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20 再会

「ハッ……ハッ……」


 俺は腹に手を当てる。


 ぬるり、という感触。


 血だ。


「はあっ……ああぁッ、くッそ! なんで!?」


 血を止めようと手を強く押し当てるほど、流血の勢いは増していく。

 そのことに俺はひたすら焦り、より強く傷口を圧迫した。


「――あ!?」

 

 ブツッという耳障りな音の後、押し当てていた手が腹の中に入って行く。


 

 ――なにかに、触れた。


 温かな手応え。



「はっ――」

 

 

 おいって――なんだこれ?

 

 

「……」



 ぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐにぐに。


 ずるっ! 


 

「――」



 視界が、真っ赤に染まった。




 ▼




「ヒカル!!」

「ッ!!」


 誰かに呼ばれて俺は飛び起きた。

 最初に視界に入ったのは薄いカーテン。続いて、やたらと豪奢な部屋の内装。


「ハッ、ハッ……」


 何かに急かされて、俺は寝巻を捲った。

  

 何もない。

 つるつるだ。


「?、?」


 ぺたぺたとお腹を撫でる。


「あ……夢か」


 夢。

 夢かよ。

 ビビった。

 

「ヒカル?」

 

 碧色の瞳を心配そうに細めて、俺を覗き込んできたのはダグだ。


「ダグ……?」

「大丈夫ですか? うなされていましたが」

「あ!? ……ああ、そっか。――ダグが起こしてくれたのな。ありがとう」

「いえ……悪い夢ですか?」

「……。さあ? 多分、嫌な夢ではあったな」


 忘れた。

 

 どんなだっけ。


「……」


 にしても、夢か。


『エリュシオン』に入り込んでしばらく経つけれど、そう言えば初めて夢を見た。


 なんの夢か忘れたけど。

 でも何かの夢は見ていたことはわかる。結構嫌な内容だったことも。

 ――なんだっけ?

 ああ、もどかしい。


「というか、うなされてた? 俺」

「はい」

「あー……ゴメン。うるさかっただろ」

「いえ。――本当に、大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。ただの夢だから」


 俺は軽く手を振り言った。


「悪かったな。俺はいいからさ、ダグは部屋に戻ってよ。まだ眠いだろ?」

「いえ、眠くはないです。ちょうど、起きたところだったので」


 ダグはそう言って、窓際に寄った。

 勢いよくカーテンを開ける。

 

 かすかに色づいた光が入ってきて、俺はちょっと目を細めた。


「夜が明けました」

「……早起きなんだな」


 おじいちゃんか。



 ▼

 


 現在、王都『サニア』に滞在中。

 

 王都『サニア』はその名の通り、サニアス王国の首都である。

 俺が一月ほど歩きまわっていたのは、このサニアス王国の領地内だったらしい。

 ようやく、RPGで言うところのスタート地点にやってきたのかな?


 住んでいるのは人間が多く、次に動物系の亜人。エルフやノ―ムは見かけない。

 これには、モンスターが関係しているとか。

 なんでも、王都周辺には高レベルモンスターが複数存在し、そのモンスター達が人に懐いているという。

 そのモンスターたちのおかげで、王都はモンスターによる被害が少ないと信じられているようだった。

 プレーヤーのレベルが高いほど積極的な行動に出ないのがモンスターだけれど、それはモンスター間でも適用されるのだろうか?

 それとも単純に、モンスターたちにも食物連鎖的なヒエラルキーが存在しているのだろうか。


 いずれにしても、人懐こい強力なモンスター達に守護された都市は、人間が主役の街だった。






 俺は宿屋から通りまでの道をてくてく歩いている。 


 連れはエルフのダグ。

 キースは仕事があるのでシルケスに帰った。カミラも一足早いけれど学校に戻った。

 残ったのがダグだ。


 ……。


 まあ、いいんだけど。本当はあんまり良くないけど、まあいい。


 そうして二人で王都に滞在して、かれこれ一週間ほど。

 そろそろ事態が動きそうな頃合いだ。

 

 というか動いてほしい。

 

 慣れはしたが、あまり親しいわけでもないダグと二人きりなのはいまだにキツイ。

 

