第1話 ここは、どこですか?-女神とスキル
「残り時間は、5分です。急いでスキルを確定し、行き先を選びなさい。スキルポイント、ステータスポイントは、転移後も割り振ることは可能です」
目覚めると同時に、女性の声が聞こえてきた。背中の感触は、硬いけど、草の香りが心地よい。ん? 硬い? 草の香り? いつものベッドじゃない。と、気づいて飛び起きた。
見渡すと、広い草原。近くには十数人の人が立っている。先ほどから指示を出している白い服の女性に尋ねた。
「ここは、どこですか?」
「あなたは、いままでの説明を聞いていなかったの?」
「今起きたばかりなので。」そう言うと、女性は一瞬、顔をしかめたが、直ぐに早口で説明を始めた。
「『転移設定』と唱えて画面を出しなさい。右のスキル一覧から好きなスキルを5つ選んで、中央のステータスに移しなさい。それから左の行く先一覧から移動したい場所を選べば転移が開始します。初期ポイントとして、スキルポイント、ステータスポイントが、それぞれ100ポイントありますが、転移後に割り振りなさい。とにかく時間がないので急いで」
聞きたいこと、言いたいことはあるが、切迫している状況に飲まれて、言われたとおり「転移設定」と唱えた。
「おおぅ」と思わず声が出た。VRゴーグルを使った時のように、いや、それ以上に鮮明なステータス画面が目の前の空間に現れた。
中央のステータス欄は、
名前[ひかる・てらだ]、種族[人間]、年齢[19歳]
称号[転移者]、職業[???]、レベル[1]
HP[100/100]、MP[100/100]
スキル:ポイント[100]
---
ステータス:ポイント[100]
STR(筋力)[0]
VIT(体力)[0]
DEX(器用)[0]
INT(知力)[0]
AGI(敏捷)[0]
となっている。異世界小説でよく見る内容だ。名前、種族、年齢が、既に入っている。称号は、[転移者]となっている。転移を了解した覚えはないんだけどね。
右にはスキル一覧。横10マス、縦40マス、計400マスすべてにスキルが表示されている。この中から五つ選ぶのだが、スキルが400種類あるわけではない。
例えば、一番左の列は、異世界転移(転生)で欲しいスキルの定番[収納]が、上級10個、中級20個、初級10個表示されている。
次の列も[鑑定]が、同じ数だけ表示されている。
3列目は、[回復]、[身体強化]が、それぞれ上級5個、中級10個、初級5個表示されている。
4列目は、[剣術]、[槍術]、[棒術]、[斧術]が10個ずつ、5列目は、[盾術]、[弓術]、[体術]、[武術]、[忍術]、[回避]、[防御]、[俊足]が5個ずつ表示されていて、ここまでで、400マスの半分が埋まっている。
残り200マスには、職業スキルとして、[鍛冶]、[木工]、[建築]、[錬金術]、[農業]、[漁業]、[鉱業]、[料理]、[芸術]などがあり、その他[探索]、[地図]、[検索]、[死霊術]、[テイマー]、[千里眼]、[予知]、[読心術]、[魅了]、[召喚]、[浄化]、[経験値上昇]等々、いろんなスキルが表示されており、少なくとも、同じスキルが2個以上は用意されている。
また、[火魔法]、[水魔法]などの攻撃系魔法スキルは、一覧にはない。ステータスに[MP]はあるので、転移後になんらかの形で手に入れるのだろうか。
気になるのは、約半数がグレイ表示のマスとなっており、残りがホワイトのマスになっている。その割合はスキルによって違っており、[収納]、[鑑定]のマスは、ほとんどがグレイ表示で、ホワイト表示は、どちらも初級が5つ残っているだけだ。少しいやな予感がしたので、白い服の女性に聞いてみた。
「すみません。スキル一覧について、聞きたいことがあるのですが?」
「時間がないから、質問は簡潔に」
「スキル一覧の、ホワイトのマスとグレイのマスは、どう違うんですか?」
「グレイのマスは既に他の人が選んでいます。白いマスから選択しなさい」
「いやいや、上級がほとんど無くなっているじゃないですか。ついさっき始めた僕には、とっても不利なんですが」
そう訴えると、女性は、またもや顔をしかめ、少し考えて、こう言った。
「特別に初期ポイントを100ずつ増やします。それで我慢しなさい。残り時間は、後3分しかありません。急いでスキルを選び、転移しなさい」
辺りを見回すと、白い服の女性以外は、誰もいなくなっていた。女性は、なんとなく[女神]っぽい雰囲気を漂わせており、逆らわない方がよさそうだ。
「分かりました。プラス100ポイント、よろしくお願いします」
そう返事して、転移設定画面に目を向けた。3分でスキル、転移先を決めるためには、愚図愚図してはいられない。いつもの習慣で左腕を見る。なんと大学の入学祝いでもらった愛用の多機能型腕時計を付けているではないか。転移しても持って行けるのかな?「とりあえず、スキルを2分、転移先を1分で決めよう」
