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32 なんかのフラグ踏んだ。

今回から事前告知します。


パンツ回です。

不快な方は引き返すか、さらっと飛ばし読みしてください。


「ちょい早いけど、そろそろ閉めるかー。もう売るもんねえよ」


 カウンターの奥にいるニケの声が聞こえた。

 それを聞いて、俺は閉店の準備を始める。

 客の出入りが途切れるのを待ってから店の扉を閉め、そのノブへ『Closed』と書かれた板を吊るす。



 結果をいうと、ニケの店は大繁盛した。

 繁盛しすぎて事前に準備しておいた商品の在庫が底をついたくらいだ。

 当初は大量生産格安供給の方針のもと一般の若い女性客をターゲットにしていたのだけど、その予想に反して大口の貴族の顧客を大量に獲得したからだ。目新しいものに多大な興味を抱くのが貴族の習性らしく、ニケが提案し専属の仕立屋がデザインした衣装はそういう貴族に大人気で、そして貴族の大半がそんな様子だった。

 それと、目論見どおりに下着類が飛ぶように売れたせいもある。

 こちらも貴族が大量購入。何かと堅苦しい衣装を身につけないといけない貴族階級では、外からは見えない下着類でおしゃれをするというのが昔からの常識らしい。

 その習慣は一般階級にも広まっていて、顧客単価では劣るものの多数の一般女性が来店し短期間のうちに莫大な利益が出た。



 開店にあたって、ニケとダグが様々な人物と交渉し人材を雇い入れ、また膨大な原材料を準備したために借金までしたとのことだったけど、こちらはすでに解決済みだ。

 元々大した額ではなかったらしい。ニケだけじゃなくダグもお金を出していて、ダグはワイバーンを冒険者ギルドに接収されたときに大金を手にしている。俺が金貨で500枚ほど援助すると、それで借金は返済し終わったとのこと。

 

 いざ開店、となってニケは「後は儲けるだけだな!」と張り切っていたけれど、一週間もすると客の多さに慌て初め、商品の在庫が底をつき始めた二週間後には、運悪く買うことができなかったお客に悔しさに震えながら謝っていた。


 その間俺は、こんなにボロイ商売があるのかと冷や汗流しっぱなし。

 純利益がどれほどなのかはわからないけど、売り上げは二週間で金貨1000枚を超えている。

 短期間でそれも客層は女性だけと言うことを考えるとあまりにボロイ。 

 女子すげえ。

 


「ヒカル、お疲れ様」


 店を閉め、後片付けをしているとアズリアが俺の傍にやってきて言った。


「おう。アズリアもお疲れさん」


 アズリアは店員として手伝ってくれている。


 開店前にダグが四人の女性店員を雇っていた。

 しかしなんと、このうち二人が他のブランドからのスパイだったらしく、大量の在庫を持ち逃げされた。

 あらかじめ用意していた材料に比べれば些細なものではあったけれど、完成した商品を持ち逃げされたのが腹立たしい。現在3つの工房に製作を委託している。そしてその供給が需要に全く追い付いていない状況だからだ。

 新たに雇うと同じようなことが起こる危険性があり、それを避けるために知り合いで信用できそうな人物に店員をしてもらうことになった。 

 冒険者になると学院を出てきたアズリアに手伝いをお願いするのは気が引けたけれど、お客の回転を考えてやむなくお願いし、引き受けてもらっている。

 

「なんかゴメンな。こんなこと手伝わせちゃって」


 何度か口にした言葉を言う。


「いや、気にするな。自分でも意外だったのだが、割と楽しんでいる」


 アズリアはニコニコと笑いながら答えた。

 昼間の様子をみる限り、その言葉にはウソはないように思える。本当に生き生きと接客しているのだ。

 けど俺はまた謝った。


「いや、でもゴメンな。――多分そろそろ、冒険に出ると思う」

「そうなのか?」

「なんかニケがな。いろいろ言ってる」



 ――店員なんかしてらんねえ! 新たなぱんちらがそこにあるんだぞ!



