世界観を聞かせて
持てる情報の共有。
まずは認識を同じくすることが必要だ。そう、うみんちゅは考えた。
一口に「異世界産の魔法使い」とは言っても、その世界観にはバリエーションがあるものだ。
(西洋風、和風、中華風。古代に中世、近代風。最終空想系、竜の探求系。魔法はマナなのか精霊なのかマジカルなのか。その辺を何とかざっくり仕分けても、サラッとスチパンが詰め込まれる場合だってあるだろう。実際どうなんですかね、異世界先生!)
『何を言っているのかわからんぞ。あと、近い』
スーン!と興奮に鼻息を荒くし、唐突に早口で問い詰めてくる兄。
元王子は掛けられた内の意味の分からない言葉を全てさらりと聞き流した…が、そうすると具体的な相手からの意図は何ひとつ伝わってこなかった。
意気込んで近付いてきたうみんちゅの顔を、小さなおててで乱暴に押し遣る。
無造作で迷惑そうなその態度に、うみんちゅは速やかに反省した。
(おっと、すまん。ついパーソナルスペースを侵害しちまった。一時は全てがどうでも良くなってしまったが、噂の異世界人が兄弟に生まれてきたとなれば、そうそう冷静ではいられないもんだよ)
安物に囲まれた部屋の中で「王子です」などとドヤる様は到底受け入れられるものではない。
それはそれとして、異世界に興味津々なのは致し方のないこと。魔法使いという点に関しては更に大歓迎なうみんちゅである。
(そういや、異世界と言えばお前のとこは勇者召喚とかやってる系? やってたら日本のことがなんか伝わってる可能性もあるんじゃね?)
『何…。なぜお前は勇者召喚など知っている?』
(ド定番じゃない? 魔王が手に負えなくて異世界の勇者に頼るんでしょ。もしくはそういうことにして、他国への侵略に使い潰すんでしょ。そして…何かしたことあるっぽい反応だな? この拉致犯め!)
『この私が無駄な拉致などするものかよ!』
ぱすーん!と手元で布団を叩いたうみんちゅに、慌てたような弁解が投げられる。
無駄じゃなかったらするのでは、という不信を拭い切れない半端な弁解。怪しい…と目線で語る兄を、やまんちゅは諌めた。
『落ち着け、あちらでの勇者召喚とはお伽噺のようなものなのだ。遺跡に残る勇者召喚の魔法陣もあったが、私が調べていた時点では幾ら魔力を込めようと作動したという話は聞かない。世迷言の一つであろうというのが研究者達の見方であったしな』
やまんちゅが丁寧に記憶を紐解いていくと、神殿遺跡の地下にて見つかった勇者召喚陣と、魔王と勇者の物語は確かに異世界にて存在している。
しかし、魔王と勇者はそれほど一般的に知られた話ではなかった。全然世界の危機ではない。召喚陣自体も「これで何が喚べるの?」という疑問に満ちた出来映えなのだ。
(なんで動かないんだろうね? 遺跡ってことは…古すぎてどこか破損してるとか?)
『それもあるやも知れんな。そもそも勇者召喚の陣は一般的な知識ではない。私もあまり興味がなかったが、歴史的な保存のために関わっただけだ』
(一般的じゃないっていうのは…王家に伝わる口伝とか、そういうのではなく?)
やっぱり、誘拐犯な王家の闇とかでは。そんな風に問い詰めてくる兄に、やまんちゅは両手をほんのり上げてプルプルと首を振る。
赤子の不器用な身体は時折つられたように足もビャンと動くので、謎の操り人形のような不思議な動きであった。
『私は魔法に関する諸々の研究を仕事にしていたのだ。勇者召喚はかつて興った国…長い歴史の中で我が国土となった一部地域にて、それもほんの一時にのみ出て来るだけのもの』
だから誰も信じてはいないような世迷言なのだと、強く、誘拐犯ではないアピールをする。
うみんちゅは短い腕を胸の前にゆっくりと乗せ、拳の辺りを少し重ねる。本人は腕を組んだつもりだが、どちらかというとゴマすりポーズに似ていた。
(それはさぁ、本当に実用性はないの?)
過去には召喚出来たからお話だけにしても残ったのでは。そんな風に彼は思う。発達した世界はしばしば過去を見下して原始的で不合理だと断ずるが、おばあちゃんの知恵袋は決して馬鹿に出来ない。
当時は理解出来ていたキーになる何かが、忘れ去られただけの可能性だってある。
『…そうだな。我々は異世界などそもそも信じていなかったのだ。だが、こうして私が生まれ変わった場所が、こうも魔力の少ない世界であれば…あの術式も見方が変わってくるな…』
顎に手を当てて考える弟の姿。やはり足は勝手につられてしまうのか、妙にピンと伸びた挙句に絡まり、絶妙に変なポーズになっている。
鼻で笑いかけ、うみんちゅは我が身を客観的に見た。ガニ股ゴマすりポーズだ。
そっと、赤子らしく両手両足を軽く曲げるポーズに戻す。自分だけ。
(それは…我々にも異世界に行ける可能性が? そっちのが楽しそうだから、異世界行きたいぞ。こっちは、何というか、『普通』の中に溶け込めないと生きにくいからなぁ)
うみんちゅにはわからなかった。この、王子様を引きずった弟が、小中学校で溶け込めるのかどうか…或いは魔法を使わずに、諸々から身を躱せるのかどうか。
自信満々に国イチとか発言していたし、忍ぶということが、あまりにも出来なさそうに思える。
奇抜な名前に奇抜な性格では、恐らく和を尊ぶ日本では大変に生きづらい。元の世界に帰せば、一等賞なのに。
『…そうだな。私にとっては帰還となるのだろうが、考証を重ねれば不可能ではないかもしれん。あちらは、実力さえあれば生きてはいけるだろう。周囲の魔力がこちらとは段違いだ、あちらでなら、そうそう私に出来ないこともあるまい』
うみんちゅは弟についての評価を見直す。
あまりにも魔法頼みの生活ではないか。言っても言っても全然身体を動かそうとしないのは、そもそもインドア派だったからなのか…。
自信過剰な引きこもり王子ってどうなのだろう。王族の務めとか果たしてました?
『長期目標には据えておくが、まぁ、期待せずにいてくれ。こちらではどんな素材が媒介にできるのか、さっぱり分からないからな』
(おう。まずは自分達の訓練だな)
弟は既に魔法を使っている。この世界でも魔法が使えるのなら、訓練、やって損なし。
どの道、柵の中の赤子の身ではそうそう裏切らぬ程の筋肉など手に入れようもない。自分は筋力アップ、弟には魔力アップ訓練を主に課そう。
うみんちゅは今後の方向性を決めた。いつか異世界に行けたなら、自分は魔法をちょぴっとでも使える戦士系斥候職で、弟は魔法使いのパーティを組む。
最初から弟の意向を無視しているし、自分の職も欲張っているが、どうせ脳内の妄想だから良いのだ。
パーティをお断りされたら、泣きながら全力のムキムキになってやる。自分の埋没化スキルと行動不能にならないための筋肉があれば、そこそこ生きていけるだろう。
うみんちゅはまだ見ぬ弟の故郷に思いを馳せ、詳細な世界観を知るべく多方面からの質問を繰り出すことにした。
なお、弟には、大変にウザがられた。




