第壱話
はじめて異世界ものを書いてみました。
他の異世界モノを参考に書かしていただいていたのですが、やはり俺にはちょっと難しく、自分のよく書く文体で書き直ししました。
基本のシナリオなどは前とほとんど変わりません。
よければ今後ともお引き立てのほどよろしくお願い申し上げます。
星空が広がっていた。
その所為か夜空は明るく、地平に広がる白銀の雪原の照り返しもあって、世界は幻想的な雰囲気を醸し出している。
特に幻想的なのは、その夜空に架かる双子の月達だった。
そう双子の月。
一方はまさに鮮血のように紅に、もう一方は黄昏の前の海の様に蒼い。
幻想的、いやそれを通り越してまさに異世界のような夜景であった。
しかしそんな絶景を堪能する間は現在、俺には無かった。
その雪原を俺――永谷勇二は全力疾走している。
そしてその後ろを三つの影が追いかけてきている。
三つの影に六つの眼光、四足獣のならでわの驚くべき速度で、無垢色の絨毯を踏み砕き崩していく。
追っているのは三匹の狼だった。くすんだ銀の体毛を纏った、獣が荒い息を上げながら全速で雪飛沫を上げて迫っている。
その咢は肉に餓え、血に飢えている。
なんだよ、なんなんだよ此処は――。
死にもの狂いで雪の中を飛び跳ねる様に疾走していく俺を尻目に、狼たちはその距離を段々と縮めていく。
野生らしき狼に追われる、そして何故かその狼から逃げれているという事実に、パニックしつつ、俺は同時にどこか冷静にその現状を傍観していた。
看過できないどころは多分にあった。
まず“此処”が“何処”かということだ。
遡ること数時間前、目が覚めたらいきなり森の中に居た。
という把握しづらい状況から、コスプレした死体を見つけ、そしてその血の匂いに誘われたらしい狼に追われ逃げている。
その森もだいぶ前に抜けたらしく、今は広い雪原を狼と追いかけっこしている。
次に狼に追いかけているという現状だ。
俺の十四年で知りえた知識に、俺が住む日本に野生の狼が存在したとは思えない。
なら、何故俺は狼に襲われているのであろうか?
動物園から逃げてきたのか、それとも狼に似た野犬なのか。
そして先述の絶景と双子の月である。
俺のよく知る月はたった一つ。それも紅や蒼ではなく、黄色っぽい色をしている。
そしてついさっきまで初夏の気配を感じる昼間だったはずだ。
ならば、ここは何処だ……ということになる。
そして俺はこの状況によく似たシチュエーションをよく知っていた。
それはあくまで趣味の範囲であり、守備の範囲であり、俺の得意とする分野でもあったわけだが、その事実はあまりにも荒唐無稽だった。
はっ、と殺気に気付いて振り向くと、一匹の狼が大きく跳躍していた。勿論俺に向かって。
ウワっ――と頼りない声をあげて、持っていた『剣』振り回すが、足を縺れさせて雪の中に尻餅をついてしまう。
お蔭で狼の攻撃をかわすことは出来たが、
しまった――、
そう思う間もなく、二匹目が俺に向かって飛びかかる。
目の前に真赤な狼の顎が迫った。鋭い牙が雪原の照り返しに鈍く光る。
くそっ、死にたくない。こんな所で死にたくない。
まだやりたいことがあったんだ。翔兄の安否だって確認したい。
おまけに童貞で、中学二年生という儚い人生なんて嫌だ。
『ウぁあああああああ――!』
その瞬間、目の前の狼が空中で止まった気がした。その顔には『?』が浮かんでいる。
そして狼は――打ち返された野球ボールの様に大きく吹っ飛んだ。
そして俺は現状を確認して唖然とした。俺を中心に円形状の雪跡が出来ていた。
まるで俺から衝撃波がおきたかのように……。
「な、なにが起こったんだ――!?」
見れば残りの二匹も巻き添えを喰らったのか、先ほどよりも距離を置いている。
いったい、俺は――なにをした――?
しかし答える者は無く、変わりに三匹の狼が立ち上がろうとしていた。
その眼光を怒りの焔に燃やしながら。
まずい――、俺はすぐに剣を杖代わりにして立ち上がるがそんな判断が追いつくはずも無く、状況は最悪へと移ろいで行く。
狼たちは先ほどとは違い、ゆっくりと様子を伺うように距離を詰めてくる。
円形状に俺を囲んで。
俺が逃げようとすると威嚇し、三匹を支点とした円形の包囲網は段々その距離を縮めていく。
なんとかならないか――?
