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弟を異世界に帰そうと思うが、俺も連れて行け  作者: 2991+


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17/20

そして時と何かが流れた。


 気のいいガチムチの多い職場であった。

 うみんちゅの人物設定も追及してくる者はなく、騙る本人が不安に思うほどの受け入れぶり。

 もしかすると内心では信じていない者はいるのかも知れない。…が、中には脛に傷持つような見た目の者もいることから、この職場には過去を掘り返さない暗黙の了解でもあるのかも知れなかった。


「じゃ、そこ片付けたら今日は上がってくれ」


「やまと君は置いてってもいいぞー」


「置いてきませんよ! お疲れ様でした!」


 いつもの軽口となったそれを軽く受け流す。

 短期アルバイトのつもりだった家近くの現場は既に終わっていたが、うみんちゅはそのまま補助要員(アルバイター)として別の現場へと継続して勤務を許されていた。


 幾つかの小さな建設会社が合同で業務にあたる形態の現場らしく、場所により幾らかの入れ替わりはあったが、正規職員はイツメンになりがちらしい。

 そのためか見知らぬガチムチがいても既に話が通っていて、泣かない赤子はやけに受け入れられていた。


 若さ故にヘトヘトになるまで使い倒されるはずだと信じていたうみんちゅは、あまり負荷の高い仕事が回ってこないことを、逆に子供扱いされているのかも…と不安に思っていた。

 周囲がフォロー万全なベテラン勢ばかりのせいなのか、身体的にキツめの、比較してより重たそうな仕事が振られてこないのだ。もちろん、専門性の高い仕事はペーペーには任せられないという可能性もある。

 だが、ギチギチの一人前に働くつもりだったうみんちゅとしては、職場のホワイト感にやけに罪悪感が掠めてしまう。


 赤子連れであることは、無駄に目立つ要因だ。

 だがこの職場には子供好きが多いのか、手の掛からないやまんちゅは、やけに歓迎された。

 目立つことそれ自体を諦めてはいるのだけれど、ガサツな男達が寄って集って弟をあやしている場面を見つめる昼休憩、特に辛い。

 先程まではのびのびと肉体労働に励んでいたヤロウどもが狭いプレハブに詰め、小さな赤子一人の周りで身を縮めるようにして構うのが、筋肉耐久かごめかごめでもしているかのように見えるのだ。

 あの中心に座していろだなんて、圧迫感が酷い。普通の赤子なら泣き叫ぶ事態だし、何なら事案である。


 暴君やまんちゅには周囲へのサービスという機能は搭載されていない。だが兄以外には愛想のない様がまた、義理堅い・賢いという謎の高評価に繋がっていた。

 愛想笑いもせず、代わりにギャン泣きもせず、時には頬をつついてくる他人の手を、ぺちーんと容赦なく叩き落とす暴虐ぶりだ。

 取りなそうと慌てかけるのだが、その度に好意的な笑い声が上がっているため、敢えて目を瞑っている。

 なぜアレがウケているのか、理解出来ない兄であった。昨今の世の需要はツン多めなのだろうか。


 解せない気持ちを抱えつつも、可愛がられているのはわかる。ちょいちょい食料や飲み物を奢られている環境は大変にありがたい。「弟さんに」とオムツや粉ミルク缶が差し入れた時は、歓喜のあまり混じりっけなしの素の笑顔を返してしまったほどだ。

 ただし、やまんちゅは構われすぎて、当初の予定よりも多大なストレスを溜めている。

 これは多分あちらの構われ労働に対しての料金であろうな…と思っていたりする兄。

 あんなに置いてこようと知恵を絞ったのに、連れてきた方が稼げるとは…。人生二周目でも予想外の出来事だった。


 うみんちゅは気付いていなかったが、彼が若年かつ赤子連れでも邪険にされないのは、自身の評価も高いからだ。

 どんな作業でも一切文句を言わず、不満の欠片すら態度にも出さず働くこと。おおらかな環境であれば尚更、周囲が見てきた彼と年の近いアルバイターは、如何に真面目であれ「キツいっすねー」「うわー、マジかー」くらいの愚痴はこぼしていた。

 それが悪いことなのではない。ただ、対比としてうみんちゅがより真面目な好青年に見えてしまう。


 そしてよく周りを見ていて、手が欲しいと思われる人がいた時には迅速に、ちょこまかと細かな手伝いをして歩いていること。

 指示待ちしない的確な働きぶりは、どんな仕事でも好印象で、受け入れられるのが早いのは言うまでもない。痒いところに手が届く人材だ。

 指示待ちせず自信を持って間違っていく人材だと困るのだが、前世の経験分、要領は良く働けているようだ。


 目立たず埋没したいのと、サボりたいのとは違う。

 前世なら時にはわざと見過ごして目立たないよう調整するところだが、本人も赤子連れの迷惑料プラス貰う給料分はと、頑張って仕事をしているつもりだ。


 …つまり、何も知らない周りからは、弟分をあやしながら健気に一生懸命働いている昨今稀有な若者に見えていた。謂れのない好待遇ではなく、よく気が付いてよく動くから、下手に責任感のない働き手を掴むよりも喜ばれている。