「ヒカル、今日はどうします?」

「えーと……。情報収集もしたいし、一回冒険者ギルドに行こうかな。そのあと大通りの宿に行ってみる。ニケが帰ってきてるかもしれないから」


 シルケスでキースからニケの情報を聞き、俺はすぐに王都へ向かった。キースの言うことが確かなら、ニケも王都に向かっているはずだからだ。


 再びユニコーンと黒馬を呼び出し、全力で駆けに駆け4日で王都に着いた。


 無事に到着したのは良かったけれど、しかしニケの居所がわからなかった。

 昨日ようやくニケが滞在しているらしい宿を発見し、ニケが不在だったために伝言を残して来たのだ。

 昨日の今日なので、伝言を受け取ったニケを待つより、張り込んだ方が早い。


「わかりました」


 俺の言葉に、すぐにダグが頷いた。


「……」


 ダグが頷いたのを見て、俺は少々げんなりする。


 なぜか――ダグは俺の後ばかり着いてくる。

 この一週間、文字通りずっと一緒にいる。

 宿も、宿代は持つからと言って薦めてきた、幾つも部屋を備えた高級な宿屋に一緒に泊まっている。しかも寝室は隣だ。

 同性(外見を除く)ということでさして気にはならないけれど、どういうつもりなんだろうか。


 俺に惚れたのか、ダグが変態なのか。


「……」

「行きましょう」

「あの、無理して俺につき合わなくてもいいんだけど。――ほら、ダグも行きたいところとかあるでしょ」

「いえ」


 じゃ、なにしに王都まで来たんだ。おまえ。


「しかし、ヒカルが冒険者ギルドに行くならばちょうどよかったです。いずれは行こうと思っていましたから」

「あ、そうなの」

  

 ならいいか。

 冒険者ギルドで別れて、俺はニケの泊まる宿に向かえばいい。


「速ッッ攻で私の用事は済みますので。そのあと一緒に、ニケさんの宿屋に行きましょうか」

「……」

「――なにか?」


 ついてくる気?

 えー。

 またぁ? 


「いやいや。ホント、つき合ってくれなくてもいいから」

「……」

「……」

「――私も、あの宿屋に用事がありました」

「なに?」

「実は……」

「おう?」

「あの宿の娘とねんごろなんです」

「ウソつけ!」


 ねんごろて!

 

「あの、ねんごろって意味わかります? にゃんにゃんの方が良かったですか?」

「なんでそれなら意味が伝わると思ったんだ!?」


 古!

 ライトでピンクなニュアンスは確かに増したけども!


「はあ。ま、いいか。良くないけど。――ダグはダグで好きなとこ行ったらいいさ」

「はい。そうします」


 ほこほこ顔でダグは頷いた。


 それを見て俺は思う。


 髭、似合わねぇー。

 腹いせに引きちぎってやろうか。



 ▼



 大規模な施設が並ぶ大通りの広場。

 その中にある冒険者ギルドを目指して歩いていると、人だかりが目に入った。

 かなりの人数が広場に集まっている。


「?」


 俺とダグは見合わせて首をかしげた。


「なんだろう?」

「さあ。お祭り、でしょうか?」


 お祭り。

 

 そういえば、北の砦の大騒ぎにはついに参加できなかった。俺が怪我で引きこもっていたのもあるし、いろいろ考え込んでいたせいでもある。それは仕様のないことだけれど、少しくらいはあの空気を味わいたかったとも思う。

 

 祭りは好きだ。


 めちゃ。



「行くかぁ!?」

「ヒカル!?」


 祭りの言葉に一気にテンションが上がった俺は、ダグを置いて走り出した。

 巨大な何か(神輿か?)を囲んでいる見物客めがけて俺は突っ込む。


 俺も見たい!


