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27 魔法学院、共闘


「いやまて」

 

 走り出そうとしたアズリアを止めた。


「な、なぜだ。 やる気を出したのではなかったのか??」

「やる気は出たけど、ちょっと問題がある。アズリアも行くの?」

「当然だ」

「なら、その装備は拙い。――これに着替えな」


 俺はごそごそとカバンを漁り、あるものをアズリアに手渡した。

 ニケに渡す水着を探している最中に偶然見つけた物で、カミラにプレゼントしようと思って大事に持参していたコスチュームだ。


「なんだこれは?」


 俺が渡した物の中から、アズリアはスカートを手にとって不思議そうに眺めた。

 ひっくり返したり、裏地を見たりしている。 


「これは、下着……か?」


 やがてアズリアは小さな布キレを持ち上げて言った。 


「ノー。スポーツ女子の鉄壁装備、アンダースコートです」


 手渡したのはテニスウエアセットだ。白いスカートとアンダースコートがまぶしい秘蔵のネタ装備である。


 最近はスパッツ主流ですが。

 そういう意味でもレア装備。


 ただ、そうはいっても今アズリアが着ているモノよりずっと性能はいいはず。

 回避率と命中率を大幅に上げる効果を持ったテニスウェアは、レベル差があり過ぎるためにポラリスの攻撃を喰らうことが出来ないアズリアにはちょうどいい。


「あんだーすこーと?」

「うん。――さあ! 着るんだ!」


 こんな状況でなんだけど。


 うん。


 調子戻ってきた。

 

「ちょ、ちょっと待て。着替えろと言うのか? 今、ここで?」


 アズリアは慌てて俺に訊く。

 まあ、確かに屋外で着替えというのは抵抗があるだろう。


「大丈夫! それ下着の上に穿くヤツだから!」


 スカートだって、今身につけているヤツの上から着替えればいい。まあ、シャツは羞恥に堪えてもらうしかないけど。

 

「そ、そんな……」


 縋る様な眼で俺を見るアズリア。


「無理に着なくても良いけど、その場合は支援禁止」

 

 一応無理強いはしない。

 ただ、戦闘に参加するなら着替えてもらうことが最低条件だ。


「……いきなりこんな服を渡すということは――なにか、理由があるのだな?」

「おうよ」


 俺の理由は置いておいて、アズリアが生き残るためだ。


「……。信じるぞ」


 そう言って、アズリアはごそごそと着替え始めた。


「……………………ッ」

  

 やばい。


 アンダースコートがちゃんと仕事しなかった。


 不意打ち喰らった。 




 ▼




 部下から報告を聞くまでもなく騒ぎを聞きつけたイクトールは、実習林へと急いでいた。

 近づくにつれ、不可解さに困惑する。


 人の叫び声と、モンスターの低い唸り声。 

 

 それは決してありえないことだ。

 研究員はイクトール自身が魔術士団から引き抜いた優秀な者ぞろい。そうでなくとも魔法学院の研究員となるにはかなりの腕をもった魔術師でなければならない。

 生徒の実習のために管理されている実習林に出没するモンスター相手に、後れを取るなどありえない。

 

 ――強力なモンスターの流入。


 実習林に向かう途中でそういう報告を聞きはしたが、それは考えにくい。

 

 この王都は4体の「王都守護聖獣」に守られている。

 人を決して傷つけない彼らによって、人を害するほどのモンスターは王都近郊には近づけないはずだ。


 そういう理由から、イクトールは不可解さをいぶかしみながらもそれほど深刻には考えていなかった。 彼が出向いたのは単に、何らかの事故がおきたであろう実習林の早期収拾のためだ。 


 ――研究中の事故、にしてはモンスターの唸り声というのが引っかかるしの。


 考えられる可能性として、事故とモンスターの襲撃が同時に起きたか。

 

 そうあたりをつけ、急ぐ。

 それ以上は深く考えなかった。

 先入観を持てば、事態に即した対応を取れない。


 ――忙しい……

 

 そんな愚痴を内心で呟きつつ、しかし現場についたイクトールは我が目を疑った。


 先日冒険者ギルドから搬入された「黒翼竜」と「黄金翼竜」。

 それらが、動いている。

 

 イクトール自身も対属性魔法検証に参加していただけに、そのことがすぐには信じられない。

 なぜなら翼竜たちは完全に死んでいたからだ。


 さらに言うなら、翼竜たちのあまりの魔法耐性の高さについて先ほどまで意見書をまとめていた。

 それは王に直接報じるためのもので、もし仮に黄金翼竜達の再襲撃が起きた場合に対する国防論を論じたものだ。


 今までの検証結果を報告し、新たな国防策を論じた後、

「もしまた彼らが現れるならば、それは巨大な脅威となる。討伐したという冒険者たちはもちろん、国内魔術師を整理し、かように国防を固めることが急務である。またエルフたちに「黄金翼竜」「黒翼竜」の詳細な情報を求めなけらばならない」とした。



 国内屈指の魔術師であるイクトールでさえも黄金翼竜達には驚愕し、その死体にすら畏怖を感じた。 


 その翼竜達が、動いている。



 ――これは、一体……


 

