表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクランブルワールド2  作者: 人鳥
第二話 イタズラな悪意
19/27

9

 現実世界に戻り、ぼくたちは黒木さんと千堂さんに笑われ、吉岡さんに泣きながら怒られた。陽平は京香ちゃんの手前、それほど語気を荒げることはしなかったが、それでも何か言いたげにしていた。京香ちゃんと二人で話している場面もあったから、もしかしたらそこで何かを言ったのかもしれない。

 宗次は結局現われず、あいつには今回の騒動のことを伝えないことにした。あいつはあれで結構繊細だから、こんなことを伝えて――伝えるべきなのだろうけれど――倒れられてはどうしようもない。

「中学校には、あたしのほうから連絡しておいたよ。まったく、いらないものが流行ると迷惑だね、ほんと」

「え? それだけの対応で済ませたんですか?」

 もっと厳しい対応をしてくれるとばかり思っていたぼくは、拍子抜けし、少し腹が立った。

「少年、気持ちはわかるよ。でも、そんなことをすると、京香ちゃんの居場所はもっと少なくなるし、京香ちゃんが人外だってことも話さなくちゃならなくなる。そうなったら……わかるよね?」

 諭すように言った黒木さんの表情は、言葉とは裏腹に悔しそうだった。

「佐倉少年に張ってもらった札があるから、これから何年かは中学校内において呪術は使えないよ。それこそ誰かが気づいて、あの札が発揮している結界を解除させないと」

 ひとまず、『アカガミさま』による被害はなくなるだろう。けれど、人を呪い、危うく殺しかけた同級生たちは、その事実を知らない。結局のところ、解決にはなっていないのかもしれない。

「人を呪わば穴二つ……。そうしたいかい? そうなったら、彼らが助かる術はないだろうね。だって、彼らにはあたしたちみたいな、助けてくれる人なんていないんだから」

 後味も悪いよ。と、黒木さんは付け足した。

 申し訳無さそうに話す黒木さんを見ていると、なんだか申し訳なくなってきて、ぼくはそこで話を終えた。

 よくわからなかったのは、ぼくたちが現実世界に戻った時、リンクスが姿を消していたことだった。交換条件として、あの安アパートに住むことを提案してきた彼女。けれど、事件が終結し、数日たった今でも、彼女はぼくたちの前に姿を現していない。

 この町から出て行った。

 そんなことも思ったけれど、彼女は自分の言葉に誠実で、嘘はつかないと思っている。だから、きっとまだこの町にいるはずなのだ。黒木さんに頼んで、管理人さんに話をつけてもらっているから、あとは本人が来ればいいだけなのに。

「別れの挨拶だったのかもね」

 リゼが言う。

「どういうこと?」

「旅人って言ってたでしょ? だから、町を去る時にそこで出会った人に別れを言うのに、少し抵抗もあったんじゃないかな?」

「旅人なら、別れには慣れてるはずじゃないのか?」

「あっ、そっか」

 けれど、それも案外ない話じゃないのかもしれない。

 ぼくにはわからないけれど。でもまあ、二階の吉岡さんの隣の部屋。そこはリンクスの為の部屋になっている。

「タク」

「うん?」

 リゼは窓から顔を出して、グラウンドを歩く、明らかに学生じゃない格好をした人物を指差した。

「あれ、リンクスじゃない?」

「あ」

 その人物はぼくたちの視線に気づいたのか、それともぼくたちが気づくのを待っていたのか、こちらに振り返り、少しだけ恥ずかしげに手を振った。

 銀色の髪が、風にゆれた。


 次回、閑話『灰谷琴音の物思い』

 お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