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41 色々ひっくるめて。(2)

 シンクが生き返ったことで何かが解決したわけではなかった。 

 再会の喜びはセルジュとエリカの負い目を多少和らげたかもしれないけれど、それだけだ。エリカの怒りはやり場を失って鬱屈し、セルジュの自責は矛盾を抱えて螺旋する。

 

 それを感じ取ったシンクは、仲間たちの関係を修復することを諦めた。

 

 ダグが言った様に、事ここに至っては時間が癒してくれるのを待つほかないからだろう。

 正直、仲間の前で必死におどけるシンクが痛々しくて見ていられなかった。仲間のことでこれ以上シンクが傷つくようなら、シンクを生き返えらせたことが彼にとってもエリカたちにとっても迷惑なことだったのではないかと思えてしまう。それは悲しいことだ。

 だから諦めたことはちょっと嬉しい。


 

 いろいろ抱えて、でっかくなってくれ。



 かなり無責任なんだけれども、そう思わずにはいられなかった。

 




 

 エリカたちと一緒に、王都へ戻った。


 ただ、一緒といっても二班に分かれた。

 俺とダグ、セルジュとユーノが一緒の班で先行し、後からニケとアズリア、エリカとシンクがついてくる。

 エリカはセルジュと決別したし、セルジュは生き返ったシンクとは馴染めない。それをふまえての編成で、途中で休憩をとったりしながらゆっくりと戻る。



「笑ってお酒を飲み合える冒険者もいれば、会うなり殺し合いをする冒険者もいます。後者を因縁と言うのでしょうか」


 歩きながらダグが言った。

 セルジュが答える。


「……俺にとっての、エリカの事を言っているんですか?」

「さあ。私はただ、自分の事を話しているだけです。――長く冒険者をやっていると、たまにそんな相手のことを思い出します。今何をやっているのだろう、どこにいるのだろうとかね」

「……はあ」

「私にとって最大の因縁の相手は幼馴染で、彼にはずいぶん辛酸を舐めさせられました。一緒に旅に出たのですけど途中で別れ、私が放浪している内に彼は故郷に戻って名声と栄誉を手に入れた。同胞は私を愚物と評し、彼を奇士と評しました」

「……」


 セルジュが黙ってしまったので、俺が続きを促した。

 ダグは続ける。


「私と別れる時、彼は私からとても大切な者を奪っていきました。それまで一緒に旅していた仲間で、庇護の対象だった同胞エルフの子供です。――彼の行動はエルフにとって必要なことで、結果だけを見れば決して間違いとは言えないものだったのですが、当時の私は許せなかった。彼の判断を心底憎んだ。あの子が死んだと聞いた時、よほど殺してやろうかと思いました」

「へえ。――で?」

「それで終わりです。彼の行為は許しがたいものであると同時にある種の正当性はしっかり持っていて、私には選択できないものだった。『だから』彼がそれをした。――それがわかる私は実際の行動をしないまま、未だに旅をしています。幼馴染は故郷で暮らしているのではないでしょうか」

 

 なんだそれ。

 オチなしかよ。


「許したんですか?」


 突然、セルジュがダグに訊いた。

 そう言えばそうだ。

 ダグの幼馴染や子供のこと、エルフの事情なんかはわからんけれども、その幼馴染にダグにとっての大事な人を奪われたのなら許しがたいだろう。

 けどダグの表情には憎しみとか苦しさといった『負』の感情は見受けられない。

 なにか曖昧で、無理やり当てはめるとすれば戸惑っている、といった風に見える。 


「許してはいけない、と思っています。一件で決別状を送りつけて以来、彼とは因縁の関係というやつで」


 ダグは頬を掻く。


「けど、ずいぶん気安げに話します。それはなぜ?」

「時間が経っていますし、なにより決別とは関係の消失ではないからです。それは他人との関わり方の一つで、どこかで私と彼は繋がっているのでしょう。私はある部分では誰よりも彼のことを理解していますし、おそらく彼もそうです。――やっかいなものです、友人のあり方というのは」


 俺は首をかしげ、ユーノと顔を見合わせた。

 ユーノもわからない、という顔をする。

 俺もわからん。

 ダグほど長生きしなければそんな達観は得られないのだろう。


「友人、ですか……」

「お互い憎み切っていますけどね」

「……」


 そんな会話をした。

 

