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4 ラルファスとキース

「ふう。こんなもんでいいか」


 額の汗をぬぐう動作をしながら、俺は言った。

 もっとも、汗なんてかいていない。軽い運動後のように、体がぽかぽかと温かくなってきただけだ。


「はぁ、はぁ。――君、どういう鍛え方をしているんだ……」

「ぜーっ……ぜーっ……」


 しゃべれもしないのがラルファスだ。


 まだ日の高い昼過ぎに、俺たちは森に入って適当な獲物を探して歩き回った。

 歩いていたのは、森の外周付近。ラルファスがいるためにキースが深入りすることを避けたからだ。

 

 その結果、獲物はモンスターではなく、普通に野生の動物達だった。

 戦闘練習のつもりで来た俺や、モンスター相手の狩りを期待していたラルファスにとって、ずいぶんな肩すかしだったと言わざるを得ない。


「だから、狩りだと言っただろう」


 なんてキースは言っていたが、そんな言い訳が通用するのはラルファスだけだ。


 俺は別に、キースと狩りの約束をしていたわけではない。 


 ということで、しばらく動物相手の狩りに付き合った後、俺は別行動を提案した。

 外見少女の一人歩きにキースは強く反対したが、


「心配すんな!」


 と言い残して一人森の奥へ。


 二人を撒くつもりで走ったのだが、面白がったラルファスがキースを置いて俺を追いかけてきて合流。仕方なくキースもラルファスを追いかけてきて合流。


 3人仲良く合流したところでモンスターとエンカウントという次第に相成った。






 エンカウントしたのはダイアホースという真っ黒い馬のモンスター。ハッキリ言って馬と外見が大して変わらないが、立派なモンスターだ。レベルは忘れたが、さほど強くなかったと思う。


 俺とキースでけしかけてあっという間に倒した。


 しかし、この戦闘が良くなかったのだろう。

 騒音や血のにおいに、ぞろぞろとモンスターたちが寄ってきた。


「ゴブリン」「シュペット」「フニ」「ヘルバウンド(単体)」。


 数こそ多かったが、どれも低レベルだったので、ラルファスも参加して戦闘を再開。

 俺は装備している手甲『朽ちゆく機工神の腕』で殴る通常物理攻撃しか出来なかったが、キースとラルファスは『剣士ソードマン』のスキルを使用しながら戦った。


 あれって、スゴイ不思議だ。技名を叫べば、自動でできるんだろうか。今度一人のときにやってみよう。


 20分ほど戦闘し、俺たちはモンスターを全滅させることに成功した。


「よう、ラルハス。怪我してないか」

「はぁ、はぁ。ラル……ファスだって」


 息も絶え絶えに返答してくる。

 うん。どうやら大丈夫のようだ。


「ところで、こいつらをどうする」


 さすがに持ち直したキースが俺に訊いてきた。


 こいつらとはモンスターたちのことだろう。辺りは血の海。見るも無残な光景である。


 というか、『エリュシオン』は全年齢対象のゲームだったため流血表現などなかったはずだ。倒したモンスターは素材を回収するか、一定時間たつかすると光の粒子になって消えていくという仕様だった。