 なんて言いながら店を出て行こうとするのを、仕立屋のオジサンが必死に引き止めている場面を目撃した。

 そろそろ、パンツを売るのに飽きてきたんだろう。

 

 創業者として経営業務全般をもこなすニケだったけど、そちらの方面の才能はなかったらしく日々鬱憤が溜まっていたようだ。近々、専属の仕立屋を共同経営者にして店を丸投げするつもりらしい。

  

「あと耳寄りな情報も仕入れたし」

 

 服を棚に納めながら、俺は言う。


 人が集まるところというのは、場所や時を選ばずに常にある種の性質を帯びるらしい。客でにぎわう店内には様々な会話が飛び交い、情報交換の場としても機能していた。

 その大半はおもに衣服関連の話だったのだけど、ある会話が注意を引いた。

 冒険者と思しき集団の女性客がしていた会話。

 なんでもエルフ達の間に危険地域侵攻の話が出ているとか。


「多分次は、エルフの国を目指すんじゃないかな。ダグに頼めば案内してくれるだろうし」


 土地を巡ってエルフは長いこと危険地域に出入りしている。

 事前の情報収集でも、危険地域の詳細な地図を持っているはエルフだけだということがわかっているので向かうにはちょうどいい。

 地図を入手しつつ、エルフの侵攻に合わせて俺たちも危険地域に入る。

 道中の危険も分散されるいい案だ。  


「エルフと言えば、『聖なる暗き森』のことか?」

「たぶんな」

「ふうん」


 そう言って、アズリアは頷いた。


「しかしその前に、実家に一度帰っておきたい。私が同行するには親の了解が必要ということだったからな」

「あ、そうだった」


 最近ずっと一緒にいたので、忘れていた。

 アズリアは正式加入ではないのだ。

 親の意見如何では学院に戻ることもあり得る。


「ヒカルも、一緒に説得してくれるのだろう?」

「う……まあ、ああ言った手前、しないとアズリア怒るよな?」


 窺うように俺はアズリアに訊いた。


「怒りはしないが、がっかりするな」

「……」


 がっかり程度の被害で済むなら、行きたくない。

 

「な。一緒に来てくれ」


 しかし無邪気にそう言うアズリアは、多分俺が拒否することを全く考えていなくて。

 ここで断れば『がっかり』どころではなくなるんだろう。


「……」


 アズリアの両親に会うとか。

 ……ねえ?

 物凄い億劫なんだけど。

 

「わかった」


 けど、俺はそう言った。




 ▼




 カランカラン、と不意に鈴の音がなった。

 それは来店を告げる音だったので、俺は反射的にドアの方を見る。


「……」


 ドアの前には、アズリアよりもさらに幼いように見える少女が立っていた。

 不機嫌そうに眉をひそめ、睨みつけるようにして店内をぐるりを見渡す。


「あの、もうお店閉めたんですけど」


 『Closed』の看板が見えなかったのだろうか。

 俺はそう思って少女に近づいた。


「すぐに済むわ」

「え、ちょ……」

  

 ぞんざいに言い捨て、少女はノシノシと店の中へと入っていく。

 

 なんて勝手な客だ。閉めたって言ってんだろーが。

 この――お客ちゃんめ。


 そう思いつつ、俺はカウンターへと引き上げた。

 さっさと買い物済ませて、帰ってくんねーかな。


「……」


 少女は店内をうろつきまわり、やがて下着売り場で品物を物色し始めた。

 あまり品数はない。すでに売れてしまったので、翌朝の入荷待ちだ。

 ボンヤリとそれを見ていると、少女はカウンターまでやってきて言った。


「ねえ、他にはないの?」

「すみません。今あるもので全てです。明日の朝には入荷します」 

「探してるのは、ああいう普通のじゃないんだけど」

「……」


 パンツァーである俺とニケがプッシュするオススメ商品なんですが。

 シンプルなものも多いけれど、この世界では斬新なデザインと履き心地のはずだ。 

 それを普通と言い切るとは、この娘、さてはエリートか。

 

「ねえ? ないの?」


 俺が無言でいると、少女は重ねて訊いてきた。


「申しわけないですけど、ウチでは普通のものしか扱ってないです」

「……隠している訳じゃないでしょうね。アタシが子供だと思って」

「え――は?」


 なに言い出すの、この娘?


