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()な灰被り  作者: よづは
11/20

11:二人の変化と失踪の真実



 朝の仕事を終えて、朝食をとった後。目が覚めた義兄さん達の行動は早かった。

 昨日壊した扉を直してもらっている間にアル義兄さんは私の包帯を取替え、フェア義兄さんはどういうわけか外で薪割りをしていた。

 包帯を巻き終わった後、私は湯を沸かしそれを人肌に薄めたものを洗面器に移し、手ぬぐいを浸けて母さんの部屋へ持っていった。

 母さんは昨日と同じように落ち着いている様子で私を「ルイ」と呼んでいた。そして、傷は大丈夫かと聞いていた。私が手当てはしたし、一週間ほどで治ると言うと何処か安心したように何時もの様に窓の外を眺めた。

 私は洗面器を机の上に置くと、予め置いていた朝食を持って部屋を出た。


 それを持ってキッチンに行くと裏から入ってきたフェア義兄さんが居た。

「あ、シンデレラちゃん。」

 昨日色々あった所為か、フェア義兄さんにいつもの鬱陶しさは無い。むしろ優しげな兄と言った雰囲気を見せている。

 義兄さんは薪割りをしていたからか、薄手のシャツを着て珍しく髪を一つに纏めている。

「…似合いますね。」

 唯それだけ言って、母さんの朝食の跡を片付ける。そして片付け終わった後、まだ先程見たままの格好で突っ立っていた。

 とても感激しているような、感動に震えるように唯嬉しそうな顔をして硬直している。

「どうしました?」

 はっ、と気が付いたようにこちらを見ると義兄さんは叫びだした。

「嬉しいんだよ! 初めて似合うなんていってくれたから!」

 そういえば、私はあまり義兄さん達の服装などを褒めた事がない。褒めたとしても棒読みでいまいち心がない。それが今さっきの言葉は自然に口から出た言葉で心が入っていた。

 キッチンの近くに珍しく義父さんが通った。最近は影が薄すぎて忘れていた。

「父さん! シンデレラが! 僕の格好を似合うって!」

 感動のあまり、誰かの伝えたくなったようだ。義父さんはキッチンを覗くと「珍しいな」の一言だった。

「……お義父さんは気が利きませんね。」

 息子がこんなに喜んでいるのだからせめて「そうだな!」と元気良く言ってほしいものだ。案の定、義兄さんもとても残念そうな顔をして義父さんを見ている。

 私の言葉と義兄さんの顔に居た堪れなくなった義父さんは「どうせ俺なんてえええ!!」と嘆きながら表に飛び出した。


「義兄さんは案外すっきりとした格好が似合いますよ。」

 逃げ出した義父さんを無視して、話を進める。義兄さんは何か悩んだ様子で暫く目線を泳がせた後、私に聞いてきた。

「…どんな風にしたほうがいいと思う?」

「とりあえず、アル義兄さんみたいに髪の毛を切って見ればいいのでは?」

 即答したところ、義兄さんはあっさりと「そうしよう」と言っている。

 因みに、今言った事は本気だ。義兄さんは髪が短い方が似合うだろう。私がキッチンから出ると玄関には外着に着替えたアル義兄さんが居た。

「義兄さん、どうしたんですか?」

 もうデートする相手すら居ないので出かける理由は無いはずだ。舞踏会の服は既に仕立てあがっていたので義兄さん達のクローゼットに納めている。

 アル義兄さんはフェア義兄さんを見ると服を着替えるように言った。そして、側に寄った私を見た。

「…買い物だ。シンデレラは出れないだろう。」

 そう言ったアル義兄さんに私は首を振る。

「いえ、買い物なら私が行きます。」

「駄目だ、その怪我で何処へ行くんだ。男装したとしてもばれる可能性が高いだろう。それに下手に雑菌が入ると治りが遅くなる。」

