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15 連戦


「……終わった、のか?」


 地面に横たわるワイバーンの巨体を眺めながら、キースは呆然と言った。

 倒したのを信じきれない様子だ。


「いやいや」

「!?」


 俺が否定すると、キースは慌ててワイバーンの死体から離れる。

 俺は笑いながら声をかけた。


「素材をハギハギしたら終了」

「あ!? そ、そうか。そうだな……」


 にしても、ワイバーンってデカイ。

 うつぶせの状態で倒れているのに、隣にいるキースの身長の二倍よりも高さがある。我ながらよく倒せたもんだな。


「ねぇ……? 素材回収とか、ワイバーン相手にどうやるの?」

 

 カミラが俺の隣にやってきて、ワイバーンを見上げながら言った。

 確かに。

 こんな巨体じゃ素材の回収も骨が折れる。

 俺がバッキバキに解体して全部持ち帰れば話は早いんだろうけど、そんなことしたくない。

 本当に必要な部分だけ持って帰るのが正解だろう。 


「キース、いいこと教えてやろうか」

「……なんだ?」

「ドラゴン系統のモンスターの素材でよく手に入るのは、爪とか牙とか鱗だよな」

「……。ドラゴンのような高位モンスターの素材なんて良く手に入らんぞ?」

「まあ、入るんだよ。―で、たまーに手に入るドラゴン系統の素材のレアドロップって知ってる?」


 レアドロップはその名の通り、低確率で採取できる希少なアイテムだ。フィールドモンスターのものはいつの間にか入手していたりするんだけど、ワイバーンの様なクエストモンスターのものは狙わないと手に入らない。

 具体的には、ドロップアイテムの希少性をあげる効果のあるアクセサリを装備し、入手するまでずっと狩り続けるのだ。


「知らん」

「心臓。ワイバーンなら『翼竜の心臓』ってのが手に入る」

「心臓……」


 キースはごくり、と喉を鳴らした。

 なるほど。

 喉から手が出るほど欲しいってか。


「行け! 今なら確実に手に入るぞ!」

「な、なに!?」

「素材ハンターだろ! ハラワタを食い破ってワイバーンの心臓を取ってくるんだ!」  

「む、無茶だ!?」



 そんなやり取りをしていると



 不意に空が陰った。



 俺はいぶかしんで空を見上げる。


 隣にいるカミラが小さく悲鳴を上げ、キースが叫んだ。


「まさか! もう一体!?」 


 太陽を隠したのは先ほどと同じシルエット。


 黒い影は大きな弧を描いて旋回し、どんどん高度を下げている。



「まじかよ……」


 俺は呆れて呟いた。

 高度のせいで距離感がつかめないためハッキリとはわからないけれど、今回のシルエットはワイバーンよりもデカイ。目を凝らすとその細部が違うのもわかる。

 あれはワイバーンではない。

 ワイバーンとよく似た姿をもつ紫色の上位種「エルダーワイバーン」だ。


「違うワイバーンとの連続戦闘ってことは、『連戦』……もしかして『ポラリス討伐』か?」






『ポラリス討伐クエスト』

 80レベルで受注できるクエストで、ワイバーン系統の最上種『黄金翼竜ポラリス』を討伐するのが目的のクエストだ。

 当然、これにはパーティーを組んで挑むことになる。

 単純に相手がドラゴンだからというわけではなく、ポラリスの出現フラグ『連戦』をクリアしなければいけないからだ。

 『連戦』はそれまで登場したワイバーン系ドラゴンとの連続戦闘で、『ワイバーン』、『エルダーワイバーン』、『バハムート』の三体と立て続けに戦うことになる。

 そのあとにポラリスと戦うことになるので、難易度はともかく非常に面倒くさい。






「くっそ!」


 バハムートの死体の蔭に隠れてポラリスのブレスをやり過ごす。

 バハムートは全攻撃属性に『耐性』があり、特に『炎属性吸収』持っている。そのため炎属性のブレス攻撃を防ぐ盾になった。


 ポラリスのブレスをやり過ごして、俺はバハムートの蔭から飛び出した。


『GYAAAAAAA!』

 

 咆哮を上げるポラリスへと近づき、その足に攻撃を加える。


 ドン!


