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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case3】それぞれの人生を彩るもの
23/47

【3】



 常連の太田さんがお帰りになったのは午後六時半。

 お店のドアに《close》の札を出した。

 瑞月さんはこれから夕食作りに取り掛かるそうだ。


 私が客席の片付け(バッシング)を行っているうちに、朔也と琥太郎くんが現れた。二人は窓際のテーブルに向かい合って着席し、スマホゲームに興じている。さながら仲良しの兄弟だ。


 帰り支度を整えると、朔也たちのテーブルを訪れ「失礼します」と挨拶した。スマホと睨めっこしていた琥太郎くんの顔が私に向く。


「お前もう帰んの? メシ食ってけばいいじゃん」

「ありがとう。また機会があればご一緒させてもらうね」

「明日の昼は?」

「そうだね、お昼は私もここでいただいてるから」

「じゃあ決定。また明日なっ!」


 元気いっぱいの琥太郎くんに見送られ、今度はキッチンへ。今日も優美な所作でトマトを刻む瑞月さんに挨拶し、勝手口から夕刻の空の(もと)へ出た。明日から十日間、賑やかになりそうだ。



+ + +



 私の家から《ハピネス》まで約一時間かかるが、道のりはそれほど複雑ではない。国道四十一号線をひたすら真っ直ぐ走り、途中で右折。さらに真っ直ぐ走り続けると、やがて線路が見えてくる。そのあたりから山道に突入し、緑豊かな木々に囲まれたお店へと到着。


 勝手口から店内へ入ると、コーヒーの良い香りが鼻孔をくすぐった。働き始めて二週間以上経つが、このお店でコーヒーの香りに遭遇するのは初めてだ。コーヒードリッパーを手にした瑞月さんが「おはよう」と微笑する。


「おはようございます。コーヒーなんて珍しいですね」

「琥太郎くんが滞在中は毎朝カフェオレなんだ。キミの分も用意するよ」


 瑞月さんはグラスを四つ用意し、牛乳で作られた氷をたっぷり投入した。その上から淹れたてのコーヒーをゆっくりと注ぐ。牛乳氷が溶け、マーブル模様のカフェオレが完成した。グラスをトレイに乗せた瑞月さんとともにフロアへ。朝食を食べ始めたばかりといった様子の朔也・琥太郎くんがいる。


「おっす璃乃!」

「おはよう。もう開店だけど、ここでご飯食べてていいの?」

「今日は一時間遅れて開店。だから平気」


 朔也は眠そうに「昨日散々ゲームに付き合わされた」とぼやいた。おそらく二人の起床時間が遅かったせいで、開店時刻を遅らせることになったのだろう。


 瑞月さんは朔也の隣へ。

 私は琥太郎くんの隣に座り、アイスカフェオレに口を付けた。一般的なアルバイト先では絶対に考えられない、超ゆるゆるの勤務体系。気楽な反面、これで正社員時代と同じお給料をもらっていいのかと負い目もある。


 琥太郎くんは手にしていた小倉トーストを食べきると、私の名を呼んだ。「何?」と返しつつグラスをテーブルに置く。


「昼からデートしようぜっ。一緒に昼メシ食って、そのあとは適当にドライブ」

「ごめんね、私は遊びに来てるわけじゃな――」

「分かってるって。ちゃんと蒼唯に許可も取った」


 何故、という疑問を込めて正面の席を見る。瑞月さんは呆れた様子で前髪を掻き上げた。


「二人で昼食に出掛けるのを許可したのは本当だけど、デートに行かせるつもりはないよ」

「どういうことですか?」

「僕は『璃乃さんに白河家のことを教えてあげて』と言ったんだ。琥太郎くんの家のことを知れば、おのずと瑞月家のことも分かる」


 そういえば昨日「近々家のことを教える」と言われた。その役目を琥太郎くんに与えたのか。


「昨夜キミが帰ったあと、琥太郎くんが『璃乃さんと遊びたい』と言い出してね。そんなにお出掛けしたいのなら、家系について説明する任務を負うようにって。璃乃さんもそれで構わないかな?」

「大丈夫です。皆さんのおうちのこと、ずっと気になってましたから」

「琥太郎くんが任務を放棄してキミを振り回そうとしたらすぐ電話してね? しかるべき対処を取らせていただきます」


 琥太郎くんは「ウゼェ」と瑞月さんを睨んだ。対する彼は微塵もダメージを受ける様子なくニッコニコ。朔也は素知らぬ顔で頬杖を突きスマホを眺めている。この絶妙に気まずい空気感が三人の平常運転なのだろうか。私は愛想笑いを浮かべるに留めた。


 朝食の片付けを行い、午前十時に開店。

 正午までに来店したのは渡辺さんだけだった。あとのことは瑞月さんに任せ、琥太郎くんとともに外へ。私の車へ案内し、助手席に乗ってもらった。


「琥太郎くんは何食べたい?」

「中華料理!」

「テンション高いね。中華が好きなの?」

「めちゃくちゃ好きってほどでもないんだけどさ。蒼唯の作るメシ、洋食ばっかじゃん? しかもこの時期は何かにつけてトマトをぶっ込んでくるし。全然違うものを食いてーんだ」


 ここから車で二十分ほどの場所に、琥太郎くんお勧めの中華料理屋さんがあるという。客席は全て個室になっており、込み入った話をするにも最適らしい。カーナビに目的地をセットし、車を発進させた。


「オレさ、璃乃が《ハピネス》で働き始めた経緯を知らねーんだ。朔兄も教えてくれねーんだけど、何があったのか訊いていい?」

「……たぶん二人とも私に配慮してくれたんだと思う。実は――」


 中学三年生相手に恥ずかしい事情この上ないが、要点を掻いつまんで説明する。琥太郎くんは一度も笑ったり茶化したりすることなく、「マジ災難だったな」と冷静なトーンで返してくれた。


「マジで人生ってヤツは理不尽だよな」

「琥太郎くん、まだ中学生なのに。いっぱしの大人みたいなことを言うんだね」

「今のは朔兄のパクリ」

「……朔也がそんなことを?」

「『人間は生まれた瞬間から不平等だ』ってさ。たとえば通り魔事件。『誰でもよかった』とか『むしゃくしゃしてやった』とかふざけた理由で罪のない人を殺しておきながら、いずれ刑期を終えて、また日常生活を送れる……そんなのおかしくね? 殺された方の人生は戻ってこねーのに」


 琥太郎くんの――朔也の言いたいことは理解できた。そしてこんな発言が出るということは、朔也にも辛い過去があるのかもしれない。



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