さっきの超能力のようなものが出ないか試してみるが、何も起こりはしない。
むしろ先ほどより異様な虚脱感と倦怠感が身体を満たしている。
俺はその場で膝をつく。
此処で終わりか――。
一匹の狼がそんな俺の姿を見て、にやりと嗤った気がした。
『――CALL』
それは緊迫したその空間を裂くには充分な程、ハッキリとした温かく優しい声だった。
次の刹那に状況はまた一変する。
目の前にいた狼が――焔に喰われた。
いったいなにが起こってるのだろうか、焔で出来た蛇のような塊が狼をその咢で丸呑みにしたようだった。
そして狼は焔に包まれ大きな火柱を上げながら悲痛な絶叫を上げる。
なんだこれ――、
それを見た所為か、残りの二匹は脅えるように震えると、一目散と森の方へと逃げ去っていった。
――これじゃまるで“魔法”じゃないか。
火柱から押し寄せる熱風は、確かに熱さを感じた。
火柱は小学生の頃にボーイスカウトでやったキャンプファイヤーのようで、実感と肌が焼けるような熱さが現実として触角を刺激している。
また俺がやったのか――?
先ほどと違い、その問いに答えてくれそうな“声”がした。
ハッキリとした優しく暖かな声で――、
「大丈夫ですか――?」
その声に振り向くと二つの影が、火柱の灯りに照らされて現れた。
一人は大柄で体格のいい男――、そしてもう一人はピンクがかったブロンドの長い髪。
自分より少し年上か……高校生くらいのその美少女だ。
ただ少し不思議に思ったのはその二人の、髪から尖った耳の先が覗いている。
まるで俺が好きなファンタジーものによく出てくるエルフのように。
『美少女エルフ……まるで異世界の女神みたいだな』
俺はそう呟くと緊張が解けた所為か、それとも先ほどから感じる倦怠感の所為か……俺は気を失った。
☽―☀―☽
寝ぼけ眼で自分の部屋から出て、階段を下りていく。
ガタゴトと音がして、俺は目的のリビングから玄関の方へと視線を送る。
するともうそこに旅行鞄を置き、靴紐を結んでいるところの俺の兄、永谷翔一がいた。
「翔兄、おはよう。もう行くんだ」
「勇二……どうした? 変に緊張して寝れなかったのか?」
翔兄にそう聞かれて苦笑しながら頷いた。流石は翔兄はお見通しのようだった。
「うん。まぁそれでも三時には寝れたから」
俺がそう答えると翔兄は苦笑しながら「無理して起きなくてもいいのに」と優しく笑いかける。
「まぁ、今日が発表だからな。ネットでも見れるんだよな?」
「うん。ただ発表は十二時で授業中だからすぐには見れないんだけど」
「こっそり見ちゃえよ、机の下にでもスマホ隠しながら見れるだろ?」
「その時間、体育なんだよ」
俺の答えに翔兄は「そっか」と苦笑しながら靴紐を結び始める。
「じゃぁオレの方が先に発表見れるな? 楽しみにしてるよ」
「やめてよ、どうせ落ちてるし、それに一次だよ。気にしないで翔兄は就学旅行楽しんできてよ」
「なに弱気になってんだ、きっと大丈夫だって。あれだけ頑張ったろう? オレだって面白いと思ったし」
翔兄にそう言われては少し恥ずかしい。とりあえず『ありがとう』と小さく呟いた。
「悪いな、そんな大事な日に一緒にいれなくて」
「だから気にしないで、修学旅行楽しんできてよ」
「お土産期待してろよ、お祝いと一緒だから!」
翔兄はそう嬉しそう立ち上がった。
「あら、翔一もう行くの?」
後ろから声がかかった。エプロン姿の母さんがパタパタとやってくる。
「あぁ、生徒会は実行委員のサポートで早目に集合なんだ。っていうか雑用の手伝いさせられるだけだけど」
翔兄は旅行鞄を手に取り「じゃぁ、行ってくるな」とドアノブに手をかける。
「うん行ってらっしゃい」
「気を付けてね」
二人で見送ろうとすると、翔兄は「あっ、」と何かを思い出したかのように振り返った。
「あっ、そうだ勇二、学校では練習すんなよ!」
翔兄はそうニヤリと笑って言うと、あらためて扉を開けた。
「練習ってなんのこと?」
そう聞く母を無視して、俺は苦笑いで出て行く翔兄にただ手を振った。
☽―☀―☽
『夢を叶えるための第一歩は、無謀だと解っていてもまず一歩を踏み出すことだ』
と、翔兄は言っていた。
もう一年近く前の出来事だが、中学に入って初めての夏休み。身長も程ほどで、勉強も運動もソコソコ。習っていた空手も中学進学と共に辞めてしまい、部活にも入らずボーっとゲームをしていた俺を見兼ねて翔兄は俺にとあるHPを見せながらそう言ってくれたのだ。
開いていたのはとある出版社の主催する新人賞の公募記事だった。
