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10 到着

 

 旅は順調に進んだ。


 ユニコーンと黒馬のおかげだ。


 二頭の移動速度は俺の予想よりもずっと早く、そのうえ目的地をわかっているかのようにまっしぐらに走る。

 初めての乗馬と言うことで緊張していた俺も、黒馬を操る、と言うことを早々に諦め、黒馬の自由に走らせた。ただ落馬に注意していればよかったので、つまらなかったけれどずいぶん楽。

 

 馬車では4日かかった距離を2日で走破し、俺たちはシルケスの近くで馬を下りた。



「ありがとう」


 ユニコーンの背に乗せていた鞍を外してから、カミラはユニコーンの首に手をあてがって言った。

 ユニコーンはじっとカミラを見ていたが、やがてゆっくりと身を返し、草原の方へ走っていく。


「お前も、お疲れさん。――元いた場所に帰んな」


 俺も黒馬の鞍を外して、そう声をかけた。

 黒馬はユニコーンに追いついて、二頭はどこかへ去っていった。


 カミラはじっと、二頭が去って行った方を眺めている。


「どうだった? ユニコーンに乗ってみて」

「……とても素晴らしい体験だったわ」


 呆けたような返事。

 どうやら満足してもらえたようだ。


「ねえ、ヒカル? 二頭ともどこかに行ってしまったのだけれど、よかったの?」

「いいのいいの。呼べばすぐ来るんだから」


 俺は首にぶら下げたユニコーンと黒馬を呼ぶ笛をいじりながら言う。

 そんな俺を見て、カミラはほう、とため息をついた。


「なに?」

「いーえ。ただ、すごいなって思ってただけよ」

「なにが?」


 俺が首をかしげると、カミラはちょっと怒ったような顔をして見せた。


「なんでもない。それより、行きましょ」


 俺に背を向け、さっさと歩いて行ってしまう。


 ?


 なにか気の触る様な事を言っただろうか?




 ▼




 意外なことに、キースは割と名の知れた優秀な冒険者らしい。少なくともシルケスでは結構有名で、俺たちにとって幸いなことに、すぐに居場所が判明した。

 しかし、すぐに会えるというわけではなかった


「『北の谷』に冒険中、か」


 俺は生ぬるい飲み物を一口すする。

 あんまり美味しくない。

 

 一通りの情報収集を終えてから入った酒場で、俺はカミラと二人でテーブルについている。

 キースの居場所が分かったのはいいが、町にいないとは。


「どうするの? 待つ?」 

「うーん」


 まあ、表向きは旅行に来たのだから、シルケス観光をしてもいい。


「それもいいかも。――シルケスって、なにか名物とかあるの?」

「名物っていってもね。――基本、砂漠みたいな荒野にある町だから」

 