 予期できなかった出来事に思考が鈍りながらも、体は動いた。


 

 実習林へ駆けながら、魔力を繰りつつ言葉を紡ぐ。



 ――『大暴風テンペスト



 それはイクトールが扱える魔法の中で最大級の威力と規模を誇る魔法だ。

 ごく限られた魔術師しか扱うことのできないこの秘儀を、惜しげもなく行使する。


 出し惜しみをしていて、勝てる相手ではないと感じた。

 出し惜しみをせずとも、勝てる相手ではないことも承知だ。


 それでもイクトールは挑む。


 軍には、騒ぎを察知した部下がすぐに連絡するだろう。学生の避難も任せて良い。

 ならばイクトールのするべきことは、翼竜達に挑んでその時間を稼ぐことだ。


 また、王都には数万の住人がいる。


 そのなかで、微かでも彼らに対抗しうるのはイクトールしかいないだろうということも、彼を難敵へと前進させた。


 

 暴風の中を猛烈な勢いで突き進みつつ、さらに魔法を唱える。



 ――『雷帝トール



 横に落ちる稲妻。

 それを杖に纏い、起き上がろうとする黄金翼竜に放とうとしたとき――



「この、馬鹿野郎! いきなり範囲攻撃する奴があるか!」



 場に似合わぬ可憐な声に罵倒され、その刹那の後、イクトールをすさまじい衝撃が襲った。




 ▼




「あほ! 巻き込まれるとこだったぞ!!」


 バハムートとポラリスを相手取っているときに突然襲った暴風。

 俺はとっさに回避し、攻撃支援をしていたアズリアを抱えてポラリス達から距離を取った。


 俺がその場を離れると、竜巻のような暴風がポラリス達とまだ残っていた研究員達を直撃した。


 この不自然に発生した暴風は魔術師系のスキルだと直感した俺はすぐに付近を見渡し、傲然と走り寄る髭の老魔術師を見つけ、張り倒した。


「攻撃支援なら、する前に声かけろ! 味方を巻き込んでどうする!?」


 地面に仰向けに倒れた爺さんを怒鳴りつける。


「が、学生か? なぜ学生がここにおる……早う逃げろ」


 起き上がりつつそう言う爺さん。  


「逃げるか! 爺さんこそ逃げろ。誰か知らんけど、一人で手に負える相手じゃないぜ」

「それでもやるしかあるまい。わしが逃げたら、学生や研究者たちはどうなる」


 爺さんは手にもった杖を構え、振るう。


 帯電していた雷が放たれ、轟音を上げてポラリスに直撃した。


「……。もしかして爺さん、結構強いのか?」



 属性『雷』。

 一次職の『魔術師メイジ』も扱えるが、この威力と規模のスキルを本格的に扱えるのは二次職になってからだろう。

 現在、『開拓ギルド』がなくなってしまったためにクラスチェンジのクエストが受注できない状況にある。

 しかし先ほどの暴風や雷属性の攻撃から考えると、この爺さんは魔術師系統の2次職『攻性術師ソーサラー』か3次職『魔導師ウィザード』だ。

 この世界に来てから、これほど強い人ははじめて見た。、



「学生だろう、なぜ知らぬ」


 そう言った爺さんに、腰に抱いたアズリアが答えた。


「い、院長!?」


 院長?


「君は……なんちゅう恰好をしとるのかね」

 

 爺さんが呆れた風に声をかけたのは、俺が渡したテニスウェアを着こなすアズリアだ。


「――学生かね?」

「2年の、アズリア=リノスです」

「学生か……さっきも言ったが、はよう逃げろ」


 そう言って爺さんは背を向けた。


炎獄インフェルノ


 叫び、杖を掲げる。


「ば、馬鹿! ポラリス相手に炎攻撃してどうすんの!?」


 俺がすかさず言うのもむなしく、スキルは行使された。


 炎がバハムートとポラリスを包む。



『GYYYAAAAaaaaa……』


 

 ポラリスは叫び、炎を纏いながら巨体を起こした。

 ふらつき状態。

 ダウンから回復してしまった。


「む?」


 ダメージがないばかりか、ポラリスが起き上がったのを見て爺さんが低く唸った。


「ポラリスは『炎属性吸収』を持ってんだよ」

「『吸収』? 何だそれは。――黒翼竜が『無効』を持っておるのは知っとるが……」

「回復すんの。検証したんだろ!?」

 

『属性吸収』

 受けた属性攻撃を無効化し、そのダメージ分を回復する。

 厄介なパッシブスキルだ。


「回復――そうか。死んでおったから……」


 回復も何もなかったと。

 

 爺さんは顔を顰めた。



『GYAAAAAAAA!!』


 

