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【10】



「今から僕が言うことは全て事実で、絶対にはぐらかしたり冗談を交えたりしない。だから真剣に受け止めてくれる?」

「……分かりました」


 瑞月さんが腕を解く。

 彼の力強い眼差しが私を捉えた。

 普段と違う男性らしさを感じ、きゅっと胸が締め付けられる。


「涼子先生と再会するまでは、吹っ切ったと言いつつずっと引っ掛かっていた。連絡を断ってからも、彼女と再会することを恐れていたんだ。会えばまた惚れ込んでしまうと自覚があったから。実際涼子先生と再会したときは動揺したけど……話をするうちに、僕が彼女を愛していた時間は過去の想い出になっていると気付いた」

「……想い出?」

「絵を描く場所を貸すと提案したとき、涼子先生は難色を示したんだ。僕は何度も彼女に告白した身だから、警戒されて当然だったと思う。でもそのとき心に浮かんだのは『もう涼子先生を好きになってしまうことはない、今の僕には愛しい人がいる』という想い。涼子先生には『今はうちのお店の子に片想い中ですから』と伝えた」

「……私のことですか?」

「もちろん。元々霊滅師の血を引いていないキミの霊力に興味があったけど、今はそれだけじゃない。お客様との出会いや別れを大切にして喜んだり悲しんだりする璃乃さんに、僕はいつの間にか惹かれていた」

「嬉しいです。私も瑞月さんのことが――」


 待って、と彼の人差し指が私の唇に触れた。戸惑いながらも言葉を止め、瑞月さんを見つめる。唇に触れる指が私の頬へ移動すると同時に、彼の顔が近付いた。


「好きだよ」


 耳心地の良い言葉と優しいキス。

 ほんの一瞬だが、身体を溶かすように甘く。

 嬉しさと愛おしさで胸が熱くなった。


「次はキミの気持ちを聞かせて?」

「はい。私も瑞月さんのことが好きです」

「僕の恋人になってくれる?」

「もちろんです」

「良かった。安心して真剣モードを終了できる」

「……え?」


 瑞月さんの指が私の顎を持ち上げる。

 力強く見えた眼差しが緩み、無邪気な笑みを向けられた。


「両想いだと分かってついキスしちゃったけど。朔也に言ったら『店でイチャつくな』と怒られちゃうかな?」

「ま、待ってください。さっき『ここからは冗談を言わない』って――」

「だから言ったでしょ、『真剣モードは終了』って」

「……告白してくれたときと声のトーンが全然違いますね。本当は腹黒いのを隠したくて、癒し系王子を演じてるんですか?」

「へぇ、キミは僕のことをそんな目で見てたの?」

「あ、いえ、その……。瑞月さん、周囲から『何を考えているか分からない不思議な人』って言われませんか?」

「そうだね。朔也にも家族にも、霊滅師家系の知り合いにも言われるよ。でも――」


 瑞月さんの指が私の髪へ移動する。

 優しく髪をすくう彼の瞳からは愛おしさが伝わってきた。


「そういう謎めいた僕を、キミは好きになってくれたんでしょう?」

「……はい」

「でも姫がご所望ならば、腹黒王子様でもワイルド王子様でも演じてさしあげますよ」

「……いつか、本当の瑞月さんを知ることはできますか?」


 思い切って質問をぶつける。

 瑞月さんは私の髪から手を離し、にやりと唇を歪めた。これは腹黒モード発動の予感。


「意味深な質問だね。僕が常に自分を偽って見せていると言いたいのかな?」

「それは――」

「朔也の前でさっきの告白を再現してみようか。あの子が『いつもの蒼唯さんですね』と納得するか『頭でも打ったんですか?』と心配するか、どっちだと思う?」

「そんなこと訊かれても……。このまま話を続けるとどんどん真実から遠ざかりそうなので、さっきの質問は忘れてください」

「じゃあ最後にひとつだけ。〝本当の僕〟を知りたいのなら、これからもずっと見ていればいいよ。誰よりも近くで……ね?」


 瑞月さんの見せる様々な表情に混乱はあるが、恋人として傍にいられると思うとやはり嬉しい――と同時に不安が過った。驚きと喜びですっかり忘れていたが、瑞月さんは特殊な家柄。婚約も破談になったばかりだ。私みたいな一般庶民が恋人だとご両親に知られてしまったら猛反対される気がしてならない。その点について訊ねると、彼は可笑しそうにふっと息を吐いた。


「親への紹介を望むなんて、ずいぶん気が早いんだね?」

「違います。もし知られてしまったら、という話です」

「自分の恋愛事情をいちいち親に報告するつもりはないけど、だからと言ってキミとの交際を意図的に隠すつもりもないよ。誰に何を言われても、僕の心は璃乃さんのものだから」


 穏やかな声がくすぐったい。歯の浮くような小恥ずかしいセリフなのに、瑞月さんが口にすると綺麗に聴こえるから不思議だ。照れくささと幸せな気持ちで満たされていく。


 瑞月さんは壁に掛けられた時計に目を向けると、ぱちんと両手を鳴らした。


「名残惜しいけど甘いムードは一旦おしまい。お店を開けなくちゃ」

「そうですね」

「この一週間は新規のお客様がなかったから、そろそろ来てもいい頃だね。常連のお客様含め、いつものように笑顔で迎えよう」


 午前九時、《ハピネス》オープン。

 本日もお客様に癒しのティータイムを――。



(了)

(To be continued)



※コンテスト応募のため本章で完結としますが、続編も執筆済みです(朔也の家庭問題、除霊トラブル、琥太郎の世話役:西原の過去など) 受賞できた暁にはそちらも公開したいと思っておりますので、応援よろしくお願いいたします。



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