「あなた、店員よね。話にならないみたいだから、店主を呼びなさい」

「……あの?」

「いいから呼びなさいって。あなたはお呼びじゃないの」

「……」


 おいおい。

 失礼なガキだな。

 閉店後に無理やり入店する無神経さといいこの横柄な態度といい、温厚な俺も、そこまで言われちゃカチンとくる。

 こちとら従順な雇われ店員じゃないんですよ。

 いつまでも下手に出ると思うなよ。


「普通じゃない物をお探しなんですよね? ちょっと待っててください。とっておきの逸品を持ってきます」

「なんだ、あるんじゃない。最初から出せばいいのよ」


 フンと鼻を鳴らし、腕を組んで俺を睥睨するガキ。

 へへ。

 そういう態度をとってられるもの今のうちだぜ。

 あいにく、ここはお前みたいな子供が来る場所ではないのだ。

 実働メンバー30人に満たないながらも協賛員を含めれば実質10万人は下らないと言われ、かつて『エリュシオン』を席巻した巨大ギルト『ノーブル・パンツァー・ソサエティ』。

 この店はその直営店だ。それがどういう意味か、図らずも教えとく必要があるようだな。


「お待たせしました」

 

 そう言って、俺は木箱を差し出した。


 

 この中には、さすがの俺でも封印せざるを得なかった危険なものが入っている。

 ニケが徹夜明けのテンションで発注し出来あがったもので、そのあまりにあまりのデザインから試作品が出来あがった段階で製作にストップをかけた品だ。

 著しく風紀を乱すデザインであり、パンツァーの純な理想を打ち砕く一品。

 冷静になったニケと俺は、そう判断した。

 つまり、歴戦のパンツァーですら恐れた品物である。

 言いかえれば『エリュシオン』のプレーヤーの約半数が恐れる品であり、今の世界に持ち込めば人間社会のバランスを崩しかねない危険な品でもあった。


 そんな危険物ではあるけど、まあ、こんなガキならいいだろう。

 使いこなせるとは思えない。  

 へへ。爆弾を抱えて――もとい、穿いて生きるんだな。 



「へえ、これがそうなの……」


 言って、ガキは木箱に収まっていた下着を手に取った。


「――?」


 手に取り、首をかしげた。


「下着、なのよね?」

「そうです」

「この切れ込みは……どういうことなの?」

「どういうことだと思います?」


 俺が手渡したのは、クロッチ部分がオープンになっている下着。


「?、?。 何かしら……」


 いわゆる、セクシーランジェリーの一種だった。


 もはや、ネタを超越している。

 こんなん、マジで世に出せない。

 流行ったりしたらかなり嫌だ。

 ゲームなら存在意義と運営の頭を疑う。


「――わからないわ」

「ふふふ。それ、差し上げますね。うちの準備不足のお詫びです。受け取ってください」

「あら、ありがとう」

「家に帰ったら、どういったものかお母さんに訊いてみてください」

「訊けばわかるの? そうするわ」


 ははは。

 訊いて母ちゃんに怒られろ。

 そんで恥しさに泣け。


「では、またのご来店をお待ちしてますー」

「ええ、今回は残念だったけど、また来るわね――」


 と少女はくるりと背を向け――


 猛然と振り返った。


「――じゃ、なくて! アタシが探してるのはこれでもないのよ。店主! とりあえず店主呼びなさいよ!」  

「えぇー……。それあげたんだから、もう帰れよ。閉店したんだって」


 めんどくせえガキだ。


「なっ……客になんて口のきき方! 店主ーっ! 出てきなさい! ロクに接客できない不良店員がいるわよ!」 

「うっさいうっさいうっさい」


 なんてやり取りをしていると、奥からニケがやってきた。

 あらら。

 タイミングがいいというか、さらに厄介になりそうというか。


「なに、なんかあったのかヒカル?」

「いや、閉店後に面倒くさいお客が来てな。帰ってくれないんだ」


 目を吊り上げて睨んでくる少女を示す。


「客? この娘か」


 そう言ってニケが前に出た。


「あなたが店主?」

「まあな。なにか探してんの?」

 

