表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case3】それぞれの人生を彩るもの
28/47

【8】



「瑞月さん。最期、あの子は何を言っていましたか?」

「……ご馳走様でした。死んでから二ヶ月くらいつまんない日々を送ってたけど、お前の弁当を食べたら幸せな気持ちになれたよ。これで気分よく眠りにつける。俺のために作ってくれて本当にありがとう。お前はこの先も事故に気を付けて生きるんだぞ。幸せを祈ってるからな」


 じんと瞳の奥が熱くなった。

 油断すると涙が出てしまいそう。

 彼はたくさん感謝を伝えてくれたのに、(好きな子)の幸せを願ってくれたのに、私は直接その言葉を受け取ることができず、「どういたしまして」すら言えなかった。悔しさが込み上げてくる。


「……私、幽霊の声を聞きたいです」

「どうしたの、突然」

「瑞月さんのおまじない、もっと効果の強いものはないんですか? 霊滅師家系の血を引いてない私でも、幽霊の声を聞くことができるような」

「僕が引き出したキミの霊力は全体の七割程度――まだ三十パーセントの力が眠ってるんだ。でもこれ以上の力を顕在化させたら、キミの肉体に大きな負担が掛かる。申し訳ないけど、叶えてあげることはできない。璃乃さんの健康を守ることも雇い主としての責務だから」


 瑞月さんは腰を曲げ、顔の高さを私に合わせた。こうして距離を詰めてくるときは毎度、からかう気満々で妖美な色気を放っているのに。今の瑞月さんは心配そうに眉を寄せている。


「璃乃さん、大丈夫? 瞳が潤んでるよ?」

「だって私、あの子の最期の言葉を無視したのと同じですよね」

「ごめん。僕がしっかり通訳しなかったせいだね」

「違います、瑞月さんを責めたわけじゃなくて。あの子が何を言っているか分かれば私の言葉も伝えることができたのに――いえ、それも違いますね。詳しい内容が分からなくても、あの子がお礼を述べてくれたことくらいは想像できたわけで。今考えれば『どういたしまして』くらい言えたはずなのに……何の機転も利かず、ただ突っ立っていただけの自分が悔しいです」

「……キミは純真で綺麗な心の持ち主だね。霊を〝祓うべきもの・消すべきもの〟としか考えない霊滅師家系の人たちとは違って――」


 突如「あーっ!」という騒がしい声が響き渡った。驚きでびくんと身体が跳ねる。二階から琥太郎くんが下りてきていた。


「なに見つめ合ってんだよ! そういう関係だったのか!?」


 ワァワァと騒ぎ立てる琥太郎くん。

 瑞月さんは私から距離を取り、「見付かっちゃった?」とお決まりの冗談で答えた。


「僕たちはオトナの時間を過ごしてるの。邪魔なお子様は二階へ戻ってくれる?」

「ガキ扱いすんなっ! 瑞月パパに『蒼唯が女作ってる』ってチクってもいいのかよ」

「どうぞご自由に」

「あーもう、ムカつくぜ。腹減ったからなんか食わせろ――ってなに、その弁当!?」


 テーブルの横に立った琥太郎くんは、お弁当と私を順に見た。「お前が作ったの?」と訊ねられたため頷く。


「オレと朔兄もいるのに蒼唯の分だけ作ってくるとか酷くね? つまみ食いしてやるっ」

「待って」という私の声が、琥太郎くんの「いただきまーす!」に掻き消された。手掴みした竜田揚げをかじった琥太郎くんが「おえっ」と分かりやすい拒絶反応を示す。


「なんの味もしねーじゃん! 霊が食ったヤツだな?」


 琥太郎くんも幽霊の食事のからくりを知っているようだ。かじりかけの竜田揚げをお弁当箱に戻し、瑞月さんを睨みつけている。


「お前、あえて止めなかっただろ」

「人のお弁当をつまみ食いしようとするキミが悪い」

「つーか、なんで霊に璃乃の手作り弁当なんか食わせてんの?」


 瑞月さんが顛末を説明すると、琥太郎くんは不満そうに顔をしかめた。


「こんな美味そうな弁当なのに全部捨てなきゃいけないとか、もったいないにも程があるぜ。わざわざ弁当を食わせなくても、大人しい霊なら〝黄泉(よみ)の言霊〟を使って消せるのに」


 あの高校生くんの未練は些細なもの――最初はそう感じた。

 しかし私の価値観なんて関係ない。

 彼にとっては大切な夢だ。

 お弁当がもったいないという琥太郎くんの気持ちは理解できるが、それとこれとは別問題だと思う。


 そんな想いを正直に話すと、琥太郎くんは「霊相手に真面目すぎじゃね?」と首を傾げた。しかし瑞月さんは穏やかな笑みを浮かべている。


「僕は璃乃さんの考え方が好きだな。この愛しさを余すことなく伝えるから、今夜二人きりでハーブティーでも飲まない?」

「……琥太郎くんが白けた目で見てますよ?」

「仕方ない。お腹を空かせたお子様のために、キミのくれた差し入れを出そう」


 お弁当の余りが冷蔵庫に入っていることを知った琥太郎くんは、嬉しそうにキッチンへ駆けていった。瑞月さんもその姿を追って歩き出したが――ふいに振り返る。


「キミの作ったお弁当が、あの高校生の人生に華を添えたんだよ。彼は最期の瞬間までとても嬉しそうだったから。自分を責めないでね?」


 瑞月さんの気遣いが心に染み渡っていく。

 ――でもやっぱり。

 私は幽霊の声を聞きたい。

 自分の力で意思疎通がしたい。

 強く強く、そう願った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