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17 ダグ

 ポラリスを倒した二日後。

 砦は、まるでお祭りでも行われているかのような喧騒に包まれていた。


 様々な人々が砦の中を行き来する。

 冒険者ギルドの関係者、さまざまなギルドに所属する冒険者、商人、多数の見物客、おまけに領主親娘もやってきているとか。


 なんでも、ワイバーンは王国では数年に一度しか討伐実績のない強力なモンスターだったようで、それを倒したと言うのは大変な『事件』であるらしい。

 

 確認と事後処理のために冒険者ギルドがやってきて、そこで話を聞いた冒険者もぞろぞろついてきた。またワイバーンの貴重な素材にありつこうと商人がやってきた結果、シルケス住民にまで話は広がり、多数の見物客も呼ぶことになった。領主一行はワイバーン見物と、それを討伐した冒険者を讃え、あわよくば抱き込みたいと思っているようだ。

 さまざまな思惑の元に人々は『北の谷』の砦に集まり、そして砦に入りきらない人々はそこここにキャンプを張っている。


 その光景はまさに、一大イベントという感じだった。







「ひまだ……」


 そんな喧騒をよそに、俺はひっそりと静まり返った部屋でため息をついた。

 砦の奥にある一室で、キースたちのパーティーが滞在しているフロアにある。キースの仲間や俺の傷の手当てのために、俺たちはこのフロアを無断で占拠していた。俺にあてがわれた部屋はそのフロアでも奥まったところにあるので遠くの騒ぎも耳に入ってこない。


 結局、戦闘の後キースたちの手元に残ったのはワイバーンだけだった。

「エルダーワイバーン」「バハムート」「ポラリス」は未確認の新モンスターということで冒険者ギルドに接収された。研究のために王都にある冒険者ギルドに送るらしい。

 貴重なポラリス素材を得ることも出来ず、キースたちは接収された三体の対価として金貨4000枚を冒険者ギルドから受け取っただけだ。

 キースの仲間などは降って湧いた途方もない大金を手放しで喜んでいたけれど、キースは終始しかめつらをしていた。

 実際に討伐したのは俺なので、自分たちにその金貨を受け取る資格はないと思ったのだろう。

 そうはいってもキースたちも実際にワイバーンと戦闘していたし、すべて俺が受け取ると言うのも悪い。それに、出来ればポラリス素材はほしかったのだが、それも得られないとなると欲しいものは特になかった。

 もともとお金は充分にあるし。

 キースたち冒険者もいろいろ物入りだろう。

 そういうわけで全額をキースたちに受け取らせた。

 

 そんな経緯で冒険者ギルドから大金を手に入れたキースたちだが、今度は領主から「褒章」を得ることになった。

 まあ、冒険者ギルドだけがキースらを労って、この地を治めているという領主が何もなしというのもおかしな話だ。いろいろ体面などの問題もあるんだろうけど、これは順当な話だろう。

 こちらは一人につき金貨300枚。

 しょぼい。


 そんな褒章授与式(?)に出席するためにキースたちは領主の元へ赴き、俺も誘われはしたけど貰えるのがはした金と聞いて無視した。


 というよりも、俺は領主とかいう存在が嫌いだ。

 その権高な名称。

 大学時代に警察のお世話になってから、俺は権力が苦手。



 ということで、俺は部屋で一人ごろごろしていた。


「ひまだー」


 特にすることはない。

 カミラものこのこキースについて行ったので、いじって暇つぶしすることも出来ない。

 全力で暇を持て余している。


 ベッドでごろごろしてると、不意に、自分の真っ白なお腹に目が行った。


 ポラリス戦で負った怪我は、すでに完治した。

 あのあと回復薬を大量投与したところ傷がゆっくりふさがっていき、

翌日にはもとのつるつるの肌に戻った。

 見た目に反して、大した傷ではなかったようだ。

 いや実際には重傷なのだけれど、俺のHPに対して「腹に大穴があく」というのはそこまで深刻な事態ではなかったらしい。

 俺なりに考察したところある推察に至った。HPはプレーヤーの現在の状態を表す絶対量だ。負った怪我によってころころ表示をかえる相対量ではない。傍から見れば大けがでも、絶対量で考えれば大したダメージではなかった、というわけ。

 結果、お腹に穴をあけた状態でも動き回ることができた。

 

 HP制って不思議。

 

 接近戦闘職、「制圧者」。さすがのHP10000越え。ゼロになるときはどういうときなのだろう。ぐちゃぐちゃになった時?

