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()な灰被り  作者: よづは
2/20

2:脱出、姫様の市場デビュー




 太陽が高く、日差しが暖かい時刻。美しく整えられた芝生を踏み荒らすものが一人。それは、庭を荒らす人種には思えない美しい姿。

 緑の黒髪にこの国で唯一、真紅の瞳を持つ人物。


  ♪ ♪ ♪


 鬱陶しい長い黒髪を振り乱して、私は庭を駆け抜ける。

「はっ、! 結婚なんて冗談じゃあない。」

 茨の塀越しに時々見える窓に写るのは、国王の血の証。この国を治める者の象徴。

 真紅の瞳。この瞳で見詰められた人間は全て、その人間の虜になる…って


「冗談じゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 おかげで外交のときに出会った男は全員年齢関係なく求婚しに来るし、毎日毎日隣国からの貢物で王座はいっぱいだし。挙句の果てには『ウザイ』の一言で『それではいっその事国民から選んでしまえば良いのでは?』なんて王室付召使の白髪若作り(じじい)が言い出す始末。

 ちゃっかりと御触れ出して、順調に舞踏会の準備は進んでいるようで。おかげで逃げ出しやすかったわよ。


 白髪に紳士的な振る舞いが評判の中年男。少し顔に皺が多いけれどそれがまたダンディと言う噂。

 年いっちゃって白髪になったけれど白髪染めは『臭ー』と私が言ったからそのままにしてたら、後が大変になった年寄りのクセに、生意気。(まあ、私の瞳が利かないのは今まで爺だけなんだよねー。そこだけは認めるわ。)



 まあ、ともかく。

 昔、召使見習いたちと遊んだときの抜け道は未だに残してある。私はそれを目指している。


 茨の道は人を傷つける。だけど、大切な物を隠してもくれる。

 茨の向こう側、そこに小さめの穴が開いている。二十センチはある城壁に何故にこんな穴が開いているのかは解らない。子供だけじゃあなくて、私ぐらいの年頃の女の子。詰まり十代の子供と美しい体型の女性なら大体は通り抜けられるような穴。

「……好都合よね…」


 城内には基本、私のように瑞々しい肌とくびれを持つ若い子なんて居ないからね!


 


 外壁の穴を潜り抜け、ドレスの汚れを払っているところで気が付いた。


「……着替えて来ればよかったかしら…?」

 だけど、外には中々出ない出不精の私が地味な服装になんて着替えたら、あの変に目ざとい爺が気付くに決まっている。

 それに、出てしまったんだから別に良い。


「一先ず、町よね。」


 城があまりにも広い為、庭にある城壁の穴は町から少し外れた、林の中にある。この位置は返って都合が良い。私は黒く上質なドレスの裾をたくし上げ、走り出す。

 習った教養からは絶対に得られない足の速さ。私は【御転婆】だと言われていた昔の自分を、誇りに思う。


 町に出て、何をするかなんて考えていないけれど、とりあえず御触れについての町での意見を調べて、町を満喫しようかと思っている。


「まあ、(じじい)の机からお金は盗って来たし。」

 性格に見合わないといわれた自分の手先の器用さを、再びに誇りに思う。



 ♪ ♪ ♪



「フェア義兄さん、すみませんが洋服を貸していただけませんか…?」

 今日はやけに大人しかった母さんが実は昨日の余韻を引き摺っているのに気付いて、落ち着かせ。ついさっき眠りに落ちた母さんの部屋の掃除と戸締りを確認した後、買い物に行こうと思い、髪を一つに纏めてからフェア義兄さんの部屋を訪ねたのが今。