 目の前に指を突きつけられ、反論が出来ない。何故か今日の義兄さん達は私の仕事を先にしていたと思っていたら、そういうことだったらしい。

 階段から、扉を直していた人が降りてきた。アル義兄さんが賃金を払うと扉を開けてその人を見送った。そして彼の去ってゆく方向を二人で見詰める。


「…そういえば、彼らの商売はあまり政治などの影響を受けませんね。」

 反論も出来ない上に仕事が奪われて暇な私はフェア義兄さんが来るまで世間話をすることにした。

「そうだな、もとより彼らの使う部品などは輸入したもので価格は安定しているからな。家具の修理を専門にやっているから仕事が無くなる事もない。一番安全な職だな。」

「その分、収入は多くありませんが、地道に生活できる分は稼げるでしょう。」


「そういえば昨日、初めて【ストーカーちゃん】の本名を知りました。」

「ナイリーニ・アイリーナか。あの子はしつこかったな、最近懲りたのか来ていなかったが…。」

 シンデレラに標的を変えたのか?と、縁起でもない事を聞いてくる。私は絡まれるほど暇じゃないです。とだけ言うと義兄さんは続けた。

「彼女の評判は良くない。市場を支配しているナイリーニ家の次期女当主という事をかなり鼻にかけている。」

「それに、貴族の中には農業とかの生産系にも手を伸ばしている人がいるから高い税をかけるナイリーニ家を良く思ってないんだよ。」

 後ろから声がして振り向けば、何時の間にか着替えて降りてきたフェア義兄さんが立っていた。義兄さんは気になるんなら続けると言い、アル義兄さんはフェア義兄さんの情報に興味があるのか話を促した。

「元々先代の姫様の時に独占は禁止されていたんだ。でも、ナイリーニ家の現当主が先代をうまく騙して禁止を解いたらしいんだよ。」

 凄い狸でしょ。とフェア義兄さんは自慢げに微笑う。一体、その情報は何処から持ってきたのだろう。

 アル義兄さんも気になって聞くと、フェア義兄さんは

「パン屋の二人に破れたシンデレラちゃんのエプロンをあげたら教えてくれたんだ。」

 …ゴミの再活用はいいが、私のエプロンは大金以上なのか? そんな事を考えているとアル義兄さんはフェア義兄さんの頭を引っぱたくと買い物へ連れて行った。


 二人が居なくなった後、暇でたまらない私は昨日父さんの【おもちゃ】箱の中から見つけた小さな鍵を使ってみる事にした。


 二階にある母さんの部屋の隣、今も部屋に余裕があったため誰も使っていなかった。

 父さんの部屋だ。


 部屋の中は一切、弄っていない。今でも部屋の窓の前にある机から「どうした、ルイ?」と父さんの声が聞こえてきそうだ。

 私は机の右に備え付けられた引き出しを開ける。父さんが失踪した後、私は真実を探してこの部屋を探った。その中にどうしても見られなかったものがあったのだ。

 それは一冊の日記、父さんが欠かしたことがないかなり草臥れた日記だった。


 日記を机の上に置く、すると積もってしまっていた埃が舞い上がる。私は慌てて目の前の窓を開けた。

 久々に空気の入れ替えられた部屋は再び息を吹き返したかのように明るく見えた。私はポケットから小さな鍵を取り出し、日記に差し込んだ。


カチッ、


 そう、小さな音がして今まで読まれることを拒んでいた日記が開かれた。

 始まりは小さく、それでもできるだけ丁寧に【就任を記念して日記を始めた。】とだけ書かれていた。どうやら、当主になったその日に日記を始めたらしい。


 日記を読み進める。仕事は幼い頃から徐々に仕込まれていたのでそれほど大変だとは思わなかったそうだ。礼儀作法も完璧で、最初は突っぱねていた姫様も気に入ってくれたと。

 父さんは先代が展開させた貿易にも関わっていた。補佐官とは、王族の仕事や私情に関することの相談に乗り、正しい方向へと導く仕事らしい。東の国の技術の素晴らしさを先代に説いたのも父さんだった。