 俺の攻撃を受けポラリスはよろめくが、ポラリスはバランスを崩した体勢のまま尻尾を振ってきた。

 猛烈な勢いで振られた尻尾を回避できずに、横からモロに喰らう。


「ぶッ」


 弾き飛ばされ地面をボールのようにバウンドした。


「ヒカル!」

「カミラ! 来んな!」


 俺はエルダーワイバーンの死体の蔭から飛び出そうとしたカミラに叫んだ。

 その叫びと同時にキースがカミラを後ろから抱きしめ、引きとめる。


「キース! カミラを離すなよ!」

「わかってる!」


 ったく。

 一撃でもポラリスにダメージを与えたいというのに、余計な時間を食ってしまった。

 エルダーワイバーンも『炎属性無効』を持っているから、そこに隠れて動くなと言っておいたのに。  


「でもやっぱ一人はキツイ!」


 何とか滞空状態からよろめき状態にしたが、ダウンまでまだまだ攻撃をしなければならないだろう。ポラリスはよろめき状態での隙が少ないため攻撃が当てづらく、ダウンを取りにくいのだ。

 

 普通であればパーティーで挑むため、取りにくいと言ってもこれほど苦労することはない。しかし俺はスキルも封じられているため、一発あたりのダメージ効率が悪すぎだ。


 ダウンはやっと二回取った。

 多分、あと二回か三回で倒すことができる。


「って、もう! 飛ぶし!」


 よろめき状態から回復したポラリスは、辺りにブレスをまき散らしながら翼を広げている。


 飛び立つときのモーションだ。


 本来なら苦し紛れに追撃したいところだが、今は止めておく。

 ソロプレイのために被ダメージと回復のバランスを保てなくなっているからだ。さらに言うと、ステータスが確認できないことも一層状態を混乱させている。

 やみくもには突っ込めない。

 時間はかかるけれど安全第一。


「休憩休憩」


 飛んでしまえばしばらくは降りてこない。

 その間に回復だ。


「ヒカル!」

 

 涙を溜めたカミラに抱きつかれながら、俺はキースを見上げた。


「回復薬は?」

「これでいいか?」


 戸惑いつつもキースが差し出してきたのは『回復薬・大』が二瓶。


 一本は中身を一気に飲んで、もう一本はすべて頭から浴びる。

 キースに教えてもらったのだけれど、これが正しい回復薬の使い方らしい。 


 飲むだけじゃないのな。うまいのに。


 傷に消毒液をぬったあとみたいに、ひりひりと痛む肌に顔を歪め、俺はキースに言った。


「秘薬クラスの回復薬もまだまだあったはずだから、出しといてよ」

 

 キースが握っている魔法ケット・シーの布袋を示した。

 俺のゲーム時代の所持品が入っているはずの布袋で、アイテムメニューの代わりと言ってもいい。

 

「ああ。なんとか探してみる」


 と、キースが言ったのは、魔法の布袋がゲーム時代のような単純なアイテム欄ではないからだろう。

 以前のカミラの件でもわかるように、出てくるアイテムは完全にランダム。俺が凶悪な代物を多々所持しているため「探す」と言ってもこれは大変な苦労だ。

 俺も制服を探し出すのに、どれだけ苦労したか。 


 これはもう、システム変更どころか完全な嫌がらせだ。 

 運営側がウインドウとかコマンドとかのゲーム的な表示をよっぽど嫌ったのだろう。たしかに実際に『エリュシオン』を体験できるようになった世界でそういうものは「無粋」なのかもしれないけれど、一応、ゲームなんだぜ?

 リアル志向なのかなんなのか知らないけど完全に失敗している。

 VR実装だからって調子こいてんじゃねーぞ。


「おっし。じゃ、もっかい行くか」


 上を見上げればポラリスは旋回を始めていた。

 もう少しで、降りてくる。

 先ほどのダメージが蓄積されているはずだから、今回は確実にダウンが取れる。そうなれば、全力攻撃あるのみだ。


「ヒカルぅ……」


 俺が歩き出そうとすると、カミラが俺を強く抱きしめた。  

 逃げよう、と情けない声を上げる。

 

「情けない声を上げんな。ていうか、逃げない」

「なんで……!」

「ここで逃げたら回復薬無駄になるじゃんか。どんだけ使ったと思ってる」


 回復薬秘薬と特大1つずつ、大中小を合わせれば10本以上使用していて、これだけ購入するとなるとポラリス討伐クエストの成功報酬では足りない。これから使用する分も合わせると、ポラリス素材の売却費を足してもトントンだろう。

 倒せてもマイナスなので完全に意地になっているだけなのだけれど、逃げたらその意地すら貫けない。


「ホントに、死ぬかもしれないのよ!?」

「ダイジョブだって。倒せるから」

「そんなにボロボロなのに!?」

「―でも、かっこいいだろ?」

「はあ!?」


 100レベルでもポラリスをソロで狩るのって結構つらい。通常攻撃縛りで倒すとなるとなおさらで、そんなことはオンラインゲームでやることじゃないけれど―


 でも、そういうのってなんかいい。


 ただの自己満だけど、ギャラリーがいればなおさらやる気が出てくる。


「まあ見てろ。―くれぐれも言っておくけど、惚れんなよ。特にキース。お前のことだ」


 俺の中のロリコン疑惑が晴れたわけじゃないんだからな!


「あ、ああ」


 呆けたように返事をしたキースを一瞥して、俺はエルダーワイバーンの蔭から飛び出した。



連続投稿を敢行します。


ストックすべてを放出し、第一部終了です。

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