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23 魔法学院、潜入

 直接、魔法学院に向かうことは出来なかった。

 ダグに相談したところ、魔法学院は良家の子女が多く集まる王国有数の高等学府であり研究機関でもあるとか。

 当然、人の出入りには細心の注意が払われている。

 そこへ突然訪ねて行っても門前払いされるだろう、とのことだった。

 ダグが自身の知人へ手を回してくれて魔法学院への紹介状を用意してくれたけれど、しかしそれでも審査に一月はかかるらしい。

 もともと俺たちが身元不明者なのが原因だ。ダグが集めた紹介状でもその不審を晴らすことはできず、それでも魔法学院に入りたいというのならば、さらに有力者の紹介状が必要だった。

 一応、俺もカミラに手紙を書いてみた。

 入りたくても入れないので、その手引きをしてくれという内容だ。

 返事は「私から会いに行くので、あんたは来るな」というような内容だった。ひどい。

 

 こんなことなら、我慢してシルケスの領主とかに会っておくんだった。そんで、恩を押し売りしておくんだった。


 とか思うものの後の祭り。どうしようもない。

 そういうわけで俺たちは、審査の終わる一か月間をぶらぶらと王都観光に充てていた―――



 ということはなく。



 現在ニケと、魔法学院近隣に潜伏中。

 入れないなら強行突破。

 これに尽きる。



「作戦を確認するぞ」

「おう」


 頷いたニケはいつも通りのビキニ姿だ。

 どこから調達したのかTシャツのような薄いシャツをビキニの上に着ていて、一般の人にとってはとても目に毒。俺は慣れているから気にしない。風景みたいなものだ。 


「まず、ニケが最初に魔法学院に入って騒ぎを起こす。そのあと俺が潜入する。つまり陽動作戦だ――潜入に際しては、俺が以前手に入れた『魔法学院制服・女』を使うから、正門前の警備員をどうにかしさえすれば、潜入してからは疑われないはずだ」

「昨日確認した通りだな」

「おう。最悪でも、警備員は何とかしてくれ」

「OK」

「あと、俺が戻るときは合図する。どこかで騒ぎを起こすから、それに合わせてニケも正門側で騒ぎを起こしてくれ。――何か質問はある?」

「一つだけ」


 とニケは手を上げた。

 この陽動作戦、なんと言ってもニケが作戦のカギだ。ニケが警備員たちを十分に引きつけられなければ、そのまま作戦が失敗。俺は潜入することが出来ず、ニケは捕縛されるだろう。なので事前に疑問事項があるならば解消し、陽動の成功率を上げなければならない。昨夜徹底的に話しあったつもりだったのだけれど、実際に魔法学院を目にして気になることでもあったのだろう。

 俺はニケを促した。

 ニケは言う。


「警備員が女だった場合だ」

「――まさか」

「いや、なかにいるであろう女学生にも言えることだが――全て、ぱんちらしても構わんのだろう?」

「……もちろん。――ただし、パンモロだけはよせ。おそらくだけど、それに耐えられる女性はいない」


 カミラなど、パンチラだけでも泣いてしまったのだ。

 人前でパンモロした日には首を吊ってしまいかねない。


「わかった。――オレの崇高なる嗜好は知っているだろう。安心しろ。みすみすぱんつの担い手の、かけがえのない命を奪うようなことはしない」

「頼む。お前はパンチラのために本当に殺しかねないから、マジで心配だ」 



 勝利を呼ぶ男ニケ


 数々のクエストに挑み、そのすべてを生還している。無残に退却しようとも諦めることをしないコイツは、難攻不落と呼ばれたクエストですら長い戦いの末に攻略して見せた。

 近いうちにオルタも、ニケが率いるパーティに屈するだろうというのが仲間内での通説だった。


 様々な武勇に彩られた、ニケ。


 いまだ、本当の敗北を知らない。



 狙ったパンツは絶対スクショ。

 PKされるとパンツをはぎ取られるとまで恐れられた男だ。

 コイツのPKを恐れて、どれだけのプレーヤーが自らパンチラを献上したか。

 月例都市国家間戦争では、ニケの存在だけで多くの女性プレーヤーが逃げた。 



 学校の中に放り込むとか、本当はめっちゃ心配。



「頼むぜ。パンモロだけは……」


 やる気ならパンツ回収だってできる世界だ。

 しかしそれをやってしまったら最後、紳士であり続けることは出来ないだろう。

 

 俺は懇願した。

 

「わかってるって!」


 ニケは軽く笑った。


「じゃ、行ってくる」


 ダッ。


『キャアアアアアアァァア!?』『うおおおぉぉぉぉおおおおお!?』



 はっやあ!?