 カミラはテーブルに置かれたナッツを手に取った。

 とりあえず軽くつまめるものを、と飲み物と一緒に注文したモノだ。


「食べ物で有名なのは、こういうナッツくらい」

「あ、そうなんだ」


 大して美味くはない。

 名物に美味いものなし、か。


「観光地とかは? 名所とかないのか」

「『北の谷』ね。荒野にいきなり現れる大渓谷だとか」


 あらら。

 なら、キースに会いに『北の谷』とやらに向かってもいいわけだ。


「じゃ、観光がてら、『北の谷』に行ってみるか」


 手でナッツをいじりながら俺は言った。


「えー? ……私はとりあえず、宿をとって休みたい」


 ――確かに。

 先ほどこの街に着いて、すぐに移動と言うのもあわただしい話だ。


「じゃ、明日向かうか。今日は宿でのんびりしよう」

「そうね。――お湯も浴びたいし」


 ……。


「キースに会うから?」


 俺がそう言うと、カミラはかすかに顔を染めた。


「……ふん」


 おー。なんか、乙女チックだ。


「ちょっと。なによそのニヤニヤ笑い」

「いやー。別に? ――マスター! お勘定!」


 俺が叫ぶと、酒場のマスター(ポートアークのマスターとは違って、小太りなオッサン。あっちのマスターは痩身だった)がのたのたとやってきた。


「あれ。お客さん、もう帰るのか?」

「ああ。ごちそうさま」

「はいはい。――えーと、銅貨5枚だ」


 俺は銀貨一枚を取り出して渡した。


「おつりはいらない。取っておいて」


 勘定の10倍の額を渡されて、マスターは驚いた顔をした。


「おお、気前がいい――というか良すぎる。ホントに、いいのか?」

「おうよ」


 カミラと一緒に席を立つ。


「嬢ちゃんたち、キースを探しているんだって?」


 グラスやナッツの入った小皿を片付けながらマスターは言った。

 俺たちの会話が耳に入ったのだろう。


「そうは見えんけど、同業者なのか?」

「いや、友達」


 ふうん、と マスターは笑った。


「あいつは今、たぶん『北の谷』にいるぜ」


 親切心からだろう、そう教えてくれる。


「知ってるよ。でも、今日は行かないつもり。のんびり宿屋で休んで、明日向かうよ」


 手を振りながら俺は答えた。


「けど、『北の谷』に行くにゃモンスターと会うこともあるぜ。ちょうどさっき、キースに会いに来たっていう冒険者が『北の谷』に向かったから、同行させてもらえれば安心じゃないか?」

 

 その話は初耳だ。

 なになに。冒険者がわざわざ会いに来るほど、キースって有名人なの?


「なんせ腕はたつし、それにほら。嬢ちゃんも知ってるだろ? とびきりの色男だ」


 はあん。

 色男な。 

 確かに、そう見えなくもなくもない。


「ねえ」


 俺がしかめつらで頷いていると、カミラが声を上げた。


「冒険者が会いにきていることと、キースが色男なのは、なにか関係があるの?」

「そりゃあ」


 マスターはニヤニヤと笑いながら言った。


「その冒険者も女だったんだよ。それも、これまたとびきりの」



「さあ、ヒカル!! 行くわよ!!!」



「――え!?」


 振り返ると、カミラの後ろ姿が見えた。




 ▼




 結局、キースに会いに来たと言う冒険者とは合流できなかった。

 カミラなんかは先を越された、と憤慨しているが、まあそれはどうでもいい。

 ぶちぶちと文句を言い続けるカミラに適当に相槌を打ちながら、俺は周囲を観察する。

 砂っぽい荒野。

 一見なにもないように見える。


「……」


 女冒険者よりも俺は気になっているのは、あちこちにモンスターの死骸らしき物を認める点だ。

 カミラは気が付いていない。

 俺が気が付けたのは、レベルのおかげか。


 ステータスは単に戦闘時のパラメータというわけではなく、日常の生活でも影響を及ぼすようだった。多分、命中率とか回避能力、幸運とかが感覚器官の機能を底上げしているのだろう。


 例えばこの足元の白い石、見た目は石だが、何かの白骨の欠片だ。

 こういうのがすぐにわかる。

 で、そういうのがあちこちにあった。


『北の谷』

 ダンジョンなのか?



「ねえ。あれ、何かしら?」


 前方を歩いていたカミラは遠くの一点を指差した。

 俺は目を凝らしてそれを見る。


 崖のようになっている渓谷の中で、その垂直な壁に張り付く様に設置された幾つものテントがあった


「……。あれはキャンプの跡だな。キースたちが張ったんじゃないか?」


 言いながら俺は脚を早めた。

 カミラも小走りになる。


「じゃあ、キースが近くにいるかしら」

「いや、いない」

「?」


 俺が即答したことに、カミラは首をかしげた。


「なぜ?」

「キャンプが荒れてる。――モンスターか何かに、襲われた後だ」


9/12 -記号訂正

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