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六噺紙片  作者: 葉山
【月光影】
3/59

もしもし、聞こえますか?


 もしもし、この先のどこかにいるキミへ。


 聞こえているかい? いや、聞こえていないだろうね。

 ボクはこれからキミに会いに行くよ。


 何十年、いや何百年と待っていたんだよ、キミと出会えることを。

 まだ顔も名前も知らないけれど、そんなことは重要ではない。


 キミの名前はボクが用意しているのだから。

 あぁそうだ、キミの居場所も作ろう。

 望むもの全てを与えてあげよう。


 お金は糸目をつけないよ、キミが傍にいてくれるなら。

 そう、ボクがキミに望むのはたった一つだけ。

 その一つのために、ボクはキミに尽くそうではないか。


「家主さんではありやせんか。なにやら、上機嫌のようでありやすな」

「嬉しそうなんだぉ!」


 嬉しそう?


 ボクが嬉しそうだなんて、きっとキミに焦がれるほどの想いを抱いているからだろうね。

 あぁ、早くキミに会いたい。逢いたい。


 もしもし、キミは何処にいるんだい?


 そう空に向かって言葉を飛ばした。


「何、ただ待ち焦がれているだけだよ。早く、逢いたい、とね。まるで恋煩いのようで、焦れてばかりだ」

「恋とは、焦らすのもまた一興。それもまた愛しさが募るだけでありやんす」

「まったくもってその通りだと思うよ。ボクは焦らされてばかりだと思うがね」

「ふふ、いけない人。焦ってばかりでは、欲しいものも手には入りやせんよ」


 先に戻りんさい、と女童を部屋へと促した彼は、口元に妖艶なる笑みを浮かべた。


 ボクが管理人であるアパートに住む、高級な男娼であり占い師でもある彼は、ちょんとボクの額を指差した。

 その不思議な笑みは、美女とでも言ってもいいだろう。


 ボクでさえも、彼の性別が分からなくなるときがあるからね。


「希望の星が、見えやんす。明るき星が家主さんの元へいらっしゃるご様子」

「ふむ、吉兆だな。頼もしいことだ」

「幾何学的統計学の占いは信じないのではなかったのではありやんしたか?」

「良い結果が出たことに喜ばない方が損だと思うがね。待つのは性に合わんな、迎えに行くとしようか」

「お気をつけて、家主さん。あちきはこれで」


 彼女と、いや、彼と別れてから静かに目を閉じた。


 もしもし、キミは今何処で何をしているのかね?


 生まれていたようで幸いだ。

 これでボクはようやくキミに出会える。

 そのことを、居もしない神に感謝してやろう。


「運び屋、いるのだろうそこに」

「何で分かるんですかねー。大分気配消してたんですけど。お兄さん自信なくしちゃいますよ?」

「ボクから見れば、まだまだ青二才だからな。ところで、仕事の依頼だ。受けるかね?」

「報酬は家賃3ヶ月分で」

「何を言うかね、1ヶ月で十分であろう」


 そう、ボクの待ち焦がれているキミを迎えに行くんだ。


 焦らされてばかりなのはもう結構だ。

 ボクはこれでも気は短い方なんだから。


「それで、何を運べばいいんでしょうかね」

「何、ボクの大切な大切な人だよ」

「人かぁ、ナマモノは苦手なんですけどねー」


 ぼやく運び屋のことなど気にもせず、ボクはキミと繋がる空を見上げた。


 もしもし、今からキミに会いに行くよ。だからキミはそこで待っていたまえ。

 そして、ボクを受け入れてくれると嬉しい。


 これで空と交信するのは最後だ。

 あとはキミに直接伝えるとしよう。



「待ちくたびれたよ、月影」



 数日後、ボクらは薄暗い牢屋の中で出会うことになる。

 長い長い時の中を、ずっと待ちわびていたキミに、ようやく出会えた。


 その話は、また今度。



【もしもし、聞こえますか?】

そして【はないちもんめ】へと繋がります。

こんな設定をぼんやりと考えていました、というまとめなので、童謡に掠りもしません……が、詩的なものをすごく書きたくなったので。雰囲気を壊さない程度に仕上げました。

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