 求人に対して他に応募がない状態の人手不足をそこそこ補う大事な人材でもあり、つついても泣かない赤子は休憩時間の貴重な癒しでもあった。


『このとぼけた顔は気に入らぬが、触り心地は良い』


 プレハブに戻ってみれば、いつの間にか見たことのないむちむち手触りのぬいぐるみを差し入れられている弟に、うみんちゅはまたかと周囲を見回す。犯人は誰だ。

 有り物で作られた簡易なベビーサークル内が、段々と託児所として充実していく。

 そしていつものように差し入れた人間が名乗り出ず、周りも素知らぬ顔で庇うので、礼儀として全体に対してお礼を言うしかないうみんちゅ。

 本音としては、ここに定住するわけでもないのに、荷を増やされても困る。しかも赤子の中身は暴君だ。

 目線で犯人を告発しろと促しても、こんな時だけは言うことを聞かない。


『お兄ちゃんには内緒だぞ、と言われている』


(裏切り者めー)


『賄賂くらい許容せよ。敵意はない』


 やまんちゅからすれば、こうやって賄賂を許容する寛大な様を見せることで、兄が過ごしやすくなると思っているのだ。

 兄の言うように、差し入れをどれもこれも気に入らぬと投げ返していれば、却って扱いにくい赤子だと敬遠される可能性がある。

 兄からは暴君にしか見えないようだが、何にでも毛を逆立てて牙を剥けば良いと思うほど、やまんちゅは子供ではなかった。清濁併せ呑む元王族である。


 周囲へ挨拶をして退勤する。

 むちむちぬいぐるみはやまんちゅが手に持っていた。やけに嬉しそうな顔で見送るオッサンがいるので、今回の差入れ犯はあの男かもしれない。

 もうリュックには入らない重さの赤子を抱え、うみんちゅは家路を急ぐ。


(しかし、助かったな。工事が終わってもすぐ切られないで、近くの現場にも回してくれたから、ひとまずの滞納状態は解消されたぞ)


 日々真面目にコツコツ働いたので、まだ大量の未収督促は残っているものの、公共料金を支払うことが出来た。

 ガスも復活だ。お陰で差入れの食材を煮炊きすることが出来ている。季節柄か野菜の差入れも多いので、離乳食にチャレンジする余力もできた。


 しかし、やまんちゅは赤子舌のままであるせいか、好き嫌いが多い。ニンジンさんもピーマンさんも、茹でて潰した程度ではお嫌いなのである。

 栄養補給のため、未だミルクは手放せなかった。狂信者は健在だ。

 そして成長した姿で食事を取ることが増えたせいで栄養状態が良いのか、運動量が成長に影響しているのか、目に見えてうみんちゅの発育が良い。

 双子なのに、赤子状態で並んでみると、やまんちゅの方が明らかに小さかった。


 ふと、やまんちゅが、眉を顰めた。

 些細な変化も見逃さない系の兄は、素早く周囲を観察したが、異変は特に見当たらない。


(どうした? 体調悪いか?)


『いや…何だか…妙な…』


 歯切れの悪い言葉を訝しみながらも、否定が返ったからには体調の変化ではないと当たりをつける。改めて周囲に目線を走らせるが、やはり取り立てて「妙な」ものなどは見つからなかった。

 とはいえ、弟の言葉を気の所為だと流すほど無用心ではない。むしろ警戒バリバリマンだ。


(もう少し情報をくれ。方向は?)


 赤子は眉間のシワをグッと深くした。凄い表情だ。

 こんな時でなければ指を差して笑うのになぁ、と心の奥でぼんやりと考えつつ、自分には見つけられない異変を思う。

 日本の心を持っている自分には分からないのに、異世界人が何かに引っ掛かっている。

 それは…魔法的なことなのではないだろうか。


 感知しようと試みるが、うみんちゅにはまだ単独で魔力をどうこうするようなことはできない。弟充電池を外付けしてようやく流れを感じ取ることができる程度だ。

 それでも、あると思って世界を見れば、以前とは違う何かは存在しているはず。


(…わかりませんね!)


『…うむ…。私も明確に「何か」と言葉にすることが出来ない。ただ、あまりにも(ささ)やかながらも…あっ』


(あっ、て何!)


 ぐりんと弟が急に下を向き、うみんちゅは慌ててそれを支えた。うっかり落っことしても弟は魔法で何とかするのだろうが、冷や汗が出るのでそんな唐突な動きはご勘弁願いたい。

 真剣な弟にとやかく言うことは止めにして、どうやら下方に存在するらしい何らかの違和感を、再度見極めようと試みる。

 …うみんちゅには、わからなかった。


(少し歩いてみるか。どっちに行きたい?)


 やまんちゅは素直にスッと右手を上げて方向を示した。下を流れる違和感は、あちらに続いているらしい。

 …完全に、今歩いてきた方向である。



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