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21 勝利を呼ぶ男

 

「じゃ、ニケはいきなり危険地域スタートだったのか?」

「ああ。人の住んでる場所なんてなかったから、いきなりサバイバルだったぞ」


 ニケの泊まる宿屋の一階。ここも酒場となっていて、俺たちはそこに移動して互いの近況を語っていた。

 ダグは気を使ったのだろう、どこかへフラリといなくなった。

 ないとは思うんだけれど、まさか本当ににゃんにゃんしに行ったのだろうか。


「よく無事だったな」

「100レベルだしな。生き残るくらいは何とか。――でも腹が減るのには参った。サバイバル知識なんてから何食っていいかわかんないし。モンスターは倒せるけど、生では食いたくねえからよ。とりあえず毒がなさそうな木の根っことか食ってた。でも、ひもじいし一人っきりだったし……みじめだった」

「ああ……」

 

 その時を思い出したのか、ニケが似合わずしゅんとうなだれた。

 俺もその「みじめなニケ」が容易に想像でき、同意するように頷く。 

 

「最初来た時は混乱したけど、サバイバル生活してたらなんとか落ち着いてよ。サバイバルの初めの頃は、エリュシオンを体験できるなんてものすげえ幸運じゃないか、とか思ってたんだが結局、最悪だったな」

 

 ニケの言うことはよくわかる。

 俺もそう感じたからだ。


 二人でそれぞれの苦労を思い出していると、すっかり暗い雰囲気になってしまった。

 そんな空気を変えるように、カラリとニケが言った。

 

「まあ、あれだな。特に困ったのが装備だ。ぶっちゃけ、ぱんつだ。サバイバル途中に水着が壊れた時には、絶望感で思わず死を覚悟した」

「すんな。パンツで」

「葉っぱで大事なところを隠すアマゾネス装備を考案したことでなんとか事なきを得たが」

「すげえ。めっちゃかしこいじゃん!」


 見たいし。


「とはいえ紙装甲だったしな。やっぱメニューが開けないことが一番困ったな」 

「ああ――わかる」

「メニューが開けないからアイテムも使えんし。回復とかアイテムなきゃどうにもならんぞ、単機の接近職は」

「ホントにな。――スキルは? 使えたか?」

「いや、無理だった。腹たったからいくつかオリジナル技作ったけど」

「……俺もだ」

「マジかよ」


 などなど。


 この世界に来てからの互いの苦労を、冗談ぽく労い合う。


 ニケは危険地域で二週間ほどサバイバルし、彷徨っているうちに危険地域を抜けて近隣にあった砦に保護されたらしい。その砦はサニアス王国の東、王国で唯一危険地域と接する場所にある。

 砦で食べ物とパンツを手に入れ、体力と気力を回復したニケは王都を目指してひたすら走っていたのだけれど、途中でキースの話を聞いた。

 危険地域での経験から腕のいい冒険者とパーティを組みたいと考えていたニケはキースを訪ね、しかしニケが希望していた程のレベルではなかったためすぐに別れた。ニケが望んだのは危険地域への冒険実績がある冒険者だったからだ。


 危険地域での経験。

 

 いよいよ、本題に入った。


「で、どうだった。危険地域。戻る手掛かりはありそうだった?」

「いや、そこまで入り込めなかった」


 ニケはそう言って、飲み物をグイッと仰いだ。

 一気に飲む。


「あそこは、やばい。おれはあそこから出てきただけだけど、100レベルだとしても深くまで入り込めないぜ。お前と二人で行っても同じだろうな……」

「そんなにか? でも、敵のレベルっていってもフィールドじゃ40が限界じゃない?」


 『エリュシオン』ではフィールド上でエンカウントできるモンスターのレベルは40が限度だ。

 それ以上のモンスターはクエストか、ダンジョンにしか出てこない。

 そして40ならば十分以上に勝てる相手だ。


「いや、クエストモンスターがうじゃうじゃいた。多分だがクエストが開放されてるんだろうな。やたら討伐系の奴らが多かったから無関係に全開放されたんじゃなくて、なにか傾向はありそうだったけど」



 クエストにもさまざまなものがある。


 『常設クエスト』『都市別クエスト』『連続クエスト』『大型クエスト』などだ。


 討伐、お使い、探索など、一回きりで終わる単発常設クエスト。

 提示されるクエストを順にこなしていくことでストーリーを形成する連続クエスト。

 独立する複数の連続クエストによって壮大な物語を作る大型クエスト。


 例えばポラリスと戦うクエスト『黄金翼竜出現』は『黄金翼竜ポラリス』の討伐を目的とした討伐常設クエストだし、俺が『朽ちゆく機工神の腕』を手に入れた『朽ちた旧神』はダンジョンの探索と『機械仕掛けの巨人エクスマキナ』の討伐を目的とした連続クエストであり、神々によるエリュシオン開拓神話をめぐる大型クエストの一部だ。 


 