「あー、もう! 使うなら炎属性以外にしてくれ。範囲攻撃も禁止!」


 せっかく蓄積していたダメージが回復してしまった。

 早くダウンさせないと、ふらつき状態からも回復して飛び立ってしまう。


 俺はポラリスに向けて走り出した。


「おい! 向かってはならぬ!」

「アズリア、爺さんに説明しといて。あと、支援よろしく!」

「わかった!」


 アズリアの返事を聞きながら、走る。

 なによりもすべきことはポラリス達をダウンさせることだった。 




 ▼




 ポラリスとバハムートを空に逃がすわけにはいかなかった。

 北の谷の荒野とは違い、この王都には「攻撃対象」があり過ぎる。一度逃がしてしまえば、再び俺の元へと降りてくるかわからない。


 そのため、危険を承知で決死強襲主義を貫く。


 以前戦った時に、ダウンから回復後のふらつき状態でも、攻撃を蓄積させれば再度ダウンすることが分かっている。

 一度たりとも逃がさない。


 俺はポラリスとバハムートの間を縦横に駆けまわる。

 攻撃を回避しつつ、反撃。

 威力の低い攻撃はわざと喰らい、その間にも反撃。

 

 血みどろになりながらも攻撃を繰り返すが、やはり二体相手では攻撃効率が悪すぎた。


 一度もダウンさせられないままバハムートとポラリスが大音響で叫び、翼を大きく広げた。


「だあ! くっそ!」


 俺は突進し、ポラリスの後ろ脚に組みついた。


 しかし、どうしようもない。

 

 横方向への力の発揮は絶大だが、縦方向へは俺は無力すぎた。

 なぜなら垂直方向に働く力に対して、あまりにも軽い。ポラリスは見上げるほどの巨体で、俺はカミラに見下ろされるほどの小柄だ。

 体重差はいかんともしがたい。

 

 俺が脚に組みついたまま、ポラリスは飛び上がった。

 隣にいるバハムートもそれに続く。


雷帝トール

霧球ミストボール!』


 後方からのアズリアたちの援護。

 魔法はバハムートに直撃し、咆哮を上げてバハムートは墜落した。


「アズリア! そのままバハムートを攻撃しといて!」

「ヒカルは!?」


 俺は滞空しているポラリスの足にしがみついたままだ。


「知るか!!」


 もしかして、このまま空中戦だろうか。

 そんなんゲーム時代ですらしたことないんだけど。


「と、飛び降りろ! 今ならまだ間に合うぞ!」


 俺が空でポラリスに振り落とされる場面でも想像したのだろう、アズリアが叫んだ。

 たしかに、今はまだ高度が低い。これくらいなら飛び降りても問題はない。

 しかしそれではポラリスが完全に飛び立ってしまう。

 そうなった場合、攻撃対象は「王都」になるだろう。


「このやろ、墜ちろ!」


 足を掴んだまま、片手で殴る。

 

『GYAAaaaa!!』


 俺の攻撃に苦しむような咆哮を上げるが、ポラリスはそのまま高度を上げる。



 このままでは、本格的にマズイ。



 俺がそう思った時、




 ぐしゃ




 音を立てて、どこからか飛来した巨大な斧が、ポラリスの胴体に突き刺さった。 


 しかも俺の頭のすぐ上。

 血の気が引いた。


「この斧は……ニケか!?」


 俺が斧を確認すると同時に、はるか下方からニケの声がかかる。


「ヒカルゥ!! そいつ、墜っこちるぞ!」


 確かに、空中でバランスを崩したポラリスはそれを立て直そうともせず、俺は気味の悪い浮遊感を感じていた。






「斧ブーメランは、対象に当たると戻ってこないのが弱点だな!」


 溌剌とした声を上げ、ニケはポラリスに突き刺さった斧と下敷きになった俺を回収する。


「助かった……」

「気にすんな。さっさと狩っちまおうぜ」

 

 俺の言葉にニケは軽い返事を返した。

 ニケの腰に抱かれたまま視線を向けると、2頭は地面に伏せている。


「ダウンだな。今のうちに2人でフルボッコにしよう」

「いや、とりあえず俺はあいつ等の両足切り落とすから、そのあいだ攻撃頼む」

「両足!?」

「おう。そうすりゃ常時ダウン状態。――まあ、ブレスは吐いてくるんだけどな。危険地域じゃワイバーン相手によくやったもんだ」


 へえ。

 ゲーム時代はなかったけど、そういう戦い方も出来るのか。


 俺を地面におろし、二頭に走り寄るニケ。

 俺もそれに続いた。


「自作スキル・ギロチンスラッシュ!」


 叫び、ニケは地面に叩きつけるように両手斧を振りおろした。

 その攻撃を喰らったバハムートの脚は、肉と骨を同時に断つ耳障りな音を上げて両断された。


「ははは。今宵の水着は、血を欲しておるわー!」


 狂声を上げて、ニケは2頭の間を走り回った。


 あっという間に、4本の足を切り落とす。


 翼竜達は翼を兼ねた前足のみの姿だ。 


 なんか無残。


「よし。これでフルボッコだ」


 ニケは全身に返り血を浴びながらも、凄惨な笑顔を浮かべながら言った。


「アズリア、爺さん! 全力で行くぞ!」


 俺は叫んで、全力でバハムートを殴る。


 

 

 それからほどなく、俺たちは2頭を討伐することに成功した。


予定より遅れました。

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