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42 色々ひっくるめて。(3)


「ニケさん、ヒカルさん。お客さんですよ」


 二階で俺がいじめられていると、店を実質経営している仕立屋のオジサンが来て言った。


 お客?

 誰だろう。


「イクトール様です。元筆頭顧問魔術師の」

「あー。――ああ?」


 爺さんか。

 たしかに知り合いだけど、なんの様だ?


「下に来てるの? 今行く」


 俺が制服に手を伸ばした時、


「それには及ばん。というか、人目に付くとまずいでの」


 真っ黒なローブを着こんだ爺さんが、どかどかとやって来た。







「爺さん、久しぶりじゃん。って、あれ? カミラ?」


 爺さんの隣には、カミラがいた。

 いつだったか俺があげた制服を着て、上には大きな紋章が入った外套を羽織っている。 


「私はただの案内よ。用事があるのは院長」

「まあ、だろな」


 爺さんを引き連れてカミラが来る理由がわからない。

 カミラには店のことを話していたので、用事のある爺さんがカミラに案内させたのだろう。

 俺が爺さんに向きなおると、爺さんは部屋を見まわした。


「ほう。仲間というわけか」

「まあね」

「知っている顔がおるの。――ダグラス、久しいな」


 ダグラス?

 俺が不審ががると、後ろでダグが小さく息をした。


 ダグラスとは、ダグの事だろうか。

 いやでも、『ダグです』って自己紹介されたんだけど、どうなのだろう。もしかして、いきなり愛称で自己紹介されたのだろうか。


「イクトール。引退したと聞いていましたが」

「今は学院の院長をしていてな。楽隠居のつもりだったが、どうにも人手不足で色々と駆り出されとる。今日はヒカル達に伝えたいことがあってよ」

「はあ」

 

 ダグは頷いた。

 

「つかダグよ。俺が魔法学院に言った時、爺さんと知り合いなら直接頼めば良かったじゃんか」

「いえ、ほんとに知りませんでした。――それに知り合いといっても、親しいわけではないので。彼は、なんというか……エルフを毛嫌いしているのです。若い頃はエルフを王国の仮想敵とみなして、『聖なる暗き森』などの居住地に偵察に来たりしていました」

「仮想敵?」

「憂国論者とか危機論者とでも言うんでしょうか。……アレです。私の因縁の相手の一人?」


 へえ。

 それでは頼めんな。


「聞こえとるぞ。――まあ、若い時分は確かにやんちゃしたもんだが、今は落ち着いた」

「――枯れている様に見えますが」

「言うわ。お前もかつての精彩がない。長い旅に疲れたのだろう。引導を渡してやろうか」

「遠慮しておきます。やることがありますので」


 ダグが言うと、爺さんが笑った。


「やはりな。――といういうことはヒカルか」

「さあ?」

 

 はぐらかす様にダグが言う。それを見た爺さんは笑みを深めた。


「『ラース』の関係者なのは知っておるぞ。お前は放浪の果てに、まがい物ではなく本物を見つけたわけだ」

「……は?」


 そんな2人をみて、俺は口を開いた。


「話が見えん。説明を要求する」


 見つけた? 

 ダグが俺を?

 何のことだ。


 しかし俺の言葉に爺さんは首を振り、ちょっと肩を落とした。


「スマンの。残念だが昔話をしている時間はないのだ。――わしの用事を済ます前にひとつ確認したい。お前さんら、まさかヒポグリフを狩ったのか?」


 ヒポグリフ?

