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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case4】小さな妹の、大きな想い
32/47

【4】



 美雪ちゃんの頬はもごもごと動いている。おそらくチーズケーキを食しているところだ。そんな彼女を横目に、ふと浮かんだ疑問を投げかけることにした。


「たとえばの話ですけど。いろんな死魂入り紅茶を淹れて、片っ端から美雪ちゃんに飲んでもらうというやり方では浄化できないんですか?」

「では僕からもたとえ話を。璃乃さんが元気なとき、突然『辛い』『苦しい』『悲しい』『怒り』といった感情が一斉に襲い掛かってきたとしたら。それまでどおり元気に振る舞えますか?」

「……いえ。ストレスで潰れそうになると思います」

「それと同じですよ。お客様と関係のない死魂をいくつも摂取したら、霊体に負の感情が蓄積する――莫大な負担が掛かり、悪霊化を招くことになるんです」


 瑞月さんは「何かヒントが必要ですね」と言い、美雪ちゃんに視線を戻した。


「苦しいことを思い出させてしまうかもしれませんが、お客様はどのように亡くなられたのですか? ――いえ、その〝無くなる〟ではなく〝死んでしまった〟という意味です」


 いくら相手がお客様でも、少女相手にその口調はいかがなものか。もう少しフランクに接した方が美雪ちゃんも話しやすいのではなかろうか。私がそんなことを考えている間にも美雪ちゃんの語りは進んでいるようで、瑞月さんは相槌を打っている。


「――なるほど。そういうことでしたら僕が捜してみます」


 美雪ちゃんの忘れ物に繋がる情報が出たようだ。

 瑞月さんは「三日後の午後、また当店へお越しください」と告げた。頷いた美雪ちゃんが席を立ち、入口へと向かっていく。お見送りするため後方を歩いていると、唐突に彼女が振り返った。


『――お姉ちゃん』


 心臓が止まるかと思った。

 今にも消え入りそうな音量だったが、美雪ちゃんの発した声が私の耳に届いた。


「みみみみみ瑞月さんっ! い、いまっ、私、呼ばれましたよね!?」

「璃乃さん落ち着いて」

「でも絶対『お姉ちゃん』って聞こえたんです! ホントなんです!」


 美雪ちゃんは不安そうに肩を丸めている。

 彼女の唇が僅かに上下しているものの、肝心の声は聞こえない。


「何で……気のせいだったの?」

「いえ。お客様は間違いなく璃乃さんに声を掛けましたよ」

「でもまた聞こえなくなっちゃったんです! どうして――!」

「お客様の前ですよ? あまり声を荒らげないでください」


 言われてみればそのとおりだ。こんな狼狽した姿を小さな女の子に晒すのはよくない。縮こまっている美雪ちゃんへ向き直り、「またお越しください」と頭を下げた。ぷつっと彼女の姿が消えた途端、瑞月さんが深い溜め息をつく。


「キミが突然興奮し出すからびっくりしちゃった。お客様の前であんな態度はいただけないな」

「すみません。美雪ちゃんの声が聞こえたのがすごく嬉しかったんです」

「嬉しい……ね」


 瑞月さんは意味深な間を空け、ふっと笑みを漏らした。


「私、何かおかしなことを言いました?」

「ごめん、気にしないで。あの子『お姉ちゃんも、わたしの忘れ物捜しをお願いします』と言ってたよ」

「そうだったんですね……。私には〝お姉ちゃん〟という一言しか聞こえませんでした」

「キミに宿る霊力に変化はないからね。心境の変化やお客様との相性なんかが影響して、たまたま声をキャッチできたんじゃないかな」


 心境の変化――お弁当を食べた男子高校生の件で、私は心の底から「幽霊の声を聞きたい」と願った。私の内に宿る霊力が、願望に応えてくれようとしているのだろうか。


「私も会話できるようになりますか?」

「声を聞く機会は増えていく可能性がありそうだね。と言っても、まだまだ不安定な状態が続くはず。突然聞こえたり聞こえなくなったりするだろうけど、お客様の前で興奮しちゃダメだよ?」

「すみません。これからは気を付けます」

「うん、それでよし。彼女から聞いたこと、璃乃さんにも説明しなくちゃね」


 美雪ちゃんの使っていたテーブルを片付け、自分たちが飲むドリンクの準備を行う。今回は瑞月さんの勧めでティースカッシュを淹れた。瑞月さんはストレート、私はガムシロップ入り。弾ける喉越しと優しい甘さを味わいつつ、美雪ちゃんについて聞かせてもらうことにした。


「彼女、高校の裏庭で倒れてしまったらしいんだ」

「高校? どうしてまた?」

「彼女のお兄さんが通っていたらしい。死亡する二日前、二人は高校敷地内へ忍び込んだ。単なる遊びでなく、彼らは必死だったんだと思う」

「何か事情があったんですね?」

「そう。お客様は心臓の病を抱え、長い入院生活を送っている最中だったんだ」


 高校生のお兄ちゃんは毎日、美雪ちゃんの病室に顔を出していたという。そこで絵本の読み聞かせをしていた。そして、滅多に出ることのできない〝外〟の話も交わしていたらしい。


「お兄さんの通っていた高校の裏庭には、大きな樹が生えていたんだって。その下で読書をするのがお兄さんの趣味だったんだ。それを知った彼女は『お兄ちゃんの好きな場所に行きたい。そこで絵本を読んでほしい』と願った」


 その願いを叶えるべく、兄妹はこっそり病院を抜け出す計画を立てる。彼らの計画は成功し、高校へと向かった。


「外に出たい気持ちは分かりますけど……安易な行動じゃないですか? 七歳の美雪ちゃんはともかく、高校生のお兄ちゃんなら『無断で病院を抜け出すなんて危険だ』と判断できるはずです」

「どうやら彼女は死期を悟っていたみたいなんだ。『わたしはもうすぐ死ぬ』と自覚し、何度も家族に訴えたらしい。でもご両親は全く信じなかった――仕方ないことかもしれないね」

「お兄ちゃんは信じたんですか?」

「もちろん最初は『馬鹿なことを言うな』って感じだったみたいだけどね。繰り返し自分の死期を訴える妹を見て、お兄さんなりに覚悟を決めたんじゃないかな。決して軽い気持ちだったわけじゃないと思う」


 高校の裏庭――大樹のもとへ辿り着いた二人は読み聞かせの準備をした。

 しかし事態は急変する。


「勝手に病院を出たことに気付いたご両親が兄妹を発見したんだ。ご両親がお兄さんを叱り飛ばすなか、彼女は高熱で倒れてしまう。病院に搬送され、数時間後に亡くなった――結局、絵本の読み聞かせが行われることはなかった」


 それが、美雪ちゃんの最期の記憶か。



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