0 プロローグ
出来ごころだったんだ。真剣に考えもしなかった。それが、こんなことになるなんて。
あの時の自分に、忠告してやりたい。
――そんな適当に決めるな、と。
いや、あの時はあの時で真剣だった。6時間も考えに考え、試行錯誤を繰り返し、納得のいくまで試してから決めたことだった。
――ちげえだろ。お前、真剣になるとこ間違えてるから。
もしこの未来がわかっていたら、俺はこんなことをしなかっただろう。いや、そもそも始めようともしなかったに違いない。
稼働5年目にして、今なお世界最高のグラフィックと讃えられる、国産MMORPG『エリュシオン』。
その世界で、俺はその最初の最初、初めから間違った選択をしてしまった。
「なんで……なんで女キャラにしてしまったんだー!」
誰もいない荒野で、俺は叫んだ。
「世界最高峰のグラフィック」というのが売り込みのオンラインゲーム『エリュシオン』
中世をモチーフにした剣と魔法の世界『エリュシオン』はプレーヤーを選ぶゲームだ。
要求する動作環境がすこぶるハイスペックな『エリュシオン』はネットゲーム初心者を寄せ付けない。
とある事情で大学を中退し、バイトでためた小金と暇を持て余したのが、『エリュシオン』を始めた理由。
壮麗なグラフィックと、ニッチ仕様のシステム・設定に魅せられ、どっぷりとハマること1年。
就職し、土日に『エリュシオン』を駆けまわって2年。
リアルで仕事が忙しくなってきたため、俺―若月ヒカルは『エリュシオン』引退しようとしていた。
その矢先だ。
ゲームの世界に入り込んでしまったのは。
お楽しみいただけたら幸いです。