「勇二、お前小説家になりたいんだろ? 剣と魔法のファンタジー作家に……」
何故俺の夢を翔兄が知っていたのかわからない。別に隠してはいなかったけれどだからと言って特別に宣言などもしたことはなかった。
「お前見てればわかる。でも、今のところなにかする気は無いんだろう? なら試しに一本書いてみろよ」
翔兄はそう言って先述の言葉を繋げたのだ。
きっとボーっと無為に時間を潰している俺を叱咤してくれたのだろう。
だから最初は嫌々、そして段々と本気で俺は翔兄に煽てられるまま半年以上の時間をかけて処女作を書き上げた。
その新人賞の公募締切からおよそ三か月。
遂に今日、一次選考の発表が行われる日だった。
運よくなのか、悪くなのか、発表は平日の真昼間で、それどころか俺の処女作を絶賛(俺に気を使ってくれたのだろうけど)してくれた翔兄は就学旅行で北海道へと行ってしまった。
正直に言うと自信がある訳では無い。確実に一次選考で落とされているだろう。期待するだけ損だ。
初応募の処女作で巧くいくなんて、この世界そんなに甘くは無いだろう。それもリアル中学二年生の(執筆中は中学一年生だったわけだが)稚拙な駄文では……。
それでもあの翔兄が褒めてくれたことに、一縷の希望を見出してしまう。
あの翔兄が褒めてくれたのだ、一次選考ぐらいなら、もしかしたら……。
そんな風に思ってしまう。
「ユウ、なにニヤニヤしてるの?」
「えっ、別に」
「またなにか考え事でしょう。エロいことでも考えてんじゃないの?」
その言葉に俺は眉間に皺を寄せる。
確かに思春期真っ盛りの中二男子とはいえ、常日頃しょっちゅうエロいことを渇望して考えているわけでは無い。
むしろ今の悩みはいたって真面目で、俺の場合深刻と言えるかもしれない。
「あっ、そっか。今日だっけ発表」
そこで、みなみは嬉しそうに呟いた。
港みなみ。同級生で家が隣同士。おまけにこうやって登校も一緒にするという。どこぞのマンガみたいな俺の幼馴染。さすがにクラスは違うし、隣の家に住む“みなみちゃん”だからと言って喫茶店をやっているわけでは無い。
正直、ここまでくるとフラグが絶対立ってるような気がするが、現実がそうもご都合主義では無い事を、俺はよく承知している。
俺は知っている。みなみが好きなのは翔兄だ。
実の兄。翔一は俺から見ても凄い兄だ。
勉強はできるし、運動もできる。
成績は県内トップの高校でいつも上位だし、俺と一緒に中学なで通っていた空手では、全国大会で優勝したこともある。それだけじゃ飽き足らず先生に頼み込んで古武道の型まで自主的に教わっていた。
小さい頃から地元では神童と呼ばれ、性格も温厚で優しい。ルックスもどこぞのアイドルみたいで(実際、数年前に母とみなみで、勝手に大手のアイドル事務所に応募したこともあった)また中学の頃は生徒会長もこなす完璧超人だった。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、冷静沈着、
シナリオ的には、弟である俺が僻んだり劣等感を覚える所だが、ここまで差を見せつけられると、逆に嫉妬も浮かばなくなる。
むしろ翔兄は弟の俺にけっこう甘い。
小さい頃から可愛がってくれるし、どんな時でも俺の味方になってくれる。
それだけじゃなくて、間違ってるときはちゃんと叱ってくれる……ほんと人生チートみたいな人物だ。
俺の拙い小説をみて褒めてくれ、的確なアドバイスもくれる。
俺の憧れ、尊敬する自慢の史上最強の兄貴だ。
だからみなみの好きな人が翔兄なら、嫉妬すら湧かない。納得してみなみに“がんばれ”って思ってしまう。
張り合う事すら眼中には無い。
「それで、発表は何時?」
「十二時にウwebで。一次審査突破した人物が一覧でHPにのるって」
「じゃぁ、四時限目は授業集中できないね」
「ウチ、四時限目体育」
「あら残念。じゃぁ先に見といてあげるよ」
「なんで翔兄やみなみが先に見れて、俺ばっかり……」
「そういえば、翔一さん修学旅行だっけ?」
「うん、三泊四日で北海道。十二時頃はもう飛行機降りてるだろうって」
「へぇ~、残念ね翔一さん。ユウの泣いてる顔見れなくて」
落ちてる前提で言ってるなコイツ。勿論落ちてるだろう。そうに決まっている。そこまで俺は厚顔無恥では無い。自分の実力も、そして他に多才で優秀なライバル達が多くいることも解っている。
でも、少しは、ちょっとは、ほんのチョッピリは期待してもいいじゃないか?
