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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case3】それぞれの人生を彩るもの
22/47

【2】



「ところで蒼唯、朔兄は?」

「出掛けてるよ。夕方には戻ると思うけど」

「なんだよ、つまんねー。こうなったら璃乃が朔兄の代わりだ、一緒にゲームしようぜっ」


 琥太郎くんはキラキラと瞳を輝かせているが、私は遊びに来ているわけではない。丁重にお断りすると、琥太郎くんの視線が瑞月さんへと移った。


「こんな客の少ない店、蒼唯一人で充分っしょ。朔兄が戻るまでオレと璃乃はゲームする。はい決定!」


 ……とんでもないワガママボーイだ。朔也が〝面倒くさい奴〟と表現した理由も分かった。瑞月さんは琥太郎くんのワガママに慣れているのか、余裕たっぷりの面持ちをしている。


「キミがそういう態度なら、僕にも考えがあるよ?」

「な、なんだよっ。蒼唯お得意の脅し作戦か?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれる? 僕はただ、キミのお泊まりがこの夏限りになってもいいかなと思ってるだけなんだから」


 瑞月さん、口元は笑っているのに眼が鋭い……。どうしたらそんなにアンバランスな表情を形成することができるのか。琥太郎くんも瑞月さんの歪な笑みに怯んでしまったようだ。「朔兄が戻るまで一人でいいや」と頬を膨らませた。


「じゃあオレ、朔兄の部屋に荷物運んでくる。着替えたらケーキ食うからな。飲み物はコーラ」


 キャリーケースを引いて階段に向かった琥太郎くんは、「重てーなー」と独り言を漏らしながら二階へ上がっていった。瑞月さんの顔にはいつもの王子様スマイルが戻っている。


「騒がしくなってごめんね」

「いえ、大丈夫です。琥太郎くんとはどういったご関係なんですか?」

「霊が見える家系同士のお付き合いだよ」

「ということは、琥太郎くんのご両親も?」

「そうだよ。瑞月家、小鈴家、白河家――僕たちは先祖代々、霊と深くかかわってきたんだ。キミもお店に慣れてきた様子だから、そのあたりのことを近々お話しようかな」


 瑞月さんに促されキッチンへ。彼は業務用冷蔵庫の下段を開けた。そこから取り出されたのはペットボトルのコーラ――先ほど琥太郎くんに頼まれた品を用意するのだろう。私はケーキ用のお皿を食器棚から取り出した。


「お手伝いありがとう。申し訳ないけど今日から十日間よろしくね」

「……よろしく?」

「カフェの業務に加えて琥太郎くんの相手もお願いするよ」


 琥太郎くんは毎度「遊びに行こうぜ!」とか「夜通しゲームだ!」とか、瑞月さんと朔也を振り回しているらしい。そのためにカフェの営業時間を短縮する日も多いという。それでもお泊まりを拒否しないあたり、〝喧嘩するほど仲が良い〟関係なのかもしれない。


「琥太郎くんは口調が粗暴だし無礼だし、ワガママだし短気だし、白河家の財産を使って何でも手に入ると思ってるし、宿題は朔也に手伝わせるし、僕のことを貧弱だとか言うけど、ピュアで可愛い子だよ」

「……本当に可愛いと思ってます?」

「ご想像にお任せします。――あ、太田(おおた)さんの〝気〟が近付いてきたね」


 常連の女性・太田さんは割烹着を着た、ふくよかな体型のおばちゃんだ。生前は食堂を経営していたのだとか。

 彼女は来店すると必ず二時間以上滞在し、そのうちの半分は瑞月さんと雑談している。よく話題が尽きないなとある意味感心――きっと生前からお喋り大好きな食堂のおばちゃんだったのだろう。他の常連さんがいるときも同じテーブルに着き、身振り手振りを交えて交流している。


 この時間から太田さんがご来店となると、今日の閉店は午後七時頃になりそうだ。《ハピネス》の閉店時刻はこうして、お客様の来店具合によって前後する。


「僕は太田さんをおもてなしするから、キミは琥太郎くんにケーキセットを運んでくれるかな」

「分かりました」と答えトレイを準備。

 コーラとチョコクリームケーキを持って二階へ上がると、朔也の部屋をノックした。「勝手に入ってー」という声が返ってくる。


 ドアを開けると、Tシャツ+ジーンズに着替えた琥太郎くんがゲーム機を抱えていた。今日はベッドの横に布団が一組セッティングされている。


「お待たせいたしました。チョコクリームケーキとコーラです」

「なにそれ。オレは客じゃないっての」

「そうだったね。バイト中だからつい」

「ケーキはパソコンデスクに置いといて。オレはゲーム接続するのに忙しいから」


 琥太郎くんはゲーム機のコードを引っ張り、テレビの裏側を覗いている。「お邪魔しました」と声を掛けて部屋を出ようとしたが、彼に呼び止められた。


「ごめんけど、キャリーケースから黒いタオル出してくれる?」

「黒のタオル?」

「うん。適当にさばくって(・・・・・)くれていいから」

「……さ、鯖食って? 何の話?」

「あぁそうか、お前も分かんねーか。今のは三河弁」


 琥太郎くんは岡崎(おかざき)市在住だと教えてくれた。岡崎市と言えば戦国武将・徳川家康の故郷。有名な街ではあるが出身者と接したことがなく、三河弁に馴染みはない。


「〝さばくる〟は、ぐちゃぐちゃにして探すことみたいな」

「〝漁る〟に近いニュアンス?」

「おう、それだ。朔兄と蒼唯はもう慣れっこなんだけど、璃乃は違和感あるかもな。オレの発言で分かんねーことがあったら遠慮なく訊いていいぜ。教えてやるからさ」


 返事をしつつ琥太郎くんのキャリーケースを開ける。彼に言われたとおり遠慮なく中を漁り、黒地のタオルを発見。テレビ裏に顔を突っ込んでいる琥太郎くんにタオルを渡すと、彼は額の汗を拭った。


「サンキュ。朔兄、また掃除サボってやがるんだよなー。ゲーム繋ぐのはオレだから、裏側の埃もちゃんと取っとけって言ってんのに」

「朔也のことを慕ってるんだね」

「もちろん! 朔兄、めちゃくちゃシブくてイケメンで最強の男だもん。今は髪型も朔兄の真似してるんだぜっ」


 偶然でなくあえてお揃いにしていたのか。見た目で言えば朔也はワイルドな男前、琥太郎くんはキュート系。真逆のタイプに憧れを抱いているようだ。微笑ましいなと思いながら部屋をあとにした。



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