 この扱いもなにやらゲーム的ではない。


 俺がするまでもなく、『エリュシオン』はR18指定になってしまったのだろうか。


 それって、どうなのだろう。


 エロ要素を期待してもいいのだろうか。



「どうするって……放っておく以外になにができるの?」


 鼻をつまみながら俺は訊いた。血のにおいはあまり感じない。それでもきつく鼻をつまんでいた。


「貴重な素材を入手することができる。例えば、ダイアホースの尻尾は防具に利用できるし、ゴブリンの肝は薬になったはずだ」


 そのほかにも、とキースは続けた。俺は大して興味ないので聞き流した。


「はぁ、たくましいねー」


 入手ってどうやるんだろうか。ゲーム時代と違って、近づいても素材選択のウインドウは出てこない。となれば、想像はできるけれど。


「俺はいいや。キースは何か気になるのはある?」

「あ、ああ」

「じゃ、そいつだけ解体して、後は放っておこうぜ。ちなみに、俺は手伝えない。手伝いたくない、断固」

「わかった」


 キースは頷いて、のしのしと血の海を渡って行った。歩きながら、腰から小刀を抜く。あれでばらすつもりだろう。


「ラルファスは?」

「き……キモチ悪い」


 地面に仰向けに寝転がり、青い顔で唸った。


 調子は悪そうだが、目立った怪我はしていない。



 その様子に、やっぱりな、と俺は思った。


 ラルファスには、どうやら戦闘経験があるようだ。先ほどの戦闘を見ていれば、ただの田舎の少年でないことは明白だ。

 レベルを上げるには戦闘で経験値を獲得するしかないのが『エリュシオン』だ。20レベルとなれば、それなりの場数を踏んでいることになる。


 子供のくせに。



「じゃ、一緒にあっちに行ってよう」


 よいしょ、とラルファスを持ちあげて俺は移動する。途中「ねーちゃん、おろして……」と弱々しくラルファスが呟いたが、思いっきり揺すって黙らせてやった。






「ヒカルねーちゃん。これ、ありがとうな」


 大きな木の幹に背中を預けて座り込みながら、ラルファスは言った。


「うん?」

「この剣」

「ああ」


 ラルファスは、大事そうに俺が贈った小剣を抱く。


「俺は装備できないから。気にすんな」


 剣系統の武器は『剣士ソードマン』から派生した職業クラスしか装備することが出来ない。『格闘家ファイター』からの派生職業である『制圧者タイラント』の俺にとっては無用のものだ。

 ちなみに、『エリュシオン』では『剣士ソードマン』『格闘家ファイター』『弓士アーチャー』『魔術師メイジ』の基本4職と、それから派生する2次職8職。そして最上級の3次職である12職の計24職業のいずれかに就くことになる。キースとラルファスは『剣士ソードマン』。俺は『格闘家ファイター』の最上級職の一つである『制圧者タイラント』だ。


「でもお前、これから大きくなるんだから、いつまでもそれ使ってんなよ」


 おそらく、ラルファスの剣は装備レベル20の下位武器だろう。ラルファスのレベルが上がっていけば、上位武器を装備することだってできる。


 ゲーム時代は対象に近づけばある程度のステータスを見ることができたが、今はできない。そのため、キースやラルファスのステータスを見ることもできないのだが、一般のノンプレーヤーキャラよりははるかにレベルが高いのはわかる。


 キースはヘルバウンドの集団戦でも互角だったから、20レベル後半から30レベル前半。ラルファスは魔法付加の剣を装備出来たが、先ほどの戦闘では真っ先にへばったから、20レベル前半。


 レベルだけ見ると、クエストの途中で登場する、イベントキャラクターみたいだ。


 まあ。救助クエストの対象とか、そんな軽いクエストにだってそういうキャラは出てきたんだし、騒ぐほどのことでもないだろうけど。

 ただ、一般のノンプレーヤーキャラじゃないことは確かだ。


 とそこまで考えて、それとも、と俺は思った。



 それとも、俺は。


 何かの長編クエストに巻き込まれてしまったのだろうか。


『エリュシオン』の世界に入り込んでしまうような、文字通り世界規模で展開する英雄的な物語に。






 そんなことをつらつらと考えていると、ガサガサと草をかき分けてキースがやってきた。


「おお。お帰り」

「あ!? あぁ、ただいま……」


 俺の言葉に、キースは大げさに驚く。


「?」


 ラルファスと二人、首をかしげた。


「死体でも担いでくるかと思ったけど」


 俺の想像に反して、キースは手に麻袋をぶら下げているだけだ。


「なにを回収してきたんだ?」

「ふふふ」


 キースはニヤニヤと笑った。


「キース兄ちゃん、気味がわるいぜ」


 上機嫌に笑ったキースにラルファスが突っ込んだ。

 まぁ、見ろ。そういってキースは麻袋を広げた。


「げ。――腕、か?」

「そう。アッシュグリードの腕だ。君が倒したものだが」


 アッシュグリード。死霊系のモンスターだったか。物理攻撃の効かない霊魂のモンスターではなく、動く鎧フィアナイトと同様、実体の部分を攻撃すれば倒すことができる。


「君は興味なさそうだったので、俺が回収しておいた。それとも、やはり問題あるだろうか」

「いや。いいよいいよ」


 アッシュグリードか。なにを回収できたっけ?


