最後の10秒
なぜ、俺だけがここにいるのか。
これは、ドラマだと思っていた。
「ねぇ、この動画さ、あの動画と同じ終わり方なんだよね」
「これとかあのとかで (・∀・)ワカランケド」
「知らないなんて草」
「教えろ、その動画」
「ホラーちゃんねるでしょ。
よくある心霊スポット行ってみた系の」
「ヒント:更新ないホラーチャンネル」
「登録者数それなりにあるけど、
そんなに有名じゃないやつ」
「最後、人の叫び声で終わるんだよね」
その書き込みを、
俺は取調室でスクリーンショットとして見せられていた。
「あなたが、この動画の編集を担当していましたね」
刑事の声は淡々としていた。
俺は否定しなかった。
「最後に入っている音声について、
心当たりはありますか」
すぐには答えられなかった。
あるとも言えず、
ないとも言えなかった。
「第三者との接触履歴は、
現時点では確認されていません」
もう一人の警察官が、
書類から目を離さずに告げた。
無機質な手つきで、
再生ボタンが押される。
小さなノイズ。
空調の音。
椅子がわずかに軋む。
その音は、
俺が編集作業中に
何度もヘッドホン越しに聞いたものと同じだった。
早く帰りたかった。
そして、
あの動画をもう一度、最初から確認したかった。
映像の中で、配信者は
現地でDMの内容をそのまま読み上げていた。
「というわけで、
今日はDMで教えてもらった某廃墟に、
友人たちと来てまーす」
「……よく、そのDM信じましたね。
正直、怪しくないですか?」
「怪しいっちゃ怪しいけどさ」
「でも、気にならない?」
「……まあ、気にはなりますけど」
「でしょ。
何もなかったら、それでいいし」
「……何もなかったら、ですけど」
「撮れ高ゼロでも、
今日はそれでオッケーってことで」
「じゃ、行ってみよっか」
□□市にある廃墟。
親しい不動産関係者から聞いた物件。
所有者不明。
昼間でも人の気配がするとか、
しないとか。
そのDMの存在を知ったのは、
編集作業に入ってからだった。
クラウドに上がっていた素材は、
いつもと変わらなかった。
雑談。
足音。
懐中電灯の揺れる光。
そして、
最後の数十秒。
誰かの叫び声。
潰れた悲鳴。
意味のない言葉。
その直後に、
落ち着いた低い声が入っていた。
本音を言えば、
最後の音声には触れたくなかった。
あれは、
誰にも聞かせるつもりはなかった。
それでも、
俺は作業を続けた。
音量を整え、
長さを測り、
配信者たちの恐怖の直後に繋げた。
間を置いた。
ほんの数秒。
その方が、
最後まで見られる。
BANされない。
でも、止められない。
確認を取る相手はいなかった。
だから、そのまま上げた。
再生は、取調室で止まった。
「この音声は、
録画された時点で、
すでに含まれていました」
つまり、
どう繋ぐかを決めたのは、俺だった。
あの動画は、
彼らのために作ったわけじゃない。
彼らではなく、
彼らの帰りを待っている人たちへの、
献花のつもりだった。
そう思おうとしただけだ。
動画は炎上した。
更新が止まったチャンネルは、
再生数だけを伸ばしていった。
「編集えぐい」
「間が怖すぎる」
「最後まで見ちゃった」
俺は、
そのコメント欄を
すぐには閉じなかった。
クラウドの受信設定だけは、変えなかった。
最後の十秒で、
視聴維持率が落ちていなかった。
そこだけ、綺麗だった。




