表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

灰谷琴音の物思い

 オレがどうしてこの世界にいるのか、それがいつも疑問だった。いや、違う。オレが疑問なのは、どうしてオレが人の姿をしているのか、ということだ。平野はオレがこの世界にやってきたとき、その代わりにオレの世界に行った人間の姿だろう、と言っていた。もしそうなら、オレはこの世界の一人の人間の人生を狂わせたことになる。

 自分を責めているわけではないのだが、どうしてもそういう思いは抜けない。

 リゼはどうなのだろう、と一度リゼに聞いてみたところ、リゼ本人は自分の姿が変わっているわけではないということだ。なら、どうしてオレは擬人化という技術を身につけたのか。それがよくわからない。

「わからなくてもいいんじゃない?」

 細江はそうオレに言った。元々人に愚痴るような性格ではないが、なぜか細江に愚痴っていた。

「どうしてだ?」

「灰谷さんがいてくれるの、わたしはうれしいよ?」

「?」

 どうして細江がうれしいと問題ないのか、オレにはわからなかった。

「今灰谷さんがここにいること、それが大切なんだよ。わたしや、他のみんなにとって」

 それはきっと、自分の目が届く範囲が自分の世界となっているからで。

 それはきっと、他のすべての人がそうなのだろう。

 そしてきっと、オレもそうなのだ。

「今だから聞けるのだが」

「うん」

「オレがドラゴンであることや、リゼが吸血鬼であることは関係ないのか? 怖くないのか? ドラゴンも吸血鬼も、物語の中では人に害をなすものだぞ」

 人は知らないことを探求し、解答(こたえ)を求める。そして『知らないこと』を恐れ、『わからないこと』を嫌う。そういう種族ではないのか。

「リゼさんはわたしたちに出会いがしらで自分が吸血鬼だって暴露したし、灰谷さんは自分の正体を隠してたのに、石動くんを止めるために自分がドラゴンであることをみんなに知らしめた。リゼさんも灰谷さんも、実質的にわたしたちに対して害を及ぼしてないよ? たぶん、クラスの誰も灰谷さんたちを怖がってる人なんていないんじゃないかな?」

 興味がある人はいてもね。

「そんなものか?」

「人間って、複雑そうで単純なんだよ。でね、単純だと思えるところが、実は複雑だったりするの。だから、うん、灰谷さんが感じたとおりが正解なんだよ、きっと」

 また細江は難しいことを言う。矛盾をはらんだその言葉。けれど、細江にとってはそれが解答なのだろう。

「人は難しい」

 細江はオレの呟きに対し、優しげな笑みを浮かべた。

 帰宅途中、変な生き物を見つけた。

 長い耳。醜い顔。鋭い爪。異形の羽。

 これは確か、インプとかいう下級の使い魔ではなかったか。オレが見るのは初めてだが、なかなかどうして気持ち悪い。

「術者には悪いが、インプを使う奴なんてロクなのがいないらしいからな。いいか」

 インプがこちらに気づかないうちに、オレは後ろから炎を吹きかけた。インプは一瞬で灰になって消えた。

 歩いていると、また見つけた。

 炎を飛ばす。

「多いな」

 世界学というものは、意識してみると、あからさま過ぎるほどに現実に浸透しているらしい。そのための情報規制だというのに。人の想像力というものは、やはり、なかなか素晴らしいものだ。

 そんな甘いことを考えられていたのもつかの間のこと。

 翌日、『オレたち』の世界には醜い使い魔が跋扈していた。

 なるほど。

 オレがここにいることが大切だと言うのなら、この場所を守るために一肌脱ぐのも悪くないかもしれない。


 次回、最終話 探していた場所―0

 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