 ちなみに、訪ねられたフェア義兄さんは張り切ってクローゼットからピンクのドレスを引き出そうとしている。


「それ、止めてくださいね。」

 何処か残念そうな声を上げる義兄さんに私は強気に言う。いや、こればっかりは強気でないと大変な目に会うのは私だ。


「義兄さん達がとっかえひっかえ適当に手を出しているから、町中元恋人だらけになったんでしょうが! 彼方達の所為で私は毎回殺されかけてるんですよ!?」

 大げさだなぁ、っと呑気に笑っているフェア義兄さんの顔面を本気で殴りたくなってしまった。

 冗談だったならどれだけ良いか。


 町でこのまま出るとこの家の【灰被り】だと、誰もが気付いてしまう。血も繋がっていないのに一つ屋根の下で暮らしている私がただでさえ羨ましいのに、私にぞっこんで周りの女には蝿ほどの興味もない状態なのだ。町に溢れかえる恋人達は私を本気で恨んでいるだろう。

 何しろフッているのだから。

 比喩だったどれだけ良いだろう。【殺されかけている】。


 実際に今にも殺されそうだった。

 強烈な香水をつけた女性に大量に囲まれて、息が詰まり。(呼吸器的な意味で)豪勢なドレスと物凄い剣幕に迫られ、圧倒され。(圧迫とも言う。)最終的には手が下されるという。(処刑的な意味で)