まずスキルだが、異世界小説では、最初2列の[収納]と[鑑定]は、転移者の必須スキルである(と思う)。事実、他の転移者のほとんどが選択しているようなので、どちらも初級しか残っていないが、取得することにした。
3列目の[回復]、[身体強化]は、どちらも初級5つが残っているが、ここで2つとも選ぶと、取得できるスキルの残りが、ひとつになってしまうので、考えどころだ。[身体強化]については、[STR(筋力)]と[VIT(体力)]に増えた初期ポイントをつぎ込めば、どうにかなりそうなので、取得を見送った。
[回復]については、自分自身の回復だけでなく、他人の回復にも役に立つ。感謝されることは確実だし、報酬も期待できる。[回復]スキル所有者は、教会や領主などに囲い込まれると(小説で)よく聞く話だが、それは[収納]スキルも同じことが言えるので、どちらも、うまい具合にごまかすしかない。初級しか残っていないが、取得することにした。
これで、選択できるスキルは、あと2つ。4つ目は、戦えるスキル[剣術]、[槍術]などを選ぶべきだろうが、最前線に立って、魔物や悪人と戦うのは好みじゃない。どちらかと言えば、転移後は、そこそこに稼いで、のんびりと暮らしたい。そのためには、職業系スキルが必要だが、これも転移者の定番[錬金術]を取得することにした。幸いにも、中級が残っていた。
最後のスキルだが、[テイマー]で‘もふもふも’楽しそうだし、[魅了]で‘ハーレム’も気になる。しかし、戦えるスキルがない場合、例えば、錬金の素材探しで魔物や盗賊に出会ったら生き残る術がない。[回避]または[防御]の取得も考えたが、[忍術]が気になる。しかも、上級が残っている。
小学生の頃は忍者に憧れていた。それで、町の武道場に3年間通ったが、教えてくれる内容が柔・剣道、空手のみで、手裏剣や遁術(逃げる術)など忍者の技は、一つも教えてくれなかった(当たり前の話ではあるが)。中学校に入学すると同時に武道場はやめてしまったが、それから3年、(中学生なりの)忍者の勉強は続けた。結局、高校に入る時、熱(厨二病)が醒めた。なぜ異世界に[忍術]スキルがあるのか不思議だが、身を守るため幅広く対応できるスキルとしては、[忍術]がしっくり来るので、取得することにした。(熱が再発したのかもしれない。)
頭をフル回転させ、2分ジャストで5つのスキルを決定したが、問題は転移先。
転移先は、王国が連合王国を含めて4つ、帝国、聖教国、共和国、自由都市が1つずつ、計8つに区分されている。更に、その区分の下、王都、帝都、貴族領などの地名、街(町)や村、森林、平原、砂漠、島等、細かく分かれているが、情報が一切出されていないので、検討しようがない。
これまでの(異世界小説を読んだ)経験上、帝国は独裁者が、聖教国は教会が強大な力を持ち、平民は虫けらのような扱いを受けている(ような気がする)ので、選択の対象外だ。
帝国、聖教国以外は、正直どこでも良いのだが、1年中常春のように思える[サクラ王国]を見てみると、[ビギンの街]というのがあった。[始まりの街] ではないか。もう、ここでイイやと思っていると、女神(そう呼ぶことに決めた)から声がかかった。
「まだなの、もう時間がないわ」
「スキルも転移先も決まりました。ひとつ質問があります」
「なに?あと30秒しかないのよ」
「どうしたら元の世界に戻ることができますか」
「無理です。元のあなたは、もう死んでます。帰る場所がありません」
「じゃあ、僕は転移先で何をすれば良いのですか」
「好きに生きなさい。時間がない、はやく転移先を押しなさい」
そう言われて、転移先を押したが、急かされていたので、[ビギンの街]を押すところが、その下の[ビギンの森]を押してしまった。痛恨のミスであるが、同じ[ビギン]であるので、どうにかなるだろうと考えている内に、身体が暗闇に包まれた。
「まさか、草の陰で寝ていた転移者を見落とすとは、危ないところだった。少しでもリラックスさせようと草原を選んだのが間違いだった。今後があるならば、白い部屋にでも集めることにしよう。時間ギリギリだったけど、40人全員の転移が済んだし、これで上からのお叱りはないでしょう」
「それにしても最後の転移者は焦ったわ。初期ポイントを100増加ですんなり納得したからよかったものの、ゴネてたらタイムオーバーになるところ...あれぇ、100増加のはずが、100倍になっている。キーを打ち間違えた?どうしよう。転移しちゃったから、こちらから操作できないし、これって叱られる?そうだ、黙っていよう」
こうして、生と死を司るナーリエ神の従神であるノール神は、自らの過ちに、蓋をしてしまった。
初めての投稿です。よろしくお願いします。
少し書きためていますので、三日連続で投稿後、後は週一ペースで投稿する予定です。