 もう大騒動!?

 天才!?



「予想以上の働きだぜ……ニケ」


 あっという間に、詰め所に詰めていた大量の警備員がいなくなった。

 誰もいない。

 遠くから女子生徒の悲鳴と、男子生徒の歓声が聞こえるのみだ。


「俺も入ろっと」


 口笛を吹きながら、あたかもここの生徒ですよという風な感じで、俺は魔法学院に入った。




 ▼




「潜入成功」


 カミラのお下がりの制服を来て、俺は長い回廊を歩いていた。

 廊下の一方には教室やら何やらに続くドアが並び、もう一方には壁がない。

 中庭を囲むようにして続くこの廊下は、太陽の光が入ってきていてなかなか清々しく、現実ではお目にかかれない光景なのでちょっとわくわくする。



「どこいくかな」



 事前に目星をつけていた場所を振り返る。


 魔法学院の生徒たちが実際に実習を行う「教練棟」や屋外の「実習場」。書籍が大量に保管されている「図書館」と、職員がいる「職員棟」。


 おそらくだけど、ニケの騒動によって「教練棟」や「実習場」は封鎖されているだろう。そこには金持ちの家の子弟たちが、生徒として多くいるはずだからだ。

 となれば、書籍をあたるために「図書館」に行くか、教師を攫うために「職員棟」に行くか。


「最初は図書館に行ってみるか」


 職員を攫うのは最後の手段でいいだろう。

 MPの扱い方が一朝一夕で習得できるとは思えなかったので、もともと長い潜入となることを覚悟してきたのだ。

 いきなり襲撃することもない。

 ということで図書館に向かう。

 





 図書館は貸し出しに学生証が求められるだけで、閲覧するぶんには特に何かを提示する必要はなかった。

 俺は悠々と図書館に入る。


 図書館は木造の三階建て。

 一階中央に円形で巨大な司書机があり、それを取り囲むように閲覧用のテーブルが設置されている。さらに外側には、個室になった閲覧室まであった。おそらく、自習用だろう。

 2階と3階には蔵書が並び、司書机の真上、つまりフロアの中央が吹き抜けになっていた。


 静寂に包まれた図書館内をめぐり歩き、いくつか本を選んで適当な椅子に座る。

 俺が座ったのは、一階にある司書机から離れた閲覧用の机。

 どさどさと本を置いて、早速ページをめくる。

 

 事前に調べたことによると、この図書館には「禁書」と呼ばれる危険な魔法書物も保管されているらしい。ただ、今回の潜入の目的はあくまでMPの扱い方知ることなので、そういう本は必要ない。内容の簡単な、入門書的なものがあればそれでよかった。



『魔法入門1』

『実戦魔法1』

『支援攻撃魔法』



 かなり長い時間をかけて、それらを読む。


「……」


 ないな。

 全部魔法を使える前提で書いてある。

 魔力の効率運用って一体何だ?

 もっと簡単なヤツに載ってるのだろうか。



『魔術士ってどんなお仕事?』

『自伝 30歳の魔術士転職』

『11歳からの魔術士 ~いきなり手紙が来たら編~』


 

 ない。

 もっと簡単なヤツ?

 そんなのある?



