12:一つの提案
「ただいま。」
義兄さん達が帰ったのは夕方だった。玄関に迎えに行くと、何故こんなにも時間が掛かったのかがよく解った。元彼女達に捕まったのだろう。
それぞれ服がかなり乱れており、二人ともボタンがなかった。だが、何より驚いたのはフェア義兄さんの髪がばっさり切られている事だ。
「…大変だったね。」
二人がキッチンに買って来た物を納める間に、私は二人の部屋着を部屋に取りに行った。
キッチンでそれぞれ服を受け取ると、着替え始めた。私は脱いだ服は全て畳んで持ってくるように言うと、暖炉に薪を継ぎ足してから母さんの部屋のランプを点けに行った。
一階に降りると食卓の上には二人の服が綺麗に畳まれていた。私はそれを大きな布に包み、明日仕立て屋に持っていくようにと義兄さん達に言った。
そして一番気になっていることを聞いてみた。
「それ、どうしたんですか。」
フェア義兄さんの頭を指差すと口を開きかけたフェア義兄さんを押しのけてアル義兄さんが言った。
「かなり遅くなった時に、家に帰らなければと言ってしまってな。帰すものかと言わんばかりに襲われたんだ。その時私はうまく逃げられたんだが兄さんの髪の毛を掴まれてしまって…」
「朝、シンデレラちゃんが短い方が良いっていったの思い出したからね。買っていた果物ナイフで髪の毛を切ったんだ。」
その後は元彼女がショックで硬直しているうちに家に走って帰って来たらしい。
「まあ、髪の毛は配給されるだろうが…」
フェア義兄さんの髪はナイフで切った所為でバラバラでこのままでは毛先が傷んでしまう。それでも義兄さんは嬉しそうに笑っていた。…私は溜息をつき、義兄さんの髪に触れる。
「フェア義兄さんは極端すぎです。今から整えてあげますから、外に椅子を持って行ってください。」
流石にこれはアル義兄さんも止めなかった。直ぐに椅子を外に持ってくると私に上着を着せ、私は櫛と鋏を持って外へ出た。フェア義兄さんは既にその椅子に座っていた。
私は義兄さんの髪に櫛を入れる。出会った時は、まるで太陽の光を持っているみたいだと思っていた。光に輝いてキラキラと流れるように光るその髪が好きだった。切るたびに落ちる髪は夕焼けに赤く輝いていた。
「義兄さん…。」
私はフェア義兄さんの髪のように赤く染まる街をちらりと見て、二人に言った。
「私を、舞踏会に行かせて下さい。」
フェア義兄さんは驚きのあまりに振り返りかけたが、私がそれを押さえ込ませた。
アル義兄さんは私の目の前に移動して言葉の続きを待っている。
「…助けたい人が居るんです。」
「それは…、誰だ。」
私は迷っていた、言って良いのかが解らなかったのだ。だが、助けたいという思いは変わらなかった。
「姫様です。」
アル義兄さんは驚いたが私の話を静かに聞いていた。そして戸惑っていたフェア義兄さんも事情を理解すると協力すると約束してくれたのだ。
話が済んだ私は、唯静かにフェア義兄さんの髪を切りそろえていた。
何時の間にかアクセス数二千を軽く飛んでました。
ありがとうございます!!
更新が遅い作品につき合っていただけて!
まだ続きます。出来る限りお付き合いをお願いします!!