「大丈夫、ちゃんと慰めてあげるから」
身体で?
「またエロいこと考えたでしょ!」
みなみの言い方にも問題があると思うのだが、そうは言わずに俺は「別に」とだけ返し、ポケットに手を突っこむ。
今日は少しだけ肌寒い。
ポケットの中で堅いモノが指に触れた。
「あっ、」
しまった“持ってきて”しまった。その金属の冷たい感触で、ソレが何なのか理解する。
「どうしたの?」
みなみが聞くのに対し俺は再びこう返す。
「別に……」
持ってきたモノは仕方がない。人前に出さず、ばれなければ大丈夫だろう。
ジッポライターぐらい……。
☽―☀―☽
現時刻は十二時五分。
四時限目が始まって十五分。一次選考の発表が始まって既に五分もの時間が経っている。
まさかこんなにも時間が経つのが遅く感じるとは……。
正直先ほどの三時間目までも気がそぞろでヤキモキしていたのだが、四時限目が始まってからそれどころではなかった。
今現在、翔兄やみなみは既に結果を知っているのだろう。当の本人である俺だけが結果を知らないのは理不尽に思う。
それでもこの体育の時間が、バスケやサッカーなどではなく、マラソンだったのは大いに喜ばしいことだろう。
マラソンなら他に考え事をしていても問題は少ないだろう。
発表の事を気にしていてミスパスなどでもしたら、クラスから総スカン喰らっても文句は言えないかもしれない。
ましてやボーっとしていててんで違った方向に走って行ったり、自陣に攻め入ったりしないだろう。
それにしても――と、やはり思考はやっぱり発表の方へと流れて行ってしまう。
落ちているんだろうなぁ……。
翔兄や両親が慰めてくれる姿が目に浮かぶ。
今頃みなみは俺に、開口一番なんて声がけようか悩んでいることだろう。
アイツは俺に厳しいが、いい奴で根は優しいからきっと困っている筈だ。
けど、でも、もしかして、もしかしたら――。
そんな風に考えてしまうのはやはり傲慢なんだろうか。
所詮中学生の書いた処女作だ。翔兄は褒めてくれたけど今見直すと、恥ずかしく拙い文章。いかにも中二的な言い回し。どこからか引っ張て来たような設定。
多分駄文、佳作にほど遠い佳作、名作と比べられぬ迷作。
世の中そんなにうまい話しは無い。自分の作品を見直すたびに自信を喪失していく。
それでも、きっと、万が一、奇跡的にでも――。
そう思ってもしまう、所詮一次審査だ、一次――、
傲慢でも高慢でも驕りだとしても、一次ぐらい通って何ぞやという気概を持って何が悪い。期待をもって何が悪い。
もしかしたら――受かってるかもしれない。
そんな淡い思いが頭を掠めると、
「ウぁっ、危ないな――」
前を走っていたクラスメイトの肩に、俺の肩が掠めそうになる。
クラスメイトに「ゴメン」と呟いて、おとなしくまた走り始める。
気になる、やっぱり、気になる。
でも同時にこのまま知らなくてもいいんじゃないかとも思ってしまう。
もし落ちていたら……落ち込むだろうな。
落ちていたら――。
「永谷――ちょっと来い」
そう俺を呼んだのは体育担当の川原田先生だった。
先生の顔は酷く厳しいものだった。
やばっ、ジッポの事でもバレたか? それともスマホだろうか?
俺はおずおずと先生方へと向かった。
「な、なんですか?」
「永谷、悪いがお前先に教室戻って帰る準備して、職員室に来い」
「は?」
「詳しくは職員室で説明する。急いで来いよ」
「あの、なにか……」
「いいから早くしろ」
何か、何かがあったのだろう。
そうでなければ授業中に、帰る準備だなんて。
もしかして一次受かった? それが先生たちにもばれたお祝い?
なんて、そんなはずは無い。
あの先生の厳しい表情。
何か、何かがあったのだ。
こんな時悪い予感が働くものだ。
いや、悪い出来事が起きる前触れだ。
小説や漫画、ゲームだったらこういうのだろう。
“フラグが立った”のだと――。
「永谷、何があっても落ち着いてな――」
何かがあったのだと……そう確信して俺は教室へと急いだ。
評価感想、誤字脱字の指摘などお待ちしております。
出だしの参話程は今まで書いていた分のまとめですので文章長くなっております。