 何か思うことがあったのか、セルジュはそれきり黙り込み、ダグはのんびり歩いている。


 俺も、思うことがないわけでもなかった。 

 昔一緒に旅したという子供。

 誰かと重なる部分がある。


 でも俺は敢えて深く考えないようにし、ユーノの相手に終始した。






 王都に着いて、セルジュやユーノと別れた。

 未だに思いつめた表情のセルジュは挨拶もそこそこにとぼとぼと立ち去り、そのあとをユーノが小走りに追っていった。

 

「ヒカルのおかげで最悪の事態だけは回避できたのですし、後は自分で考えるでしょう」


 ダグはそう言って見送っていた。


 ほどなくニケたちと合流し、ニケが始めた店へと戻る。

 宿はすでに引き払っていて、生活の拠点を店へと移しているのだ。


 とりあえず、今日は休もう。

 なんか、色々あって気疲れした。

 カミラや爺さんに挨拶して回りたいところだけど、それは明日でいいだろう。準備もあるし、危険地域を目指した冒険への出発は明日以降になる。




 ▼




「――で、エリカたちはなんで居るんだよ」


 制服を脱ぎ、ソファでひとしきりくつろいでから俺は言った。

 

 目の前には床にぺたりと座ったエリカとシンク。

 二人はブラブラと店までついてきて、そのまま二階に上がり込んでアズリアと談笑し始めた。

 それがあまりに自然だったので無意識にメンバーとして認識していたけど、俺へ向けるシンクの視線に初々しいものを感じ取って気がついた。

 今更俺の下着姿に赤面する仲間などいないのだ。


「いや、ちゃんとお礼したいと思ってよ……」

「あんたたちが使った魔術品って、物凄く貴重なものなんでしょ? お礼もせずにこのまま別れるなんて出来ないわ」


 シンクは赤面しながら、エリカはそんなシンクを睨みながら言った。

 とはいえ、お礼なんかいらない。

 シンクは結果として生き返ったけれど、それはエリカたちのためというよりは俺らの勝手な実験のためだ。

 あくまで偶然の結果なので、感謝される道理はない。


「いいよ。まだあるし」


 俺は手を振りながら言う。

 『不死鳥の羽』はアズリアに渡した他にももうひとつある。


「いえ、駄目。お礼するまで帰らない。アタシ達に出来ることなら何でもするから、なにか言いなさいよ」

 

 俺に詰め寄りながらエリカは言う。


「それにヒポグリフのことだってあるし……」

 

 と、わけわからんことを言い重ねた。


「?」


 まあ。

 本人にとっては本当に死活問題だったのだし、エリカがお礼するまで気が晴れないというのなら、何か適当に言ってあげるのも手だろう。

 本来ならニケに言うべきなんだろうけど、ニケは特に要求する気はないようだ。

 

 うーん。そうだな……。


 いやでも、ニケか。


「じゃ、パン――」

「ちょあ!!」


 ばし、とニケにチョップされた。


「何すんの」

「ロリ犯罪! 15歳未満は未成年だぞ!」

「未成年は20歳未満だよ!!」


 どんな法律だよ。

 おおらかすぎる。


「てか、パンまでしか言ってないし。パン買ってきてっていうつもりだったし。犯罪じゃないし」 

「いや、ヒカルのことだ。ぱんつ頂戴とか、ぱんつ脱いでとか言うつもりだったに違いない。ロリ相手に」

「いわねぇよ!! 普通にパンツ見せてって頼もうとしただけだ!!」

「ヒカル。それは普通ではないな……」


 アズリアが言った。


「というか、着替え時とかに私のを見ているだろう。あれだけでは不満なのか?」


 おおっとー。

 あっぶねー。この話題地雷だったか。

 危機一髪だぜ。


「なに……? 同性相手に、変態じゃない……」

「許してくれ、エリカ。ヒカルは、こう――同性相手に興奮する異常体質らしいのだ。気を悪くしたのなら、代わりに私が謝る。すまなかった」


 しっかり踏んでました。


「ヒカルは悪くない。体質だからどうしようもないモノなのだ。ただそれを正面からちゃんと受け止められない私たちが問題で……。ヒカルも、あまり他人には言わない方がいい。誤解を受けたら嫌だろう? 耐えきれないようなら私が見せるから……」


 アズリア。

 ほんとゴメン。

 マジで謝るから、そんな目で見ないでくれ。


「おめぇは! この! アズっちにも手ぇ出してたのか!!」

「手は出していない……決して……」


 止めてよ……。

 俺はすでに死に体だ。


「歯ぁくいしばれ!」


 そんな風にニケにばしばし叩かれていると、


「お、俺居ていいのかな……?」

 

 シンクがおどおどと視線を彷徨わせ、


「ガールズトークと言うやつですか。席外しましょうか?」


 ダグが生真面目に言った。


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