだろうか?

 そもそもは翔兄の安否が解らないから、急いで戻りたかったのだ。

 だが翔兄が無事なのはもう解っている。


 それは出来るだけ早く帰りたい。

 翔兄達に一次の通過を祝ってもらって、新作の準備をしなければ……。

 でもそこまで急ぐ必要は――?

 


 その時、翔兄の言葉を思い出した。昨年の誕生日だ。

 翔兄は万年筆を俺にプレゼントしてくれた。


『勇二、小説家になりたいんだったら。どんな時もメモ帳と筆記用具を持ってろ。何が題材になるか解らないからな。どんな時でも取材できるように、あとできればカメラがあった方がいいけど、それはスマホでなんとかなるだろう? この万年筆があればカッコもつくだろうし……。そうだ、オレが高校卒業したら、一緒に海外旅行に行こう。ヨーロッパに。アッチはファンタジーの本場だし、取材旅行にうってつけだろ?』


 取材旅行――。

 翔兄にもらったのはジッポだけじゃない。万年筆も持ってきてる。

 学校帰りだから、メモ帳どころかノートもある。

 ヨーロッパどころか、俺が今いるのはガチのファンタジーな異世界だ。


 ここで取材旅行すれば、いいものが書けるかもしれない。

 帰還方法を探すのと一緒に、この世界を取材旅行する。

 剣と魔法の世界を、取材旅行するなんて普通の作家が出来るはずはない。

 慌てて帰る必要なんてない。

 せっかくの機会だ、自分の夢を叶えるために――。

 この世界で取材旅行。


「トーマスさん、俺、帰る方法を探します」


 トーマスは『そうか』と頷いた。

 ローラは寂しそうな顔で俯く。


「でも急ぎません。俺はしばらくこの世界を旅しながらこの世界を知りたいと思います。だから、此処を出るのはまだ暫く先でいい。それまで俺を此処に置いてくれませんか」


 トーマスとローラは「ん?」と小首を傾げる。


「俺が一人で旅できるぐらいまで、俺を鍛えてほしいんです。一年かもっとか。それでトーマスさんが大丈夫だと思ったら、俺一人でこの世界を旅したいと思います。帰還方法を探すために」


 よく考えれば、今すぐに帰りたいと思うから二択しかなかったのだ。

 腹をくくって、時間を気にしなければ自分が強くなって、帰還方法を探すのも悪くない。

 いつか『地球』に帰る。

 それは絶対だ。

 だが翔兄も大丈夫だったし、少なくとも一次は通るぐらいは俺も小説が書けるってことはわかった。

 なら『地球』に戻った時に、翔兄に自慢できるように。


 これはピンチじゃない奇貨だ。普通に考えれば垂涎モノの状況だ。

 俺にはこの世界を旅する意味がある。

 夢のために、将来のために。

 ファンタジー作家になるために。


「……そうか。やはり夢通りと言うことだな。夜に哭く鴉は間違いなかった」

「?」


 トーマスの言葉に今度は俺が小首を傾げた。


「任せておけ。この世界での生き方を教えてやる」

「よろしくね。ユージ」


 ローラも嬉しそうに言ってくれる。


 こうやって、俺の『異世界取材旅行』は始まった。


取りあえずここで旧;作家志望~のだいたいは戻ってきました。

今後は少し遅めの上、短くなってしまいますがちゃんと更新したいと思っています>>


ちなみに次は幕間劇で、旧;作家志望~とほとんど変わっていません

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