『アルカディアものがたり』

『ちいさなまじゅつし』

『まじゅつしなぞなぞ』



「ふふ……」


 絵本だけど、割とおもしろい。



 じゃ、なくて



「ない。……はぁー」


 ため息をついて俺は机に突っ伏した。

 顔のみを動かして窓の方を見ると、すでに外は藍色に染まっていた。かなり長い時間を読書に費やしたことになる。


 眉間を揉みながら、体を伸ばした。コキコキと軽快な音がした。

 

 まあ、初日にMPの使用方法がわかるとは考えてはいなかった。そんなに容易いものならば、魔法学院が存在している意味がないだろう。

 とはいえ、全く手掛かりすら掴めないとも思っていなかった。

 魔法学院。

 根本である魔力の制御法がどこにもないのはどういうことだ?


「……。外行くか」


 短い期間とはいえこれからちょくちょく来ることになると思うので、出来れば目立ちたくはない。遅い時間まで残っていたら、司書の印象に残ってしまうだろう。

 俺は一冊一冊本を元あった場所に戻し、それから図書館を後にした。




 ▼




「カミラ探そっと。どこにいるだろう」


 図書館を出た俺は、カミラを探すことにした。

 魔法学院に潜入できたのはいいけれど、潜入し続けるためにはカミラに保護をお願いしなければならない。食事や寝る場所の確保のためだ。

 一応、手に持ったかばんの中には、日持ちする食料と着替え、それと魔法の布袋がしっかりと入ってはいる。最悪の可能性として実習林で野営することを考えてのことだ。しかしそれはあんまり考えてはいない。実際に魔法学院に来てしまっているのだから、カミラも無碍に追い出したりはしないはず。


「どこにいるんだろうなー」


 ぷらぷらと夕暮れに染まった学院内をうろつく。

 おそらくカミラは下宿か、寮生活だろう。

 一人部屋なら余計な気を使わなくて済む。一人部屋だったらいいなー。


「誰かに訊ければいいんだろうけど」


 先ほどから、誰もいない。

 ニケの騒動で、生徒は早く帰ってしまったのだろうか。

 学校に変質者が現れたとなれば、当然の処置かもしれない。


「学校は始まってるはずだから、誰かしら残っててもよさそうなのに」


 試しに講義室らしき部屋のドアを薄く開けてみた。


 講義室は円形で、すり鉢状の空間になっている。中央で講義するのだろう、それを囲むように段々と椅子が並べられていた。

 しかし、誰もいない。


「……」


 残っているだろう教師を求めて職員棟を目指してもよいのだけど、もしかしたら俺が学生ではないと発覚してしまう恐れがある。

 尋ねるならば断然生徒だ。


「失礼しました」


 俺は静かに講義室のドアを閉めた。

 再び学生の姿を求めてうろつく。


「あなた」


 声がかかった。


 俺は声のした方へ顔を向ける。

 そこには俺と同様の制服を着た、女子生徒が立っていた。 



 

 ▼




「こんな時間に、なにをしているのだ?」


 女子生徒は首をかしげながら訊いてきた。

 直線的に切リ揃えられた黒髪が、それに合わせてさらさらと動く。


 ――すごい。

 姫カットだ。

 しかもどことなく和風な雰囲気で、さらに美少女。


「あ、人を探してるんです」


 そんな人物との邂逅に感動しつつ、俺は一応丁寧語で答えた。顔には笑顔を張り付けている。

 生徒に出会えた安堵感も手伝って、自然な笑顔になったはず。


「人探し?」

「ええ。――カミラって言うんですけど」

「カミラ?」


 少女はちょっと考えるような仕草をした。


「あなたが言っているのは、2年のカミラ=バスク嬢のことだろうか?」

「バスク……? カミラのこと、知ってるんですか?」

「ああ。同級だ」


 おお。

 すごい幸運だ。

 でも、バスクって名字だろうか。俺、カミラの名字なんて知らないから、人違いの可能性もある。


「あの、金髪の?」

「そうだな。あと、綺麗な青い目をしている」


 本人っぽい。


「どこにいるかわかりますか」

「今は……寮に帰ったのではないかな。――急用か?」

「一応、そうです」


 出来れば今すぐ会いたい。

 とりあえず寝床を確保して安心したい。


「ふむ。私が取り次ごうか?」

「え、いいんですか」


 かなりついてる。

 可能性として寮は考えていたけれど、どうやって会うかまで考えていなかった。単純に寮を訪ねて呼び出せば注目を引いてしまうだろうし。 

 