 見たこともねえよ。


 俺がそう言おうとした時、ニケがまっすぐ手を上げた。


「わるい。俺やっちゃった」

「……」

「……」


 俺と爺さんが黙る。


 俺はまたしても話が見えない。

 何のことだ。


「誤解して貰いたくないのだが、わしはそのことを知らなんだ。その前提のもとで聞いてもらいたい。――今朝、数人の冒険者たちによってヒポグリフの死体が王宮に持ち込まれ、ついで蘇生のために魔法学院へと運ばれた。蘇生の秘儀は元魔術士団顧問魔術師であるフランキリルの専売特許なのだが、知識は学院にも伝わっているからだ。早速蘇生を試みたのだが、しかし死体の損傷が激しいために間に合わず、今は国葬の準備をしとる」

「へえ」

 

 俺は頷く。

 隣でアズリアが小さく肩を揺らした。


「死体の検分も行なった。ヒポグリフを持ちこんだ冒険者たちは、聖獣は殺されたのだと言ったらしい。ヒポグリフの傷の切断面と、魔法による損傷。目撃証言も合わせて、学院はヒポグリフが凄腕の冒険者に『殺された』ものだと判断した。――この時点で、わしはまだ眠むっとった。寝室でまどろんでいるときに叩き起こされ、こうこうこういった特徴の腕の立つ冒険者に心当たりはないか、と訊かれた」

「ほう。災難だな」

「全くの。しかし、学院長たるもの不快を表情に出すわけにもいくまい。わしは丁寧に説明してやったよ。『ああ、それならば知っとる。まず間違いなく、ニケだろう。一緒にいるヒカルという冒険者も凄腕でな。今は王都に滞在している』とな」

「大人の対応だ」

 

 さすが、人の上に立つ人物は懐が深い。


「まあ、そんなこんなが色々とあってだな。――いま、この建物は騎士団に包囲されとる」

「ええ!?」


 そんなこんなのとこが重要なんだろ!

 そこ説明してくれ!


 しかし爺さんは説明せず、言いたいことを続けた。 


「あんたらのことだ。なにか理由があってヒポグリフと戦ったのだろう。わしはその事情を知らん。知らんままあんたらを売る様な事をしてしまった。悪い」


 爺さんは深く頭を下げた。


「ヒカルー。これ多分、俺のせいだな」


 ニケも頭を下げる。

 俺は唸った。


「ここが包囲されてるって話、マジなの?」

「うむ。わしらはその斥候よ。もっとも、直接話がしたくて志願したのだが」

「……相手の数は?」

「騎士団2隊と、中央軍が少し。300くらいか」

「……事情はちょっとわかんないけど、どうなの? このままここにいたらまずい?」

「まずいな。捕縛され、何らかの処罰を受けるだろうが、守護聖獣を狩るなど前例がない程の重罪だ。まず間違いなく死刑だな」

「うわ……」

「逃げるなら手を貸そう。そのつもりで来た」


 爺さんはカミラを見て、カミラは頷いた。


「カミラもそのつもりで?」

「ええ。――さっき見て来たけど逃げる分には容易いでしょうね。数は多かったけど個人の力量はまちまちで、問題にならないと思う」


 すげえ強気。

 騎士いったら20レベル以上あるんだけど。


「じゃ、お言葉に甘えようぜ」


 ニケが言う。


「俺らが暴れると余計な被害が出るだろうし、ここは逃げとこう」

「私も賛成だ。学院をやめて、せっかく冒険者になれたのだ。ここで躓く気はない」

「私はヒカルについていきます」


 アズリアとダグも賛同する。

 となれば俺が何か言うまでもなく逃亡だな。

 俺も捕まりたくはないし。


「よし。なら逃げるか」


 俺はいそいそと制服を着始める。

 それを見てとって、みんなも準備を始めた。


「お、俺も手を貸すぜ!」


 ガチャガチャと装備を整える音が響くなか、シンクが言う。


「ヒポグリフって言ったら、あれだろ。多分俺が原因なんだろ」

「はあ?」

「ヒカル達が逃げられるよう、俺も手を貸す。エリカも、な。お礼だ」


 シンクに言われたエリカも頷いた。


「そう……ね」


 いや、手を借りるまでもなく逃げられると思うんだけど。

 俺らに手を貸したらエリカたちも犯罪者扱いだろうし。


 しかし俺が言う間もなく、爺さんが扉へと向かって歩き始めた。


 むう。


 正面突破ですか。


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