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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case0】絶望が運命を変える――始まりのカフェ
6/47

【6】



「瑞月さんのご両親は何をされているんですか?」

「不動産業を営んでいます。表向きは」

「……表向きは?」

「当店で長く働けば分かると思いますよ」

「そうですか……。ご両親とも幽霊のことはご存じで?」

「もちろん。見えていますし会話もできます」

「す、すごい家系ですね……。そういう血筋なんでしょうか」


 瑞月さんは優美に笑むだけで応えなかった。

 この流れでいくと――。


「小鈴さんのご両親も同じなんですか?」


 彼は「さぁ?」と相変わらず愛想のない態度だ。

 小鈴さんと積極的に会話するのはやめた方が吉と判断し、この話題は打ち切ることにした。


 食事を終えると、瑞月さんはレジカウンターの裏から車のキーを持ってきた。アイスティーを飲んでいる小鈴さんの前にそれを置く。


「朔也、璃乃さんを送ってあげて。彼女の車はここで預かるから」

「何で俺が――」

「会合、キミも行きたい?」

「……分かりましたよ。送ります」


〝会合〟というのは脅し文句になっているようだ。

 これまで瑞月さんの紳士的な振舞いに安心しきっていたが。彼が私に優しいのは初対面だからという理由で、実は小鈴さんが恐れるほど厳しい人の可能性もある。瑞月さんの美しい笑顔を信じていいのだろうか、なんて考えた直後――。


「それじゃあ璃乃さん、明日は午前十時出勤ね」

「あ、明日の十時ですか? そんな急に始まるんですね。まだそのあたりの相談はしてなかったですけど」

「明日からじゃダメ? 何か予定入ってる?」


 ……あれ?

 瑞月さんの口調、変わった?

 何と返すべきか考えあぐねているうちに、彼の右手が私の頬に触れた。


「通勤が不安なら僕の部屋に泊まる?」

「……え? 私が言ったのは通勤のことじゃ――」


 後ろからぐいっと腕を引っ張られた。

 腕を掴んでいたのは小鈴さん。

 彼は睨むような鋭い目で私を見下ろしていた。


「あんた何やってんだよ。蒼唯さんのペースに乗せられすぎ」

「すみません。瑞月さんの口調が急に変わったので――」


 小鈴さんは聞く耳持たずといった様子で、私の腕を掴んだまま歩き出した。瑞月さんは「また明日ねー」と爽やかに手を振っている。しかし挨拶を返す間もなく外へ連れ出されてしまった。


 小鈴さんが向かったのは、私がここに来たときから停まっていた黒いセダン。助手席に乗るよう指示されたため従った。自宅までの道案内を頼まれたが、私はこの辺りのことを全く知らない。カーナビに自宅アパートの住所を入れさせてもらった。


 車が山道に出る。

 午後七時を回り空も暗くなってきた。ナビの表示によると、到着予定時刻は約一時間後。


「明日は八時五十分頃、あんたの家まで迎えに行く」

「迎え?」

「あんたの車はうちで預かってるから困るだろ。蒼唯さんはそのへんも見越して、俺が迎えに行けるよう十時にしたんだと思う」

「お店のオープンは何時なんですか?」

「基本的には九時。蒼唯さんの都合次第で変わるけど」

「そうですか。わざわざ迎えに来てもらうことになってすみません」


 話が途切れる。車内には音楽がかかっているものの、ここから一時間も小鈴さんと二人きりという状況は心の重荷でしかない。何でもいいから話題が欲しくなる。


「……瑞月さんとの付き合いは長いんですか?」

「本格的に関わり始めたのは《ハピネス》を開くちょっと前くらい。存在自体は物心ついたときから知ってたけど」

「幼馴染とは違うんですか?」

「まぁね」

「瑞月さんってどんな感じの方なんですか?」

「どんな、って?」

「なんかこう、いかにも王子様って感じの人だと思ってたんですけど。帰り際、ちょっぴり雰囲気が変わった気がして」

「蒼唯さんはいつでもどこでもあの調子だよ。飄々(ひょうひょう)としていてナルシストぶってるけど、実際は自分の内を見せないようにしてるだけ。さらにタチの悪い天然で、こっちが嫌味を言っても高確率で気付かない――そのくせ自分は平気で嫌味やら冗談やら言う。マジで掴みどころのない変人。そんな人だから、たまにめちゃくちゃ面倒くさい。あんたも振り回されないよう気を付けて」


 いわゆる〝魔性の男〟タイプだろうか。

 確かに瑞月さんは女性慣れしているように感じられた。小鈴さんの助言どおり、思わせぶりな態度で勘違いしないようにしなければ。


「あんたさ、マジで人生が嫌になるくらい辛い思いをしたの?」

「……食事のときにお話ししましたよね」

「でも元気そうじゃん。大して落ち込んでるように見えない」

「そんなことないです。なるべく思い出さないようにしているだけで」


 頭の中に賢吾の顔が浮かんだ。

 彼と過ごした時間、楽しく笑い合った時間――それが所詮キープのための行為だったと思うと、悔しくて悲しくて押し潰されそうになる。


「あんたは『人生が嫌になるくらいしんどかった』とか言ってたけど、美味しそうにメシ食って、蒼唯さんにチョッカイ出されて赤面してさ。『こんなイケメンと一緒なら霊相手の仕事も頑張れそう』って顔してたぜ?」

「勝手に決めつけないでください」

「現金な奴だよなー。イケメンに気に入られてあっさり元気になっちゃって。気楽なもんだ」

「……さっきは我慢しましたけど。何なんですか、その失礼な態度」

「蒼唯さん目当てなら邪魔なんだよ。ミーハーな気持ちで全うできるほど霊相手の仕事は簡単じゃない」

「瑞月さんに近付きたくて働くと決めたわけじゃありません。半分は……いえ、ほとんどはお金に釣られた感じですけど」

「へぇ、それが本音? 正直じゃん」

「きっかけはお金だったけど、働くと決めた以上真剣に取り組みます。元々仕事を辞めたかったわけじゃなくて、頑張ろうと思っていた矢先の破産だったんですから。無責任に投げ出したりしません」


 職探しする気力も湧かないほど落ち込んでいた私に、働くきっかけをもらったのは事実。幽霊カフェという未知の世界ではあるが、雇い主に迷惑をかけることはしたくない。


「蒼唯さんのことあれこれ言ったけど、ちゃんと信頼できる人だから。あんたは無理のない程度に頑張れば?」

「え……あ、はい」

「あんたの想像よりしんどい世界だと思うけど。せいぜい一週間は粘ってほしいね」


 ……もしかして。

 わざと挑発して、私の覚悟を見定めようとしていたのだろうか。

 不遜な物言いをするだけで、思ったほど冷酷な人ではないのかもしれない。



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