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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case3】それぞれの人生を彩るもの
25/47

【5】



 血筋を守るために定められた相手と結婚する――瑞月さんはそれでいいと思っているのだろうか。勝手なイメージだが、瑞月さんは「分かりました、選ばれた女性と結婚して家を守ります」と言う性格には見えない。「自由気ままに紅茶を楽しめる相手と結婚したいなぁ」なんて言う方が彼らしい気もする。


「もしかして璃乃、蒼唯のことが好きなの?」

「そんなことないよ」

「じゃあ朔兄?」

「いやいや。どっちも仕事でお世話になっている人ってだけだよ」

「ふーん……。まぁ二人とも、好きになってもしんどいだけの相手だから。仕事仲間って割り切ってる方が幸せだろうな」


 霊滅師家系についての説明は以上とのことで、琥太郎くんは炒飯を掻きこんだ。私も食事を進めていく。


 瑞月さんに婚約者。

 同じように、朔也にも婚約者が存在するのだろうか。二人とも家のことや結婚のことに不満を持ち、《ハピネス》という居場所を作っている……?


 心に引っ掛かるものを抱きながらも食事を終え、個室を出る。琥太郎くんは「全部おごる」と言ってくれたが、中学生の財布に頼るのも社会人の面目丸潰れだと思い、自分のランチ代は自分で支払った。


 その後は川辺町内をドライブしつつ、琥太郎くんの話にお付き合い。通っている中学校のこと、勉強のこと、友達のこと……霊に関する話はほとんどせず《ハピネス》まで戻ってきた。


 琥太郎くんは「またデートしようなっ」と声を弾ませ、ハピネスの入口へと駆けていった。私は一応勤務中のため、建物裏へ回って勝手口を使用。キッチンは無人だった。フロアの方から瑞月さんの話し声が聞こえる。


 腰エプロンを着け直してからフロアを覗くと、カフェスペースに瑞月さんの姿があった。客席に座っているのは見覚えのない幽霊――服装から男子高校生だと分かる。琥太郎くんの姿はなく、二階へ上がったようだ。


 高校生の幽霊と対話する瑞月さんは普段どおりにこやかだが、それにしても楽しそうに見える。高校生くんも薄っすらと笑んでいるように見えた。未練を抱え浄化を望む幽霊だとしても、さほど陰鬱な内容ではないかもしれない。


 しばらくして、高校生くんはお店を出ていった。ティーカップを下げてきた瑞月さんに「食事から戻りました」と伝える。


「おかえり。琥太郎くんに話は聞けた?」

「はい。霊滅師という家系のこと」

「そう、それが僕たちの生まれた家。僕は実家を出て《ハピネス》に住んでるけど、時々家の仕事に手を貸している。さすがに『家の財産の恩恵は受ける、でも仕事は一切やらない』なんてムシのいい話はないからね」


 家に不満を持っているんですか、なんて単刀直入に問うことはできなかった。数百年も続く家業に自由のない婚約――私のような一般庶民に口出しできることではない。代わりに、先ほどの男子高校生について訊ねてみた。


「あの子は今日初めて来店したお客様だよ。恋愛に関する未練を抱えてるんだって」


 彼には好きな人がいるそうだ。同じクラスだったが友達と言えるほどの仲でもなく、思い切って告白してみたものの玉砕。それから約一ヶ月後、交通事故で亡くなったらしい。

 彼の未練は〝好きな人と両想いになりたかった〟というものだろうか。訊ねると、瑞月さんは「いや」と答えた。


「相手の女の子は学校のアイドル的存在で、彼も『振られることは分かってた』と言っていた。ただ……その女の子、料理がすごく上手いって評判だったみたいでね。一度でいいからその子の手料理を食べたかったんだって」

「……未練、それだけですか?」

「うん。それだけ」

「それを理由に現世を彷徨っているんですか」

「そうだよ。彼はどうしても好きな子との想い出を作りたかったんだろうね」


 かなり些細な未練だとは思うが、先ほど瑞月さんたちが談笑(?)していたことに納得した。〝未練〟という単語にネガティブなイメージしか持っていなかったが、そうでないケースも存在するようだ。


「でもどうやって浄化するんですか? 彼の感情と合致する死魂、ありますかね?」

「今回のケースみたいに〝目的の品〟が存在する場合、死魂を使うより効果的な方法がある。彼の望みをそのまま叶えてあげればいいんだ」

「……実際に、好きな子に料理を作ってもらうと?」

「それは難しいね。彼女を訪ねて本当の理由を話すわけにもいかないから」

「それならどうやって?」

「キミ、料理は得意?」


 ものすごく嫌な予感がする質問。

 恐る恐る「私が作るんですか?」と返すと、瑞月さんは「よろしく」と微笑した。


「よろしく、じゃないですよ。あの子が望んでいるのは〝好きな人の手料理〟でしょう? 私じゃ代わりになれません」

「男の僕が作るよりいいでしょ」

「好きな子の手作りじゃなかったら誰でも同じじゃないですか」

「大丈夫、ちゃんと手は打つから。キミは明日、あのお客様のためにお弁当を作ってきて? 好きな人に食べてもらうつもりで愛情たっぷりにね」


 本当に大丈夫なのだろうか。

 そもそも私は、料理が得意と言えるほどの実力もない。とはいえこれも仕事の一部。お給料をいただく以上断るわけにもいかないか。


「僕は庭に行ってくるから。キッチン回りの片付けをよろしく」


 瑞月さんを見送り、グラスを手洗いする。続いて排水溝の掃除をしようとブラシを取ったとき、カロンと涼しげな音が聞こえた。お店のドアが開く音――人間が入ってきたときにしか鳴らないもの。


 手にしたばかりのブラシを戻してフロアを覗くと、入口にスーツ姿の中年男性が立っていた。くっきりとした輪郭が、間違いなく人間であることを物語っている。


 声を掛けようとした直後、男性が「座ってもいいかね?」と訊ねてきた。咄嗟に「はい」と返す。男性はレジカウンターからもっとも近いテーブルに着いた。


 瑞月さんたちの知り合いであれば、まずは彼らの所在を訊ねるだろう。となると――単にお茶しに来ただけのお客様? 仮にそうだとすれば、私と同じように結界を潜り抜けてしまったということ?



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