「かまわない。――下級生が上級生を呼び出すというのも、勇気がいるだろう」

「え?」

「一年生だろう?」


 ちょいちょいと少女は自分のネクタイを指した。赤い。

 俺は自分のネクタイを見下ろす。緑色だ。

 へえ。

 買い替えたって言ってだけど、学年によって色が決まってるのか。

 毎年新品とか、経済的ではないな。


 そんなことを考えながら、俺は少女の言葉に頷いた。 

 それから軽く頭を下げる。


「あの、――おねがいします」






「信じられない!」


 先ほど会った少女に連れられて、カミラの部屋に案内された。

 俺を見るなり言ったのがこれだ。


「私から会いに行くって言ったでしょう。なんで――というか、どうやって来たの?」


 あれ? とカミラは首をかしげた。


「昼ごろなんか騒ぎなかった?」

「ああ。なにかあったみたいね。――なんでも、物凄い非常識な人が学院に入り込んだとか……?」


 言ったきり、カミラは俺を疑わしげに見つめる。


「俺じゃない、ニケだ。ニケにちょっと手伝ってもらった」

「ニケって……キースに会いに行ったっていう?」


 軽く眉をひそめてカミラが言った。

 そういえばカミラ、キースのことでニケに対抗心みたいなもの持ってたっけ。 


「あ、うーん……。どっちかっていうと、俺に会いに来たっぽい、よ?」

「そうなの?」

「ほら。俺ってそれまでキースと一緒だったからさ。キースに俺の居場所訊きに行ったんだって」

「へえ」


 納得したようにカミラは頷き、


「で、ヒカルはどうしてここにいるわけ?」


 と話を戻した。

 ここからが本題。なんとか泊めてもらわなければ。


「魔法学院に用事があったから、来ちゃった。無断で。――今日泊めて」

「なっ……い、いきなりは無理よ」

「えー、いいじゃんか。散らかってるの見られたくないとか? そんなん気にしないって。部屋に遊びに行ったりしただろ」


 俺の外見は同性だし、カミラ相手に何かするつもりもないから問題ないと思ったんだけど。 


「散らかってないから! ――相部屋なのよ。同居人の確認も取らないで勝手に泊めることなんて出来ないわ」


 あらら。

 一人部屋じゃなかったの。

 ならしょうがない。


「でも、どうしよう……。ヒカル、私以外に学院に知り合いなんて居ないわよね?」

「おうよ」

「カミラのルームメイトは、シルヴィア嬢だったか?」


 俺の後ろで話を聞いていた少女が言った。


「そうなのよ……」


 カミラはため息をつきながら言う。


「それでは、説得は難しいな」

「……。 ヒカル、ちょっと待ってて。友達あたってくる」


 同居人ではなく、友達に頼むと言いだしたカミラ。

 もしかして、仲が良くないのだろうか。


「いいよいいよ、悪いし。どっかその辺で野宿するから」

「ちょ、やめてよ! 待ってなさい、絶対探してくるから」

 

 走りだそうとしたカミラを、少女が止めた。


「カミラ、私が彼女を泊めてもいい。幸い、私は二人部屋を一人で使っているから、ベッドが一つ開いている」

「え、本当!? アズリア!」

「かまわない」

「ありがとう!」


 ヒカルもお礼言いなさい、とカミラは促してきた。


「あ、ありがとう」


 ペコリと頭を下げる。


「うむ。ヒカルと言うんだな? 私はアズリアだ。アズリア=リノス」


 へえ。

 アズリア=リノスね。

 そんで、カミラはカミラ=バスクか……。

 ……リノス?


「ところで、ヒカル。あなたは魔法学院の生徒ではないのか?」

「「あ」」


 ものすごく自然にアズリアが居たから、俺たちはそのことを隠すのを完全に忘れてしまっていた。


魔法学院編です。

ちょっと長め。


一章で放り投げた伏線の回収を目指します。

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