 そんな状況を都合よく回避し、さらには買い物に素晴らしい益を齎す方法が、一つあるのだ。



「だから、義兄さんの使い古しでも良いですから男物を貸してください。」


 母さんの時と同じだ。

 何せ惑わせば良い。義兄さん達のまねをすれば流石、恋人だっただけあってよく効く。


 渋々といった様子で男物を適当に選ぼうとする。でも、どう見ても乗り気ではない。

 私はまた仕方なく話す。少し前アル義兄さんがフェア義兄さん対策に教えてくれた方法だ。



「義兄さんのでないと…(サイズ的に)駄目なんです……。」


 うるるんと少し、上目遣いで義兄さんを見る。義兄さんは何処か張り切った様子で中々に上質なと言うか、つい最近新調した黒を基調としたものを取り出してきた。

 私が着るにはもったいないと思うが、だがこれで何か言うともっと面倒な事になるから止めておこう。


「これ、最近新調したでしょう。……良いんですか? これで…」

 面倒だと思うのだが、それでも一応確認する。すると義兄さんは立て指を突き出して宣言した。


「勿論! シンデレラちゃんに着られるのならビジネススーツや舞踏会の取って置きも惜しくはないっ!」


 またシスコン発言の羅列が始まりそうだったので、一礼をしてさっさと扉を閉めた。



 # # # #



 町は中々に賑わっていて、人が多かった。


「信じられない…、まるで舞踏会場だわ…」


 産まれて初めて、市場を見たお姫様はこう呟いた。

 きょろきょろとしている内に、簡単に人ごみに飲まれ倒れ、そして少し開けたところで今の状態を改めて認識し直しているところだった。


「こんなに、この人達はお店で何を求めているのかしら…?」


 沢山の人たち、その人たちが主に見ているのは果物など。それも真っ赤な瑞々しいものなどと言った、上品と言うよりは新鮮と言う名が相応しいものばかり。


「こんなの、見たことがない………」

 思わず近寄り、その果物を凝視していると突然、肩を触れられた。

「なっ…」

 突然の事に、叫びかけるが、顔を上げたそこには人の良さそうな男が立っていて。中年男性で…恐らく、店の人だろう。

 真正面から向かい合い、とりあえずこの人物に話を聞く事にした。


「……お譲ちゃん、もしかして…これ、食べた事がないのかい?」

 差し出すその手には、凝視していた果物が…。実を言うと、果物の名前や味は知っていても、原型は知らない。

 何時も何時も何時も、目の前に出されたのは調理した後の残骸。美味しい【焼き】林檎、やチェリー【パイ】。原型がないものばかり………


 あまりにも興味心身に凝視していたからわかってしまったのだろうか。ほんの少し、興味を持って首を縦に振る。



 店の男はやはり気が良さそうに私の手を掴むとその果物を摘ませる。

 滑らかな角のない形、真っ赤な宝石に様な色彩。そして―――芳しい香り……。


「おいしそう……」

「ああ、どうぞ。代金は要らないから、これはこの市の中で一番の林檎だ、うまいぞ。」


「へぇ、これが林檎……」


 口を近付かせ、そのまま齧りつく。


シャリッ、


 中々耳に心地の良い音がして、赤い実の中から白い甘い物が見える。そこから、溢れ出す。甘い蜜。


「……王宮付調理人のデザートより美味しいかも……」

「おやおや、中々褒めてくれるじゃないか。まあ、俺のこの自慢の林檎も、【灰被り】の手に掛かれば、気絶するほど美味しくなっちまうんだがな。」


「気絶―――!」


 知らなかった。町では美味し過ぎると気絶してしまうのね。これは、精神的なものなのかしら。それとも肉体的なもの…? 一種の持病かしら。もしかすると、【灰被り】って言う人が毒を盛っているのかも。


(…城下はなんて怖いところなんだろう……)


 まあ、私が世間知らずだって事はほぼ幽閉状態だった自覚があるからよく解ってるんだけどね………。


 いけない、本題を忘れるところだった。


 私は人の良さそうな事店の男に聞いてみる事にした。


「あの…」

「ん? なんだい、お譲ちゃん。」

 ぽんっ、と条件反射に近いスピードだ返ってきた店の男の声にまあ深くは考えなくていいかと思い、そのまま聞いてみる。


「【御触れ】…どう思います…?」

 男は少し悩んだ顔をするが簡単に答えてくれる。


「ああ、あの【舞踏会】ね。いやー、俺には縁のないことだ。招待はされたが、姫様のお相手探しだ。ご馳走以外に何ら徳はない、俺みたいな奴にゃ関係ねぇさ。」

「そう…」

 少し安心した。どこぞのロリコンや変態が来るかもしれないと、冷や冷やしていたのだ。だがこの男の言葉によると自分ぐらいになると絶対にお相手なんか出来ないと、解っている様ではなっから行く気がない。

(思ったより、いいんじゃない?)

 この状態だったのなら、きっと若い人間の中にもそれをわかって来ない人間も要るだろう、そうだとしたらかなり人数が減ってもしかすると婿養子の話は無しになるかも…!


「良かった、爺の机のあの【御触れ】に関する手紙…。あの招待状の山…! あれ見たときには失神しそうだったもの…」


 ブツブツと何かを呟く私を尻目に、と言うか完全に初めから気付いていない様子で店の男は言葉を続けていた。


「いやー、やっぱりあの二人は行くんだろうね。かの有名な、【あの】レイファーネル兄弟だ。」

 男の言葉に思わずその胸倉を掴み引っ張る。

「だれっ!!!!」


 変な、そして不吉な汗が背中を伝った事で少し慌ててしまった。だけど店の男は驚いた顔をするだけでたいした反応はしない。


「いや、女タラシで有名な兄弟さ。その辺を歩いている少しばかり綺麗な女は大体二人の元恋人だから、聞いてみるといい。美人と聞くと落としたくなるそうだよ。ついでに言うとね、二人に落とせない女って言うのはこの国では姫様と【灰被り】しか居ないから、若者達は【舞踏会】の為に己を磨いてるよ。」



 つまり、二人が落とせない人間しか、恋人に出来ないこの国の若者達が、私の夫の座を狙っていると言う………



「!―っなんて迷惑っ!!」



 その叫び声は市場中に響いた。

 その声に反応したのは、目の前の店の主人だけではなく、道を歩いていた。

「私って、レイファーネル様達にとって、ご迷惑なのかしら。」

 と思い悩む、

哀れな捨てられたハイエナの一人。通称【ストーカーちゃん】(てか、マジでレンファーネル兄弟のストーカー)の耳にも届いていた。





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