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誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。  作者: 堂樹@書き専
【Case2】仕入れの謎と、お客様の謎
17/47

【4】



「なんだか推理ドラマみたいな展開になってきたね」

「こういうこと、よくあるんですか?」

「最初に話したけど、浮遊霊の来店は年に一回あるかないかってところ。その上こんなミステリー話が飛び込んでくるなんて……キミがお店の結界を潜り抜けたことも含め、イレギュラーな出来事が続くな」


 私が面倒事を運んでしまったかのようで申し訳ない気持ちになる。視線をテーブルに落とすと、瑞月さんは「勘違いしないでね?」と口にした。


「僕は璃乃さんとの出会いを嬉しく思ってるんだ。そうじゃなきゃ、人手不足でもないのにアルバイトに誘ったりしない」

「……お気遣いありがとうございます」

「それじゃあ話を戻そう。お客様の帰り際、新たな情報を得たんだ」


 彼女は約五年前から、美濃加茂市内にあるワンルームマンションに住んでいる(現在は〝取り憑いている〟と言った方が正しい)。そして彼女は〝妹の死の真相〟を求め彷徨っている。彼女にとって、それは生きがいのようなものらしい。


 幽霊に対し〝生きがい〟と表現するのも矛盾している気がするが……。細かいことを気にしても仕方がないため、彼女の死因に繋がるヒントを得られたのか否か訊ねた。


「死因に繋がる情報は残念ながら。妹さんの死が約半年前だから、お姉さんの死がそれよりあとなのは間違いないね。仮に殺人事件ならニュースになってると思うけど、インターネットではそれらしき情報を拾えなかった」

「病気か事故、それとも自殺……? でも彼女、自分が死んだことに気付いてないですもんね。自殺の可能性はないのかな」

「いや、そうとは言い切れないよ。死を選ぶほど苦しい出来事・死に至る経緯――本人にとって消したいであろう記憶を失った状態で浮遊霊になるケースも多数ある」


 病気、事故、自殺……三つのうちのどれなのか。自分には推理できそうにないため、瑞月さんはどう思うのか訊いてみることにした。


「彼女の格好からして、入院中だった可能性は低いかな」

「上はワインレッドのカットソー、下はデニムでしたね。それと死因に何の関係が?」

「霊は基本的に、亡くなる間際と同じ格好をしてるからね。彼女は入院中には見えない服装だった」


 なるほど。

 常連の渡辺さんがパジャマ・裸足だったことに合点がいった。渡辺さんは生前、病気で入院していたと聞いている。あのパジャマが入院時の服装だったのだ。


「入院していなくても、突然の心不全や脳卒中などによる病死も考えられる。浮遊霊の場合、本人に訊ねられないのがネックだね」

「瑞月さんみたいに霊力が強くても死因は分からないんですか?」

「人の心が読めるわけではないから。霊力の強さとは関係ないよ」


 ここから先、あのお客様のことは〝お姉さん〟と呼ぶことにして話を進める。そう前置きした瑞月さんは、お姉さんが事件性を訴えた際の流れを説明してくれた。


 警察は姉妹のLINE記録をもとに、深夜に騒音・奇声を発していた男について聞き込みを行ったらしい。深夜一時頃の出来事とはいえ起きていた・騒音で目が覚めてしまった人もいたはず――そう考えられたのだろう。


 しかし、騒音を発する男の証言は上がってこなかった。

 それはつまり〝騒音に気付いた人物は妹さん一人だった〟という可能性を示唆している。僻地でぽつんと一人暮らししていたならともかく、住宅街の中でそんなことがありえるだろうか。


「璃乃さんは警察の捜査に誤りがあったと思う?」

「いえ……。遺体発見後に自殺と断定されて、お姉さんの証言を元に行った聞き込み調査後にも自殺と断定されたのだったら。捜査ミスというのは考えにくいと思います」

「僕も同じ意見だよ。加えて腑に落ちなかったのが、妹さんの自殺を否定する理由――『不審者に殺されたに決まってる』と頑なに言うだけだった」

「……つまり何の根拠もないってことですか?」

「そうなるね。お姉さんは警察を信頼していないのではなく、『妹が自殺するはずない』と思い込みたいだけなのかもしれない」

「どうしてそんなことを?」

「分からない。とりあえず、このままだと危険だから調べてみるよ」


 何が危険(・・)なのか不明だが、瑞月さんがそう言うのなら続報を待とう。「分かりました」と答え、ピザトーストをかじった。今回のまかないもがっつりトマト。「また?」と言いたくなりそうな頻度だが、瑞月さんの料理はどれも美味しくて飽きがこない。


 食後は洗い物を任された。瑞月さんは二階の自室へ――電話しなければならない用事があるとのこと。洗った食器を乾拭きしていると、スマホを手にした瑞月さんが入ってきた。


「お姉さんの件で知り合いに連絡を取ってきたよ」

「情報屋さん、協力してくれるんですか?」

「うん。あとは在庫確認を――」


 瑞月さんは紅茶缶の並ぶ棚を眺め、小さく唸った。茶葉に不足があったらしい。「朔也に頼んでおかないと」と独り言を漏らした彼に、仕入れについて質問してみることにした。


「実は昨日、朔也から『仕入れは接客より危険だ』と聞いたんです。『説明するより見た方が早い』とも言われました。瑞月さんはどう思います?」

「どう、って?」

「私が仕入れに同行しても大丈夫なのか、足手まといにならないか。それと……無事に帰れるかどうか」

「僕が朔也の立場ならキミは連れていかないな。口頭説明だけで済ませるよ」

「お邪魔だからですか?」

「そうじゃない。見せたくないからね、いろいろと」

「……そうですか。じゃあやっぱり、仕入れに同行しない方がよさそうですね」

「僕は自分の意見を言っただけだよ? キミが朔也と一緒に行きたいと言うなら止めない――危険度に関しては、この返事で分かってもらえるかな?」


 命を危険に晒すような出来事が待ち受けているなら、瑞月さんは私を引き止める、もしくは注意事項をきちんと説明してくれるはずだ。つまり〝朔也が一緒なら大丈夫〟と考えているのだろう。


 その後の来客は渡辺さんひとりだった。

 本当に毎日顔を出しているらしい。

 注文した品はストレートティーのみ。瑞月さんの淹れた紅茶をテーブルへ運ぶと、渡辺さんは軽く右手を挙げた。おそらく「どうも」という挨拶。


 先ほどの浮遊霊で冷や汗をかくほどの恐怖を味わったため、顔を知っている渡辺さんに妙な安心感を覚えてしまった。この方も初めて認識したときは恐ろしくてたまらなかったのに。


 渡辺さんが店を出たのが午後五時半過ぎ。

 六時に閉店。

 今日の退勤からは自分の運転になる。朔也に送迎してもらう間は午前十時出勤だったが、明日からは午前九時出勤だ。




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