「常設クエが開放されてんのかな。ワイバーンってそうだよな」

「ワイバーン? ――かもな。あいつら、夕方のカラスくらい湧いてたぜ」

「げ、そんなにか」

「バハムートだって、自販くらいのエンカウント率だった」

「……」


 またそんな、微妙な例えを……。

 ニケはフィーリングと勘で生きるエスパーだった。


「ってか、ポラリス!」


 唐突にニケが叫んだ。


「うん?」

「あれ、誰が倒したんだ? 確か80レベルクエだったろ、最弱で」

「うん」

「しかも連戦フラグ回収しなきゃならんし。今、そんな強いヤツいるんか?」

「おれおれ」


 と手を振る。

 ニケは驚いた表情を作った。


「どうやったんだ」

「いや。回復薬大量に使ってごり押しした。苦戦したけど」

「回復薬? おまえ、持ってたのか?」

「――うん? アイテム欄は開けないけど、ゲーム時代の所持アイテムならそのまま持ってるだろ」


 使い辛い魔法の布袋がそうだ。

 大量のアイテムは保持できるけれど、それを選択出来ないため使い辛いことこの上ない。いや、選択できることは出来るんだけれどゲーム時代の便利さは完全に失われている。戦闘中に回復する、というような目的では使えない。

 俺はもはや倉庫代わりとして使っていた。


「……なに? アイテムなんて持ってないぞ。引き継いだのは装備品とレベルだけじゃないのか」

「あれ、気付いてなかった? ――これだよ」


 俺は布袋を取り出した。


「持ってるだろ?」

「……。うん」

「なんか、目をつむって手を突っ込むとアイテムを掴めるんだ。ランダムだけど」


 実演する。

 

 む。硬い握りとつるつるとした手触り。なんかの剣だな。止めとこう――これは……お、やったコスチュームだ。しかも、質感と軽さ。形はパンツのようだけれど……水着だな。

 持ってたっけ?


「よっ」


 出てきたのは確かに水着だった。


「おお、懐かしいな。『ちょっぴりオトナ水着』じゃない? これ」



 『ちょっぴりオトナ水着』

 90レベルクエスト『朽ちた旧神』で手に入る素材を必要とする、高級なネタ装備だ。


 この装備を入手すべく、ニケを先頭にしてギルドの総力を上げて『朽ちた旧神』を攻略したっけ。

 結局俺たちが最初に攻略したから、戦闘ギルドの面目丸つぶれ。あいつら泣いてたな。



「水着様じゃねえか!」

「うわ、びっくりした」

「――あぁ……!!」

「拝んだ!?」

「くれ!!」

「やんねえよ!」


 俺のだ! 

 てか、水着はお前の私服だろーが。お前だって持ってるだろ。


「くれよォ!! 水着がないと全パラメータ下がんだよ! 水着を着ないでエリュシオンなんて、おれにとっちゃ両手縛りプレイなんだよ!」


 両手縛りプレイとか。

 どうやって操作すんの。


「いやいや、ニケだって持ってるだろ? 布袋漁ればいつか出てくるって」

「…………」

「なに?」

「おれ、それ持ってない」


 俺から視線を外し、言いにくそうにニケは言った。

 俺は首をかしげる。


「え?」

「……アマゾネス装備って言っただろ。でも堪えきれなくなって、その布袋でぱんつ作っちゃった」

「はあ!?」

「しょうがねえだろ。マジでパラメータさがるんだよ」

「下がるのはおめえの気分だろ! ばか! あほ!」


 布袋なしとか、せっかくのチートを捨ててどうする。

 マジで両手縛りプレイだ。


「あほ! 考えなし!」

 

 俺はひたすら罵倒。

 ニケは言い訳をした。 


「考えてるって! あの時は、状況を吟味して最善の対処をしたんだよ」

「お前が考えたのはパンツだろーが!!」

「おめえも一緒だろ! その種族装備だってパンチラ装備じゃねーかよ」

「アホか! パンツァー目線で物事を語るな! この装備のパンチラスクショ出来んのは俺くらいだっつーの。俺は機能重視で選んでんだよ!」


 この種族装備は『抗魔法』を上げ、いくつかの『状態異常無効』の付与効果を持っていた。

 『抗魔法』は魔法に弱い接近職なら当然補強すべき弱点だ。付与効果で魔法スキルを遮断するにも限度があるため、地力を上げるに越したことはない。


 うん。


 あのポラリス戦で、余裕こくのは止めたのだ。

 

 まあ、ちょっと言い訳は入ってるけど。



「なあ、マジで頼む。本当に、水着くれ。――な、一生のお願いだから」

「……」



 祈るような真剣さで、ニケは俺に懇願した。

 まあ、一生のお願いって言われれば断れないわな。

 俺もパンツァー、気持ちはわかる。


 でもこれはやれない。


 ゲーム時代に一回装備しているので。


 つまり一度身につけているのだ。


 この少し大胆だけど幼くもある可愛らしいビキニに、かつて脚を通したのだ。


 くどいようだが、一回穿いているのだ。


 恥しいわ。


「なんか、適当に見つくろっておくよ。それでいいだろ?」

「一番いいのを頼む」


「大丈夫だ。問題ない――とか言うと思うな。一番いいのはやんねえ」


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