「って、ちょ。 人多すぎ! 見えねぇ!」


 群衆にぶち当たって俺の突進は止まった。


 くっそー。全力で突っ込んでやろうか。

 

 とも思ったけれどそういうわけにもいかず、俺は何とか人をかき分けようとする。

 全然前に進めない。小柄だから。


 その場でピョコピョコ跳ねていると、ダグが俺の肩をがっちりつかんできた。


「なんだよ」

「ひ、ヒカル。人前ですよ。そんな服を着ているんですから……」

「あ、これは大丈夫なんだ。ネタ装備じゃないから」

 

 今身につけているのはエルフの種族専用装備だ。

 

 種族専用装備とはその種族に設定された専用の装備品で、職業に関係なく装備できる。また、通常の装備品よりも性能が高いものが多い。

 『エリュシオン』では選択職業によってパラメータの成長率に変動があり、種族ごとにはない。どんな種族でも基本的には同じように楽しめたけれど、こういう専用装備には種族の特徴が現れていた。

 例えば、人間なら「俊敏性」、竜人族なら「筋力」、エルフなら「抗魔法」が上がる傾向がある。それ以外にも付与効果がついているので、自分の職業とうまく相性が合えばかなり強力な装備品となる可能性があった。


 現在の装備は、それなりに露出のある結構かわいいものだけれど、ネタ装備ではないのでパンチラ率は低い。

 狙えないわけではないけど。


「それにこうしないと見れないしさ」


 俺はダグが肩を掴む力を緩めた隙にまた飛んだ。


 だめだ! 見えない。

 さすがのプレーヤーも、縦方向の移動は弱い。全力で飛んでこれだけとは……。

  

「あの、ヒカル」

「なに」

 

 跳ねたまま訊く。


「肩車しましょうか」

「……。今度それ言ったら殴る。全力で」


 俺が本気で言うと、ダグはコクコクと頷いた。


 ったく。

 22の男に肩車してやるとか、なんていう侮辱だ。


 俺はポンポンと足を軽く叩いた。


 あーあ。 

 なんか、地面に小さい子供が倒れてた。

 踏むわけにもいかないから、歳柄にもなくジャンプしちゃったよ。

 22でも、いきなり運動すると疲れるわ―。会社とか行ってると、ほんと運動不足だわ―。22なのに。


「ひ、ヒカル……? あっちの方、人がいないみたいですよ」

「あん?」


 ダグが指差す方向をみると、たしかに人の少ない場所があった。

 人混みが途切れ、そこだけぽっかりと開いている。


「お、ちょうどいいな。慌てず、ゆっくり行こうか」

「……そうですね」

 

 でもなんでここだけ?


 人混みを抜け、その開けた空間まで来ると、誰かが叫んだ。



「おいおいおいおい! ポラリスじゃねえか!」



 うん? 

 あ、ほんとだ。

 巨大な荷車に積まれたポラリスがいる。バハムートも。でっけー。

 そう言えば、王都に運ぶって言ってたっけ。

 この人だかりはその見物客か。

 なんだ、祭りじゃないのか。



 ――って、あれ。



 いま「ポラリス」って言ったか?

 なんで知ってる? 新モンスターなんだろ。 


 声がした方に俺は視線を向けた。



 人の居ない場所の中央、少し離れたところに、誰かいた。



 最初に目についたのは赤い髪に、オレンジ色の眼。

 スラリとした高身長の女性で、出るところはばっちり出ている。

 なぜか人目を引く部分の装甲を剥がした全身鎧を身につけていて、さらに手には戦斧を握っていた。

 どうやら、見物客は彼女の異容に圧倒されているらしい。

 しかし俺は、そんな彼女に圧倒されることなくてくてくと近づき、声をかけた。



「ニケ?」

「うん?」



 女性はポラリスから視線を下し、俺の方へと向けた。


 俺を見て、目を見開く。



「――ヒカル、か?」

「ああ」

「……マジで?」

「ニケだよな?」

「うん」

「「……」」


 無言。


「ヒカルだよな」

「そっちも、ニケだよな」


 再び確認。

  

 いきなり、ダッと俺たちは駆けだした。


 ぶつかる直前で何とか止まり、がっしりと握手を交わす。


「ヒ、ヒカルゥ!!」

「おおー、ニケ―」


 ホントは力の限りの抱擁をしたかったけれど、お互いのリアルの性別を知っているので何とか自制した。

 直前で照れくささを感じたのもある。


 多分ニケも同じ。


 その代わり、俺たちは握った手を力いっぱい振った。


二章開始です。


一章の誤字訂正とあわせて、ぽちぽち投稿していきます。


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