 そして、この国の力を欲した好戦的な国からの良からぬ噂を逸早く先代に届けたのも父さんだ。噂が嘘でも戦力は整えるべきだと教え、国の戦力を向上させ戦術を説いた。そして噂は本当で戦力を整えて待っていると思わなかった敵国は、攻めて返してきた軍勢に取り乱した。

 その戦争はこちらの勝利に終わり、そして軍勢の先頭に立った騎士は英雄となった。そしてその騎士が母さんの恋人だった。

 戦争の勝利を祝う舞踏会で出会った母さんに恋し、そして同時に母さんの恋人を戦場に送ったのは自分だと責め続けてもいた。 その後直ぐに結婚し、子供を身籠った幸せそうな母さんを見て罪を黙ったままでいることが恐ろしくなった父さんは母さんに真実を打ち明けた。母さんは「仕事だった」と許してくれてそして、私が生まれた。

 直ぐに次期当主にすることは決まった。

 ライナー家は代々、一番最初に生まれた子を当主にする仕来りがある。その仕来りの中には女が生まれた場合男装させることも含まれるらしい。男装させるのは社会的に不利な立場に立たないようにする為のようだ。


 昔、父さんに何故姫様と話をすることが出来るのかと聞いたことがある。その時、父さんはこういった。


『姫様と私達は光と影。光の中、大きく働くのが姫様で、その後ろの影で、大切な話をするのが私達。二つは対で、どちらも欠けてはいけない。そしてどちらも正反対なんだよルイ。嗚呼、それにしても、ルイはやっぱりとても綺麗になるだろうね。母さんよりもきっと魅力的な女性になるだろう。私も娘でなかったならきっと、閉じ込めて泣かせて虐めて楽しんでしまっているだろう。嗚呼! 実に残念だよ、ルイ!!』

 後半は何時ものように父さんの変態発言だったが、前半は真面目に答えてくれたのだと思う。二つは対、それは一体どういう意味だろう。


 父さんは自分の時のように幼い時から礼儀作法から仕事の内容まで教えようとしていた。それは私も知っている通りだ。だが、日記の内容が微かに悪い方向へと行っている気がする。


 §



 今日、ナイリーニ家の当主が姫様との対談を申し出てきたとヴィルネール卿が言った。

 彼はどうやら市場の独占を行ないたいらしい。独占する事は他のものに不利益が及び国の経済が乱れる。

 ナイリーニ卿は口が達者だと言う。決して姫様に会わせてはならない。私はヴィルネール卿に対談を断るように言った。


 §


 3月 17日

 卿が再び対談を申し出た。私は対談を断るようにヴィルネール卿に言うと姫様に会った。

 姫様は最近、姫君様と遊ぶことが日課となっているようだ。尋ねた時、姫様は中庭で姫君様と遊んでいた。 悪いタイミングに尋ねてしまったようだ。私はヴィルネール卿とルイを遠くへ移動させると姫様に決して市場の独占禁止を解かないように念を押した。