 ニケがそう言うと、少女は声を潜めて言った。


「強力な矯正効果を持った下着を取り扱っていると聞いたわ。出しなさいよ」

「強力な……下着? 装備ぱんつのことか?」


 装備パンツ。

 ニケの水着にヒントを得て、専属の仕立屋が開発した完全ハンドメイドのパンツだ。

 試行錯誤の末、そのパンツに多少のステータス上昇効果と『炎属性耐性』を持たせることに成功していた。


「あれは、もう売れちゃったぜ。女の子の冒険者に大人気だったもん」


 その製作工程の複雑さと必要材料の希少さから、あのパンツは事前に数点しか用意することが出来なかった。そしてすでに冒険者に売却済みだ。


 装備できるものが限られている冒険者にとって、必ず身につけなければならない下着にステータス上昇等の付与効果があるというのは大きかったのだろう。

 説明と共に店に並べた途端、ちょっとした騒動と共に売れてしまった。


「そんな……。もうないの?」

「売るのはな。オレ個人がいくつかキープしてるのはある」

「それ!」


 少女が叫んだ。


「アタシに売って! 言い値で買い取るわ!」


 俺とニケは顔を見合わせ、首をかしげた。


「おまえ、名前なんて言うの?」

「アタシ? エリカよ」

「エリカにゃ、必要ないと思うがな」

「なっ……」


 あのパンツは完全に冒険者向けに作った品だ。

 用途を考えれば、エリカみたいな子供が持っているのは宝の持ち腐れだろう。


「ホレ」


 ニケはエリカに何かを手渡した。

 

 デフォルメ動物のキャラクターパンツ。


「そっちの方がお似合いだ。あげる」

「いらっっ――ないわよ!」

 

 べし、とエリカはパンツを投げ捨てた。


「おまっ! なんてことする。これだってなあ、このヒカルが生産中止をかけたせいで数が少ない貴重な代物なんだぞ! これを穿けることがどんだけ栄誉なことか……」

「こんなのッ、子供だって着ないわよ! いいから装備パンツっていうの出しなさい!」

「嫌だね、5年は早い。お前みたいなのは子供ぱんつを穿けばいいんだ。装備ぱんつはやれない」

「お金なら出すわよ! 文句ないでしょ!?」

「あるぜ」


 そう言って、ニケは腕組み。

 エリカを見下ろす。


「オレのストライクゾーンは、15から29までだ。お前みたいなジャリに譲る理由がない」


 うわぁ……。

 最低だコイツ。


「な、なによ……」


 理不尽な拒絶理由に、エリカは涙目。


「帰れ帰れ」

「……っ」


 なんか、全くそういう義理はないんだけど、可哀想になってきた。

 完全にニケが上手で、エリカは終始圧倒されっぱなし。

 涙をこらえて立ち尽くしてる。


「か、帰らないわよっ……。売ってよ!」

「やーだ、め」


 弱いものをつい応援したくなるのは、無責任な立場にいる傍観者の常だろう。

 

 ……。


 ってか、弱いものイジメを見ている気分。

 偲びねえ。


「それで帰るって言うなら、あげればいいじゃん」


 俺は言った。


「おいおい。ヒカルともあろうものがなにを言う。ぱんつを一つ失えば、その分ぱんちらが減るんだぞ」

「その考え方には心底感心する」


 すげえ。

 徹底してる。さすがニケ。

 

「それにこんな子供にやってどうする。装備ぱんつ穿いてやんちゃして、怪我でもされてみろ。後味悪いじゃねぇか」


 ちゃんとした理由があるじゃん。

 そっちを言えよ。


「そんなこと言わずにさ。――女の子だもんな? 危ないことしないよな」


 俺はエリカに訊いた。

 エリカはコクコクとなんども頷く。


「な」

「いや、でもなぁ――」

「なんなら俺が、代わりに水着をやってもいいけど」

「ちょっ……わかったから、それは駄目!!」


 ニケが慌てて奥に引っ込んだ。

 キープしておいたパンツを取りに行ったのだろう。


「……礼を言うわ。不良店員」

「なら不良店員はやめろ。美人のお姉さんって言って」


 ――いや。

 それも嫌だな。

 自分で言っておいてなんだけど、言ったヤツはただじゃおかない。


 そんなことを思っていると、ニケが紙袋を持ってバタバタとやってきた。

 カウンターを回り、エリカに紙袋を手渡す。


「ほれ」

「ありがとう。――お代は?」

「そんなん、子供がいちいち気にすんな。あげるって、ロハでいい」

「良いサービスね」


 満足げなエリカ。


「あー……」

 

 がしがしと頭を掻き、でもな、とニケは膝を折った。

 エリカに視線を合わせる。


「危ないことはすんなよな」


 エリカはそれに返事をせず、コクンと一つ頷いた。


サブタイのスタイル変えました。

前回までのヤツは、考えるのめんどい。投稿済みのも修正するかもです。


あと、前回からニケ編始まってました。

尺は短め。その上新キャラ。

まとまるかだろうか……


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