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48 辺境あるいは魔族領。(2)

 『聖なる暗き森』

 エルフの一大居住地として知られる森は深く、そして広い。

 広大な森の多くは手つかずのままで、実際にエルフが暮らしているのはその一部分だけだ。

 エルフの警備隊を追いかけて森を歩き、いくつかの川と山々を越える。途中には狭い平原があったり手が加えられた農地のような場所があったりしたけど、人の姿や生活の跡は見えなかった。

 手入れされているのか、森の植生がいくらか薄くなったころ、警備隊の面々はどこかに姿を消してダグが先導役を引き継いだ。



 しばらく歩いてダグがエルフの集落として案内したのは、予想していた森の中ののどかで原生的な村ではなくむしろ文明の高さを感じさせる古代の遺跡のように思われた。

 

 その集落は、大地にあいた穴の中にあった。

 正確にいえば大地の裂け目。俺たちが今立っている場所から見ると、短径は500メートル、長径は1キロメートルほどもあるのではないだろうか。裂け目には森から行く筋もの川が流れ込み、細かい霧をつくりながら流れ落ちている。

 底もかなり深い。

 反対側の岩壁をよく観察すると、底に向かってカーブを描きながら広がっている。おそらく穴の中はドーム状になっていて、それもかなり巨大な空間が形成されていた。

 地下空間の中央部には湖があり、まるで小島のように大きな樹木が幾つも生い茂っている。その樹木もある種の生活空間のようで、上から覗くと、橋で木々をつないでいるのがわかった。


 そして湖を囲むように立ち並ぶ家々。

 

 そんな地下都市がエルフの集落だった。






「ここから下りますよ」


 裂け目の外縁を歩いていると、不意にダグが言った。

 淵ぎりぎりに立って地面を指差すダグ。


「……まじで?」


 ダグが示した方を覗きこむとそこには岩壁を削って出来た細い道があり、ゆっくりと穴の底に向かって伸びていた。

 片方は岩壁だが、もう片方には柵すらない。

 完全に剥きだした。


「……世界の危険な道を紹介する動画で、こんなカンジの道を歩くヤツを見た記憶があるなあ。さすがに、落ちたら死ぬだろな」

 

 なんていいながらも、ニケは臆することなくダグに続く。


「……」

「……」

「……」

「行くか……」

「……ヒカル、手をつなぐか」

「アタシも」






 滝の裏の細道や、せり出した岩壁につくられたトンネルを通りながら穴を下ってゆく。やがて道幅は広くなった。

 先行するダグと怖いもの知らずなニケを追って、しかし俺たちはは慎重にのろのろと歩く。

 すでに大人が3人くらい横並びで歩けるほどの道幅だけど、やっぱり絶壁側に柵も何もないのが怖い。

 アズリアとエリカも同様なんだろう。

 さすがに今は手を握っていないが、彼女たちは心なし俺の傍に寄って歩いている。なにかあればすぐにでも俺にしがみつく気なのか俺としては冷や汗ものの状況だ。



「ダグ。この穴ってなんなの?」


 気を紛らわせるために俺はダグに話を振った。

 ダグは歩みを止めず、俺を振り返りながら話し始める。


「詳しくはわかっていません。ただ、ハイエルフがこの土地を見つけ出して我々を入植させたと聞いています。彼らは技術と知識を伝え、このような環境下でも暮らしていく方法を私たちにもたらしました」

「技術と知識?」

「掘削技術や鉱物の加工技術。農法や社会制度などですか」

「社会制度って?」


 首をかしげる。

 中世ファンタジーっぽく、専制君主制オンリーじゃないのか。


「ここでは各村の代表者が評議員となって元老院を組織します。つまり合議制です。――湖を取り囲むようにしてある集落はもとは異なる5つの部族の村でした。発展した今は街並みが一続きになっていますが、帰属意識や行政区分は変わっていません。そんなわけで各村3人、合計15人の評議員が集落をとりしきっています」

「へえ」

「旅をして回って驚いたことの一つは、大陸のどこに行ってもこの地のほかに合議制による統治形態がないことでした」

「ああ。サニアスは王国だったもんな。他は知らんけど」


 まあでも。

 集団の意思決定が元老院とかいう権力者集団に集中しているのだから実態は君主制の王国とかと大差ないだろ。

 政治とか詳しくないのでよく知らないけど。

 

「みな似たようなものでしたよ。軍事国家カルデアに宗教国家レインコート。サニアスに並ぶ大国は、形態はどうあれただ一人の『王』を戴いていました」

「ふーん」

「けれどここだけは違う。なぜ違うのか。面白いですね。エルフの気性が他人の下風に立つことを嫌うからか、それともエルフ単一の集団だからでしょうか?」

「さあねえ」


 興味の湧かない会話だったので適当に答える。

 俺から振っておいてなんだけど、求めているのはそう言う会話じゃないんだ。

 気がまぎれるような面白みのある話をしてくれ。


「おお。見えてみえてきたな」

 

 ニケがはしゃぎ声をあげた。


「ん?」

「村だよ。村。集落だっけ」


 ニケが笑いながら指さす方をみると、確かに石造りの家がぽつぽつとみえた。



 おお。

 やっと底についたのか。



 俺とアズリアとエリカの3人が安堵のため息を洩らす。

 先行していたダグが俺たちを見上げて言った。 


「ひとまず――同胞たちに代わって歓迎の言葉を述べます。ようこそ、エルフの集落へ。あなた方を迎えられてとてもうれしい」


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