 姫様には大体何を伝えたいのかわかったようだ。

 ルイを連れて帰るとどうやらルイは姫様と仲良くなったようだ。これならこれからの交流は楽しいものになるだろう。


 §


 3月 23日

 卿が直接城にやって来た。

 幾ら念を押していても用心は必要だ。私はヴィルネール卿に、卿にお帰りいただくように言った。

 彼は次も来るといった。

 …ルイを連れてくるのをやめよう。


 §


 3月 25日

 卿は宣言通りにやって来た。ヴィルネール卿を跳ね除け姫様の居る中庭に行こうとする卿に私は止めに入った。

 そこで、私の存在を知られてしまった。

 私こそが補佐官で卿の話を通していなかった事を。


 §


 4月 2日

 卿は姫様に近づくことを辞めた。代わりに私の事を調べているらしいと、パン屋は言った。

 彼の息子達も順調に育っているらしい、彼らも家業を継ぐのだろう。

 …私は、ちゃんとルイを育てられるだろうか。


 §


 4月 21日

 家や家族のことまで知られてしまった。

 卿は手段を選ばないようだ。唯、利益さえ得られればいいのか…。

 この家の人間に変人が多い理由は、その人柄を知られないようにしていたのだ。そしてあえて家を質素にすることによって、家すらも隠していた。

 だが、卿の前に出てしまったことで全て水の泡だ。


 嗚呼、ルイ。君だけは、せめて。









  月   日


   私は居なくなる。

  姫さまは聡明な方だ。たとえ私が居なくともヴィルネール卿が居る。きっと何とかなるだろう。

  ルイの教育は出来ていない。それなら仕事は継がれる事はないなろう。そうすれば、ルイ。君だけは無事で。

  彼女と私の宝物。







 日記は、それで終わっている。

 これはきっと、父さんが失踪したその日に書かれた物。

 何故母さんと私に何も言わずに居なくなったのか、それが今解った。あの【おもちゃ】は昔、贈られたものだった。恐らく日記の鍵は二つあったのだ。もう一つは父さんが持って、出て行った。

 そしてこの鍵は私に託されたのだ。

 何時かこの日記を読まれることを願って、真実を知る事を思って。


「…レイン?」

 部屋の入口に、母さんが立っていた。私は後ろ手で日記を閉じる。母さんは私の顔を見て、何処か悲しそうな顔をした。

 期待、していたのだろう。隣の部屋から音がして、父さんが帰って来たのだと。扉の前まで来てページを捲る音が聞こえて、父さんがそこに居ると、喜んで。


 母さんは、床に力なく崩れ落ちた。そして遠くを見ているような目で私を見る。

「…やっぱり、レインは私を捨てたのね…。」

 遠く、父さんの面影のある私を通してその向こうの窓を見て。何処かに居るであろう父さんを捜している。

 私は母さんの側に座り、その顔を覗きこむ。

「…母さんは、今でも父さんを愛してるんだね。」

 そういうと、母さんはゆっくりと私の顔を見る。まだ少し虚ろな目で、それでも私の方を確かに見て。

 その頬に優しく触れ、唯静かに話す。

「だから…捨てられたと、思ったんだね。」

 母さんは徐々に焦点を合わせ、私を捉える。その途端、瞳が潤み今にも泣きそうな目で私を見つめる。

「それは私も同じだよ…? でも、父さんは私達を捨ててない。捨ててないんだよ…!」

 泣きそうな母さんよりも今は私に泣かせて欲しい。知らない、知らなかった。父さんは、恐らく、もう…。

 それでも、それは母さんにはいえない。いえるわけがない。だって、もう十分傷付いている。私よりも遥かに、優しい彼女は全ての思いに押しつぶされ傷付いている。

「ルイ? 泣いているの? 大丈夫?」

 母さんは私の頬に指を這わせ、涙を拭う。自分が悲しくても人を心配するこの人を、どうして私は悲しませる事が出来る?



「大丈夫だよ。母さん、もう。父さんは母さんを見捨ててない。ずっと、ずっと、愛してるって。」

 私は母さんを抱きしめた。昨日、触れていた身体よりも遥かに小さく感じた。

 昨日は【母さん】だった。でも、今は一人の【女】。小さくても仕方ない。だってこの人はとても弱いのだから。


「私も、レインを愛してる。愛してるのよぉ! ずっと、ルイと同じくらいに!」

 ずっと愛してるといい続けていた母さんを抱きしめ、私は一つの決心をした。それは私にとって今できること。

 もう、昔のことはどうにもならないが、今起こりかけていることは如何にかできる。


 昨日と同じように疲れて眠ってしまった母さんを部屋に運び、その身体の汚れを叩くとベッドに寝かせ、その涙を拭った。そして私は扉を閉めて、父さんの部屋へ行った。



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