 

 そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。

 客?


「どうぞー。開いてますよ」


 俺が返事をすると、ドアが開く。

 入ってきたのはキースとカミラ、それにキースの仲間の冒険者だ。


「っぷぁッ!」


 いきなりキースが小さく叫んだ。


「? なんだ?」

「ヒ、ヒカル! 君、なんて格好してるんだ!? 服着ろ、服!」

「ああ、そっか。悪い」


 いっけね。部屋に一人きりだったから下着姿でくつろいでいた。


「なんで、どうぞなんて言ったんだ!?」

「はいはいはい……」

 

 部屋でどうしていようと、俺の勝手だろーが。俺は宅配便だって半裸で受け取れるんだぜ。

 

「で、なんの用? 領主のとこに行くって言ってなかったけ?」

 

 ボロボロのワンピース制服ではなく、元のブレザーを着ながら俺は訊いた。


「褒章なんて受け取れるか。戦いはしたが、実際に倒したのは君だろう」

「うん? ……生真面目な性格だな」

「そういうんじゃない。単に道理というものだ。―領主の不興は買うだろうが、仲間たちにも絶対うけとらないように言っておいた」

「そっか」


 俺は頷いて、それから隣の冒険者に目を向けた。

 俺が目を向けると、銀色の髭を生やした冒険者は自己紹介した。


「私は、ダグと言います。―さきのことで、お礼を言いに来ました。ありがとうございました。助かりました」

 

 そういって深く頭を下げたダグ。

 ちょっと驚く。

 髭面に騙され、豪快な冒険者の一人なのだろうと思っていたけど、結構丁寧な人物のようだ。声からはハリのある若さを感じ取ることが出来た。

 ダグはどうやらエルフだ。銀髪に、緑色の眼。似合わない銀色の髭のせいでちぐはぐな印象を受けるけれど、結構美男子だろう。 


「あなたのことはキースから聞きました」

「あ、そうなんだ」

「……尊称は、必要でしょうか?」


 ?

 そんしょう? 

 損傷、か? うまく文字変換出来ないんだけど。


「いらないいらない」


 深く考えないで俺は言った。

 その言葉を受け、ダグはわずかに目を細めた。


「わかりました。―何やらお考えがあるご様子。里には伏せておきましょう」

「?、?」


 なーに言ってんだこいつ?

 変態だろうか?


「ま、いいや。ダグも褒章には興味ないの? 俺のこと気にしてんのなら、遠慮なんてするなよ」

「興味ありません。もともと、生活の糧のために冒険者になったわけではありませんので」

「ふうん? ―カミラも?」


 ダグとはキースを挟んで反対方向にいるカミラに訊いてみた。


「あたしも―いらない。というか、領主さまの娘―シルヴィアって言うんだけれど、彼女と同級なのよ。どんな顔して会えばいいのか」


 ああ。親娘連れで見物に来ているんだっけ。

 それにしても同級とは、カミラが通う魔法学校のことだろうか。

 宿屋の娘から領主の娘まで通う魔法学校とは、一体どんな所なんだろう。


「で、だ」


 キースが言った。


「騒がしくなってきたから、シルケスまで戻らないか。ここでは落ち着いて休めないし、シルケスには俺たちの拠点がある。そこならここよりもずっと快適だぞ」

 

 隣でダグが頷いている。


「拠点? どんなとこ?」


 俺みたいに、宿屋の一室を借りているというだけじゃなさそうだ。


「一応一軒家だ。散らかっているが、部屋はたくさん空いてる」

「へえ」


 おお。

 自家持ちか。

 冒険者ってそんな儲かるの。


「ワイバーンも解体し終わったしその素材も受け取ってある。仲間はしばらくここに滞在するようだが、俺たちは騒がしいのが苦手でな。一足先に帰ろうかと思っているんだ。―どうだろう?」

「いいね。改めてシルケス観光とか、面白そうだ」


 そんなことよりも、当初の目的はカミラとキースをくっつけることだった。

 ポラリスのせいですっかり忘れてた。

 シルケスに戻ったら、なんか考えよう。

 最悪、酒を飲ませて二人を部屋に閉じ込めておけばなんとかなるだろう。二人とも子供じゃないんだし。


「よし―早速準備しよう」


 ぱし、と手を叩いてキースが宣言した。

  

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