「なんでそんなの拾ってきたんだ? にーちゃん」


 俺が思い出そうとしていると、横からラルファスが訊いた。


「アッシュグリードからは『翠輝石』が回収できると聞いたことがある。おそらく腕輪やら指輪についている石のことだろう」


 へえ、腕輪や指輪ね。

 たしかに腕にくっついてる。素材回収って、そんな細かい設定になっていたのか。

 俺は感心しながら頷いた。


「ん? でも『翠輝石』ってなんの素材だっけ? それとも、売却用?」

「いや、素材用だ。――武器に、魔法効果を付加することができる」


 魔法効果、と俺は呟く。


「ああ。剣の素材にしようと思ってな」



 そう言って、キースはラルファスと向き合った。



「俺だって、お前とは付き合いが長い。俺からも剣を贈らせてくれ」


「え……え?」


 ラルファスはキョトン、とキースを見返した。


「その、なんだ。――子供扱いして悪かったと思っている。お前には剣の才能がある。いずれ、冒険者としてか、剣士としてかはわからないが、大成するだろう。さっき一緒に戦って、そう思った」

「え、うん……」

「お前の才能を伸ばすために、俺が贈る剣も使ってほしい――と、ふと考えた。どうだろう?」

「え?」


 首をかしげて、ラルファスはキースを見上げた。

 俺はそんなラルファスの背中をたたく。


「良かったじゃん。先輩が、剣くれるってさ」

「えぇ!?」

「がんばれ。新米冒険者」


 俺の言葉に一層困惑するラルファス。

 その様子に、キースは笑みを浮かべる。 


「ぷっ」 

 

 なんか、いいハナシだな?


 深い森の中で、俺のカラカラとした笑い声が響いた。






「ねーちゃん、行っちゃうのか?」


 朝霧が立ち込める、辺境の町の小さな広場で、俺は短い時間を一緒に過ごした小さな友人と別れを惜しんでいた。


 森に狩りに行った次の日。キースが帰りの馬車の護衛をすることになっていたので、俺も同行させてもらうことにしたのだ。


 わずか3日の滞在期間だったが、かなり濃い時間を一緒に過ごしただけにラルファスとの別れはなんとなく寂しい。

 もしかしたら、弟のように感じていたせいで一層そう感じるのかもしれない。


「おう。まあ、また来ることもあるかもな。わからないけど」


 一応目的を持った旅路なだけに、安易に再会を約束することはできなかった。


「俺は、来月も来るぞ」


 荷物をまとめた背負い袋の位置を直しながら、キースが言った。


「うん……」


 キースの言葉にもラルファスの表情は晴れない。


「おいおい。んな顔するなって」


 俺はラルファスの顔を両手で押さえた。


「い、痛いって。ねーちゃん」


 変な顔。ぶっさー。


「俺は結構たのしかったぜ」

「お、俺も……」

「ならなんで悲しそうなんだよ。楽しいなら、笑えばいいじゃん」


 なんて、およそ理論的ではない言葉で励ます。


「楽しいけどさ……」


 俺の両手のなかで、ラルファスは顔を歪めた。


「あー。もう、泣くなよ。―お前さ、冒険者になるんだろう? 俺のことが忘れられないなら、会いに来ればいいだろ」

「あ」

「まあ、そんなに簡単じゃないだろうけど。―でも、冒険って多分、そういうモンだぜ」

 

 俺の言葉にラルファスは目を見開いた。


「そうだな、ラルファス。お前が冒険者なら、その足で会いに行けばいい」


 頷きながらキースもそう言った。


「難関に挑むのが冒険者なんだ。二人が冒険者なら、ここで分かれても、きっとどこかでばったり再会できるさ」

「――うん」


 キースの言葉に、ラスファスは神妙に頷いた。


「おし。――じゃーな」


 軽く手を振って、キースと並んで歩きだす。



 多分、あいつ。すぐにでも会いに来るだろうな。

 よくわからないけど。


職業とするかクラスとするか迷いました。結局、職業にルビ振ってます。


あと、ここで小説の方向性がヒカルによって暴露されてます。



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